研究人生と共にスパコンの歴史を辿る~うまくいかなかったことが、研究者人生を創った

NUA-SP研究会会員のみなさまにインタビューし、スパコンの利用目的やスパコンへの思いなどを伺います。第7回にご登場いただいたのは、かつてSP研委員長を務めていただいたこともある、東京理科大学の藤井孝蔵教授。NASAで世界初の汎用スパコンが導入された当初からスパコンに触れているという藤井先生に、これまで印象的だったスパコンや、スパコンに期待することなどをうかがいました。
*本インタビューは感染症拡大の社会情勢を鑑みて、オンライン会議ツールを使用して実施いたしました。

SP研究会
東京理科大学 工学部情報工学科 教授
藤井 孝蔵 氏

(プロフィール)
東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)後、NASA Ames研究所、科学技術庁航空宇宙技術研究所、文部省宇宙科学研究所、宇宙航空研究開発機構(JAXA)情報・計算工学(JEDI)センター長などを経て、現在はJAXA名誉教授、東京理科大学教授を務める。

“災い転じて福となす”を体現した研究人生

――初めに、自己紹介と経歴のご紹介をお願いします。

東京理科大学の教授として、流体力学の研究を行っています。経歴を一言で表すと、先のことはわからないという人生を歩んできました。NASA研究員やJAXA名誉教授など、経歴だけを見れば順調そうに見えるでしょうが、振り返ればうまくいかなかったことをきっかけに人生が良い方向に進んでいたということが今につながっています。

たとえば、1980年に東京大学大学院の博士課程を修了したのですが、団塊の後ろ世代であったこともあり、日本では研究者のポストが見つかりませんでした。その結果、たまたまNASAのAmes研究所で仕事をする機会を得ました。そして、そこで世界最初の汎用スーパーコンピュータである「Cray-1」に触れることができました。

2年後に帰国したのですが、いざ戻ってみると用意すると言われていたポストがなくなっていて頭を抱えました。しかし、その結果として現在のJAXA調布である航空宇宙技術研究所に行けることになり、そのおかげで当時開発中だったスパコン、F社の「VP400」を出荷前に自由に使わせてもらうことができました。他にもまだありますが、学生にはよく「先のことは分からない。うまくいかないことがあっても、かえって良かったということがある」と言っています。

自己紹介の最後に大切なことをお話しします。私の専門はスキーであり、流体力学研究は副業なのです (笑)。最近はコロナ禍で行けていませんが...

――現在の研究内容を、簡単にお聞かせください。

副業のテーマは大きく2つあり、1つは高解像度シミュレーション技術を利用した騒音予測です。
今は、車のタイヤや小型ファンの騒音音源の特定、分析を行っています。もう1つのテーマは、流体制御と呼ばれる、流れをコントロールする技術の研究です。これを利用して、将来的には形状工夫のいらないものづくりができることを目指しています。研究内容の詳細は、new window東北大学サイバーサイエンスセンターのウェブサイト AOBAの杜に動画で掲載されていますので、そちらをご覧いただければと思います。

東北大学サイバーサイエンスセンター AOBAの杜
Vol.1 スーパーコンピュータが創る「ものづくりイノベーション」
(new windowhttps://www.cc.tohoku.ac.jp/usersnews/)

計算スピードが格段に上がったスパコンを、出荷前に使い倒した

――藤井先生は早くからスパコンを活用してこられましたが、これまでを振り返って、印象的なスパコンは何でしたか。

SP研のインタビューで申し訳ないですが、やはり出荷前に使わせてもらったVP400が印象的です。1984年だったかと思いますが、同じ計算プログラムがそれまでと比べていきなり25倍、50倍という速度で動いて、最初は計算できていないのではないかと思いました。当時、社員が退社する時間に学生と2人で工場まで行き、朝まで使ってから研究室に戻ってデータ解析するということを毎日のようにやっていました。

それから、宇宙研時代に研究室で購入したNECの「SX-6」も印象深いですね。手元にあったので、センターマシンではできないようなことがいろいろ試せたんです。今は「SX-Aurora TSUBASA」が研究室にあるので、それを使って超音速機などに使われるデルタ翼の流れ分析を行っています。20年ぶりに自分でも計算を廻したり、これからいろいろなことができそうで、とても楽しみにしています。

――藤井先生は、東北大学のサイバーサイエンスセンターなどでもSX-Aurora TSUBASAを活用されていますが、SX-Aurora TSUBASAについてどのような印象をお持ちですか。

まず、ベクトル型なので流体の計算に非常に向いているというのは、多くの人が同意してくれるところかと思います。それと、私個人は、工夫を凝らしたプログラムで100の性能を出すよりも、シンプルなプログラムで80以上の性能を出せた方がいいと思っています。ベクトル型は後者の特性を持っています。あくまでも相対的にではありますが、その方がプログラムを見たときにも理解しやすいし、簡単に書き直せる。それでも高い性能が出せるという点で、SX-Aurora TSUBASAは私の希望に合っているんです。

先ほどお話ししたデルタ翼の流れ分析では、私が35年前にAmes研究所で行っていた計算をSX-Aurora TSUBASAでやり直しています。超音速機は翼の上に空気の渦をつくることで揚力という上向きの力を得て飛びますが、着陸する際のような姿勢になると、その渦が壊れ、普通の飛行機とは異なる形で失速が起きかねません。実は、渦がどのような壊れ方をしているのかという予測を立てたのですが、35年前はある瞬間の流れしか見ることができず、その予測は仮説のまま残っていました。それを今、データサイエンスの技術も利用しながら、手元のSX-Aurora TSUBASAで検証しています。

デルタ翼やダブルデルタ翼のシミュレーション
以前との違いは時系列の結果を画像にして眺めることが容易になった

1986年当時のシミュレーション結果(左)
最近のシミュレーション結果(例)(右)
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低次元化モデル(snapshot PODを利用した解析)
――SX-Aurora TSUBASAも含め、今後スパコンに期待することは何でしょうか。

20年ほど前からずっと言い続けていることですが、スパコンの社会インフラ化です。たとえば、みどりの窓口で切符を買うときに画面を操作する駅員さんの裏側でコンピュータが動いています。このように、当初はシミュレーションの道具だったコンピュータが今や社会生活のそこかしこに埋もれて生活を支えています。スパコンも同じように、社会生活の中で当たり前に使われるようになってほしいと考えているんです。

以前から例えとして使っているのは、ゴルフですね。たとえば、ある人が10番ホールに立って、アイアンクラブを7番と8番のどちらにするか迷ったときに、スマホに問い合わせるとすぐに指示がもらえる。裏側では気象データやゴルフコースのデータ、その人の身体特性のデータなどがいろんなクラウド上に全て揃っていて、スパコンがそれらを使って瞬時にシミュレーションを行い、答えを返すんです。そのためにはリアルタイムでスパコンを稼働する仕組みや、結果を瞬時に表示する技術などが必要です。SX-Aurora TSUBASAは特別な工夫をしなくてもそれを1台で実現する可能性を秘めているので、非常に都合がいいんです。目的は異なりますが, In-situとかIn-transitと呼ばれる可視化技術に近いものです。

リアルタイムに起きていることがスパコンでリアルよりも早く再現できると、極端な話、将来が予測できるところに行き着きます。最終的に目指すのはスパコンの社会インフラ化ですが、手元に置いてその目標に必要な要素技術を手軽に試せるので、それもSX-Aurora TSUBASAのいいところですね。多くの人に大規模なHPCへのきっかけを与えられる、HPC利用の裾野を拡げる役目も担えます。

計算途中の流れ場変化をシミュレーション実施中に可視化

zoom拡大する
円柱まわりの流れ(カルマン渦)

ユーザー会は貴重な情報が手に入る有意義な場

――NECやSP研と関わるようになったきっかけをお聞かせください。

古すぎてみなさんご存じないでしょうが、私がNECと最初に関わったのは、宇宙研にいた91年ごろです。米国のスパコン「Cray」に対する日本のスパコン性能が話題になっていた時代で、米国の研究機関の依頼もあって、各スパコンのハードウェア紹介に加えて、数値流体力学の実際のプログラムを利用した性能を調査してまとめました。93年に「Supercomputers and Their Performance in Computational Fluid Dynamics (Springer Vieweg)」という本になっています。このとき、コンピュータのハードウェアメーカーであるNEC、富士通、日立の3社それぞれの代表者に寄稿してもらいました。皆さんご存じの渡辺貞さんとこのときやりとりしたのがNECさんとの最初のつきあいです。

NECのマシン導入という意味でのお付き合いは、宇宙科学研究所のスパコン調達を担当していた1990年代はじめからですが、より深くなったのは2006年ごろだったと思います。JAXA情報・計算工学(JEDI)センターのセンター長を務めていたときに、JAXAとして初めてスパコンを調達しました。その際、流体計算で要望した仕様を満たすために、富士通がNECのSX-9を含めたマシンを納めるという珍しい調達が実現しました。

SP研との関わりは、当時委員長を務めていた桑原邦郎さんから声を掛けてもらい、SP研の集まりで講演させていただいたのが最初です。その後桑原さんの推薦で、私自身もSP研の委員長を4年務めました。ユーザー会で沖縄や新潟などいろいろな場所に行き、ほかのユーザーのみなさんやNECのトップと直接会って話すことができたのはいい思い出です。

――藤井先生にとって、ユーザー会に参加するメリットは何でしょうか。

やはり一般では手に入らない情報が入るということでしょう。学会発表の休憩時間にはいろいろな研究者と話してヒントを得ることがよくありますが、ユーザー会では長時間にわたってそういった議論ができます。ユーザー同士の横のつながり、異文化?交流もできますね。また、NECのトップや開発部署の方々とも話し、製品開発のロードマップや方向性を聞く機会にもなっているので、とても有意義な場になっていますね。

――最後に今後のSP研への期待を聞かせてください。

Aurora ForumなどSX-Aurora TSUBASA関連のグループや情報発信が別途にありますね。直近の話で言えば、連携なども含めて上手に進めて欲しいですね。
あと、大規模な組織ではできない「こじんまり?とした集まり」のよさを維持していただきたいと思います。矛盾するようですが、一方で利用者の裾野を広げることも大切です。国のHPCIにも似た部分がありますが、特定のメンバーだけの仲間うちの集まりにならないよう、さらなる情報発信の工夫を期待しています。