AI・ビッグデータ領域へ、スパコンの挑戦
~30年間培ってきたノウハウを武器に、新たな価値を提案したい

NUA-SP研究会会員のみなさまにインタビューし、スパコンの利用目的やスパコンへの思いなどを伺います。第6回にご登場いただいたのは、2021年4月に「SX-Aurora TSUBASA」の開発責任者に就任したAIプラットフォーム事業部 部長 横山淳さん。スパコンが、AI・ビッグデータという新たな領域に活用範囲を広げていくことについて、現状や今後の展望をうかがいました。
*本インタビューは感染症拡大の社会情勢を鑑みて、オンライン会議ツールを使用して実施いたしました。

SP研究会
NEC 横山 淳

(プロフィール)
1992年NEC入社、大型サーバ/省電力/高密度サーバの開発やそうしたサーバを活用したアプライアンスサーバ開発に加え、高効率データセンタへ向けたファシリティ効率化提案なども担当。大学/修士までは物理(物性)の実験系。3人娘の父。

AI・ビッグデータ領域での経験を生かし、Aurora事業の拡大を目指す

――自己紹介と、これまでのご経歴をお聞かせください。

今年4月から「SX-Aurora TSUBASA」の開発責任者として、Aurora事業の全体をまとめていく立場になりました。これから、AIやビッグデータ解析など新たな領域にもAuroraの活用を拡大していけるよう進めていきます。

私は1992年に入社し、入社後しばらくは大型のサーバの開発を主に手掛けていました。その中で、2000年ごろにインテルが「Itanium」というプロセッサーを新しく開発し、それにも提案できるようなサーバとして、スーパーコンピュータ(以下、スパコン)向けのスカラサーバの開発や製品企画にも携わりました。これは開発にしっかり関わったというよりも、我々のチームが開発したものをスパコンの開発チームに味付けしてもらい、それを微調整するといった形で協力した程度でしたが、それが私にとって最初のスパコン製品との関わりでした。

そのあとはスパコンから少々離れてデータセンタ向けの省電力サーバや高密度サーバに携わり、高密度の並列分散処理といってたくさんのサーバを使って一つの大きな処理を行うような製品の提案などをしていました。その際に、これらの製品を使ったAIやビッグデータ解析も手掛けました。

そして、Auroraも今後はAI・ビッグデータ領域をやっていこうとする中でちょっと手伝ってくれないかと声がかかり、3年前にスパコンの開発チームと再度合流することになったんです。

その後は、これまでインテルが提供する汎用サーバに関する開発を手掛けてきた経験を生かし、Auroraを汎用サーバに組み込むための開発に加わりました。そこで約1年間、高密度水冷サーバの開発を行い、ドイツ気象庁様への納品などにも携わりました。そして、昨年から再びAI・ビッグデータ領域にも関わりつつ、今年からはAuroraの事業責任者も担っています。

――まだまだSP研のみなさまとは関わる機会が少ないということで、横山さんの趣味などもご紹介ください。

家族と旅行に行くことでしょうか。夏は海、冬はスキーに行ったりして、家族と一緒に楽しんでいます。食べることも好きで、コロナ禍で自宅にいる時間が増えてからは料理もするようになりました。豚の角煮や牛すじ煮込みなど、肉料理をよくつくりますね。

大きな処理の一機能として、スパコンならではの得意分野を生かす

――これまでは科学技術計算や気象予測などの領域で使われることの多かったスパコンですが、AIやビッグデータの領域ではどのような活用を想定しているのでしょうか。

まず前提として、領域が違っても大きなデータや多様なデータをなるべく早く処理したいという視点は、両者とも大きく変わらないと考えています。

その中で異なるのは、これまでスパコンと無縁だった方々にも、AIというキーワードを切り口に、使っていただける機会が増えるということ。そういったお客さまは、従来のように大きなデータセンタに多数のノードを並べ並列実行する形ではなく、サーバ1台にAuroraのカードが何枚か入っているような小規模の構成で使っていただくことが多いと考えています。

実は、AIと一口に言っても、Auroraが非常に得意とする分野もあれば、Aurora以上に得意とするアクセラレータ等がある分野もあります。そのため、Auroraは1台のサーバに搭載されているいろいろな機能のうちの一つとして、Auroraならではの特長が生きるときに活用されるようになります。つまり、従来の領域ではスパコンを使っているという意識を持ちながら使っていただいていたことが多かった一方で、AIやビッグデータの領域では、大きな処理の一部として、知らないうちにスパコンを使っているという人が増えるということです。

たとえば、インターネットのプロバイダさんが、ウェブ広告の表示選択の仕組みにAIを活用するとします。そこにAuroraが組み込まれていたとしても、広告を見ている世の中の人がそれを意識することはありません。このように、人々の生活の端々にAuroraが密かに使われているという世界にすることが大きな狙いです。そのためにも、我々はAIのアプリケーションを開発するベンダーさんなどに、Auroraの価値を認めてもらえるような提案をしていきたいと考えています。

――現在、AIやビッグデータの領域での活用は、どの程度進んでいますか。

一部のお客さまで、お試し利用が進んでいます。金融業のお客さまであれば、Auroraが文字認識や文章の内容理解を得意とすることを生かし、流れてくる情報の中から個人情報を見つけ出して自動的に削除するという用途で提案させていただいています。ほかにも、クレジットカードを発行するときの信用度のリスクを分析して見積もるというご提案など、パートナーのベンダーさんとともに活用方法をいろいろ探っているところです。

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今は金融業界に注力していますが、個人情報を削除するといった汎用性の高い機能は金融に限らずどんな業界でもニーズがあるので、今後は業界も広げていけたらと考えています。

約40年間培ってきたノウハウは、他領域でも大きな強みに

――AIやビッグデータの領域におけるスパコン活用の、今後の展望をお聞かせください。

AIやビッグデータの領域のお客さまが必要としているのは、Auroraの能力だけでなく、それも含めたトータルのシステムです。その中で、基盤となるソフトウエアのOSや、多数の処理リソースを相互接続するネットワーク、お客さま独自のコードをAuroraで向けに自動並列化/最適化コンパイラなど、我々が約40年間のスパコンの開発を通して蓄積してきたノウハウを存分に生かした提案をしていきたいと考えています。

さらに、ファイルシステムやスケジューラーなどで培ってきたノウハウもあわせて提案し、システムとの差別化を図っていきたいですね。

スケジューラーについてお話しすると、ビジネス用途でも似たようなソフトが利用されていますが、各々のサーバ高負荷になると不安定化したり予期せぬ障害につなげないために、サーバ間の負荷を平準化するように制御することが一般的でした。一部のお客様では省電力のため分散処理するサーバの一部に処理を片寄せて不要なサーバを落としてゆくような制御も行うようになってきてはいますが、スパコンのスケジューラーのように極力リソースを使い切り、とにかく速く実行するというところまでは行っていませんでした。一方でクラウドサービスでは、お客さまの処理を極力サーバに詰め込むことで、規模の効果と合わせたコストパフォーマンスの優れた環境を提供しようとしています。こうした用途では我々が培ってきた、スパコンのスケジューラーの制御アルゴリズムやノウハウを生かしていけると考えています。

私がAuroraの開発に再び携わり始めたときに感じたのは、まさにこういったこと。私がかつてのサーバ開発などで課題だと思ってきたことの中には、スパコンの技術で解決できるものがあると思いました。Auroraのカード自体をAIやビッグデータの領域で活用するというのはもちろんですが、スパコンを支えてきたソフトウエアもいろいろな場面で価値として生かせるよう、NECの社内外でも連携しながら展開していきたいと考えています。

――スパコンのホットトピックを一つお聞かせください。

先日、次世代のAuroraのLSI設計が完了しました。発売までには生産などの行程があってまだまだ時間がかかりますが、順調に進捗していますので、楽しみにしていただけたらと思います。

――SP研のみなさまにメッセージをお願いします。

新しい領域への拡大も進めていきますが、やはりスパコンの基本にあるのは、従来から使っていただいているお客さまです。そのお客さまがもっと速く、もっと大きなことを実現したいという期待に変わらず応えていくことを大切にしていきます。

その中で、我々の思いが至らない点や未達の部分に対してはユーザーさまから率直なご意見をいただき、次の改善につなげていきたいと考えています。一方で、以前に比べれば良くなっている点もあるかと思いますので、ぜひそういったところも評価いただきつつ、改善必要な部分やギャップについて引き続き厳しくご指摘いただけると、開発チームはじめAurora事業に携わる個々のメンバーもお客さまに育てていただいていることを実感してゆけるかと思います。私自身も、お客様とパートナーに近い形で、お客様の課題をしっかり理解してその解決策をご提案してゆけるようなシステムをつくり上げていきたいと考えています。