スパコンとともに歩んできた研究人生
~現役で成し遂げたいことと、次の世代に伝えたいこと

NUA-SP研究会会員のみなさまにインタビューし、スパコンの利用目的やスパコンへの思いなどを伺います。第5回にご登場いただいたのは、NUA-SP研究会の副委員長を務めておられる大阪大学 レーザー科学研究所の長友英夫准教授。大学4年次からずっとスパコンとともに歩んでこられた長友准教授の研究人生や、次の世代につなぐ思いについてお聞きしました。

*本インタビューは感染症拡大の社会情勢を鑑みて、オンライン会議ツールを使用して実施いたしました。

SP研究会 副委員長
大阪大学 レーザー科学研究所 准教授
長友 英夫 氏

(プロフィール)
東北大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了.博士(工学).大阪大学レーザー核融合センター助手,助教授などを経て、現在は大阪大学レーザー科学研究所准教授.専門はプラズマ計算物理学。趣味はヨット、アマチュア無線、ときどき山登り。

レーザー核融合の複雑な計算にスパコンを使用

――初めに、長友先生のご経歴と研究内容をご紹介ください。

1996年に東北大学大学院の機械工学専攻を卒業後、大阪大学のレーザー核融合研究センターに入職しました。その後、同センターはレーザーエネルギー学研究センター、そして今はレーザー科学研究所に名前を変えていますが、ずっと同じところに勤めています。大阪に来て、もうすぐ25年になりますね。

研究の大きなテーマも基本はずっと変わらず、計算機でレーザー核融合のシミュレーションを行うといった、高エネルギー密度科学に関するシミュレーションを手掛けています。レーザーとは光を集めることでエネルギーを高めたもので、それを当てることによって物が溶けて瞬間的に蒸発するような現象を起こし、プラズマという非常に高い温度の流体になります。これを使って核融合を起こそうというのが、レーザー核融合です。

激光XII号レーザー装置(NEC製です!)とその集光チャンバー

流体なので、基本的には空気や水の流れのシミュレーションと同じですが、光と物の反応や、物が溶けるというミクロの視点から流れていくというマクロの視点までスケールが変化することなどを考慮して計算しなければならないため、その複雑な計算をスーパーコンピュータで行っています。現在はデスクトップのSX-Aurora TSUBASAでコードを書き、チューニングしてから大阪大学のサイバーメディアセンターが管理するSX-ACEを動かしています。今年5月には、SX-ACEに代わりSX-Aurora TSUBASAがサイバーメディアセンターに導入される予定です。

――最近のトピックスを教えてください。

最近はレーザー核融合の一部のプロセスを切り出したレーザー加工のシミュレーションも手掛けています。レーザー核融合が実現するのはかなり先の話ですが、レーザー加工は実用に沿ったシミュレーション。実験してしまった方が早いという意見もありますが、テスト加工の代わりにシミュレーションすることで、材料をムダにしなくても良くなるというメリットがあります。今後は簡単な加工であれば、実験をせずにシミュレーションだけで進められるようになればいいなと思っていますね。

大学在学時からずっと、スパコンとともに研究を行ってきた

――長友先生がスパコンと関わるようになったきっかけをお聞かせください。

東北大学4年生の卒業研究で、NECのSX-2を使わせてもらったことが最初ですね。PC端末もNECの「キューハチ」(PC-9801)でしたし、NEC社製ばかり使っていました。当時、学生でスパコンを使わせてもらえる研究室は少なかったのではないでしょうか。

NEC SX-2 1983年

選んだのは流体機械という分野の研究室で、日本の数値流体力学の草分けである大宮司久明先生のご指導のもと、航空機エンジンのタービンやコンプレッサなどを設計するためのシミュレーションのコードをつくっているところでした。私は、飛行機や船、車などのものづくりはすべて流体力学で決まるのかなと思っていたこともあり、実際にスパコンを使わせてもらいながら数値流体力学を学びたいと、その研究室に入ったんです。

――では、長友先生の研究人生の始まりから、スパコンが大きな役割を果たしてきたのですね。

そうですね、ほとんどスパコンにお世話になっています。物理学の先生の中には、紙とペンでスラスラと解を求めてしまう方もいらっしゃいますが、どちらかというと私は、コンピュータで無理やりにでも計算することで新しい発見をするという方が好きなんです。結果から考えることで、少し違った視点で物事を捉えることができるというか。

そういう意味では、私のようにスパコンで小型計算をやっている先生と、理論でやっている先生がうまくコミュニケーションすることで、新しい発見につながることがありますね。うちの研究所でも、実験をしている先生が私のところに相談に来てくれて、そこから新しい展開が生まれることがよくあります。

レーザー加工におけるレーザープラズマシミュレーション例

レーザー核融合実験のシミュレーション(左)と実験の自発光画像(右)

SP研には知っている先生が多く、貴重な情報交換ができた

――NECやSP研とは、どのように関わって来られましたか。

NECとは、私が大阪大学のサイバーメディアセンターの運用に関わっていたり、私と一緒に研究していた西原功修先生がNECと密接にやりとりしながらSX-2のプロトタイプをつくっていたりしたこともあり、いろいろと議論させていただく機会が多くありました。また、スパコンの最適化のためのコードチューニングを、NECの方に面倒見良くやっていただいたこともありましたね。

SP研と関わり始めたのは2008年2月で、先ほどお話した西原先生の定年退職をきっかけにお声がけいただき、入会しました。入会後すぐに幹事会に参加させていただいたのですが、当時、委員長であった小林広明先生や、副委員長であった藤井孝蔵先生は学生のときに関わりがあり、メンバーとして参加されていた渡邉國彦先生とも何かの研究会でお会いしたことがあったので、自然に入っていくことができました。

遠方なので東京で行われる行事にはあまり参加できませんでしたが、幹事会や年1回ほど講演会に参加する中で、普通に過ごしていれば得られないような情報をたくさん得ることができました。たとえば「富岳」ができたときも、大学にいるだけでは、富岳がどのようなスペックで、どうすれば使わせてもらえるかということまでは分からなかったと思います。ほかにも、今はどのようなスペックのスパコンが主流になっているのかなど、世の中の流れを掴むことができましたね。最近であればAIの話など、スパコンに関連した話題もあり、とても為になっています。

第132回SP研技術交流会(NECコンピュータテクノ、2014年1月)にて、右から2番目

学生や若手技術者にプログラミングを教え、大きなチャレンジを後押ししたい

――現在はSP研の副委員長を務めていただいていますが、副委員長としてチャレンジしたいことはありますか。

学生や企業の若手技術者が、自分でコードを書いてプログラムを組めるようになるためのお手伝いをしたいと考えています。

大学にいると、学生のスパコン離れを感じます。私が学生の頃はスパコンを使いたいというモチベーションがあったのですが、今の学生にはそれがないんですよね。でも、学生にも自分でプログラムを組み、いずれは自分もスパコンを使うんだという意識を持って研究してほしい。せっかくスパコンがあるのだから、手元のパソコンでできる計算だけでなく、もっと最先端に近いような大きな計算にチャレンジしてほしいと思っています。

また、企業の若手技術者も、だいたいは既製品のソフトを使うように会社から指定されるので、おそらく自分でプログラムを組む機会はなくなっている。でも、既製品のソフトでは想定されていない計算をしようとすると、何らかの答えは返ってきても、とんでもない答えが返ってきているということが納得できないのではないかと思います。その際に、もっと基礎的な部分も理解しながら進められれば、役立つのではないでしょうか。

これをSP研で実現するのは少々難しいかもしれませんが、スパコンのユーザーを広げるという意味でも、既製品のソフトばかりを使っていては理解が進まない場合があるということは周知できたらと思っています。

現役のうちに、シミュレーションで設計したレーザー核融合を実現させたい

――では、長友先生ご自身がこれからスパコンを使って実現したいと思われていることは何でしょうか。

レーザー核融合のシミュレーションはまだまだ精度などに課題があり、私が大阪大学に来た一番の動機であるレーザー核融合の実現には至っていません。なので、それを示せるプログラムをつくって、シミュレーションを成功させたいですね。ただ、世界トップレベルの大きなスーパーコンピュータを持つアメリカのローレンス・リバモア国立研究所でもレーザー核融合の点火実験を行っていますが、なかなか実験結果とシミュレーションが合わず、まだうまくいってはいません。そこにもできないのに我々ができるのかと言われてしまいそうですが、努力してきちんとシミュレーションができるというところまでは、自分が現役のうちに示したいと思っています。

――最後に、SP研のみなさまにメッセージをお願いします。

プラズマは流体なので空気や水と共通する部分も多いのですが、それぞれ専門とする学会が違い、共通部分の交流が少なくなってしまっています。そのための学会もありますが、そこでは情報交換できないこともありますので、スパコンを使っている人同士で問題を共有し合えればいいですね。SP研には様々な専門の先生方がいらっしゃると思うので、実際にお会いして情報交換をしたいなと思っています。