スパコン事業の領域拡大に向けて
~ご意見にもっと耳を傾け、提供できる価値を追求したい

NUA-SP研究会会員のみなさまにインタビューし、スパコンの利用目的やスパコンへの思いなどを伺います。第4回にご登場いただいたのは、「SX-Aurora TSUBASA」の事業責任者を務める、NEC AIプラットフォーム事業部 事業部長代理 池田明生さん。NECが持つ技術からさまざまな事業を興してきた池田さんが、次にスパコン事業で実現したいことをうかがいました。

SP研究会
NEC 池田 明生

(プロフィール)
1990年のNEC入社後、ソフトウェア開発者、販促などの経験から、技術をビジネスにつなげる方法論を学ぶため早稲田大学にて技術経営学の修士号を取得。その後、数々の新規事業を手掛け、その手腕から2018年より本スーパーコンピュータ事業の事業責任者に従事。

スパコンの領域拡大を期待され、携わるように

――NECに入社してから現在までのご経歴をお聞かせください。

1990年に入社し、最初はメインフレーム「ACOS」のソフトウエア開発技術者として携わりました。その後、技術に関する知識をベースにマーケティングやプロモーション、広報などを行う製品技術部に異動し、製品を市場に出していくという役割を担いました。

そのなかで、NECには高い技術力があるのにそれがなかなかビジネスにつながっていかない現実に悶々としていた中、会社の制度を使わせて頂き、早稲田大学に2006年から2年にわたる留学をしました。そこで技術からビジネスを立ち上げる方法論などを学び、技術経営学の修士号を取得。今の自分にとっての大きな転機になりました。

会社に戻ってからは、企画部門で経営戦略に携わったあとにソフトウエア製品部門へ異動し、事業の現場で製品企画やその製品を活用した事業の立ち上げをリードしました。2016年ごろからRPAと呼ばれる、業務の自動化を図るソフトウエアを搭載したロボットやAI活用が市場で注目され始めたのですが、そういった事業企画をいくつか行いましたね。

そのソフトウエア開発部門と、スーパーコンピュータ(以下、スパコン)の部隊が2018年に統合され、今のAIプラットフォーム事業部になりました。それがきっかけで私自身もスパコンに携わるようになり、今に至ります。

――数々の業務経験と事業企画をしてきた池田さんが携わることで、スパコンの領域にも変化が生まれそうですね。

そうですね。部署が統合されたのも、スパコンの領域を拡大するにあたって、ソフトウエアとの結びつきや新しい発想でその可能性を広げるという意図があってのことだったので、そういった期待はされていたのだと思います。

ただ、スパコンの事業はNECの中でも歴史が深く、自社で開発から販売までを一気通貫で行っている数少ない事業。社内でも一目置かれていたため、初めは戸惑いがありました。まずは用語が分からないというところからスタートし、開発からお客様に届けるまでの期間の長さや、大学の先生方をはじめとするお客様同士のつながりの濃さにも驚きがありました。SP研に入れていただいて、NECが提供する「SX-Aurora TSUBASA」という共通項のもとにお客様がその使い方や技術について会話しているという光景も、とても新鮮でしたね。

スパコン事業は、“モノの提供”から“コトの提供”へ

――これまで携わってきた事業とスパコンの事業には、どのような違いがあると感じられますか。

スパコンの事業は、一言で言えばNECの伝統とプライドを持った事業だと思います。NECはベクトル型スーパーコンピュータを35年にわたって提供し続けており、今ではベクトル技術を持つ世界で唯一の企業になっています。

私が思うスパコン事業の特徴は3つ。一つ目は、ベクトル型のすばらしい価値をお客様に届ける唯一の存在であること。二つ目は、プログラムをつくる技術だけでなく、お客様のニーズに合わせて性能を最適化するチューニング力の高さ。三つ目は、ハードウエアはもちろん、ソフトウエアも含めたシステムとして、一気通貫でお客様に提供しサポートできることです。

一方で、課題もあると感じています。それは、伝統やプライドがあるために時としてそれがジレンマになり、変化への対応スピードが遅れてしまうこと。今までは科学技術計算や気象予測、地球環境変動解析などの得意領域で事業を拡大してきましたが、これからは積極的に適応領域を拡大していきたい。そのうえで、世の中の変化のスピードに負けないよう、対応スピードを上げる必要があると考えています。

ただ、そこは私がこれまでの経験を生かしてリードしていけるところ。従来のスパコン事業が積み上げてきたことをベースに、次へのチャレンジを意欲的に進めているところです。

――次へのチャレンジを進めるにあたって、必要となる要素は何だと思われますか。

SP研をはじめとするお客様が困っていることや求めていることを、もっと知らなければならないと思っています。これからは、製品をモノとして提供するだけでなく、“コトの提供”がキーワード。たとえば、SX-Aurora TSUBASAを導入することによって仕事のスピードが倍になる、あるいはコストが半分になるといったように、スパコンの提供を通じてそれぞれのお客様にどのような価値をもたらせるのかを突き詰めていく必要があります。

そのために、営業などのフロント部隊だけでなく、開発などの技術部隊にもお客様と接する機会を増やしています。お客様と積極的にコミュニケーションさせることで、いかに市場の声を拾い上げ、開発の仕事に生かすかということに取り組んでいければと思っています。

初めて受注した大型案件は、ドイツ気象庁

――池田さんがスパコン事業に携わられてからの2年間を振り返り、印象的だったできごとは何ですか。

スパコンの主戦場とも言えるものに、大型案件があります。それを受注するための事前準備として、お客様の要件に合わせて競合に勝てるようなご提案を行っていくのですが、その準備期間は長く、実に数年かかります。そのなかで初めて勝ち取ったドイツ気象庁の案件は、とても印象に残っています。

受注できたという一報を受けたときはまさにドイツにいて、車での移動中だったのですが、本当にうれしくて大騒ぎしましたね。一緒に案件を進めていたドイツ拠点の仲間や日本の仲間にその場で連絡をし、出張の帰りにはモンブランの高価なボールペンを記念品として買いました。普段なら高級でなかなか手を出せませんが、そんなことがどうでもよくなるくらいうれしかったのです。そのボールペンは今とても愛用しています。

――ドイツ気象庁の案件では、何が評価されて受注に至ったのでしょうか。

要件となっている電力量の中で、最も高性能を発揮できるというスペックの高さが他社を圧倒し、採用されました。いうなれば、先ほど特徴として挙げた「チューニング力の高さ」も勝因の一つです。ちなみにサービスインが9月15日だったので、今のドイツの気象予報はSX-Aurora TSUBASAによって行われているんですよ。

私たちはスパコン事業を通して世の中に貢献していきたいという最終目標を持っているので、一つそこにたどり着いたということはとても誇らしく、今後のプライドになっていくと自負しています。

「実はうしろでスパコンが動いている」という世界を実現したい

――今後、スパコン事業をどのように展開していきたいですか。

スパコンが培ってきた領域をこれからも発展させながら、金融や医療などの他分野にも領域を広げていきたいと考えています。また、AIとも組み合わせればビジネス用途が大きく広がるので、ドイツ気象庁などの行政機関や大学だけでなく、民間企業や個人に関しても、お客様のためになるコト(価値)をご提供し、実はうしろでスパコンが動いているといった世界を実現したいですね。

その一つとして、10月に河川氾濫の予測シミュレーションをスタートさせました。これまでは河川が氾濫する数十分間に予測して警報を上げるという形でしたが、これを使えば6時間前に予測して注意を促すことができるようになります。そのほか、金融業のお客様と、個人情報の保護に関する実証実験も行っているところです。

NECは、SDGsへの貢献もビジョンに掲げています。SDGsの達成につながるような社会価値の創造に、スパコンの技術を生かしていければいいですね。

――最後に、SP研のお客様に向けてメッセージをお願いします。

普段からみなさまのご経験や深い知見が組み合わさることで、NECのスパコンの能力を最大限に引き出していただいており、非常に感謝しております。我々はお客様から要望やご指摘をいただくことで一緒に成長していけると考えておりますので、今後も忌憚ない意見をお聞かせいただければと思います。

スパコンの領域拡大に伴い、SP研にも多様性が出てくればいいなと思っておりますので、ぜひ楽しみにしていただければ。今後も国産技術をともに高め、日本、世界に貢献していきましょう。