スパコンを使い続けて30年
~今後の国産技術に期待したいこと

NUA-SP研究会会員のみなさまにインタビューし、スパコンの利用目的やスパコンへの思いなどを伺います。第3回にご登場いただいたのは、2019年度からNUA-SP研究会の委員長を務めておられる本田技研工業の高林徹様。ご自身のスパコンとの関わりや、自動車業界におけるシミュレーションの黎明期から計算に携わってこられた苦労、今後SP研で実現したいことなどをおうかがいしました。
*本インタビューは感染症拡大の社会情勢を鑑みて、オンライン会議ツールを使用して実施いたしました。

SP研究会 委員長
本田技研工業株式会社 高林 徹 氏

(プロフィール)
1989年、本田技術研究所入社後、計算流体力学研究所などで流体計算の基礎を学ぶ。
その後、エンジンの吸排気シミュレーションの研究開発、燃焼シミュレーションの研究開発や、それらを動かす計算機の導入、運用の業務に従事。最近では、SIP革新的燃焼技術や自動車用内燃機関共同研究組合 (AICE)の活動を行っている。

入社して30年、計算の重要性がようやく注目されるように

――高林様は、これまでどのような仕事に携わってこられたのでしょうか。

1989年に大学院を卒業して本田技研工業(以下、ホンダ)に入社し、工場での研修などを経て、本田技術研究所に配属され、仕事を持っていく形で計算方法の習得のために計算流体力学研究所に行かせていただきました。そこではたくさんのスーパーコンピュータを使って流体の計算をしており、そこで2年間勉強した経験がこれまでの仕事のベースになっています。当時、ベクトル型スーパーコンピュータといえば、コンピュータの最先端。そのときに初めて触れ、以来ずっと使っています。

ホンダに戻ってからはずっとエンジンの計算を担当してきましたが、当時の自動車業界では計算によるシミュレーションが使われ始めたばかりで、社内の理解はほとんどなく、全然相手にされませんでした。航空機業界の方が、計算の活用や技術は圧倒的に進んでいましたね。航空機は筐体が大きいので試作する前にシミュレーションをするのが普通ですが、自動車は比較的コンパクトなので、計算するよりもとにかく試作してみようという考えが強いんです。

そんな環境の中で計算が頼られるのは、開発が大きな問題を抱えこれ以上日程を遅らせられないといって崖っぷちに立たされたとき。ただ、そういった場合の計算は非常に複雑な条件になっているので満足に対応できないことが多く、歯がゆい思いをしました。

計算の重要性が理解されてきたのはここ最近で、やみくもに試作を繰り返すだけでは規制値をクリアーする仕様が見出せなかったり、性能面で他社に勝てなくなってきていたりと、計算を使わざるを得ない状況になってきたから。私が入社して30年で、ようやくといったところです。

――計算の第一人者として大変苦労してこられたのですね。現在は監督業務などに携わられているのでしょうか。

そうですね。ただ、計算に携わる人員も増えてきていますし、若い人がどんどん前に出ないといけないと思っているので、今は監督業務も減らしていきたいと考えています。その代わり、コンピュータリソースの整備やソフトのバージョンアップ、新しいソフトの研究開発などの縁の下の力持ちのような業務に回っています。

PCクラスターを、共に模索しながら動かした

――NECと関わられるようになったのは、どのようなきっかけからですか。

まずは燃焼シミュレーションソフトを動かすマシンを導入しようと、NECのPCクラスターを購入したのが最初です。もともとは他社のマシンを購入するつもりで予算を2億5千万円ほど計上したのですが、実際にもらえたのは5千万円。その予算内で、複数のパソコンをネットワークでつないで並列計算をするPCクラスターなら導入できそうだということで、価格面で最後までがんばってくれたNECさんにお願いしました。そのあとにベクトル機もNECさんで購入して、そのころからのお付き合いです。

PCクラスターは今でこそシステムとして整っていますが、当時はとにかく出たばかりでトラブルも多く、NECの方と模索しながら動かしていました。それまでホンダでは高価なコンピュータが主流だったため、社内ではもはや実験モルモットのような状態で、周囲は本当にうまくいくのかなと見ているわけです。最初はひやひやしましたが、1~2年経ったころにはうまく動かせるようになり、社内でNECさんのPCクラスターの導入が増えたという時期がありましたね。

――SP研には、どのような経緯で関わられるようになりましたか。

20年ほど前でしょうか、NECさんとたくさん仕事をするようになったころに誘われて入りました。実は、私が計算流体力学研究所でお世話になった桑原邦郎先生がSP研の初代委員長を務めていたりと、その前からちょっとしたつながりもあるんですよ。

スパコンの研究会はほかにあまりないですし、いろいろな研究者の方との人脈も広がるので、楽しくやれればいいと思っています。

SP研で、国内の技術力を高めていきたい

――高林様には2019年度からSP研の委員長を務めていただいておりますが、SP研で実現したいことはありますか。

いろいろやりたいですよね。たとえば、2020年の今年から少しずつ進めているのですが、国産のハードやソフトを応援して、国内の技術力を高めていきたいと思っています。

私が最初に計算流体力学研究所に行ったときは、シミュレーションのプログラムは全て自分で組んでいました。社内で使っているシミュレーションソフトもソースコードがあるものが多かったです。それが1990年代半ばになると、市販のソフトが充実し、自分でプログラムを組む機会は大幅に減りました。

自分でプログラムを組むことの良さは、きちんとやりたい計算に沿ったソフトがつくれること。たとえば、エンジンの中に流れる空気を計算しようとしたときに、世の中で使われているソフトは水のような非圧縮なものを計算するソフトなんです。水は圧縮しませんが空気は圧縮するので、圧縮を考慮したいときは、水を計算するソフトを使っても正確な計算結果は得られません。そういったときに自分で空気の計算に適したソフトをつくれれば、的を射た結果を得ることができます。

また、自分でプログラムが組めるようになれば市販のソフトの構造も理解できるようになり、より使いこなすことができるようになります。会社ではどうしても効率を重視してしまいがちですが、自分でプログラムを組むことが一番の効率化につながることもあるんです。

――国内の技術力を高めるという点で、SP研では具体的にどのようなことができそうでしょうか。

先ほど、会社ではコンピュータリソースを整備する業務に回っているとお話ししましたが、その一環として私が自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)で開発を行っている、自動車エンジンの燃焼解析ソフト「HINOCA」を、NECのベクトル型スーパーコンピュータ「SX-Aurora TSUBASA」に実装できればと考えています。

HINOCAは、日本の大学の先生方がそれぞれのアイデアでつくったモデルを結集したソフト。つまり、今日の日本が持てる最高の技術を集めたものです。これがSX-Aurora TSUBASAに実装され、非常に高速な計算ができれば、ハードもソフトも国産の技術として打ち出していけると思っています。

国産ハードに国産ソフトを実装 画像:乱流計算から得られた微細渦構造(JAXA様提供) zoom拡大する
国産ハードに国産ソフトを実装
画像:乱流計算から得られた微細渦構造(JAXA様提供)
――今後、国産のスパコンに期待することはありますか。

NECさんのSX-Aurora TSUBASAなどは大学の先生方や研究機関で使うことが主流になっていますが、民間企業にももっと使ってもらえるよう、企業がよく使っているソフトを動かせるようにしてほしいと思います。そうして一つのコンピュータに対するコストパフォーマンスが高い状態にすれば、シェアも伸ばせると考えています。

SP研の委員会でも市販のソフトをなるべくNECさんのコンピュータで動かせるようにしようと活動していますが、せっかく生み出された日本の技術をつないでいくためにも、NECさんには引き続き頑張っていただきたいですね。大規模な計算をしたいというニーズはまだまだたくさんあるので、そういったところをSX-Aurora TSUBASAで実現できればいいと思っています。

エンジン内流動計算結果で描いた流線
エンジン内流動計算結果で描いた流線
――最後に、SP研のみなさまにメッセージをお願いします。

繰り返しにはなりますが、国産技術を高めていきたいと考えていますので、ぜひご協力いただければと思います。