SP研の先生方との交流を経て
~製品開発への考え方が大きく変わった

NUA-SP研究会会員のみなさまにインタビューし、スパコンの利用目的やスパコンへの思いなどを伺います。SPecialコラムの第2回にご登場いただいたのは、2017年に発表された「SX-Aurora TSUBASA」の元開発責任者である、NEC AIプラットフォーム事業部 上席事業主幹の愛野茂幸さん。開発責任者として、スパコンを開発するうえでこだわった点や、SP研に対する思いを聞きました。

SP研究会
NEC 愛野 茂幸

(プロフィール)
1986年にNECに入社後、社費で英国留学しコンピュータサイエンス修士号取得。
帰国後、スカラー型やベクトル型スーパーコンピュータの開発に従事。
現行機SX-Aurora TSUBASAの前開発責任者。

スパコンの開発に関わり、たくさんの人との大切なつながりを得た

――NECに入社してから現在までのご経歴をお聞かせください。

私は1986年に入社し、最初にメインフレーム「ACOS」を使った銀行システムのCPU開発を行いました。その後、1990年に社費でイギリスに留学し、コンピュータサイエンスの修士号を取得しました。実は、大学在学時は農業工学科で機械系の勉強ばかりしていて、コンピュータの領域に本格的に触れたのは入社してから。OJTで教わりながらコンピュータの勉強をしてきましたが、ハードもソフトも含めて全体を包括的に学んだのは、留学がきっかけでした。

1年の留学を経て日本に戻ってからはスーパーコンピュータ(以下、スパコン)の開発に移り、東京工業大学さんと一緒に「TSUBAME」を手掛けました。そのあとベクトル型スーパーコンピュータの開発に加わり、現在に至っています。

スパコンは、入社直後に携わった基幹系のシステムとは異なり、次々に新しい技術が出てくる最先端の現場。性能は高く、消費電力は低く、お客様が持っているフロアスペースに収まるように小さくといったさまざまな要因があり、いかにそれをお客様の必要条件に合わせて組み合わせていくかというところが、難しさでもあり、おもしろさでもあると感じています。

――スパコンの開発に関わるようになり、ご自身で得られたと感じるものはありますか。

いろいろありますが、いちばんは人とのつながりです。SP研の先生方はもちろん、以前SP研の委員長を務めておられた東北大学の小林広明先生や、東京理科大学の藤井孝藏先生など、その分野の第一人者とも呼べる先生方とお知り合いになり、さまざまなことを学ばせていただいたり、意見交換させていただいたりしました。

小林先生にはベクトル型のスパコンにすごく愛情を持っていただき、システムの設計に直接役立つようなディテールの話もたくさん教えていただきました。また、藤井先生には、コンセプトワイドの大きな視点から、将来こうありたいというビジョンの構築の仕方を学ばせていただきました。そのほかにも、SP研の先生方から多様な視点でのご意見やご要望をお伺いすることで、もともとサイズが大きく、価格も高く、高度な知識を持った専門家だけが使えるというイメージだったスパコンの、製品開発への考え方が大きく変わりました。

2017年に発表した「SX-Aurora TSUBASA」では、その考え方を反映して、一般のサーバーにも組み込めるサイズまで大きく縮小し、価格も抑えています。それによって、実際にスパコンの用途が広がりつつあることを実感できています。

――愛野さんは、「SX-Aurora TSUBASA」の開発責任者を務めておられました。開発において、特にこだわった点はありますか。

いくつかありますが、あえて挙げるとしたら2つ。一つは、私が開発責任者を務める以前からスパコンの開発で受け継がれてきたこだわりで、お客様のアプリケーションが実際に速く動くということです。私たちは理論性能と実行性能と呼んでいるのですが、カタログに記載されているような理論的な性能だけで他社との差別化を図るのではなく、実際にアプリケーションを実行した際にも高い性能が発揮できることを念頭に置いて開発を行っています。そのために、計算機に速くデータを送り込む能力と速く計算する能力のバランスを取ること、およびメモリバンド幅と呼ばれるデータの供給能力を高めることに力を入れてきました。

もう一つは、消費電力を抑えることです。今はヨーロッパでも日本でも、原子力発電が停止しつつあります。そうすると電力にかかる費用が非常に高くなるため、低い消費電力でも高い性能を出せるということが求められていくと考えています。

お客様のご意見がなければ、絶対に良い製品はつくれない

――愛野さんは、SP研の役割をどのように考えておられますか。

我々技術屋だけの見方で製品をつくっていても、おそらくいいものはできないでしょう。実際に製品を使ってくださる方やアプリケーションを開発されている方など、さまざまな方とお話させていただくことによって、初めて製品として良いと言えるものができあがるのだと思います。そのためにSP研はなくてはならないものであり、今後も続けていくべき大事なものだと思っています。

今後は、製品開発でさらなる高みを目指すためにも、利用用途を広げていくためにも、SP研のメンバーを広げていきたいですね。今は流体の分野の方が多くいらっしゃるので、たとえば医療関係やAI、データ分析といった、ほかの分野の方々にも興味を持っていただければと思っています。さらに、交流会やお客様のサイト訪問、工場見学といった企画の幅も、もっと広げていきたいですね。

――開発責任者として、SP研やほかのお客様から意見を聞くうえで、心掛けていたことはありますか。

複数のコミュニティやフォーラムを開催し、年に何回もSP研の方やお客様とお会いできる機会をつくるようにしていました。そこでは、我々から製品のアップデート情報を発表させていただいたり、お客様から製品の活用状況をプレゼンしていただいたりすることをメインにしつつ、その合間にはお客様と1対1でお話しすることで、たくさんのご意見を伺うようにしていましたね。

我々はハードウエアや基盤のOSをつくっているわけですが、お客様のアプリケーションがなければ単なる箱。あくまでも、お客様にアプリケーションを動かしていただいて初めて意味のあるものになるので、お客様が何を望んでいるのかを常に意識しながら、独りよがりにならないように開発を進めていくべきだと考えています。

将来は「いつでも誰でもスパコン」

――これからの将来、愛野さんがスパコンに期待することは何でしょうか。

個人的な思いとしては、「いつでも誰でもスパコン」ですね。スパコンを使っていただける分野を増やしたいという思いはもちろん、一般の方ですらも、実は知らないうちにスパコンを使っていたというような状況がいちばん望ましいと思っています。

たとえばゴルフをしているときに、今であればキャディーさんに何番アイアンがいいか聞くところを、風向きや距離をつぶやくとその裏でスパコンが解析して最適な答えを出してくれるといったような。ほかにも、渋滞防止のために交通量を解析して信号を操作したり、農業の植え付けや水やりに最適なタイミングを気象予測から導き出したりと、シミュレーションとオートメーションを組み合わせれば、幅広い活用ができると期待しています。

その状況を実現するためには、スパコンがもうワンステップ小さく、速くならなければならないでしょう。またプログラムも、式を入力するだけでプログラムができてしまうというくらい、簡単にできればいいと思っています。

――最後に、SP研のお客様に向けてメッセージをお願いします。

今後も我々のスパコンをどんどん使っていただいて、忌憚のないフィードバックをいただければと思います。実は、我々はダメなところを指摘された方が、改善点が分かるのでうれしいんです。今回ダメだったところは、次回いいところにできるようにがんばります。そのためにも、定期的にお会いする場はもちろんですが、それ以外のいつでもたくさんのフィードバックをお待ちしています。