文学散歩

第33回 『羽衣伝説』 ゆかりの地 沖縄県宜野湾市

『羽衣伝説』 ゆかりの地 沖縄県宜野湾市
散歩した人:株式会社おきぎんエス・ピー・オー 與儀幸朋さん

琉球に伝わる羽衣伝説ゆかりの地を歩く

14世紀初頭、琉球は三つの勢力圏に分断されていました。いわゆる三山(北山・中山・南山)時代のはじまりです。その中山を治め、王統を引き継いだのが察度(さっと)王と呼ばれる琉球史に残る偉大な王です。宜野湾では、この察度王が天女の息子であるとする羽衣伝説が今も語り継がれています。 今回の文学散歩は羽衣伝説の舞台である宜野湾市を、おきぎんエス・ピー・オーの代表取締役社長を務める與儀幸朋さんと歩きます。同社は、宜野湾市に本社を構え、情報システム関連コンサルティングやシステム構築・導入支援、アウトソーシングサービスなどを提供している会社です。「私は那覇出身なので宜野湾の歴史にはあまり詳しくありません。今回、羽衣伝説をテーマに宜野湾の歴史や文化に触れられるとのこと、楽しみにしています」と與儀さんは文学散歩への期待を話します。

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琉球の王統は天女の子孫によって引き継がれた

最初に訪問したのは、宜野湾市立博物館です。ここには有史以前から近代に至る宜野湾の歴史や文化、生活の様子を、出土品、写真、ジオラマ展示などで学べる施設です。博物館のイメージキャラクターが羽衣をまとう「天女ちゃん」であることからも、宜野湾市と羽衣伝説の縁の深さがうかがえます。展示物の中には、天女の息子とされる察度王が暮らした遺跡に関する資料もありました。「察度王が王統を建てたのは14世紀ですから、今から700年ほど前の出来事です。しかし、地球規模の歴史でいえば、さほど昔とはいえません。そんな時代に天女がいて、その息子が王になったとの伝説が残っていること自体、昔の文献がほとんど残っていない沖縄らしい話だと感じました」と與儀さんは博物館を観覧した感想を話してくれました。

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宜野湾の歴史に関するさまざまな資料が展示されている宜野湾市立博物館(見学無料)

今も湧水が枯れない天女伝説発祥の地ムイヌカー

博物館の裏手に広がる森川公園は、羽衣伝説発祥の地です。公園内には、透明度の高い清水がこんこんと湧き出る森の川(ムイヌカー)と呼ばれる場所があります。民話によれば、天女はこのムイヌカーに舞い降り、水浴びをしたそうです。 公園内には、察度王ゆかりの氏族が先祖の徳を偲び、約300年前に整備したという石造りのウガンヌカタ拝所(信仰の対象)と、その記念碑である西森碑記があります。深い緑に覆われた森を背にする石造りの拝所、その周りは静謐な雰囲気に満たされており、神聖な場所であることが感じられます。「首里もそうですが、沖縄では昔から水の湧き出る地に人が集まり栄えてきた歴史があります。数百年の時が過ぎても枯れずに水が湧き出るムイヌカーには神秘的なものを感じます」と與儀さん。 森川公園を出て住宅街を通り、高台を登ると黄金宮(クガニナー)があります。ここは察度が王になる前に暮らしていた場所で、黄金が畑にごろごろ転がっていたとされています。察度は、この黄金を使い大和の商船から鉄を仕入れて農民に与え、農具をつくらせて村を豊かにしたといわれています。現在、クガニナーにはひっそり祠が建つだけですが、地元だけではなく市外からも拝みに来る人が絶えないそうです。

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写真左:天女が水浴びをしたムイヌカー 写真中央:約300年前に建立された西森碑記 写真右:察度王が暮らしたといわれるクガニナー

 

女神伝説が伝わる神秘的な普天満宮洞穴と沖縄の聖地普天満宮

次に向かったのは普天満宮です。ここは琉球王国の王府から特別の扱いを受けた神社「琉球八社」のひとつで、今も参拝者が絶えない沖縄県中部最大の聖地です。見どころは社殿の裏にある普天満宮洞穴。普通に参拝していると、その存在に気付きませんが、巫女さんに見学したい旨を申し伝えると無料で案内してもらえます。秘密基地のような入口の扉を開け、真っ白な石造りの廊下を進むと、その先に巨大な鍾乳洞が姿を現します。洞窟へ続く階段の下には、御神体を祀る遥拝所があり、その周りに白鶴岩、明王岩、獅子座などと名付けられた8つの霊石が並びます。地上とは明らかに異なる冷気、ぽとりぽとりと鍾乳石から落ちる水滴、高さ4メートルはあろうかという石柱に囲まれた洞穴の中は、現世とは思えない異空間です。この洞穴には、昔、首里桃源に住んでいた美しい乙女が鍾乳洞に籠もり神々しい女神になったとの伝承が残されています。 「羽衣伝説や普天満宮の女神伝説など、宜野湾には美しい女性に関わる伝説がいくつもありますね。女性を崇める文化が、この地に深く根付いているのかもしれません」と與儀さん。 最後に、羽衣伝説ゆかりの地を歩いた感想を伺いました。「私の父と母はともに首里の出身ですが、母方の祖父は東京農業大学を出て普天間で農林試験所の所長をしていたそうです。そういう意味で、宜野湾には昔から縁があったといえます。今回の文学散歩は、その縁ある宜野湾の史実や伝承、文化などを知るとても良い機会になりました」と與儀さんは感想を話してくれました。

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写真左:琉球八社のひとつ普天満宮 写真中央・右:長さ280mの巨大な鍾乳洞・普天満宮洞穴

 

(2016年5月10日掲載)

作品紹介

『羽衣伝説』(沖縄民話)

ある日、奥間大親(おくまうふや)は森の川で水浴びをする天女に出会う。羽衣を隠した奥間は天女を家に連れ帰り、やがて夫婦となる。夫婦は一男一女をもうけるが、娘の唄から羽衣が見つかり天女は天へ帰ってしまう。その息子察度は、後に琉球の王統を継ぐ中山王となる。

 

今回の散歩道

宜野湾市立博物館→森川公園→普天満宮・普天満宮洞穴

<所要時間:約2時間>

宜野湾市立博物館

1999年6月1日に開館した 宜野湾市を中心とする沖縄の歴史・考古・民俗・自然を専門分野とした博物館。教育普及や市民参加といった活用面に重点を置く。館内には、模型やジオラマなどが説明文とともに展示され、古代から現代までの歴史や文化を総合的に学ぶことができる。イメージキャラクターは天女ちゃん。図書館も併設されている。観覧料は無料。

森川公園

真志喜区の東の小高い丘に位置し、整備された敷地には展望台・多目的広場・遊具類・テニスコートなどがあります。園内の泉には「はごろも伝説」の舞台でもある森の川があり、観光地としての人気も高い。

普天満宮・普天満宮洞穴

琉球王国において「琉球八社(官社)の制」により 王府から特別の扱いを受けた琉球八社の一つ。沖縄県中部最大の聖地として参拝者が多く訪れる。創建は、往昔、普天満の洞窟に琉球古神道神を祀ったことに始まり、1450-60年頃に、熊野権現を合祀したと伝えられている。航海安全、豊漁、五穀豊穣などの神様として信仰され、ご祈祷や結婚式、七五三などの行事を通して地元の人々に親しまれている。
境内にある普天満宮洞穴は、全長280m、洞口が2カ所、広場が3カ所あり、過去の水流の痕跡を示す洞穴ノッチも見られる。洞窟内及び東洞口付近は遺跡となっており、沖縄貝塚時代前期後半以後(約3000年前)の遺物が多数発掘されている。平成3年8月1日付で、宜野湾市文化財「名勝」に指定された。

■ここでチェック

宜野湾市立博物館

普天満宮・普天満宮洞穴

 

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