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- 第21回 「古事記」 ゆかりの地 三重県 伊勢市
文学散歩


天地の始まりから神々による国生み、そして天孫降臨、天皇の世までを綴った日本最古の歴史書「古事記」。神話の中には数多(あまた)の神が現れますが、太陽(のはたらき)にも例えられる天照大御神(あまてらすおおみかみ)は、天皇の祖神でもある特別な神。その天照大御神を祀るのが三重県にある伊勢神宮の内宮(ないくう)です。今回の文学散歩は、第62回式年遷宮が行われた伊勢神宮を訪れました。一緒に歩いてくれたのは、住友電装株式会社の人材開発部能力開発グループの枝元美理さんと同社法務部の金森春奈さん。金森さんは「今日は神宮のいわれなどを教えていただけるということで、とても楽しみです」、枝元さんは「式年遷宮が注目されてブームのようになっていますが、私自身その本質を理解できていない部分があるので、今日は自分の目で見て肌で感じたいと思っています」と期待を話してくれました。
伊勢神宮の正式名称は「神宮」であり、一つのお宮ではなく、伊勢市一帯に鎮座する125社の総称です。神宮の中心となるのは、内宮と呼ばれる皇大神宮(こうたいじんぐう)、外宮(げくう)と呼ばれる豊受大神宮(とようけだいじんぐう)。お参りをする際は、古来の習わしとして外宮が先とされているので、その順序にならいまず外宮を訪れました。
第一鳥居をくぐると左右を古木に囲まれた参道が伸び、歩みを進めるごとに静謐(ひつ)な雰囲気が深まっていくのを感じます。第二鳥居をくぐり、さらに進むとやがて苔むした萱葺(かやぶき)屋根の旧正宮が姿を現しました。厳かな空気が満ち、参拝に訪れた人々は誰もが立ち止まり、その姿に見入っています。歴史を感じさせる旧正宮の隣には、式年遷宮により新造された新たな御正宮が強い存在感を放っていました。まぶしいほどに磨き上げられた素木(しらき)造りの御正宮、その美しさは参拝者の心を強く惹きつけます。このように新旧両方の御社(おやしろ)が見られるのは、式年遷宮が行われた今だからこそ。この御正宮に祀られる豊受大御神(とようけのおおみかみ)は、天照大御神の食事をつかさどる神としてこの地に迎えられたとのこと。以来、外宮では神々への食事をお供えする日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうのおおみけさい)というお祭りを1500年間、一日も欠かさず続けているそうです。
御正宮のお参りを済ませた後、98段の石段を上り多賀宮(たかのみや)へ。ここは外宮第一の別宮。続いて、土地の守り神を祀る土宮(つちのみや)、風の神を祀る風宮(かぜのみや)を参拝し、神楽殿をまわって忌火屋殿(いみびやでん)の近くへ向かいました。ここは神様の食事を調理する御殿。しばらく見学していると、参道を進む神職の姿を拝見することができました。「日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうのおおみけさい)を奉仕する神職の方々に出会えて幸運でした。この儀式が千五百年も続けられてきたと伺い、その果てしない時間を思い感動しました」と枝元さん。
北御門鳥居をくぐり裏参道へ出ると、小さな建物がありました。そこは御厩(みうまや)といい、皇室から奉納された神馬が飼育されている場所です。やさしい目をした白馬と一緒に写真を撮り、外宮の散歩を終えました。「これまで8回ほど参拝しているのですが、風の神様や災害から守ってくれる神様など、お宮によって異なる願いをきいてくれる神様がいることを初めて知りました」と金森さんは外宮の感想を話してくれました。
手水舎で手と口を清める。(写真左)外宮の旧御正宮。(写真中央)式年遷宮で新調された御正宮。(写真右)
外宮の多賀宮、新旧の御宮が並び立っている。(写真左)多賀宮へ続く石段。(写真中央)御厩の神馬。(写真右)
外宮前から車に乗り内宮前へ。まず目に飛び込んできたのは、神宮の象徴ともいえる美しいアーチの宇治橋と大鳥居です。五十鈴川の清流を眺めながら橋を渡ると、その先が表参道。御手洗場(みたらし)でお手水をし、まずは風日祈宮(かざひのみのみや)へ。風の神をお参りした後、ふたたび表参道へ戻り御正宮へ向かいました。参道が長いのはご神前へ向かう心の準備を整えるためだそうです。参道を囲む古木の巨大さに圧倒され、葉の間から差し込む木漏れ日を楽しみ、玉砂利を踏みしめる音を聞きながら、ゆっくり進みます。やがて、高い木々が空を覆い、空気が少し冷たくなった頃、巨石を切りだして築かれた石段が現れました。その30段余りの石段の向こうに見えるのが、天照大御神を祀る御正殿の御門です。20年ぶりに新調された唯一神明(ゆいいつしんめい)造りの社殿は、磨き上げられた檜がまばゆいほどの美しさ。枝元さんと金森さんは、石段を踏みしめるように昇り、二拝二拍手一拝で参拝し長い祈りを捧げました。
御正宮をお参りした後、お米の神様を祭る御稲御倉(みしねのみくら)、古神宝などが納められている外幣殿(げへいでん)を拝見して、荒祭宮(あらまつりのみや)へ向かいました。ここは天照大御神の荒御魂(あらみたま)を祀る宮。荒御魂とは神の行動的な働きをする状態を表し、おだやかな側面を表す和御霊(にぎみたま)と対比される存在だそうです。
最後に山の神を祀る大山祇(おおやまつみ)神社と、その娘神を祀る子安(こやす)神社を参拝。子安神社は安産・子育て・子授けの神として信仰されています。
内宮をお参りした金森さんは「外宮と内宮の違いなど、今まで知らなかったことがわかり新鮮な気持ちで参拝できました」と話し、枝元さんは「式年遷宮という貴重な時期に神宮を訪れることができ、新旧両方のお宮を見られ、とてもよかったと思います」と感想を話してくれました。
五十鈴川でお手水をして参拝へ。(写真左)風日祈宮御橋。(写真中央)内宮の風日祈宮でお祈りする2人。(写真右)
内宮の荒祭宮。(写真左)内宮の神楽殿。(写真中央)宇治橋の袂。(写真右)
宇治橋を渡り、おはらい町へ。ここは江戸期から明治期の伊勢路の町並みを再現した観光名所「おかげ横丁」や創業宝永4年の赤福本店を中心に、伊勢路の名物料理や名産品を扱うお店が軒を連ねており、この日も参拝に訪れた人々でにぎわっていました。最後に伊勢神宮を歩いた感想を伺いました。「式年遷宮やいろいろなお祭り、祀られている神様の違いなどがわかり伊勢神宮の魅力をあらためて感じました」と金森さん。「神宮に祀られているたくさんの神様のお話を伺い、興味がわいてきたので古事記を読んでみたいと思いました」と枝元さん。
今回は、20年に一度の式年遷宮の年に神宮を訪れる大変貴重な文学散歩でした。
おはらい町の中心部、江戸・明治期の町並みを再現したおかげ横丁は、名物料理や名産品の店が並ぶ観光名所。
(2014年1月6日掲載)
作品紹介
古事記
天地開闢(かいびゃく)に始まり、国生み神話、須佐之男命(すさのおのみこと)の大蛇退治など、神代から推古天皇にいたる皇室の系図を中心に古代の神話・伝説・歌謡を記した日本最古の歴史書。
発行元:岩波書店
外宮内宮
おはらい町・おかげ横丁
<所要時間:約3時間>
外宮
伊勢駅から徒歩7分、食物・穀物を司る神、豊受大御神が(とようけだいじんぐう)が祀られている。内宮創建から500年後に伊勢の山田原に鎮座した。域内には「唯一神明造(ゆいいつしんめいづくり)」という日本古来の建築様式を伝える旧正宮を中心に3つの別宮と10の摂社・末社、所管社が点在する。宮域の東側に広がる勾玉池には吾妻屋もあり、5・6月に花菖蒲が美しく咲き、人々の憩いの場となっている。
内宮
皇室の御祖神である天照大御神(あまてらすおおみかみ) が祀られている。紀元前4年に神路山・島路山を源とする五十鈴川の川上に鎮座した『日本人の総氏神』。五十鈴川にかかる美しいアーチ型の宇治橋を渡ると神域に入る。両側に樹齢数百年の杉の巨木が林立する参道には玉砂利が敷き詰められ、静かで神々しい雰囲気につつまれる。宮域は5,500ヘクタールの広さで宮域内に2所、宮域外に8所の別宮がある。
おかげ横丁・おはらい町
第61回神宮式年遷宮の年(1993年)に、伊勢神宮内宮の門前町「おはらい町」の中ほどで、お伊勢さんの「おかげ」という感謝の気持を持って「おかげ横丁」が開業した。江戸時代、日本全国から大勢の人がお伊勢参りに押し寄せたが、伊勢の人々は自分の施しが神様に届くように「おかげの心」で旅人を温かく迎えたと言われる。伊勢の老舗の味、名産が集まり、伊勢の歴史、風習、人情に触れることができる。祭のような賑やかさの中に、どこか懐かしい時間が流れ、伊勢人の癒しの場となっている。