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- 第16回 眉山 ゆかりの地 徳島県・徳島市
文学散歩


エライヤッチャ、エライヤッチャ、ヨイヨイヨイヨイ。夜空に響く囃子声、陽気なリズムを刻む鉦(かね)と太鼓。生命の喜びを爆発させ、陽気に舞う踊り手たち。坩堝と化した演舞場の桟敷には、三十数年振りに再会した父と母。二人は、声を上げることも、見つめあうこともなく、静かに人生の最後を交差させた。
映画「眉山」のクライマックスを観たとき、「感動して泣いちゃいました」と話す藤田理沙さん。阿波総合開発株式会社に勤める藤田さんは、徳島カントリー倶楽部のフロント業務を担当しています。地元出身の藤田さんは、町に阿波おどりの鳴り物が響く季節になると、心がわくわくしてくるそうです。「私自身は踊らないのですが、毎年欠かさず見に行きます。今日は、阿波おどりが登場する作品『眉山』ゆかりの地を歩くということで、とても楽しみです」
町の至る所に阿波おどりのモチーフがある。写真中央は市のシンボルで映画のタイトルになった眉山
市内を流れる新町川の川辺に設けられた新町川水際公園。映画では、松嶋奈々子演じる主役の咲子と大沢たかお演じる寺澤医師が二人並んで歩くロマンチックなシーンが撮影されました。「昼間もいいのですが、ここは夜景がとてもきれいなんです」と教えてくれた藤田さん。おっしゃるとおり、樹木や橋、水際を色とりどりのLEDイルミネーションでライトアップされた水際公園周辺の夜景は、一見の価値ありです。
水際公園を先へ進むと、映画のクライマックスシーンが撮影された南内町演舞場(徳島こども交通公園)。映画では、2,200人の踊り子、12,000人の観客エキストラが動員され、迫力満点の総踊りが再現されました。
LEDイルミネーションによる夜景が美しい新町川水際公園
1万人を超えるエキストラが参加し、迫力満点の総踊りのシーンが撮影されたロケ地
眉山を正面に見てまっすぐ歩いた先にあるのが阿波おどり会館です。まずは3階の「阿波おどりミュージアム」を訪れました。阿波おどりの起源から、由来、変遷など、さまざまな展示物や解説があり、400年を超える歴史を楽しみながら学ぶことができます。「徳島に生まれ育ったのですが、阿波おどりの起源や由来など、知らないことばかりでした」と藤田さん。続いて、会館の2階にある「阿波おどりホール」へ。ここでは毎日、阿波おどりの公演が行われており、その醍醐味をいつでも味わうことができます。昼の部は、公演だけではなく、踊り方のレクチャーや、ステージで踊れる体験コーナーもあります。
公演鑑賞後、会館5階の乗り場からロープウェイで眉山山頂へ向かいました。
徳島市街を一望できる展望台では、映画で咲子が母・龍子のことを寺澤に相談するシーンが撮影されました。「山頂まで来たのは、本当にひさしぶりです。あらためて徳島市は、水と平野に恵まれた、きれいな町だなと思いました」と藤田さん。
阿波おどり会館で、ミュージアムや公演を楽しむことができます
展望台から徳島市街を一望。写真右は、眉山の由来となった万葉集の歌が刻まれた歌碑
下山後、映画の中で幼い咲子が両親とホタルの鑑賞に出かけたという眉山の滝を訪ねました。かつては、水量豊富な滝でしたが、今はすっかり水枯れ状態になっています。そのため、映画の撮影は、吉野川市の水神の滝で行われたそうです。
眉山の滝の麓には、風情ある店構えの「和田の屋」本店があります。「和田の屋」は、阿波名物『滝のやき餅』で有名な老舗和菓子店です。『滝のやき餅』は、天正13(1585)年に蜂須賀蓬庵家政公が徳島城を築いたとき献上嘉納されたという由緒ある銘菓。石臼挽き粳米と餅米、眉山から湧出する錦竜水を使い、職人の勘と技で仕上げられる小判型の焼き餅は、もちもちの食感と香ばしさ、ほどよい甘さが絶妙です。「やき餅は、小さい頃からよく食べていましたけど、本店で焼き立てを食べたのは初めてです。やっぱり、おいしいですね」
最後に、「眉山」ゆかりの地を歩いた感想を伺いました。「徳島に住んでいるのに、眉山の滝のことを知りませんでしたし、阿波おどりの歴史も今日初めて知りました。今まで気付かなかった徳島の魅力に触れられて、今日はとても楽しかったです」と藤田さんは笑顔で話してくれました。
眉山の滝の麓に、由緒ある銘菓『滝のやき餅』をつくっている「和田の屋」本店があります
(2012年12月25日掲載)
作品紹介
『眉山』 監督:犬童一心 原作:さだまさし
東京で働く咲子は、母・龍子が入院したとの報せを受け、故郷の徳島へ。末期癌により龍子の命が尽きようとするとき、咲子は母の秘めた想いを知る。父との再会を果たすため、咲子は死期が迫る母を阿波おどりの会場へ連れ出す。
徳島を舞台に、母と娘の絆を描いた感動作。
「眉山−びざん−(2枚組)」
DVD発売中
¥5,040(税込)
発売元:フジテレビジョン・東宝
販売元:東宝
徳島駅新町川水際公園
阿波踊り会館
眉山山頂
眉山の滝
和田の屋
<所要時間:約3時間>
徳島駅
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新町川水際公園
水の都徳島のシンボルとして親しまれている新町川水際公園は、魅力ある都市環境の創出と中心市街地の活性化をめざし、徳島県と徳島市が河川環境と公園整備の事業を合同施工することにより平成元年に完成した。湧水、滝、噴水などの水空間、藍蔵をイメージしたシェルター、ケヤキ、サクラなどの樹木などが調和したモダンな公園で、「手づくり郷土賞」「生活を支える自然の水三十選」にも選ばれている。
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阿波踊り会館
400年の歴史があり、徳島の貴重な財産である阿波踊りを保存・伝承するため、平成11年に設立された会館。1年を通して阿波踊りの実演が楽しめ、歴史紹介、県内観光地の情報収集や案内なども行われている。
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眉山
名前の由来は万葉集といわれ、女性の眉のような優美な稜線を描く。標高290mの山頂は公園として整備され、晴れた日には、阿讃山脈、瀬戸内海、紀州の山々を望むことができる。四国一ともいわれる夜景のスポットとしても知られている。阿波おどり会館5階発着のロープーウェイでは約6分で山頂に到着する。
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和田の屋
眉山の麓にある400年の歴史をもつ老舗和菓子店。藩主の御用菓子として有名な銘菓『滝のやき餅』をつくっている。喫茶では眉山が見せる四季折々の表情を楽しむことができる。