MY CHRONOLOGY~未来へ続く年表~
世界茶会 岡田宗凱氏

相手と向き合い自分を消し去る。茶道の学びはその先にある。

茶道は、書、花、建築、陶芸、工芸、懐石など日本文化を網羅する芸術である。その本質を日本人にこそ知ってほしいと岡田宗凱は語る。これまで5,000名を超える人々にお茶を点ててきたが、「私がお茶を教えるではなく、お茶から学ぶ」と話す。その真意とは。

(文/井上 隆文 写真/信澤 邦彦)

岡田 宗凱(おかだ そうがい)氏 Profile

世界茶会を立ち上げ世界10カ国で茶会の開催に携わる。月に一度開催する茶会体験ワークショップには13年間で延べ5,000名が参加

1982年〜 ナンバーワンにもオンリーワンにもなりたいとは思わない

幼い頃から絵を描くのが好きで、将来は画家になりたかった。中学では陸上部に入り短距離走で都大会にも出場したけれど、本気にはなれなかった。「昔も今も1番になることに興味はありません。人と競争して勝つより、ベストを尽くすことが大事。絵であれスポーツであれ、自分自身と向き合うことでしかないと思っています」と、岡田は言う。

1997年〜 茶道には世界で活躍するために必要な要素が満たされている

家業(製本業)に役立つデザインやアート系の技術を学ぶため都立工芸高校へ進学。新入生に部活を紹介するオリエンテーションで、お茶の成分についてプレゼンした茶道部に興味を持ち、何の気なしに茶室へ見学に行った。

「茶道は、書、花、器、茶室という建築、着物という装い、懐石という料理まで日本文化が詰まった総合芸術です。世界で活躍するために必要な要素で満たされているから、やっておきなさい」と、お茶の先生は断言した。その一言が完全に腑に落ち、茶道経験はゼロだったが入部を決めた。

しかし、高校時代は、写真部でコンテストに参加して入賞したり、路上でギターを弾き語ったり、バイトに精を出したり、やりたいことがたくさんあり、お茶もそのひとつに過ぎなかった。

2000年〜 時間が持つ価値に気付かされ、真剣にお茶と向き合う

日本大学芸術学部写真科へ進学後、「大学生になったらお茶を飲みに来なさい」と言われていたことを思い出し、高校で三年間お世話になった先生の茶室を訪れた。お茶を続ける気はないのかと問われ、「授業もバイトも課題もあり、美術館へも行きたいし、忙しくて続けられそうにありません」と答えると、先生は隣室へ続く襖をスッと開け放った。そこでは、三人の方がお茶の稽古をしていた。その方々が有名大手企業の役員らであると紹介した上で、先生は「あなたと、この方々どちらが忙しいと思いますか?」と問う。そんなことわかるわけないと思ったが、有名な会社だからきっと忙しいと思い「皆さんの方が忙しいと思います」と答えた。すると「その通り。あなたより忙しい人がこうして時間をつくってお茶の稽古に来ています。あなたに時間をつくれないはずありませんよね」と苦言を呈された。さらに、将来やりたいことを聞かれ「写真を仕事にしたい、お金も稼ぎたい」と答えると、「お金なんて働けば稼げるのだから、お金持ちより“時間持ち”を目指しなさい」と、忠告を受ける。

「その言葉は、とても衝撃的でした。確かに、お金がいくらあっても時間を自由に使えなければ意味がないと気付かされ、それ以来、真剣にお茶と向き合うようになりました」

2002年〜 海外に出て問われた茶道の本質。日本人こそ茶道を知るべきではないか

2002年、先生に同行しコロンビア大学(ニューヨーク)のお茶会に参加し、現地の学生らと交流した。日本文化を学ぶ彼らから「茶道は日本固有の文化で、禅に通じる深い思想があると思うが、君はどう考えているのか」と質問され、岡田は絶句してしまう。

「日本だと、どこの流儀か、どの先生に付いているのか、何年やっているのか、好きな器は何焼きか程度しか聞かれません。しかし、彼らの質問は茶道の本質を突いていました。そのとき、自分は茶道の本質に迫れていないと気付かされました」

その後、フランス、ポーランド、オーストリア、トルコ、南アフリカなど、さまざまな国のお茶会に参加、すべての国の人たちから喜ばれ「特別な体験をありがとう」と心から感謝された。その体験を重ねるうちに「なぜ自分はここにいるのか」と自問するようになった。

「そもそも茶道は日本の文化なのに、なぜ日本人がその本質を知らないのか。外国で普及させようなどと考える前に、まず日本で日本人と茶道を分かち合うべきではないか」。その想いが、世界茶会の原点となる。

2007年〜 自分を消し去り他者と向き合う、そのために茶道がある

大学卒業後、就職しアートディレクターとして広告や雑誌の制作に携わる。プライベートで知り合ったファッション誌の副編集長がお茶に興味を持ち、数人のクリエイター仲間を誘い、お茶会を開くことになった。その会が好評で「もっとお茶を知りたい」との要望が多く、お茶会の回数が増えていった。その発展形として2007年8月から毎月1回お茶会体験ワークショップを開催することになる。そのワークショップが評判を呼び、テレビやラジオ、雑誌などメディアに出演する機会が増えた。2008年、某有名誌の取材を受けた際、活動名を問われた岡田は、その場の思いつきで「世界茶会」と名乗った。以降それが屋号となる。

毎月欠かさずワークショップを開催しつつ、海外で茶会を行い、お茶以外にも、その道のプロを招いて巻き紙での手紙の書き方、茶碗や茶杓、和菓子から練香(お香)に至るまで実際に「触れて、つくる」体験を開いてきた。また、大学教授と重要文化財の茶室見学ツアーを開催したり、お茶に関わる活動の幅をどんどん広げていった。

過去13年間に延べ5,000名以上にお茶を点ててきたという岡田に、初心者がワークショップに参加する程度で、奥深いお茶の文化を感じられるのかと、愚問を投げかけると

「心配いりません。必ず感じられます。極論ですが、お茶は習わなくてもいいのです。私は、皆さんに偉大なお茶そのものから学んでほしいと、いつもお話ししています」と、岡田は言う。しかし、物言わぬお茶から習うなど、やはり初心者には難しいのではないかと愚問を重ねると、岡田は茶道を習う意味について話してくれた。

「千利休が、なぜ茶室を二畳にしたのか。それは、茶道が人と向き合うためにあるからです。自分を存在させるには他者の存在が欠かせません。だから、茶室には客の畳と亭主の畳、二畳が必ず必要なのです。お茶は、客と亭主の心と心をつなげます。しかし、人間の心は人格という壁に覆われているから、向き合うだけでは心に触れられません。物事を学ぶ、習うとは、すなわち自分を限りなく亡くすことです。自分という人格を消し去ったとき、見えていなかったものが見えてきます。茶道に限らず道の学びは、そのためにあるのです」

2020年〜 コロナ禍で始まった「リモート茶会」がお茶の世界を革新する

新型コロナ感染症が猛威を振るい始めた2020年3月、岡田は「リモート茶会」という斬新な取り組みを始めた。

「利休さんが生きていたら同じことを考えたかもしれません。伝統は守るだけではなく、時代に合わせて革新しなくては継承できません。もちろん伝統を守り抜く人も必要ですが、革新者も必要で、その両面がなければ文化は維持、発展しないと思います」

リモート茶会の開催により、海外や遠方に住む方、介護や子育てに追われている方、身体的な理由で茶会へ足を運べなかった方、さまざまな方々にお茶を体験してもらえた。それは革新的な取り組みがもたらしたひとつの成果と言っていい。

「日本人は日本文化にコンプレックスを持ち過ぎている気がします。抹茶は粉とお湯を入れ、茶筅でかき混ぜれば誰でも点てられます。どうやって飲むかを気にする必要はありません。まず伝統文化に対する無駄な気遣いを無くしたい。そもそも文化とは、歴史ある茶道や歌舞伎などだけではなく、ファッションも、カフェでコーヒーを飲むことも、コンビニでご飯を買って食べることも長い目で見れば文化なのです。だから、お茶を別物と考えず、同じ時間の流れの中にある文化だと気付いてもらいたい。リモート茶会が、その入口になったらうれしいですね」

FUTURE お茶を通して、日本人が世界で活躍することに貢献したい

「日本人の血に刻まれ、培われてきたお茶は世界に誇れる文化です。お茶を通して日本を見てもらいたいし、日本の文化を感じてもらいたい、日本に誇りを持ってもらいたい。そのために、まず日本人にお茶を知ってもらいたい。それを知った人たちが、世界と対等もしくは対等以上に活躍してくれれば、それがお茶を通した社会貢献になる、そう信じています」と、岡田は今後の活動への想いを話す。

年表

  • 岡田氏の
    年表

    社会の
    年表

  • 1982

    東京都に生まれる

    「黄金の茶室」を復元したMOA美術館開館

  • 1997

    東京都立工芸高等学校入学

    色絵鱗波文茶碗〈仁清作/〉重要文化財に指定

  • 2000

    日本大学芸術学部写真学科入学

    鸞天目茶碗 重要文化財に指定

  • 2001

     

    釜山女子大学(韓国)が茶道学科を新設

  • 2002

    コロンビア大学で開催された茶会に参加

     

  • 2007

    茶会体験ワークショップを開始

    黒楽茶碗(時雨) 光悦作 重要文化財に指定

  • 2008

    世界茶会を設立

    山本兼一著『利久にたずねよ』 (PHP研究所)出版

  • 2011

    著書『茶道美人』を出版

    山田芳裕作『へうげもの』アニメ化

  • 2020

    リモート茶会開催

    緑茶の輸出量(5,274トン)が過去最高を記録