いのちのまなざし~Look of Life~

アイフェルの真珠 ~ドイツ~

(写真/文 小松 義夫)

ドイツ周辺の地図

ドイツの西、ベルギーの国境沿いにある山間の町・モンシャウは、アイフェルの真珠と呼ばれる。300年ほど前から、織物業で栄えていたが、残念なことに、この古い町は交通の便が悪く、日本人にはあまり馴染みがない。この地方では何度も戦禍に見まわれたが、モンシャウは奇跡的に難を逃れた。幸運なことに17世紀から18世紀に建てられた木組みの家が数多く残っており、300軒以上が文化財に指定されている。

木組みの家を見ながらルーア川沿いを歩くと、昔にタイムスリップしたような時が過ごせる。町に派手さがなくて落ち着いた雰囲気なのは、家々の屋根が渋いシルバーグレーに輝くスレートで葺かれているからかもしれない。

今から270年前、18世紀の1752年に建てられた「赤い家」は、織物業で財を成したヨハン・ハインリッヒ・シャイブラー氏が自宅と仕事場を兼ねて造ったものだ。ル―ア川の支流である小さなラウフェン川の水音を聞きながら、「赤い家」や木組みの家を見ていると飽きることがない。丘の上には城跡が、谷には古い町並みがあり、その佇まいをしみじみと味わって過ごすことができる。

町や広場の片隅には、昔の様子を表した真鍮の塑像が点在していて、それらは、織物で栄えた町らしく、職人が織物を製品にするまでの工程を表す姿が多い。さらに、川のほとりを歩いていると、川の中に大きな将棋の駒のような石があるのを見つけた。それは昔、織物を川の水で洗う時の作業台として使われていた石で、水流を分かつために先が三角になっている。まさに、300年近くも川の水に洗われている作業台の石は、この町の歴史の証であり、町と川の親密さを物語っている。

アイフェル国立公園に向かう途中、モンシャウの谷を登ってみた。牛の看板があったので近づくと、それは牛乳の自動販売機だった。ヨーロッパは乳製品と人々の生活の距離が近いなとつくづく思う。近くには、風を防ぐ屋敷森のような大きな生け垣に囲まれた木組みの家があった。道を歩いていた人に尋ねるとドイツの呼び方で、垣根のことは「ヘッケ」、使われているのは育てやすく寒さに強いブナ科の「ブーヘ」だという。秋が深まると、各地で枯れ葉が残る生け垣を見かける。ドイツ流のわびさびなのだろうか。なかなか良い趣だ。枝に残る枯れ葉を見ながら春を待つのも風流で洒落ているなと思う。

モンシャウに戻ると、「クリスマスには川のほとりのマルクト広場を中心に市が開かれ賑わう」と町の人が教えてくれた。ドイツ各地やベルギー、オランダなどから人々が国境を越えて市に集うそうだ。川のせせらぎをバックミュージックにした小さく可愛い町のクリスマスを思った。

城がある丘から見たモンシャウの町。スレート屋根の銀色の連なりが醸し出す静かな雰囲気が落ち着く
暖房の煙と湯気が立つ早朝のモンシャウは、まるで別府の温泉郷のようにも見える
ローテス・ハウスとは赤い家の意味。織物で財を成した人が住み、事務所にしていた。ラウフェン川の周りには木組みの家が集まっている
クリスマスに市が立つマルクト広場に集う若者たち。広場はルーア川に面している
広場の片隅の織物を洗う人の像。この町は織物で栄えた
町を流れるルーア川に織物を川の水で洗うための石の台が残る。300年ほど川に洗われている
1730年に建てられた建物の一階はバーになっている
カウンターに座ってビールを飲みながら300年弱の建物の時間を味わう
牛乳の自動販売機です
日本でも見かける屋敷森は、冬でも葉が落ちないブナ科の木に囲まれている。春の若葉と夏のたっぷりとした緑を思う