いのちのまなざし~Look of Life~

マラケシュから大西洋へ ~モロッコ~

(写真/文 小松 義夫)

モロッコ周辺の地図

マラケシュの南にはアトラス山脈がそびえていて、サハラ砂漠からの熱波や砂を防いでくれている。メディナと言われる旧市街の中心には壁に囲まれたフナ広場がある。一説ではここはかつて処刑場だったという。しかし現在は、モロッコだけでなく、世界中から人が集まるとても賑やかな広場だ。夕方になると食事ができる屋台が並び、絨毯売り、香水売り、楽師や楽団、蛇使いなどが集まってくる。満ち溢れる人々のエネルギーをもらって自然に元気が出てくる。

喧騒と人いきれに酔って広場をあとにし、旧市街の迷路を歩いていると自転車に乗った「ねずみ男」のような人が通り過ぎ、一瞬ドキリとした。彼が着ているのはジェラバというモロッコのコートだ。とんがり帽子の男たちが数人集う様子はどこか怪しいが、ここでは見慣れた風景なのだ。

マラケシュから車で3時間ほど走るとエッサウィラという大西洋の海岸に着く。モロッコはアラビア語の通称でアル・マグリブといい、「日の沈む国」という意味だ。大西洋に沈む夕日を求め、どこか洒落た気分でエッサウィラに向かった。

その道中、多くのヤギがアルガンの木に登っているとても変な光景に出逢った。この地域ではアルガンの実から採れる上質なオイルで化粧品や石鹸が作られ、観光客やヨーロッパ各地でも売られている。そのアルガンの実を食べるためにヤギが木登りをするのだが、なかなか見ることができないらしい。そこにいた男は木に登ったヤギを準備し、スマホやカメラでの撮影需要にこたえているという。それにしても、それで稼ぐ呑気な商売に思わず苦笑いした。

マラケシュと同じくエッサウィラの旧市街であるメディナを歩くのは楽しく、さらに大西洋に接しているので開放的な気分になる。200年以上前からここでは物書きや芸術家が創作活動をしており、その伝統は今に続いている。道端には絵画などが並んでいることが多く、いつも展覧会が開かれているようだ。この町に限らずモロッコの旧市街を歩いていると、立派な木のドアが目につく。ドアを見て歩くだけで飽きることがないのが、まさにモロッコだ。

ここ十数年で、先住民族のベルベル人が使うティフィナグ文字をよく見るようになった。道路標識も、フランス語、アラビア語、そしてティフィナグ文字が併記されている。ひとつのドアにティフィナグ文字が書かれているのを見つけた。字は読めないけれど眺めているだけでこの土地に住み続けてきた人たちを身近に感じる。異国情緒に浸れ、北アフリカに来ているなと感慨深い。

港に出ればそこかしこに漁船から水揚げされた魚が並んでいる。近くには屋台をはじめ魚料理を食べさせる店が多く、そこには、エビやカニなどの海の幸を楽しんでいる観光客の姿がある。テーブルに座り魚料理に舌鼓を打っていると、大西洋に沈む夕日を見るのをうっかり忘れてしまった。夕日を見るのは次の機会にしようと思った。

日が低くなる夕方、フナ広場に人が集まりはじめた
サハラ砂漠の民、トゥアレグ族の青い衣装を着た人が香油などを売る
マラケシュの路地に入ると水木しげるの「ねずみ男」が自転車で走り抜けた
モロッコでしか育たないアルガンの木に登るヤギ。観光客の撮影用
大西洋の魚。漁港の青空市場にて
石臼でアルガンの実を挽く女性。朝食の時にこのアルガンとアーモンドを挽いたものを混ぜてハチミツを加えたアムルーというペーストをパンにつけて食べます。とても上品で美味しい
モロッコの町でドアめぐりをするのも楽しい。これはベルベル人のティフィナグ文字か?
海岸の城壁は最初ポルトガルによって造られ、以後この町を治めた権力者により改修され使われてきた