天空の村ワエレボ ~インドネシア~
(写真/文 小松 義夫)

インドネシアは1万を超える数多くの島から成っている。バリ島の東にあるフローレス島には何度か足を運んでいて、もう歩きつくしたと思っていた。ところがたまたま英文の雑誌で山奥にあるワエレボ村の美しい写真を見た。その姿を見たくて現地に行ってみることにした。
細長いフローレス島の西の端、ラブアンバジョの港は入江にあり波が静かだ。港近くの市場で美味しそうなイカを売る青年がいた。ここではイカをチュミチュミという。つい買いそうになったが、旅の空なのであきらめた。町からバスに乗り山の中のルーテンという町に泊まった。目的のワエレボ村に行くため、車を手配し悪路を走った。海岸のレオ村に出て、そこから再び山へ向かい麓の小さなホテルに泊まった。
翌日早朝に出発し、山道を歩く。ホテルの主人の話では足が速い人で2時間少々、普通なら3時間程度でワエレボ村に着くという。歩き始めるが身体が重い。トレーニングしておけばよかったと思うが今さら遅い。途中の沢には竹で作った橋が渡され、竹がしなるのに合わせて足を運ぶのが楽しい。だいぶ歩き、そろそろ村が近いかなと思いながらコーヒーの森を通る。木の枝には青く若い実がビッシリついていた。
村に着いたらまず村長に挨拶するのがしきたりだ。中心にある家に入り村長に会う。簡単な儀式の後、村に受け入れてもらう許可を得た。村の家は一本の長い竹を円錐に束ねたものだ。宿泊棟を紹介され、荷を解いてから丘に登り村を見下ろした。ちょうど村を包んでいた霧が消えて雲が去っていった。7つに並ぶ円錐形の家、この素晴らしい光景を見るためここへやってきたのだ。昼頃には観光客がやってきた。ワエレボ村がテレビで「インドネシアのマチュピチュ」と紹介され観光客が増えたという。秘境もテレビで紹介されると混雑してくる。ここに来るにはきつい山登りをしなければならないので元気な若者が多い。この村のコミュニティーはしっかりしていて観光収入を村で管理し、村の維持の財源にしている。
村では特産物のコーヒーが有機栽培されている。赤道近くで標高が1100m、なおかつ霧が出る環境はコーヒーの生育に適しているといわれる。熟したコーヒー豆を食べにジャコウネコが出没するのも生育環境が良い証だ。村の広場の片隅にコーヒー豆が天日干しにされ、乾いて縮んだ果肉は人の手で取り除かれる。
日本でゆっくりと美味しいコーヒーを飲む時、雲の中から現れたワエレボ村の姿を思い出す。







