タンベルマの里 ~トーゴ共和国~
(写真/文 小松 義夫)

西アフリカに位置するトーゴの海岸線は約70km。国土は南北に550km伸びている。縦横の比率は8対1程度、例えるなら鉛筆のように細長い国と言えばよいだろうか。海岸から300kmほど北に行き、カラという町を過ぎると、にぎやかな市場で知られるニャムトゥーグーに出る。その先のカンテという町でガソリンを入れた。
カンテの分岐路に立つとバオバブの木を背景に若い女性たちがやってきた。移動しながら牛を育てる牛牧民のフルベ族だ。衣装も素敵だが首飾りや髪型も美しい。分岐路を右に入った山の中にタンベルマ族の隠れ里がある。彼らは強い部族から逃がれ、身を守るため土の城のような強固な家に住んでいる。実は、この隠れ里に最初に来たのは30年前、今回は三度目の訪問になる。30年前に7歳くらいだった女の子が大人の女性になっていて、昔の写真を見せたら喜んでくれた。城のような家の周りには雑穀が植えられている。用心深いタンベルマ族は家の近くに畑を持つ。この町にはバオバブの木がたくさん植えられている。バオバブには年輪がないので正確な樹齢がわからないが、大体の言い伝えで樹齢が推し量られ、町の人は葉や実を食料にして大切にしている。
バオバブの実を手にぶら下げた男の子に会った。殻の中には白い粉に包まれた黒い種子が詰まっている。白い粉は水に溶かすとほんのり酸味があり清涼感のある飲み物になる。種子からは料理用のオイルが採れる。また幹の皮を剥いで細く裂いてから撚れば丈夫なロープになる。この木は本当に人々の役に立っている。その姿は奇怪だが見ているとだんだん親しみが湧いてくる。
近くで市が立ったので行ってみた。露天には焼き物が並ぶ。男が手に壺を持ち品定めをしている光景は世界中共通だ。木陰では主にソルガム(コーリャンのようなもの)で造ったビールを飲ませるバーができている。ビールを造るのは女性の仕事だ。コインを渡してカリバス(ひょうたん)の器にビールを注いでもらい味わって時を過ごす。座って皆と一緒に飲むビールが渇いた喉にうれしい。アルコール度は高くなく味には渋みがある。以前、ベルギーで修道院が造っているというビールを味わったが、渋みが残るのが非常にここのビールと似ていた。
最近は日本でもバオバブのオイルやハチミツを買うことができ、バオバブの苗も売られていることを知った。帰国したら部屋でバオバブを育て西アフリカの思い出をそばに置きたいと思う。


フルベ族の彼女らにこちらが見られている







先は黒い焼き物で精巧にできている