いのちのまなざし~Look of Life~

ソフィアの秋 ~ブルガリア~

(写真/文 小松 義夫)

ブルガリア周辺の地図

ソフィアを訪れるのは数十年ぶりだ。五木寛之の初期の作品に『ソフィアの秋』という小説がある。内容は忘れたが、印象的なタイトルなので今でも記憶に残っている。秋も深まりつつあり、その小説の舞台に入り込むような気持ちで旅を始めた。

バルカン半島に位置するソフィアはヨーロッパで最も古い都市の一つで、古代遺跡とモダンな建物が混在している。実際、地下鉄工事の途中で古い町の遺跡が出現し、工事を中断して調査し、保存されることがある。町の中心部の地下鉄セルディカ駅のそばには古代遺跡があり、人々は日々遺跡を見ながら、古い歴史を身近に感じて生活している。

昔訪ねたときソフィアの町の色は、黄色っぽかった。中心部の道が黄色いレンガブロックで敷きつめられていたのでその印象が強かったのだと思う。実際、ソフィア大学から遠くないアレクサンドル・ネフスキー大聖堂周辺は、記憶どおりの黄色い道だった。

町なかに宿を取った。すぐ近くにヴィトシャ大通りという歩行者用の道がある。道沿いにはプラタナスなどの街路樹が植えられている。洒落たブティック、カフェ、レストランが並び、ベンチでは市民が座ってくつろいでいる。パリのシャンゼリゼ通りに似ているが、少しよそよそしいパリの道に比べ、ここは親しみのある雰囲気で、家族連れ、老人、学生がのびのび歩き、こちらまで開放的な気分になる。

ソフィアの背後にあるヴィトシャ山は標高2000mを超える。春、夏、秋はトレッキングやハイキングをする人々が訪れ、冬はスキー客でにぎわう。その麓にある世界遺産ポヤナ教会を訪れた。周辺は別荘が並んでいるが、塀で囲まれた教会の敷地は静かな別世界だ。11世紀、13世紀、19世紀と継ぎ足された教会の中に入ると、フレスコ画に囲まれる。フレスコ画とは、湿った漆喰の表面に天然顔料で絵を描き、壁が乾く過程で絵を固着する手法だ。聖人やキリスト、最後の晩餐の絵などに囲まれた空間は不思議と心が休まり、煩悩や雑念が吸収されていくようだ。

さらに足を延ばして、もう1つ世界遺産を訪ねることにした。ソフィアから約200km離れたリラ山脈の深い谷の奥にあるリラ修道院だ。ブルガリアで一番大きな東方教会の修道院で10世紀から修道僧が暮らしている。それまでは曇りや雨ばかりだったが、谷を奥まで行くと空が動き、待ち望んでいた晴れ間が訪れた。修道僧が過ごす部屋に囲まれた中庭には聖堂があり、壁のフレスコ画はとても見応えがある。

修道僧が歩くなかで観光客が見学している。小さなキオスクで聖人やキリストを抱いたマリアなどが描かれているイコンを売っているのも修道僧だ。山の中の静かな空間に身をおいていると、ほんの一瞬、自分も修道僧になったような気分になる。久しぶりのバルカン半島で、今回も静かで豊かな時間を過ごせた。

秋深い公園の紅葉
アレキサンダー・ネフスキー寺院近くの道路は黄色いレンガが敷きつめられている
洒落たカフェ、ブティックが並ぶ歩行者専用のヴィトシャ大通りは洗練されていて、ここはパリか?と勘違いするほどだ
ベンチに座っているだけで楽しくなる
町中に古代遺跡があるソフィアは歴史を目で感じながら生活する町だ。
ここから地下鉄セルディカ駅に下りる
ヴィトシャ山麓にあるポヤナ教会は世界遺産。写真は撮影できないが、内部には素晴らしいフレスコ画がある
リラ修道院。修道僧の部屋に囲まれた聖堂のある中庭を歩くブルガリア正教の僧
聖堂の壁や天井はフレスコ画で
埋められている
修道院の片隅に板に描かれた聖像のイコンを売るキオスクがある。
修道僧が観光客に対応している