花を求めてインダスの谷へ ~インド~
(写真/文 小松 義夫)

アンズの花を求めてインダスの谷を目指した。まず、インド北部のラダック地方の中心都市のレーに飛んだ。標高が3500mなので、空気が薄く少し息が苦しい。ここは昔、チベット仏教を奉じるラダック王国の首都だった。満開のあんずの花を期待していたが、天候異変で暖かく、花はすでに散ってしまっていた。
ホテルの主人と近年の天候異変についてひとしきりしゃべった。もしかして標高が高いところなら、まだ花が咲いているかもしれないと地図を見せてもらい、高いところにある村に行くことにした。
ローカルバスに乗り、地図で探したヘミスシュクパチャンという村に着いた。富士山頂と同じ標高3773mだ。村の中心に大きな仏さまの像がある。高さで測ると、富士山頂に仏さまが鎮座しているイメージだ。誠にありがたい気がする。バスは村はずれに着いた。荷物の出し入れをしているうちに、どこで聞いたか子どもがやってきて宿に連れていってくれた。ここはトレッキングルートにあるので、民間の宿泊所がいくつかある。
部屋で荷を解き、温かいダイニング部屋に移り食事ができるのを待つ。チベット文化のラダック地方では「モモ」という伝統的な料理がある。蒸し餃子のようなもので、肉を詰めることが多いが、その日の中身は野菜だ。子どもが勉強の手を休めて、モモの肉を包む手伝いをしている。包み終わるとまた、宿題の書き取りを始めた。お経を書き写しているのだろうか。
翌朝、起きて庭に出てみたがアンズの木はあるものの花はまだ咲いていない。花を見たくてきたけれど咲いていない、と宿の主人に相談したら、携帯電話で村人に連絡してくれた。すると同じ村の少し下りたところでは満開だという。村人が普段使いしている車を手配してもらい、花が咲いているところまで下りた。
アンズの花は満開、見事に咲いていた。そこではお婆さんが山からの水をアンズ畑に導いていた。彼女は畑に水をやり、枯草や焚き付けを集めるなど、手を休めることなく働いている。そして仕事の合間に家の庭の祠にお参りする。祠には高僧のゆかりの品などを収めた小さなチョルテン(仏塔)が並んでいる。お婆さんは祠を時計回りに歩いて回り、礼拝する。
アンズの花を堪能して、インダス川に注ぐ水が流れる谷にあるアルチ村に泊まった。村の古いお寺の壁には、古く貴重な仏画が描かれている。畑の道を歩いていたら、ファッションショーの帰りなのか、と思われるような衣装の女性がスコップを手に立っていた。野良仕事を終えて帰宅途中のようだ。背中には法衣のようなきらびやかな布をまとっている。素敵だなあ、と思っていたら、女性はまたヒラリと身体を返して家に向かって歩いて消えた。アンズとは違う花を見たような気分だった。


ラダックは19世紀はじめまで仏教王国だった


このモモの中身は野菜



