いのちのまなざし~Look of Life~

異国の冬を楽しむ ~ロシア~

(写真/文 小松 義夫)

「シベリアのパリ」と言われるイルクーツクの街を訪ねた。近年ロシアの観光ビザを取るのが簡単になり、以前より気楽にロシアに行ける。

帝政ロシア時代、青年将校たちが帝政に反旗を翻して「デカブリストの乱」が起こり、鎮圧された将校たちがイルクーツクに流刑になった。その時、多くの将校の妻たちが貴族の身分を捨て、夫を追ってきたと語り継がれている。

シベリアの田舎町にヨーロッパ式の帝政ロシアの文化が持ち込まれ、ポーランドでロシアに反乱を起こした将校たちもイルクーツクに流刑されたため、カトリックの文化も加わった。さらにリヤート人による木の伐採、毛皮の商取り引きが交わり合い、イルクーツクは文化的に豊かな街になったという。

日本からイルクーツクに来ると、さすがに寒い。街角の温度計はマイナス27度と表示されているが、実際はもっと低いはずだ。霧氷に覆われた街路樹が美しく、日本では見られない厳寒の街の風景が新鮮に感じる。

イルクーツクから足を延ばし「シベリアの真珠」と言われるバイカル湖を訪れることにした。バスで約1時間移動して湖畔の町リストビヤンカに着き、少し離れたところに宿をとった。ここはイルクーツクの街よりぐっと寒く、ゆうにマイナス30度は下回っているはずだ。薄暗くなった道の、固くしまった雪をミシミシと踏みしめて歩くと、シベリアにいるのだという感覚が厚い靴の底から伝わってくる。

雑貨屋に灯がともっていたのでウォッカを1本頼むと店の女性が4本出してきた。「1本でよい」と言ったら「1本では足りないよ」と言うように首を振り引っ込めないので、しかたなく4本買ってしまった。歩きながら中瓶を開けて飲むと、酒というより空気を飲むような感じだ。一本飲んでも酔うこともなく、車にガソリンを入れたように、身体に活を入れられた気がする。純アルコールのウォッカは、シベリアの気候風土に適しているのだとつくづく感じた。

翌日、湖畔を歩くと水面からは寒気のために湯気が立ちあがっている。さらに行くと、野外で嬉々としてピクニックをしている人たちに出会った。厳寒になると俄然元気が出るロシア人の底力に触れた思いだ。

道端では、重ね着でマトリョーシカ人形のようにコロコロに膨れた女性が、サケ科のムーリアの燻製を売っている。ウォッカのツマミに数匹買い、身をむしって味見をした。少し塩がきついが、これがバイカル湖の味だと感じた。日本の冬も良いが、時にはムーリアの身をむしって口にする異国の冬も良いものだ。

立木に霧氷、気温表示はマイナス27度だが、もっと寒く感じるイルクーツクの街
夕方はマイナス30℃以下。雪を踏みしめて歩く。頬が寒さで痛い。雑貨屋でウォッカの中瓶を4本買った
バイカル湖畔のホテルの窓から。材木資源が豊かなので木造の家が多い。雪を踏みしめる音が聞こえてくるようだ
早朝のバイカル湖畔。寒気で湖水から湯気が上がる
大自然に触れるとだれでも子ども時代に戻るのでしょうか。氷のティアラ
寒ければ寒いほど元気になるロシアの人々。バイカル湖畔で極寒ピクニックを楽しむ
寒いので何枚も着込んでマトリョーシカ人形のようになりムーリア(サケ科)の燻製を売る元気な女性