LANGUAGE

PEOPLE

人間の本質的欲求を
読み解き、
全・安心な社会を実現する

NEC 取締役 会長

遠藤 信博

1899年の創業時から人間社会への価値提供の基本姿勢として「ベタープロダクツ・ベターサービス」を掲げてきたNEC。常により良い“Better”な価値提供を目指して商品・サービスを創造し、価値提供をしてきた。 現在では、これまでに培ってきたNECの基本的な強みである高いICT(情報通信)技術を最大限に活用して、社会に大きな価値を与える「社会プラットフォーム、社会ソリューション事業」に注力している。この事業展開におけるゴールのひとつが“安全・安心な社会”づくりだ。指紋認証や顔認証など、50年以上培ってきた認識技術をもとにした世界トップレベルの生体認証や、IoT 技術、超高速映像解析を含むAI(人工知能)などを通じて、人間が豊かに生きていくために欠かせない“安全・安心な社会”の実現に向けて、これを支える社会プラットフォームの構築、社会ソリューション提供への努力を続けている。
“安全・安心”は人間社会にはなくてはならないプラットフォームであり、これ無くしてツーリズムや投資なども起きず、ひいては経済発展を伴う平和で豊かな国はあり得ない。
この人間社会への価値貢献という大きなテーマに対して、NECの技術力の価値を最大化するために何を意識するべきか。社会価値創造の事業を推進する意義とともに、NEC取締役会長である遠藤 信博氏が語る。

技術力は、人間の本質的欲求を理解できてこそ発揮できる

遠藤会長は2016年から会長職に就かれていますが、社長と会長の役割の違いについてはどうお考えですか?

事業する上では、“外への努力”と“内なる努力”の2つの努力が必要です。“外への努力”とは、人間社会への価値提供による事業の成長に対する努力であり、“内なる努力”は、組織内の価値創造力や組織効率の向上などに対する努力です。社長は、両方の努力を、同時に並行して行いながら、長期スパンで物事を見ながらも、短期で結果を出し、これを積み上げなければならないという大きな責務があります。
特に、会社として大きな価値提供力を発揮する上では、NECで働いている人々全てが、NECという窓を通して、同じ目標に向かって、高い価値を提供するという熱い思いをもって、力を発揮できることが大切です。そのための公器としてのNECを運営するため、会社の目指すべきベクトルと、進むべき方向に迷ったときに戻ってきて、今一度新たな方向を探る太い幹をつくりあげることも社長の役割だと思います。

では、会長の責務とは何でしょうか?

会長の責務は事業の執行が中心ではありませんが、NECの価値を市場により深く理解していただき、NECを活用いただく機会を広げる努力をすることと、財界活動をする中で市場の情報をより深く理解し、人間社会の真の欲求を推定し、NECの力をさらに発揮、大きな貢献ができる方向を社長と共に探ることが、“外への努力”として重要な責務と考えています。“内なる努力”としての視点は、なんといっても人材の育成です。NECの全員が人間社会を構成する一員であることを意識し、NECが人間社会になくてはならない会社となるために、自らを磨き、共に共創し、イノベーションを起こすような高い価値を継続的に創出する強固な文化や仕組みの構築に貢献したいと考えています。

会長になったことで改めて気づけたNECの魅力や強みもあるのでしょうか?

会長になると、お客様を含めた多くのトップの方とお会いする機会が増えて、外側からからNECを見直すことがありますが、NECは本当に高い技術力を持っていて、お客様から信頼されていると思います。
我々はICTカンパニーですが、まず、ICTの基本アセットは3つあります。それは、「コンピューティングパワー」、「ネットワーク構築能力」そして「ソリューション力(ソフトウェア力)」です。世界中を見渡してもこの3つを持っているカンパニーはそう多くはなく、総合で高いICT価値を提供できる能力を有しています。そして、これら3つのアセットで創り上げられる基本機能も3つあると私は考えています。それは「リアルタイム性」、「ダイナミック性」、「リモート性」です。この3機能を十分に活用することで、ICTにしかできない、安全、安心、効率、公平の価値を提供でき、さらにこれらを組み合わせることで大きな価値を人間社会に提供できるのです。
NECの120年の歴史の中で培ってきたこれらの高いICT基礎技術能力をさらに人間社会へ大きな価値に育てる力を有することで、将来に渡り大きな社会価値を継続的に生み出していくことができると思っています。

その力はどうすれば発揮することができるのでしょうか?

人間社会での価値と、技術の高さや技術の価値とは必ずしも同等ではありません。生体認証を含む認識技術はNECが長年培ってきた高い技術力ですが、この技術を大きな価値として人間社会にて受け入れていただくためには、我々は技術の高さを追求するのみでなく、人間社会の本質的欲求を理解し、技術をそれに対応したソリューション価値に仕立てる必要があります。
私たちに要求されている能力は、高い価値を持ったソリューションの提案だと思います。コンサルティング能力と言ってもいいでしょう。イノベーティブで大きな価値を提供するには、人間社会自身も気付いていない“本質的欲求”を推定し、それに対して、今までにないイノベーティブな高いソリューション価値を提供するために、欲求と技術をマッチングさせるコンサルティング能力が必要です。このコンサルティング能力を高める結果として、NECの高い技術力はさらに世の中に評価されるのだと考えています。

イノベーションとは、より人間社会の“本質的欲求”に近づいた
ソリューション提供で大きな貢献をすること

人間の本質的欲求に対して提案する力を培うためには何が必要だとお考えですか?

マーケティングによる市場調査をベースとした、本質的欲求の“推定力”あるいは“想像力”だと思います。市場調査では人間社会(市場)に存在する本質的欲求が必要とする“ニーズ”と呼ばれるソリューションを観測することができます。サプライヤは市場にさまざまなソリューションを投げ込みますが、人間社会が必要なソリューションのみが“ニーズ”として、商品やシステムなどとして市場に存在できます。
ここで観測された“ニーズ”は、人間社会の本質的欲求に引っ張られて存在しているので、本質的欲求を推定するということができるはずです。難しそうにも思えますが、我々は人間なので、本質的欲求を推定することは、自分自身を理解することと等価で、可能なはずです。そして、この“本質的欲求”に近づけば近づくほど、より大きなイノベーションと呼ばれるソリューションが生まれます。

イノベーションには、新しいニーズや突飛なニーズに対応するソリューションというイメージがあるように感じます。

イノベーションの本質は“大きな需要”です。大きな需要は、多くの人があるいは人間社会の多数が望んでいるソリューションでないと起きません。決して新しい技術や、今までになかった技術のことを指しているわけではなく、すなわち、“多くの人が共通に持つ人間の本質的欲求”に対応したソリューションがイノベーションということになります。今までのイノベーティブなソリューションを研究するのもいいかもしれません。
本質的欲求に近づいたイノベーションを起こすためには、現在存在する”ニーズ“より“スピード化”、“プロセスの簡素化”、“軽量化”など、人間が価値と理解する要素をとことん追求して、本質的欲求に近づける必要があります。このためには、高い技術や、技術革新が大きなソリューション実現の要素になることは間違いありません。
ですから、“本質的欲求”に近づいたイノベーティブなソリューションをイメージできたら、これを実現する技術を理解し、その実現時期を確認し、今存在しないなら、第一ステップとして、どのようなソリューションが代替案として可能か検討して、利用可能な技術を集め、それら技術の組み合わせで、“本質的欲求”に近いソリューションの提供を計画すべきだと思います。

遠藤会長が思う、人間の本質的欲求を捉えたイノベーションの代表例とは何ですか?

老若男女、みなさんが欲しいと思うものですから、携帯電話などがそれに当てはまると思います。コミュニケーション自体が“人間の本質的欲求”ですが、これを実現する上で3つの本質的欲求の要素があります。「いつでも」「どこでも」「誰とでも」です。日本に固定電話が民間に引かれ始めたのは1960年頃からで、携帯電話のサービスが始まったのが1979年です。「いつでも」「どこでも」「誰とでも」は、「いつでも」「誰とでも」を満足できる固定電話の普及時にも意識された欲求で、「どこでも」に対しては、電話ボックスというテンポラリーなソリューションが用意されました。携帯電話は、日本におけるデジタル化が始まった1995年以降全ての「いつでも」「どこでも」「誰とでも」の欲求に、「簡易に」という要素も加わって爆発的に普及し、たった5年後の2000年には固定電話の利用者を一気に超えました。1995年を過ぎると電話ボックスがあっという間になくなったのを覚えています。
このように固定電話の時も「いつでも」「どこでも」「誰とでも」という欲求は、人間の本質的欲求として存在し、技術が追いついて携帯電話が可能になった時点で、一気に利用が老若男女に拡がるイノベーティブなソリューションとなったのです。

ソリューションを提供し、人間が安心して生活できる環境を整える

NECはB to C事業を縮小し、B to B事業の拡大を進めていますが、このビジネスモデルの転換はNECのパブリックイメージに少なからず影響があると思います。

製品やシステムの種類にこだわりはないと思いますが、人間社会により大きな価値を提供できる会社になっていくことを目指しています。NECは新野社長のもと、生体認証や映像解析などの先端技術を活用し、都市のさまざまな社会課題を解決していく「NEC Safer Cities」という活動に取り組んでいます。これは、アメリカの心理学者・マズローが定義した5段階の欲求仮説の基本的なものであり、豊かな人間生活は、安全・安心が基本的なプラットフォームとして存在しなければ実現できません。私たちNECは安全・安心をつなぎ合わせた都市を構築することで、豊かな都市生活を実現し、人々がより自由に、個人の能力や価値を最大限に発揮できる効率・公平な都市の実現を支えたいと考えています。

具体的には、どのような事例があるのでしょうか。

アルゼンチンのティグレ市というリゾート地に、NECの映像監視ソリューションを活用した「街中監視システム」を構築しました。これによって、犯罪や事故の発生件数が減っただけではなく、ティグレ市の安全が高まったことにより、観光客の数が3倍に増え、市の収益も増えたのです。これを聞いて、私は安全・安心という機能がそんな素晴らしい価値を提供できるのだと、NECの目指す方向と提供している価値を誇らしく思いました。アフリカや東南アジアでも、安全・安心が確保できていない地域が多くあります。NECのソリューション提供で、これらの国に安心して豊かに生活できる環境を構築できることは、NECにとって大変喜ばしい価値貢献です。そして、さらに豊かで持続可能な国として成長が実現できれば、私たちが提供する社会価値をさらに高く評価していただけると信じています。

そのようなNECのBtoBソリューション・サービスや、NECが描く未来を伝える場として、2019年2月にNEC Future Creation Hubをオープンしました。この重要な顧客接点の場を、遠藤会長はどうあるべきだとお考えですか?

大変良い場ができたと嬉しく思っています。多くのお客様をお呼びして、NECの方向性、人間社会への貢献に対するNEC全員の熱い思いをお伝えする場とすると共に、貢献に対する強い意志でもって、お客様と議論をし、市場の“本質的欲求”を推定、理解することが重要です。そして我々の高い技術力を横断的に集め、活用して大きな価値に変換するために、コンサル能力と提案力を育て、発揮できる場になってほしいと願っています。NECの技術力によってどのような大きな価値を創造できるのか、総合的に表現できる場所に自ら育ててほしいと楽しみにしています。

データから答えを導き出せる時代だからこそ、
真のマーケティング能力が必要不可欠

遠藤会長は「Strong Will & Flexible Mind」というポリシーを掲げていますが、この「意志あるところに道あり」を意味する言葉とは、何がきっかけとなって出会ったのでしょうか。

私が事業部長だった時代に、ある品質問題が起こりました。品質はどうすればよくなるのか、ということをひたすら自問自答したのですが、プロセスを着実に入れると品質は1~2%程度までは上がります。しかしながらリスクを、なるべく0%に近づけたい。そのために圧倒的に必要なのは、「なんとしても品質を良くしたい」と思うStrong Will(強い意志)と、人の意見をも素直に聞ける柔軟な心だと気が付きました。Flexible Mind(やわらかい心)については、3段階の心の余裕を皆さんによくお話しています。花を見て、花が咲いていることに気がつける余裕、これが最初の段階の心の余裕です。次の段階では、その花がきれいだと思える余裕、花に美しいという修飾詞をつけるほどの心の余裕があった。そして最終段階では、なんと美しい花だろうと感動できる心の余裕。この感動できる心の余裕を皆さんに持ってほしいと思っています。
花の美しさに感動するためには、本当に柔らかい心が必要です。人の意見を聞くことや周りの状況を見て、素直に受け入れたり、耳を傾けたりするには、この心の柔らかさが大切です。
強い意志、熱い思いと共に柔らかい心を持ち合わせれば、人間の本質的欲求にも近づけて、より素晴らしい提案ができると思います。

「Strong Will & Flexible Mind」はいろいろなことに応用できる言葉ですね。

私もそう思います。例えば、人間社会に貢献しようという強い思いがあれば、お客様にお会いした時も、お客様をもっと理解しようと次々に質問して、自分の人間社会の本質的欲求に対するセンシティビティを磨くことができるでしょう。
最近、ダイバーシティという言葉が流行っていますが、ダイバーシティの本質は、外見上の違いではなく、その人が育った背景にある文化を互いに尊重し理解し、受け入れることだと思っています。文化の違いによる見方が異なる人々が集まって議論し、これらを尊重して育てることで、新たな価値を創造する文化が生まれます。これがダイバーシティの魅力で、これを育てるには、花を見た時に感動する心の柔らかさが必要だと思うのです。ダイバーシティは、新たな価値創造文化、いわゆる文化の進化を起こすのであり、進化のためには「Strong Will & Flexible Mind」が必要だと信じています。

1977年に当時のNEC会長だった小林宏治さんが「コミュニケーション技術とコンピュータ技術の融合」を意味する「C&C宣言」を提示しました。ビジネスモデルの転換、NEC Future Creation Hub の完成といったトピックを経た上でNECは 120周年という節目を迎えているわけですが、新たに掲げる言葉はありますか?

それはやはりNECのブランドメッセージである「Orchestrating a brighter world」でしょう。C&Cは、ComputerとCommunicationの機能の融合による高い価値提供を提唱しましたが、「Orchestrating a brighter world」で目指す世界は、これをさらに推し進め、人間社会とICT技術のオーケストレーションで人間社会の欲求を満たし、より豊かで持続可能な明るい社会の創造を目指しています。ICT技術には、コンサルテーション力、提案力と共に人間社会に大きな価値提供をしてゆく力があるのです。
小林さんがC&C宣言を提示した時代は、コンピュータとコミュニケーションがハードウェアとしてもパフォーマンスとしても違うものだと理解されていました。その2つが融合すると、まったく異なる価値を提供できる。その価値を表現した言葉がC&Cだと思います。
C&Cの実際の融合は、両方が共通の機能として持つリアルタイム性が高度化して初めて相互に機能しあい、高い価値を創出できると考えています。この典型がAIの実証であり、これは、2017年のアルファ碁がきっかけで世間に認識されました。その価値の高さの理解はごく最近だと思います。
今後、マシン to マシンの通信が中心の第5世代のモバイルネットワークを基盤とした ICTの社会では、高度なリアルタイム性(超低遅延性)の実現により、情報化社会においては価値の源泉であった情報ではなく、リアルタイムに感知されたデータからAIを通してリアルタイムに価値を生むことができるようになる。つまり、価値の源泉が情報からデータに移っていきます。
データは整理されなくても価値を生むため、広い範囲のデータに直接AIが適用できることになります。すなわち、広い範囲のAIによる最適化(=全体最適)が可能な世界になります。益々大きな価値をICTが創造できるようになっていきます。 しかし大切なのは、人間社会とのオーケストレーションによる調和がとれた価値提供です。
提案力、コンサルテーション力を備え、NECの高いICT力をさらに磨いて「Orchestrating a brighter world」の下、人間社会に真に高い価値を創造し貢献していきたいと思います。

2019年8月8日 掲載

PEOPLE TOP

LANGUAGE