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テクノロジー・カンパニー
としての
誇りと可能性

取締役 執行役員常務 兼 CTO

江村 克己

NEC120年の歴史は、その確かな見識と、技術者たちの情熱によって支えられてきたといっても過言ではない。2014年に消費者向け事業(B to C)からほぼ撤退するも、企業や社会に対して新たな価値を提供する社会ソリューション事業では、半世紀にもおよぶノウハウを持つAI(人工知能)に注力。C&C宣言からおよそ40年、人間とAIが共存する映画のような未来が、いよいよ現実味を帯びてきた。通信、写真電送装置、パソコン、宇宙事業、そしてAIと、常に技術で世界をリードしてきたNECは、人々の「あったらいいな」を、いつしか「当たり前のもの」に変えてしまう縁の下の力持ち的存在なのかもしれない。2016年よりCTO(チーフテクノロジーオフィサー)を務める江村克己氏に、NECの「これまで」と「これから」を語ってもらった。

NECの強みは、「技術」にとことんチャレンジすること

2016年4月からCTOに就任されましたが、現在の業務内容について教えていただけますか?

それまでは技術者として研究所にいたので、「社内」に向けての技術を作っていたんですね。CTOになって変わったのは、外部からアイディアや技術を持ってくるようになったこと。最先端のベンチャーの技術であったり、大学と連携したり、仕事の捉え方が180°変わりました。

1982年にNECへ入社し、光通信システムの研究開発に携われたそうですね。この36年間でもっともインパクトの大きかった出来事は?

光通信って、とにかく大容量化を目指して突き進んできたんですね。で、ある時に1テラビットの大容量光通信をNEC以外の3社が実現した。我々もうかうかしてられないと北米の拠点に駆け込んだら、「研究開発がちゃんとしてないから、俺たちがビジネスできないんだ」って言われて、すごくショックを受けたんです。昔、「ベンチがアホやから野球がでけへん」っていう言葉がありましたけど(笑)。私たちはずっと「世界No.1」を自負してやってきたので、その時に「簡単には追いつかれない実験をやろう」と考えました。それが、当時では世界最大容量となる2.6テラビットの光通信です。

研究成果展示会のパネル原稿

その記録は、3~5年間は他社に記録を破られなかったとか。実現に当たって、どういった苦労がありましたか。

まずはモノを揃えなくてはいけなかったので、各事業部門に協力を仰ぎました。面白かったのは、「とにかく行けるとこまで行こう」っていうモチベーションをチーム全員が共有していたこと。これは物理現象の話になっちゃうんですけど、光通信は色の違う光を並べていくことで容量を増やしていくんですね。それをずっと並べていくと、今まで「使えない」と思っていた部分も使えることが分かってくる。そして、世の中のスタンダードが1テラになったから、1.5テラとか2テラを目指すんじゃなくて、とことんやる。そうすると、新しい発見が見えてくるもので。

NECは通信、写真電送装置、パソコン、宇宙事業、そしてAIなど技術で世界をリードしてきた会社というイメージがあります。江村さんから見たNECの強みとは?

繰り返しにはなりますが、「技術」にとことんチャレンジするところ。研究所でいうと、世界にはベル研(ベル研究所。アメリカ最大手の電話事業者であるAT&Tの研究部門として1925年に設立された開発機関)とか、もっともっと大きな研究所があるわけですね。でも、私が入社した頃にずっといわれていたのは、まず「見識で負けるな」。そして、「やるからには一番になれ」。それは創業以来ずっと伝わってきたNECの文化であり、そのチャレンジ精神が現在の通信技術や顔認証技術などにつながっているのかなと思っています。

とりわけ、通信技術の進化は目覚ましいものがありますよね。

みなさんの世代には想像できないと思うんですが、私が初めて海外出張したのは1986年だったんですね。当時は国際電話が高かったですし、「つながること」にすごく価値があった時代。だから通信を大容量化することが事業の強みでもあったわけですけど、今やそれって当たり前で。国際電話も無料通話アプリを使えば簡単にでき、価値そのものが変わってきた。「じゃあその上で何ができるのか?」という課題になる。そういった変化を先取りしていく必要があります。

研究成果展示会の実験系

あらゆる「社会課題」を解く企業として、変化の真っ最中

今回NECの歴史を辿っていく中で驚いたのが、100年以上前から「ベタープロダクツ・ベターサービス」を企業理念に掲げ、アフターケアを徹底していたことでした。いい方を変えれば職人気質ですごく完璧主義的でもある。この理念があったからこそ、NECは今日まで発展してこられたのでしょうか。

それは創業者である岩垂邦彦さんの未来を見据えた見識で、「プロダクツ」をつくる会社が、「サ―ビス」を謳っていたことが革新的なんですね。次に、「ベスト」ではなく「ベター」を掲げていること。「常により良くしていく」という意識がその中に入っているんです。モノを作る企業のメッセージとして非常に大事なことですし、NECのバリューとしてこれからも伝え続けなくてはいけません。

近年のNECは携帯電話やパソコンなどの「商品を売る」B to Cではなく、技術にシフトしている印象もありますが。

いえ、技術を核に「社会価値ソリューション」を作ろうといっているんです。携帯やパソコンを提供しなくなったことで、世の中からNECは見えづらくなっているかもしれないけど、その中で提供する「価値」は大きくなっている。先ほどの通信の話とも近くて、携帯電話やパソコンもだんだんコモディティ化してきたわけじゃないですか。みんなが普通に使うようになってきた分、みんながそこに価値を見出さなくなってきた。そのかわりに世の中の課題を解く役割がNECに回ってきた。ある意味では必然ともいえる変化でしょう。

インフラが行き渡ったからこそ、その上で何ができるか。

最近ではSDGs(持続可能な開発目標)なんて世界中で叫ばれるようになってきましたけど、これってマクロにいうと地球が1個しか無くて、地球の人口がおよそ75億人であることと無関係ではない。しかも、それが今後90億人とか100億人になるといわれていますよね。世界中の人がだんだんと裕福になってくると、人口が3割増えるとか、さらにはそんな予測では追いつかないくらい食料や水が不足する。普通に考えれば、1個の地球ではとても賄えなくなっているんですね。その問題を解くためにAIなどで効率化・貢献することが大きなファクターです。一方で、日本はこれから人口が減っていくと言われていますよね。ですが日本では高度経済成長期の一番人口が多いときにインフラが整備され、地方ではその時のインフラ、例えば古い橋などがメンテナンスされず朽ちています。橋は一例ですが、人口など社会構造が変化したときには、次の世代のために「社会のデザイン」が再度必要となってきます。そしてそれをイネーブル(有効化)することが私達の提供する「価値」なんだと思います。

それを実現するために、NECはどんな部分が変わってきたと思われますか?

一番大きく変わってきたのは、グローバル事業への取り組み方でしょう。半導体を売っていた頃はグローバル比率が3割を超えていたこともありましたが、グローバルに「世界の課題を解く」っていう事業は初めての試みであると。とはいえ、まだまだ日本人の社員が多い、日本らしい企業だというイメージがありますよね? それを変えていくのがこれからの課題です。やはりテクノロジー・カンパニーなので――あまり好きな表現ではないのですが――「理系」の人材が多いわけですよ。しかし世界の課題を解くのであれば、社会学の見識も必要ですよね。また、AIの話で言えば倫理の問題が浮上します。外国人や女性の働き手を増やすことはもちろん、色んな意味でのダイバーシティを目指さなければいけませんし、中にいる人の専門性もさらに多様化する必要がある。そこを今、一生懸命取り組んでいるところです。

最近では生体認証を使った「Safer Cities」が注目されています。特に顔認証はセキュリティや犯罪捜査をはじめ、ジョン・F・ケネディ国際空港やテーマパークにも導入されるなど、とても身近なものになりましたが、将来的に江村さんがもっとも期待していることは?

いくつかの切り口がありますが、DNA認証を含む生体認証は「ごまかし」が効かないため、「データ」の取り扱いが重要です。要するに、顔認証って「画像認識」の技術なんですね。どれだけのデータを所持しているかによって、できることが変わってくるんです。もう既にあるデータを使う側面もあれば、センサーからデータを新しく取る側面もありますが、画像情報っていうのは、「もっとも新しいカタチで大量の情報が取れるソース」なんです。それを分析する能力にNECは長けている。画像をデータソースとして読み取る技術と、NECが持っているAIの技術をセットにすることで、あらゆる社会課題を解いていくことが可能になると考えています。

AIの可能性と、創業120周年を迎えるNECの未来

個人的に感銘を受けたのが、認証技術とAIが密接に結び付いているということでした。

AIも今は「三次ブーム」といわれていて、昔の文字認識もある意味ではAIなんですよ。文字認識は郵便番号を書く欄を読み取る技術としてまだ残っていますけど、今は平面に書かれた宛名を読めちゃうわけですから、それだけ進歩したということです。だから今のAIブームは、一過性のものだと考えています。そして、AIが普及してしまえば、人々はやがて当たり前のものとして使うようになる。スマートフォンだってそうですよ。20年前では考えられなかったことが可能になっているんですから。

では、はじめて「人工知能」としてのAIを意識したのはいつ頃のことでしたか?

これは答え方が難しくて、音声認識は私が会社に入るよりも昔の1960年代から研究しているんですよね。「AI」という表現ではあまり意識してないですけど、1980年頃に「第5世代コンピュータ」が推進されていて、そこでやっていたこともAIと呼べる。あとは1977年のC&C(Computers and Communications)宣言で、当時の小林宏治会長は「21世紀のはじめには誰でも、いつでも、どこでも顔を見ながら話しができるようになる」とビジョンを語った。今思えば、あれは「AIを作りなさいよ」というメッセージだったのかもしれません。

映画などでも「AIが人間の仕事を奪うのでは」と、たびたび話題になりますが、その点については?

AIを技術側に寄せていいのか? という疑問はあります。便利な社会になる一方で、人間ってどんどん退化しているんじゃないかって思うんですね。その代償として、自分たちは他のものを磨けているのだろうか。じゃないと、いつかテクノロジーに支配されてしまう。でも、意思があればそうはならないはずで。それに、人間とAIがうまく共存していけるようにするのが、私たちの仕事だとも思うんですよね。単純な作業をどんどん効率化して、そこを人がやらなくてもいいようすることは徹底的にやるべきだと思うんですけど、そうじゃない「意思決定」の部分までAIが踏み込むのはちょっと違うんじゃないかと。

単純作業はデータという前例があればこそ効率化ができるが、未開拓の分野にはやはり人間の考える力が必要であると。

これは雑談ですが、普段「レストランを探そう」となると口コミサイトで点数の高いお店に行こうとしますよね。で、去年イギリスで実在しない偽レストランがランクでNo.1になって、1日だけお店をオープンしたというニュースが話題になったのをご存知ですか? その時は冷凍食品をチンして提供したみたいなんですが、予約がなかなか取れないお店だということで、お客さんは「美味しい」と喜んで食べていたと(笑)。それってまさに「情報に支配されている」構造じゃないですか。みんなが「良い」と言うものを「良い」と言わなくてはいけない雰囲気といいますか。

我々も情報を見極める力が必要になりますね。最後に、2019年にNECは創業120周年を迎えますが、これからの150年、200年にむけて、NECにはどんな未来が待っていると予想されますか?

NECグループの企業理念に「NECはC&Cをとおして、世界の人々が相互に理解を深め、人間性を十分に発揮する豊かな社会の実現に貢献します」と書いていますが、これを実現する構造になっていく気がしますね。今の日本って「Society 5.0」といわれている。しかし、狩猟社会が100万年、農耕社会が1万年、工業社会が200年、情報社会が50~60年と考えると、「Society 5.0」ってわずか10年程度の歴史なんです。そこでもう一回「ヒト」のことに意識を持ってくると、「Society 5.0」は「人間中心の社会」っていわれているんですよ。それってNECが今後何十年、何百年と生きていく上での「源泉」になるはずです。

なるほど。

そういう意味では、あんまりテクノロジーに寄ってしまうのはイカンなと(笑)。でも、よくよく見ると、NECはずっとそんなことをいい続けてきているんですよ。人間に必要なものは何か? を第一に考えて、そこに技術なり見識なりで寄与していくものを作る。そして、「とことん」実践していく。これはずっと変わらないと思っています。

2018年12月11日 掲載

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