知っておきたい勤怠管理の話(前編)
これだけは知っておきたい経営者のための法律知識(勤怠管理篇)第1回

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適切な勤怠管理は、コンプライアンスが重視される昨今、企業にとって必要不可欠です。勤怠管理の中でも、特に従業員の労働時間管理の重要性に焦点を当て、事例を交えてわかりやすく解説します。

レイズ・コンサルティング法律事務所
弁護士(東京弁護士会) 石田 達郎氏


慶應義塾大学経済学部、中央大学法科大学院卒業。
日本労働法学会所属弁護士。
経営者の側から労務問題を取り扱うことを専門分野としており、一般の労使紛争のみならず、労働災害、外国人労務問題についても造詣が深い。

石田氏

1.勤怠管理の意義

場面によって用法は多少異なりますが、一般的に勤怠管理とは、従業員の出勤時間や退勤時間、欠勤状況、休暇の取得状況などを正確に把握して、法令や会社就業規則の遵守状況等について、管理を行うことをいいます。

会社は、この勤怠管理の記録に基づいて、給与や残業代の計算、有給休暇の取得日数の管理等を行いますが、しばしば、この勤怠管理を十分に実施していない、若しくは勤怠管理を全く行っていない会社を目にすることがあります。

勤怠管理が適切に実施されていないということは、各従業員の労働時間を会社として正確に把握できていないことを意味します。その場合、従業員の実労働時間に対応した適切な賃金を支払うことは困難です。未払い残業代をめぐるトラブルが生じる危険性は飛躍的に高まります。

また、従業員が月に何時間程度働いているのかも正確に把握できないので、従業員の働きすぎを未然に防ぐことができません。過重な業務によりメンタルヘルスの不調をきたしたり、最悪の場合には過労死や過労自殺といった取り返しのつかない事態を引き起こす可能性もあります。

企業のコンプライアンスが声高に叫ばれる昨今の日本社会において、勤怠管理を適切に実施することは、企業が永続的に活動を継続していく上で必要不可欠なことです。本稿では、勤怠管理の中でも、特に従業員の労働時間管理の重要性に焦点をあてつつ、具体的事例を交えてお話を進めていきたいと思います。

2.使用者(会社)が講ずべきとされている従業員の労働時間管理の内容

まず、使用者は、従業員の労働時間を適切に管理する義務を負っています。労働基準法は、時間外・休日・深夜労働等についての規定を設けており、使用者が始業・終業時刻を把握し、労働時間を管理することが当然の前提とされていること等がその理由とされています。

そして、従業員の労働時間を適切に管理するための方法として、通達(平成13年4月6日付け基発第339号)は、使用者に対し、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録することを要請しています。また、確認・記録の方法として、「①使用者が自ら現認することにより確認し、記録すること」、「②タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること」のいずれかによることと、原則を定めています。

しかし使用者自らが従業員の全ての始業・終業時間を確認すること(①)は事実上不可能ですから、ほとんどの会社は、タイムカード、ICカード等の客観的な記録を用いる方法(②)によって従業員の労働時間を管理するほかないということになります。なお、これらの労働時間の記録に関する書類は、3年間の保存が義務付けられています(労基法109条)。

一方、従業員からの自己申告に基づいて労働時間を管理する手法は、導入前に従業員へ十分な説明を実施することや、申告された労働時間が実態と合致しているか否かを適宜調査すること等、一定の要件を満たした場合にのみ例外的に認められるとの位置づけとなっています。

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