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【育児介護休業法改正×テレワーク】人事担当者が押さえるべき労務管理とシステム活用
公開日:2025年6月16日(当記事の内容は公開時点のものです)監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

2025年育児介護休業法の改正では「テレワーク」の文字が目立ちました。多くの企業でオフィス回帰が進む中、「なぜ今、テレワーク制度なのか?」と疑問に思う人事担当者の方も多いのではないでしょうか。テレワークの導入は法対応だけでなく、優秀な人材を確保するための重要な経営戦略となります。本記事では法改正の要点から、トラブルを防ぐ就業規則、勤怠管理システムの活用法まで、人事担当者が今すぐ取り組むべき実務を解説。「守り」の法対応を「攻め」の武器に変えましょう。
テレワーク導入の意義
テレワークは、コロナ禍を契機に急速な広まりを見せました。しかし、現在ではオフィス勤務に回帰する動きが顕著です。公益財団法人日本生産性本部の調査においても、テレワーク実施率は減少傾向が続いています。2025年1月30日公表の「働く人の意識調査」において、テレワーク実施率は調査開始以来最低となる14.6%を記録しました。企業がオフィス回帰を進める背景には、以下のような観点が挙げられています。
- 対面でのコミュニケーション活性化
- 企業文化の醸成
- 共同作業による生産性向上、イノベーション創出
- マネジメント・若手育成のしやすさ
- 情報セキュリティの確保
- 既存オフィス資産の有効活用
たしかに現状では企業におけるテレワーク需要は低くなっているといえるでしょう。しかし、そのような状況下でも、テレワークを取り入れる意義は十分にあります。
テレワークは、家庭と仕事の両立を支援する有効な選択肢であるだけでなく、企業の人材戦略においても重要です。多様な働き方が可能な企業は、そうでない企業より求職者にとって魅力的に映り、人材確保につながるでしょう。テレワークが可能であれば、育児や介護を理由とする離職の防止にもつながり、従業員満足度や定着率の向上も期待できます。従業員のエンゲージメントの高まりは、パフォーマンスアップにも寄与することでしょう。
2025年4月・10月に行われる育児介護休業法改正
育児介護休業法は改正の多い法律ですが、2025年にも2回(4月と10月)に分けて改正法が施行されます。以下では、改正法のなかでもテレワークに焦点を当てて解説します。
●代替措置への追加
3歳未満の子を養育する労働者は、短時間勤務制度の利用が可能です。労使協定により短時間勤務が困難な業務に従事する者を適用除外とした場合には、代替措置を講じなければなりません。4月以降、この代替措置の選択肢にテレワークが追加されました。改正後の代替措置は、以下の通りです。
- 育児休業に関する制度に準ずる措置
- フレックスタイム制
- 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤の制度)
- 保育施設の設置・運営等
- テレワーク
上記代替措置への追加とは別に、4月以降は3歳未満の子を養育する労働者が、育児のためのテレワークを選択できるような措置を講ずることも求められます。これは努力義務ですが、柔軟な働き方や仕事と家庭の両立支援の観点から、措置を講ずることが望ましいでしょう。
●所定外労働時間の制限
4月より所定外労働の制限(残業免除)の対象が、「3歳未満の子」から「小学校就学前の子」まで拡大されています。残業免除は、テレワークと合わせて利用することで、より家庭との両立が図れる制度であり、対象範囲を誤らないようにしなければなりません。
なお、時間外労働の制限に関しては、その対象(小学校就学前の子を養育する労働者)に変更はありません。こちらもテレワークと組み合わせる場合があるため、対象者をしっかりと把握しておきましょう。
混同しやすい点ですので、用語の定義を確認します。「所定外労働」は企業が定めた定時を超える労働、「時間外労働」は法律で定められた1日8時間・週40時間を超える労働を指します。
■対象となる子の範囲
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
所定外労働の制限 | 3歳未満の子 | 小学校就学前の子 |
時間外労働の制限 | 小学校就学前の子 | (変更なし) |
●柔軟な働き方の実現
企業は10月以降、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に対して、以下の5つの措置から2つ以上を選択し、講じなければなりません。労働者は企業が講ずる措置の中から1つを選択して利用できます。
- 始業時刻等の変更
- テレワーク等(月10日以上)
- 保育施設の設置・運営等
- 養育両立支援休暇の付与(年10日以上)
- 短時間勤務制度
上記の選択的措置義務は、シフト制の労働者も対象となります。また、企業単位ではなく事業所や事業所内のライン単位、職種ごとに措置しても構わないとされています。業務の性質や実施体制に照らして措置を組み合わせましょう。
なお、当該措置は正規・非正規の間で不合理な差を設けてはならず、差を設ける場合であっても、合理的理由を説明できなければなりません。
テレワーク導入の流れ
テレワークを導入するためには、就業規則等の変更などを行わなければなりません。導入の流れを解説します。
●就業規則等の変更
テレワークを導入する場合には、就業規則等の変更が必要です。労働時間や労働条件に変更がなければ、従来の就業規則等でも問題ありませんが、通常は制度導入に合わせて内容を変更することになるでしょう。
制度を導入する際に変更が必要となる事項は、主に以下の5つです。具体的な規定例は厚生労働省が「テレワーク モデル就業規則」を公開しているので、参考になります。
テレワーク モデル就業規則
テレワークの定義
テレワークには、自宅で働く「在宅勤務」、会社以外の施設で働く「サテライトオフィス勤務(専用型/共用型)」、移動中や出先で働く「モバイル勤務」があります。働く場所としてどこまで認めるかは、自社で対応できる情報セキュリティの観点も含めて慎重に検討しましょう。
対象者・申請手続き
テレワークの申請手続きについても定める必要があります。テレワークが認められる条件や手続きを明確にすることで、労使双方が円滑に業務を進められます。
テレワークの対象者を全社員とするか、育児・介護を行う者に限定するかを規程で明確にしておくことが重要です。在宅勤務を申請制にする場合は、その旨も規定しておきましょう。
労働時間
テレワークであっても、適用される労働時間制について法律上の取扱いに大きな違いはありませんが、テレワークと相性の良い労働時間制は存在します。例えば、フレックスタイム制は育児や介護と仕事を両立する従業員にとっては使い勝手の良い労働時間制です。テレワークとセットで導入することで、さらなる両立支援が可能になります。
ほかには、導入ハードルは低いとはいえませんが、事業場外みなし労働時間制を適用できれば、従業員はより自由な働き方ができるでしょう。
また、テレワーク中の中抜けを認めるのか、認める場合にはどのように扱うのかなどについて記載が必要となります。中抜けを休憩時間とするのか、時間単位の年休とするのかなどは自由ですが、あらかじめ定めておかなければ、労働時間の把握に支障が生じます。
費用負担
テレワーク中に生じた費用をどのように負担するのかを定めます。勤務に必要な通信機器や通信費、郵送費などの費用は、企業が負担することが通常です。しかし、自宅で勤務する際の光熱費などは、私的な利用と業務での利用が分けにくい費用もあり、どの部分をどの程度まで負担するのかあらかじめ定めておかなければ、後のトラブルにつながってしまいます。精算方法と併せて明確に記載しなければなりません。
服務規律
テレワークでは、通常のオフィス勤務とは異なる服務規律が必要となります。勤務時間中は正当な理由がなければ、勤務場所を離れないこと、情報セキュリティ、勤務中の服装などを定め、業務効率を上げるとともに、情報漏えいを防ぎましょう。
上記のような事項を自社の事情に合わせて変更しましょう。変更時には、労働者代表の意見を聴くことや、労働基準監督署への届出を忘れずに行います。
テレワーク導入・運用の留意点と労務管理最適化策
テレワーク時には、労働時間の管理が課題となります。オフィス勤務と異なり、タイムカード等による直接の管理が難しくなるため、勤怠管理システム等を用いた打刻を行うなど、正確な労働時間の把握に努めましょう。また、PCログを参照し、隠れ残業が発生していないか確認することも重要です。
テレワーク時は、ひとりで業務に臨むことが多く、孤独感も強くなりがちです。テレワーク時であっても公平に評価できる人事制度を構築するとともに、コミュニケーションの機会を設けましょう。また、テレワークであってもハラスメントが起きる場合があるため、防止策を講じるとともに相談窓口を周知しておくことが求められます。
情報漏えいは、自社の信用を大きく失墜させるため、テレワーク時の情報セキュリティ体制は重要です。持ち出したデータの扱いや、勤務時のPC使用ルール等を定め、情報漏えいを未然に防ぎましょう。
テレワークのみではなく、オフィス勤務と組み合わせてハイブリッドワークとすることも可能です。ハイブリッドワークであれば、両者の長所を活かせるため、テレワーク導入時には、ハイブリッドワーク前提の業務設計を行うことが推奨されます。
勤怠管理システム活用
テレワーク導入に当たっては、勤怠管理システムを活用することが有効です。勤怠管理システムの活用について解説します。
●システムが必要な理由
半日や時間単位の年次有給休暇を認めている企業では、休暇の取得パターンが複雑化します。そのため、手作業による管理ではミスが生じやすくなります。テレワーク時の中抜けに時間単位の年休を当てるような場合には、さらに複雑化してしまうでしょう。そのような場合、システムを用いればミスを減らす効果が期待できます。
現在では客観的な方法による労働時間の把握が義務付けられており、テレワーク者も例外ではありません。正確な労働時間を把握しなければ、正しい給与計算ができず、支給ミスにつながる恐れがあります。しかし、オフィス勤務のようなタイムカードによる打刻ができないテレワークでは、正確な労働時間の把握は困難です。
勤怠管理システムによっては、スマートフォンやPCで打刻が行えるものもあります。このような打刻方法であれば、テレワーク者であっても正確な労働時間の把握が可能となるでしょう。
●勤怠管理システムで実現できること
勤怠管理システムを利用すれば、PCログとの連携等によって、申告された労働時間と実際の労働時間の乖離が確認できます。また、休暇申請・承認プロセスを電子化すると、手続き効率化、ペーパーレス化、コスト削減が可能です。休暇の取得日数や残日数も自動で計算され、取得状況も一目で把握できるようになります。勤怠管理システムを導入すれば、正確な管理につながるだけでなく、効率化やコスト削減も可能となるでしょう。
おわりに
柔軟な働き方を提示できる企業は、育児や介護との両立支援に積極的であると評価され、ブランドイメージの向上につながります。また、テレワークを導入すれば、地理的な制約がなくなり、幅広い人材を獲得することが可能です。
法改正への対応を、法違反を避けるための「守り」の施策ではなく、労働者のエンゲージメントを高める「攻め」の施策として捉えましょう。また、効率的な施策とするためには、適切な勤怠管理システムの導入が不可欠です。
システムを導入すれば、法改正への対応が容易となるだけでなく、公平な労務管理と業務効率化につながります。是非自社に合ったシステムを導入し、多様な人材が活躍できる環境構築を実現してください。
▼Pickup 勤革時 情報
クラウド型勤怠管理システム「勤革時(きんかくじ)」の中で、テレワークの運用に役立つ機能をご紹介します。
在宅勤務におすすめのタイムレコーダー
テレワークを行う場合、会社に備え付けてあるタイムレコーダーでは打刻ができません。そんなときには、本オンラインヘルプで紹介しているタイムレコーダーをご活用ください。スマートフォンアプリの場合は、ジオフェンシング機能を利用して、登録された場所からの打刻だけを受け付けるよう設定できます。
在宅勤務回数など、任意の回数項目の作成方法(スケジュール汎用フラグ)
「月に10日までテレワークを認める」といった場合、実際の回数を記録することが必要になります。そうしたときに活用できる機能です。スケジュール汎用フラグは従業員からの申請により割り当てることもできますので、「テレワークは申請制にする」という運用にも活用できます。
交通費や手当など、任意の数値項目の作成方法(補助項目:数値 / 選択肢)
補助項目を利用すれば、本システム上で交通費などの申請承認と集計が可能です。ハイブリッドワークを採用する際の交通費の処理が楽になるだけでなく、テレワーク時の費用を実費で支払う場合にも本機能を活用できます。
【アラート機能】深夜労働に対してアラート表示する方法(時間帯アラート)
働き過ぎ防止の観点から、テレワーク時には労働できる時間帯を制限することもあります。時間帯アラートを設定することで、制限が守られているかを確認できます。本オンラインヘルプは、18歳未満の労働者が深夜帯に働いた場合のアラート機能を紹介していますが、年齢の条件を入力しなければ、テレワーク対象者が深夜帯に労働した場合にアラートを出すことが可能です。
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