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【最低賃金50円アップ!】高騰し続ける人件費に対応するために、企業担当者が対策しておくべきこととは

公開日:2024年9月5日(当記事の内容は公開時点のものです)
new window監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

今年の最低賃金は、過去最大の50円引き上げられます。この傾向は継続していくと見られ、労働者の働き方や企業運営に大きな影響を与えるものです。本記事では、最低賃金の動向や基本を踏まえた法違反リスクの回避方法に加え、知って得する最低賃金上昇への対策も紹介します。

令和6年度 最低賃金の動向

「最低賃金、平均1,054円に引き上げ」――2024年7月25日に令和6年度における最低賃金の目安が発表されたことで、このような見出しのニュースがメディアで多数取り上げられました。
発表内容を細かく見ると、引き上げ幅はAランク(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪)が50円、Bランク(北海道、宮城など28県)が50円、Cランク(青森、岩手など13県)が50円といずれのランクにおいても50円と設定されています。各都道府県で目安どおりに引き上げた場合の全国加重平均は1,054円となり、過去最高を記録することになります。この場合、最低賃金額が最も高いのは東京都の1,163円ですが、低い地域でも950円前後となります。
昭和53年度の目安制度開始以来、最高額となった昨年度を更に更新しました。政府が掲げる全国加重平均1,000円を超えても、なお引き上げが続いている形です。これには、物価高や春闘での賃上げ状況が影響していると考えられます。

最低賃金の基礎知識

最低賃金とは、企業が労働者に支払うべき賃金の最低ラインを定めたものです。
本来、契約は自由であり、給与をいくらとするかは、基本的に労使双方の合意に委ねられています。月給を20万円とすることも30万円とすることも自由です。
しかし、仮に労使双方が合意したとしても、最低賃金を下回る賃金の設定は認められません。最低賃金未満の部分は無効となり、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます。実際に最低賃金を下回る額しか支払っていない場合には、罰則も適用されます。

最低賃金の種類

最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定地域における特定の産業に対して適用される「特定最低賃金」の2種類が存在します。
特定最低賃金は地域別最低賃金を上回ることが必要である点には注意すべきですが、適用対象が限定されるため、対象業種以外の企業においては、地域別最低賃金の方を押さえておく必要があります。
今回、メディアで盛んに報道されたのも地域別最低賃金の方で、本稿でも地域別最低賃金にフォーカスして解説していきます。

最低賃金の対象者

特定最低賃金を除き、地域別最低賃金は全ての労働者に適用されます。正社員や契約社員、パート、アルバイトといった雇用形態を問わず、最低賃金以上の賃金を支払わなくてはなりません。
ただし、心身の障害により著しく労働能力が低かったり、断続的労働に従事していたりする場合などには、都道府県労働局長の許可を得たうえで、最低賃金を下回ることも可能です。

最低賃金の計算方法

自社が支払っている賃金が最低賃金額以上か否かを確認するには、最低賃金の計算方法を知る必要があります。
最低賃金は時間額のみ定められています。「東京都の最低賃金は1,163円」という場合、これは時給のことを指します。時給で働くパート・アルバイト等であれば、そのまま比較できるので簡単です。
そのほかの場合は以下の計算式で求めた時間あたりの賃金と比較します。

  • 日給の場合
    日給 ÷ その日の所定労働時間数
  • 月給の場合
    月給 ÷ 1ヵ月の平均所定労働時間数
  • 出来高払制等の場合
    出来高払制等で計算された賃金の総額 ÷ 当該賃金算定期間に出来高払制等で働いた総労働時間数
  • 時給、日給、月給、出来高払等が組み合わさった場合
    それぞれの計算式により時間額に換算したものの合計

除外賃金

賃金が最低賃金以上であるかを判断するために計算をおこなう際には、一定の賃金や手当を除外する必要があります。
次の賃金は、最低賃金の対象となる賃金から除外されるため、除外対象とされている賃金を控除して計算した1時間当たりの金額が最低賃金額以上でなければ最低賃金法違反となります。

  • 臨時に支払われる賃金
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 時間外割増賃金
  • 休日割増賃金
  • 深夜割増賃金
  • 精皆勤手当
  • 通勤手当
  • 家族手当

ここに含まれていない資格手当や役職手当、職務手当など、通常の労働時間や労働日に対して支払われる賃金は、最低賃金の対象となる賃金に含める必要があります。
なお、精皆勤手当は最低賃金の計算の基礎からは除外されますが、割増賃金計算の際には、基礎に含まれます。ここを混同すると、いわゆる残業代未払いになってしまうので注意しましょう。

最低賃金を適用する際に注意すべき例

  • 本社とは別地域に存在する事業所で働く労働者
    本社と別の地域に事業所が存在する場合には、事業所の所在地の最低賃金が適用されます。たとえば、東京本社(令和6年度:1,163円)と千葉事業所(令和6年度:1,076円)が存在する企業を想定してみましょう。この場合、千葉事業所勤務の従業員に対しては、千葉県の最低賃金が適用されることになります。
    当然のことながら、最低賃金を上回る賃金を支払うことは何ら問題ないため、人件費予算が許すのであれば、最低賃金が最も高い東京本社の賃金と地方の事業所の賃金を同じにすれば、事業所ごとに最低賃金を満たしているかの確認の手間を省くことも可能になります。
  • 在宅勤務者
    新型コロナウィルス感染症によるパンデミックを受け、テレワークやリモートワークなどによる在宅勤務が一気に普及しました。現在でも在宅勤務を継続している労働者は多く、働き方のひとつの形として定着した感もあります。リモートワークの普及によって、地域にとらわれない雇用が可能となりました。しかし、最低賃金の適用については注意が必要です。
    在宅勤務の場合には、実際に在宅勤務を行う自宅所在地ではなく、所属先となる企業の所在地の最低賃金が適用されます。東京本社に所属する労働者であれば、仮に北海道や沖縄県で在宅勤務をおこなっていても、東京都の最低賃金が適用されます。
  • 派遣労働者
    外部リソースとして、派遣労働者を活用している企業も多いでしょう。派遣労働者は、派遣先の指揮命令に従い、業務を行いますが、雇用しているのは派遣元企業です。両者が同一都道府県内であれば悩むことはありませんが、異なる都道府県であった場合はどのように最低賃金が適用されるのでしょうか。
    派遣労働者については、雇用する派遣元企業ではなく、派遣先企業の所在地における最低賃金が適用されます。東京都の派遣会社から埼玉県の企業に派遣された場合には、東京都の最低賃金(令和6年度1,163円)ではなく、派遣先である埼玉県の最低賃金(令和6 年度1,078円)が適用されるわけです。

最低賃金が上がることによる影響・対策

最低賃金の引き上げによる影響は、単純な雇用コストの増大に留まりません。引き上げにより考えられる影響と、対策について解説します。

扶養を外れないための就業調整が行われる

パートで働く労働者は、配偶者の扶養の範囲内で働きたいと考えている方も多いです。このようなパート労働者にとって、最低賃金の引き上げは大きな影響を与えます。
パート労働者は、扶養の範囲内ギリギリになるように働いていることが多く、最低賃金が引き上げられると、労働時間は変わらないにもかかわらず、扶養範囲外の年収となってしまう場合もあります。そのような状況では、労働時間の短縮や勤務日数の減少など就業調整を行い、何とか扶養の範囲内に収まろうと考えることでしょう。
しかし、人員の数はそのままに就業調整を行えば、当然に人手不足に陥ってしまいます。パート労働者を多く雇用する小売業やサービス業では、その影響も顕著なものとなるでしょう。企業側としては、年末の繁忙期などに備え、あらかじめ引き上げによる就業調整を見越した人員確保を行っておかなければなりません。現在はパートなど非正規労働者の確保も困難となっています。早めに求人広告を掲載するなどして、対策を行いましょう。
また、業務の効率化を図ることも人手不足の対策としては有効となります。業務の棚卸しを行ったうえで、システムの導入などにより効率化できる部分がないか洗い出しを行うことが重要です。

賃金改定のタイミングに気を配る必要がある

給与は毎年必ず改定しなければならないわけではありません。そのため、給与が据え置きのままの労働者も存在します。据え置きであること自体は、何の問題もありませんが、古い最低賃金に合わせた給与が設定されている場合もあるでしょう。
そのような場合には、最低賃金の引き上げによって、最低賃金を下回る給与となってしまうことも考えられます。特に最低賃金付近の時給で働くことが多いであろうパートやアルバイトには、注意が必要です。常に最新の最低賃金に合わせた給与の設定が求められます。
給与改定時期にも注意しなければなりません。例年最低賃金の改定は、10月に行われます。4月に改定を行うような企業であれば、4月時点では最低賃金を満たしていても、10月には最低賃金未満となってしまう場合もあり得ます。このような場合には、改定時期を10月以降とすることや、引き上げを見越した改定率を設定することが対策となるでしょう。

人材採用や人材維持が困難となる

最低賃金の引き上げは、当然に人件費の高騰を招きます。人件費が高騰すれば、同じ人件費で雇用できる労働者数は減少し、新たな採用はもちろん、既存人材の維持も困難となるでしょう。
現在の日本は、少子高齢化の進展によって生産年齢人口の減少が続いている状況です。このような状況下では、高い報酬額の設定など好待遇を用意できなければ人材の獲得や維持が困難となっています。初任給の引き上げによる新卒社員の確保などは、その最たるものでしょう。
しかし、給与を引き上げることが可能な資力のある企業ばかりではありません。また、最低賃金が引き上げられれば、その負担はより大きなものとなってしまいます。資力のない企業がこのような状況に対応するためには、自社の魅力を高め、働きたいと思える企業になることが重要です。ワークライフバランスの重視や、環境や社会への配慮など、金銭的な面にとらわれない自社の魅力を高めましょう。

さいごに

最低賃金は、賃金の支払いを受ける労働者はもちろん、支払う側の企業にとっても重要なものです。最低賃金を下回るような事態となれば、労働者からの信頼を失うだけでなく、社会的評価も落ちてしまうでしょう。毎年、最低賃金の動向を注視し、法を遵守できるようにしてください。
引き上げが続く最低賃金は、企業にとって大きな負担となっています。引き上げに伴って、人件費をはじめとするコスト削減に取り組む企業も多いでしょう。業務における無駄をなくして、効率化を図る一例としては、勤怠管理システムの導入がおすすめです。勤怠データの集計を容易にし、正確な給与計算を助ける勤怠管理システムを導入すれば、労働時間の削減にもつながり、人件費の削減にもつながるでしょう。

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