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【知らないと法令違反!】 アルバイトには有休を何日付与すればよい?

公開日:2024年7月30日(当記事の内容は公開時点のものです)
new window監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

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パート・アルバイトにも有給休暇は必要

「有給休暇は正社員だけに与えればよく、パートには与えなくてもよい」と勘違いされている方をまだまだ見かけます。
しかし、有給休暇は全ての労働者に保障された権利であり、パートやアルバイトなどの非正規雇用者(以下、パート等)も例外ではありません。以下の要件を満たすと雇用形態を問わず有給休暇が付与されます。

  • 雇入れから継続して6か月間勤務
  • 全労働日の8割以上の出勤

ここでしっかり理解しておきたいのは、要件を満たす労働者には、当然に有給休暇の権利が発生するということです。労働者の請求があってはじめて権利が発生するわけではないことに注意してください。

パート等は比例付与の対象になる

有給休暇について、正社員とパート等とで大きく異なるのは付与日数です。

正社員の有給休暇は、入社半年後に10日、その後1年ごと付与日数が増加し、6年半で最大の20日となるのが一般的です(表参照)。一方で、正社員に比べて勤務日数が少なかったり、勤務時間が短かったりするパート等は、付与日数が少なくなります。これが「比例付与」と呼ばれる仕組みです。具体的には以下の要件を満たす労働者が比例付与の対象となります。

  • 所定労働時間が週30時間未満
    かつ
  • 週所定労働日数が4日以下(または年間の所定労働日数が216日以下)

具体的な比例付与の日数は以下の通りです。通常の付与日数と併せて確認しておきましょう。
例えば、毎週1日しか出勤しないパート等であっても、要件を満たせば6か月後には有給休暇を1日付与することになるのです。「パートに有給休暇を与えなくてもよい」というのは大きな誤解であることがよく分かります。

不定期な勤務日数や時間の場合における付与日数

パート等の中には、シフト制などを採用しているために、週の勤務日数や勤務時間が一定でない働き方をしている方もいます。そのような場合には、どうやって付与日数の判断を行えばよいのでしょうか。
平成16年に出された行政通達(平成16年8月27日 基発0827001号)では、「予定されている所定労働日数を算出し難い場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出することとして差し支えない」「雇入れの日から起算して6箇月経過後に付与される年次有給休暇の日数については、過去6箇月の労働日数の実績を2倍したものを「1年間の所定労働日数」とみなして判断することで差し支えない」と示されています。
上記通達は、訪問介護労働者向けに出されたものですが、他の業種においても同様の判断が可能と考えて問題ありません。
具体例を用いて、付与日数を考えてみましょう。例えば、入社後半年における労働日数の実績が40日だった場合、1年間換算で80日になります。そのため、入社6か月後に3日の有給休暇の付与が必要です。

なお、比例付与の日数は原則として所定労働日数に応じて決定され、所定労働時間は加味されません。そのため、付与日時点の所定労働日数を基準として法律に定められた日数を与えることが必要です。

パート・アルバイトから正社員への転換

パート等が登用試験などによって正社員となる場合があります。こうした雇用形態の変更があった場合、どのように付与日数を考えればよいのでしょうか。

有給休暇の付与日数の計算においては、勤続年数も重要な要素となっています。この勤続年数については、雇用形態が変更されても通算されることになっています。つまり、パート等から正社員になったとしても、それまでの勤続年数はリセットされないわけです。

パート等から週5勤務の正社員になった場合で考えてみましょう。3年勤務した後にパート等から正社員になった場合であっても、3年間は勤続年数として引き継がれます。そのため、正社員となった後、最初に付与される日数は10日ではなく14日です。正社員に変更されても、最初から数え直しとはならない点に注意しましょう。
また、初回付与の考え方も同様に、パート等として入社後3か月してから正社員となった場合などでも、正社員になってから半年後ではなく、パート等として入社した日から起算して半年後に初回付与をしなければなりません。

有給休暇取得時の賃金

有給休暇は、文字どおり有給の休暇であるため、賃金の支払いが必要です。賃金は、通常労働時間に応じて支払われますが、シフト制などによって労働時間が変動するパート等はどのように賃金を決定すればよいのでしょうか。
有給取得時の賃金については、以下の3つの方法から選択できます。

①平均賃金
直近3か月における賃金総額を、その総歴日数で除した金額である平均賃金を用いる方法です。有給休暇取得の都度、平均賃金を算定しなければならず、計算が煩雑となります。

②通常の賃金
有給休暇取得時における所定労働時間に応じた賃金を支払う方法です。最も簡便であり、計算の手間も掛かりません。

③標準報酬月額の30分の1に相当する金額
社会保険料の算定に用いる標準報酬月額を日割する方法です。平均賃金に比べれば、計算の手間は掛かりませんが、標準報酬月額は実際の賃金と異なるため、①や②よりも支給額が低下する可能性があります。また、この方法を採用する場合には、労使協定の締結が必要です。

ほとんどの企業は、①平均賃金か②通常の賃金のいずれかを採用しており、③の標準報酬月額の30分の1に相当する金額を用いる方法はあまり採用されていないようです。
では、平均賃金と通常の賃金のどちらを選べばよいのでしょうか。いずれの方法にもメリット・デメリットが存在するため、自社の状況を考えて選択しましょう(表参照)。

時間単位年休

有給休暇は、1日単位だけでなく、就業規則に定めることで半日単位の付与も可能です。また、労使協定を締結することで、時間単位で有給休暇を付与することもできます。時間単位で付与される有給休暇を「時間単位年休」と呼びます。

時間単位年休は、平成22年より導入されており、より柔軟な有給休暇の取得を可能とする制度です。1時間や2時間程度役所や銀行に行きたい場合や、子どもの送迎などにも使いやすく、ワークライフバランス実現に役立つ制度となっています。

時間単位年休は、パート等も対象に含めることが可能です。導入することで、従業員にとってより働きやすい職場となるでしょう。

時間単位年休を導入するには労使協定が必要で、以下の4つを定めます。

①時間単位年休の対象労働者の範囲
対象となる労働者の範囲を定めます。全従業員を対象とせず、一部を対象外とすることも可能ですが、取得目的などによって対象範囲を定めることはできません。詳細は後述します。

②時間単位年休の日数
5日以内の範囲で定めることが必要です。前年度からの繰り越し分がある場合には、繰り越し分を含めて5日分以内となります。

③時間単位年休1日の時間数
1日分の有給休暇に対応する時間数について、所定労働時間数を基に定めます。7時間30分など、時間に満たない端数がある場合は時間単位に切り上げてから計算します。

④1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数
2時間や3時間など、1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数を定めます。ただし、1日の所定労働時間を上回ることはできません。

対象労働者の範囲を限定することは可能ですが、「育児を行う労働者に限る」などとすることはできません。取得目的による制限となるからです。
一方で、事業の正常な運営が妨げられる場合であれば、「工場のラインで働く労働者を対象外とする」といった制限を掛けることも可能となります。
また、時間単位年休を利用するか否かは、労働者の選択に委ねられています。例えば、1日単位で申請されたものを会社側が勝手に時間単位に変更することはできません。

年5日の取得義務

平成31年4月の働き方改革関連法案施行に伴う労働基準法の改正によって、年5日の有給休暇の消化が義務化されました。義務化の対象は、年間で10日以上有給休暇が付与される労働者です。

年5日の消化義務は、正社員であるかパート等であるかといった雇用形態を問わないものです。比例付与の対象となるパート等であっても、年間10日以上有給休暇が付与されるのであれば、義務化の対象です。具体的には、下表の赤枠の部分が比例付与における義務化の対象者となります。

3年や4年継続勤務しているパート等も珍しくなく、義務の対象者は思ったよりも多いかもしれません。最低限度の人数で営業している飲食店や小売店などは、有給休暇の取得が難しい状況かと考えられます。

年5日の消化は、本人が希望しない場合であっても義務となります。従業員側が「お店が忙しいから休めない」と遠慮し、結果として義務違反にならないよう、必要に応じて、会社主導で有給休暇を取得させる制度の導入を検討しましょう。

会社主導型の方法には、「計画的付与」と「使用者による時季指定」の2つがあります。それぞれ一長一短がありますが、会社の状況によりご検討されるとよいでしょう。

「計画的付与」とは、有給休暇のうち5日を超える分について計画的に取得させる制度です。会社全体で一斉に取得させる方式もあれば、班やグループ、個人ごとに取得させることもできます。毎年、労使協定を結ぶ手間はありますが、確実に取得させることができる点が大きなメリットです。

「時季指定」とは、会社が従業員に対して、日を決めて有給休暇を取得させることです。従業員任せではなかなか有給休暇の取得が進まず、計画的付与制度の導入も難しい場合などに、会社から取得タイミングを指定するわけです。
個人ごとに取得済みの日数を把握し、5日に満たない分について、従業員の意見を聞きながら時季指定を行うため、管理が煩雑になりますが、勤怠管理システムなどを活用すればそのデメリットも薄めることができると考えています。

最後に

現在では、インターネットなどを通じて、パート等にも有給休暇の権利が発生することが広く知られています。「パート等に有給休暇の知識などないだろう」などと、安易に考えていると、大きなトラブルに発展する可能性もあります。働きにくい職場だと悪評が広がれば、採用が難しくなることでしょう。それでは、ますます有給休暇の取りづらい職場となってしまう悪循環に陥ります。
本記事を参考にし、法律に則った有給休暇の運用を行っていきましょう。

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