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フレックスタイム制導入企業は要確認!陥りやすい落とし穴を解説

公開日:2024年7月5日(当記事の内容は公開時点のものです)
new window監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

労務情報

「勤革時」関連機能情報

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、一定の期間について総枠となる労働時間の上限を定めたうえで、従業員に始業・終業の時刻の決定を委ねる制度です。フレックスタイム制における一定の期間は、清算期間と呼ばれています。働き方改革の一環として、2019年4月より清算期間の上限が従来の1か月から3か月まで拡大されています。

フレックスタイム制は、始業・終業の時刻の決定を従業員に委ねる制度のため、ライフステージに合わせた柔軟な働き方が可能となっています。育児や介護との両立も図りやすく、ワークライフバランス実現に資する制度といえるでしょう。柔軟な働き方が可能となるフレックスタイム制を採用する会社であれば、離職率の低下や定着率の向上が望めます。

しかしながら、フレックスタイム制を一部勘違いして運用しているケースが少なからずあります。この記事では、フレックスタイム制について正しく制度を運用できるようまとめておりますので、ぜひご活用ください。

フレックスタイム制の導入方法

フレックスタイム制を導入するためには、以下の2つの要件を満たすことが必要です。

  • 就業規則等に始業および終業の時刻を従業員の決定に委ねる旨を規定する
  • 労使協定を締結する

始業および終業の時刻双方の決定を従業員に委ねることが必要です。始業時刻や終業時刻の決定のいずれかを委ねるだけでは足りません。

労使協定において定める事項は以下の通りです。

  • 対象となる従業員の範囲
  • 清算期間(3か月以内)および起算日
  • 清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)
  • 標準となる1日の労働時間
  • コアタイムに関する事項(任意)
  • フレキシブルタイムに関する事項(任意)
  • 有効期間(清算期間が1か月を超える場合)

原則として労使協定の届出は不要ですが、清算期間が1か月を超える場合には、所轄労働基準監督署長への届出が必要となります。

通常の労働時間制度とのフレックスタイム制の違いについては、下記の図をご覧ください。

(出典元:厚生労働省)

この記事では、フレックスタイム制の清算期間を1か月と定めた場合を想定して解説していきます。

フレックスタイム制に関するよくある勘違い

フレックスタイム制は、正しく運用すれば労使双方にとってメリットのある制度です。しかし、フレックスタイム制を謳いながら、正しく運用できていない会社も多く見られます。

本項では、フレックスタイム制に関するよくある勘違いを紹介します。事例を通してフレックスタイム制への理解を深めてください。

①労働時間管理

「フレックスタイム制であれば、残業代を支払わなくてよい」
「フレックスタイム制であれば、会社が労働時間を把握しなくてもよい」
と、勘違いしている会社も残念ながら存在します。

しかし、フレックスタイム制であっても、会社の労働時間把握義務は免除されず、労働時間の管理を行う必要があります。また、法定労働時間を超えた時間に対しては、割増賃金の支払いや36協定上の時間外労働の管理を行わなければなりません。

フレックスタイム制は従業員に始業終業時刻を委ねることになり、会社としても労働時間の管理が難しくなります。具体的には、従業員本人もあまり意識をせず、毎日の労働時間がかさんでいき、気が付いたら残業時間が多くなっていたパターンはよくあるケースの一つです。勤怠システムを導入することで現在の総労働時間などの管理も行いやすくなりますので、活用するとよいでしょう。

②時間外労働の計算

フレックスタイム制の時間外労働の計算は、通常の働き方とは異なった方法で計算をします。
通常の働き方では、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えた部分を時間外労働として計算します。一方で、フレックスタイム制においては、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた部分を時間外労働として計算します。
しかしながら、フレックスタイム制で、通常の働き方と同じ方法で残業時間の管理をしているケースがありますので、注意しましょう。

それでは、清算期間を暦日数が31日の1か月を例にしてフレックスタイム制の時間外労働の計算方法をみていきましょう。

まず、フレックスタイム制における時間外労働の計算の基準となる「法定労働時間の総枠」については、以下の式で計算可能です。

(清算期間の暦日数÷7日)×40時間

清算期間が1か月単位であれば、法定労働時間の総枠は下図のようになります。

(出典元:厚生労働省)

このように暦日が31日の1か月の場合、法定労働時間の総枠は177.1時間となります。
この総枠に対して、1か月の総実労働時間を180時間と仮定した場合、下記の計算で時間外労働を算出します。

  • 180時間(総実労働時間)-177.1時間(清算期間における法定労働時間の総枠)=2.9時間

算出された2.9時間が時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要となります。
このように清算期間の全体の労働時間が、総枠を超えた場合に割増賃金を払うため、1日に10時間勤務したとしても、清算期間の総実労働時間が総枠を超えなかった場合には割増賃金の支払いは不要となります。

この法定労働時間とは別にフレックスタイム制では所定労働時間(清算期間における総労働時間)を定めることになっています。所定労働時間は、法定労働時間の範囲内で毎月160時間として固定の時間や7時間×所定労働日数として毎月変動する設定とすることができます。この所定労働時間と法定労働時間との差分は法定内残業となりますので、割増賃金の支払いは必要ありません。

清算期間が1か月を超える場合(2か月や3か月など)には、時間外労働の計算が異なります。詳しくは、下記の資料をご確認ください。

なお、フレックスタイム制においても、深夜業や休日出勤に対する割増は通常通り適用されます。深夜や休日に勤務した時間については別途計算をし、割増賃金を支払う必要がありますので、ご注意ください。

③時差出勤制度等との混同

時差出勤制度とフレックスタイム制の混同もよく見られます。時差出勤制度については1日の所定労働時間を変更することなく、出退勤時間を変動させる制度です。一方でフレックスタイム制においては、1日の所定労働時間という概念がなく、出退勤時間を変動させることができる制度となります。

フレックスタイム制を導入しつつも、実態として時差出勤のように9:00-18:00の基本の労働時間を前後にずらしているだけのケースが見受けられます。この場合、柔軟に時間を変更しているようには見えますが、出勤時間によって退勤時間が自動的に決まってしまうためフレックスタイム制の運用ではありません。
また、深夜まで働いた従業員に対して、「明日は午後から出勤してください」と上長が指示するケースや、出社や退社の時刻を事前に報告させ、上長の許可を必要としているケースもあります。

これらのケースは従業員自らが始業終業の時刻を決定しているとは言えず、フレックスタイム制の要件をクリアしていないこととなりますので、フレックスタイム制のルールに則った運用へ変更する必要があります。

④コアタイムの設定

特定の時間帯に部署全体の会議を行い、方針などを決定している会社も存在します。そのため、会議を行う時間帯を必ず出社を要するコアタイム(たとえば10時から15時)としている会社もあるでしょう。

このコアタイム内に会議が行われていれば問題ありませんが、何かしらの事情で9時から会議が行われる場合もあり得ます。しかし、このような場合にフレックスタイム制の対象者の参加を強制することはできません。コアタイム外の勤務は、従業員の自由意思に委ねられ、会社からの指示で参加を強制させることができないためです。

会議の時間が変更になっても対応できるように、コアタイムを広く取ればよいと考えるかも知れません。何時間以上のコアタイムは無効といった明文の規定はありませんが、標準となる1日の労働時間とほぼ同程度となるような時間(例えば、9:00-17:00をコアタイムとした場合)をコアタイムとすると、フレックスタイム制の趣旨に反するとして、無効と判断される可能性もあります。

なお、毎日固定の時間とする必要もなく、日によってコアタイムの設定も変えることができます。基本的には2時間だけども、特定の曜日には会議があるため4時間と設定することもできます。コアタイムを導入する場合には、実態に合わせて検討してもよいでしょう。

⑤フレキシブルタイムの設定

従業員が自由に出社や退社ができる時間帯をフレキシブルタイムと呼びます。コアタイムと同様に設定は任意となっています。しかし任意とはいえ、フレキシブルタイムを定めない場合、管理する上で問題も発生してきます。

フレキシブルタイムを定めないことで、深夜割増賃金が必要となる午後10時から午前5時までの時間帯に毎日働くことも可能となってしまいます。深夜帯でなければ行えない業務でもない限り、不要な割増賃金を支払うことになるだけでなく、健康管理の観点で考えても望ましくないでしょう。

また、他の従業員と勤務時間帯があまりにもずれていると、コミュニケーションの問題が生じてしまいます。フレキシブルタイムを設定することで従業員間の勤務時間帯の乖離を小さくする制度とすることも一案です。
フレキシブルタイムやコアタイムは、下図のように定めることが可能です。参考としてください。

(出典元:厚生労働省)

⑥遅刻・早退

フレックスタイム制においては、始終業の時刻の決定を従業員に委ねているため、遅刻や早退という概念は原則としてありません。しかし、コアタイムを設けている場合、遅刻・早退を考慮することはできます。

コアタイムとは、必ず出社しなければならない時間帯であり、出社は義務となります。
たとえば10時~14時までをコアタイムとした場合で、11時に遅れて出勤したとします。この場合、遅刻は1時間となりますが、この1時間をそのまま給与から控除することはできません。
フレックスタイム制では清算期間全体で労働時間の過不足を判断します。1時間遅刻したとしても総実労働時間が清算期間における所定労働時間を超えていれば控除することができないため、遅刻や早退=給与控除という概念が成立しなくなります。


なお、給与控除はできないものの、コアタイムへの遅刻や早退に関して、「就業規則に基づく制裁の対象とする」や「人事考課上の勤怠不良として扱う」ことでペナルティを科すことは可能です。

最後に

フレックスタイム制についてよくある勘違いを中心に解説を行ってきました。育児や介護、その他ライフスタイルに合わせて労働時間を柔軟に管理できるため、メリットも大きいですが、運用する際のポイントを押さえておかないとフレックスタイム制が利用できなくなる可能性もあります。
ご不明点や実際の運用については、ぜひ弁護士や社会保険労務士などの専門家にもご相談ください。

「勤革時」関連機能情報

「フレックスタイム」設定方法

就業規則により設定方法は異なりますが、勤革時では1ヶ月、3ヶ月単位でフレックスタイムの設定が可能です。
例:以下のルールで1ヶ月単位のフレックス制の集計を行う場合

  1. 清算期間:毎月1日から末日
  2. 清算期間における所定労働時間:日の契約労働時間 ✕ 月の所定日数
  3. コアタイム:10:00~15:00
  4. 残業時間:日ごとに残業を計上するのではなく、月の法定労働時間の総枠を超えたものを残業とする
  5. 割増残業:60時間を超過した残業を割増残業とする
  6. 有休取得:有休取得日は勤務したものとして扱う

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