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【残業申請制度の落とし穴】労働時間の管理は誰がする?
公開日:2024年4月12日(当記事の内容は公開時点のものです)
監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
日々の労働時間を管理する責任は会社側にあります。もし会社側が従業員の労働時間を適正に管理せず、残業申請なども従業員任せにしていれば、あとあと未払い残業代などの問題が起こる可能性もあります。
本記事では、自己申告制の残業時間を切り口に、具体例を交えながら解説していきます。
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<事例>勤怠管理システムを入れていれば安心?
先日このようなご相談をお受けしました。
退職予定の従業員から、最終出勤日に突然『これまで申請していなかった残業代を支払って欲しい』と未払い残業代を請求されたとのことです。
この会社では、クラウド型の勤怠管理システムを導入し、従業員の労働時間を適正に管理するよう努めていました。一方で、残業については申請制とし、申請の無かった残業については、これまで労働時間とは認めていませんでした。
事情をよく伺うと、どうもこの退職する従業員はもともと問題社員だったということで、上司から度々叱責を受けていたそうです。
そのため会社に対して不満が相当溜まっていて、わざと嫌がらせのように未払い残業代の請求してきているのでは、と推測できる事情も見え隠れしています。
この場合、従業員からの請求通り未払い残業代として、これまで申請してなかった残業時間分の賃金を支払う必要があるのでしょうか。
残念ながら、従業員からの残業申請が無かったとしても、勤怠管理システム上の時間について労働時間ではなかったことを会社側で反証出来ない場合は、過去に遡って残業代の支払いが必要となる可能性が高いと言えます。
そのため、このケースでは実際の退勤打刻に基づいて、支払うべき残業代の計算をやり直さなければならないかもしれません。
未払い残業代の問題は、終業時刻を過ぎたときだけではなく、始業時刻より早く出社したときの時間も対象となります。
先と同じように残業は申請制の会社で、かつ会社は始業前の勤務を認めていないというような場合、従業員は早出をして仕事をしていても、早出残業の申請をしないことは十分考えられます。そのまま従業員が申請してこないから、残業として認めずその部分の対価も支払っていない、というような管理体制のままでいれば、万が一従業員から未払い残業代として訴えられた場合、会社側が「その早出残業は労働時間ではなかった」という証明ができなければ、それは労働時間となり、未払い賃金を請求される可能性が高いと言えます。
労働時間を管理する必要性
労働基準法では、労働時間を管理する方法については具体的な規定はありませんが、『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』が示されています。
<参考>『労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』(厚生労働省リーフレット)
ガイドラインによると、使用者は「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること」で労働時間を把握することが求められています。
また、始業・終業時刻を自己申告制により行わざるを得ないような場合は、「入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。」や、「自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由などを労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。」
などの措置をとる必要があります。
事例の会社のように、出退勤を勤怠管理システムで客観的に管理していたとしても、残業については申請制を採用しているようなケースでは、所定の勤務時間終了後から申請が無くとも実際の退勤までの時間の乖離を会社側で把握し、その理由を従業員に報告させ調査する必要があるということです。
労働時間が裁判で争われた例
残業代の支払いを求めて、従業員と会社が争った裁判例を2つご紹介します。
【A社事件 大阪地裁 平成20年1月11日】
衣料品のブランドロゴ・タグデザイナーが、時間外手当などの支払いを求めた事案です。
会社側は、「喫茶店での休憩や業務外でのインターネットの使用など、働いたとはいえない時間が含まれている」と、時間外労働は無かったと主張しました。
しかし裁判では、事実を裏付ける証拠とは認められず、タイムカードの記録通りの労働時間が認定されました。
【B社事件 仙台地裁 平成21年4月23日】
電気通信設備工事会社を諭旨解雇された従業員が、残業代などの支払いを求めた事案です。
会社側は、「残業時間にPCゲームに熱中するなど、残業は単なる居残りであって仕事を伴うものではなかった」と、時間外労働は無かったと主張しました。
しかし裁判では、労働時間のチェックや記録を管理者にさせていないのであれば、タイムカードの打刻時間に従って、労働時間と推定すると判断されました。
このように、労働時間管理を行うのは会社の責任であることが判例でも示されています。裁判所は、会社が適正な管理を行っていなかったことを理由に、従業員に不利益を与えるべきではない、と判断する傾向が判例から読み取れます。
残業申請制度を導入する際の注意点
これまで申し上げてきましたように労働時間の管理は会社側の責任であるため、残業申請制度を導入する際は、以下のポイントを確認しましょう。
- 形式的な制度導入ではなく、会社としてルールは厳格に運用し、退勤打刻と実際の残業申請との差異は必ず原因を確認する。
- 残業申請を行っていない従業員に対して、ルールを守るように指導する
- 残業申請を承認しないのであれば、なぜ不承認なのか理由を説明し、改善のための指導を行う
- 残業削減を個人任せにせず、業務の見直しなど、残業を減らせるように会社としても取組みを行う
また、勤怠管理システムを上手に活用することで、労働時間の管理がスムーズになります。
- 申請せず残業をした場合に、従業員本人に未申請残業があることを通知する機能を活用する(日々システムでウォーニングを出す)
- 毎月勤怠を締める際に、従業員本人に確認して貰った上で勤怠を締める。その際に、在社時間(出勤~退勤打刻までの時間)と労働時間(未申請残業は除く)の差も表示させ、必要に応じて残業申請をしてもらう。
このように残業申請制度を適正に運用していくためには、会社の実態に応じて、運用面とシステム面の両輪で対応していく必要があると言えるでしょう。
まとめ
本記事では、残業を例に、労働時間を管理する責任所在について解説してきました。
従業員の労働時間を会社がきちんと把握し、管理することが重要です。
もしお困りごとがありましたら、労務の専門家である社会保険労務士にご相談ください。
「勤革時」関連機能情報
残業開始時間設定機能
「残業時間」を事前に設定することにより、1日の労働時間が「残業開始時間」で設定した時間を超えると、「残業時間」または「深夜残業時間」として自動的に計上することが可能です。
残業申請機能
退勤予定後または出勤予定前の労働時間の計上を申請制にできます。従業員が「時間外勤務申請」によって「勤務終了刻限」または「勤務開始刻限」を申請し、管理者が承認することでスケジュール時間外の労働時間が計上されます。
未申請残業通知機能
「未申請残業通知機能」を設定することで、残業申請をしていなかったり、残業申請が承認されていない場合にメールで通知できます。
スマートフォンアプリ(従業員用)に通知することも可能です。
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