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時間外労働には36協定の締結が必要! 正しい内容で作成を

公開日:2024年2月28日(当記事の内容は公開時点のものです)
new window監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

繁忙や人手不足などにより、どうしても所定労働時間内に業務が終えられない場合も存在します。そのような場合には、従業員に残業を行って貰いますが、そのためには一定の手続きが必要となります。当記事では、時間外労働に必要となる36協定について、解説を行っています。

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36協定の締結が必要な残業とは?

労働基準法には、原則として「1日8時間、週40時間」といった法定労働時間が定められております。また、週に1日または、4週間を通じて4日の法定休日を与えることを義務付けています。なお、法定休日以外の休日は、法定外休日(所定休日)と呼ばれます。法定休日を日曜とする土日週休2日制の会社における土曜日などが、例として挙げられるでしょう。

法定労働時間を超える残業は「法定時間外労働(法定外残業)」と呼ばれ、法定労働時間内に収まる残業は「法定内時間外労働(法定内残業)」と呼ばれています。法定外残業には割増賃金の支払いが必要ですが、法定内残業の場合には割増は不要で通常の賃金のみを支払えば足ります。

たとえば、1日の所定労働時間が7時間の従業員が1時間の残業を行った場合には、合計8時間となり、法定労働時間内に収まっています。この場合の残業は、法定内残業となるため、割増分の支払いは不要です。(単価×1.00の支払いとなる)
しかし、2時間の残業を行った場合であれば、合計9時間の労働時間となり、法定労働時間の枠を超えてしまいます。こちらのうち1時間の残業は、法定外残業となり、割増賃金の支払いが必要となります。

休日労働にも、法定休日労働と法定外休日労働が存在します。法定休日労働とは、法定休日に労働を行わせることであり、休日割増賃金の対象となります。一方の法定外休日労働は、休日割増賃金の対象とはなりません。土日週休2日制(法定休日は日曜)の会社における土曜の労働などが、法定外休日労働の例として挙げられるでしょう。

前述の法定労働時間を超える残業や、法定休日労働を従業員に行わせることがないのであれば、36協定の締結は不要です。
しかし、法定外残業や、法定休日の労働を従業員に行わせる場合には、会社と従業員の間で36協定を締結し、労働基準監督署長に届け出なければなりません。

36協定の締結

36協定では、以下の事項を定めることが必要です。

  • 労働時間を延長し、または休日に労働させることができる労働者の範囲
  • 対象期間
  • 労働時間を延長し、または休日に労働させることができる場合
  • 対象期間における1日、1か月、および1年のそれぞれの期間における延長可能な労働時間、または労働可能な休日の日数
  • 労使協定の有効期間
  • 対象期間の起算日

対象期間とは、労働時間を延長し、休日に労働させることができる期間を指し、1年間に限るものとされています。また、労使協定ではなく労働協約(労働条件に関する労働組合と会社の合意書面)による場合には、有効期間の定めは不要です。

36協定を締結しても無制限に法定外残業が許されるわけではなく、原則として1か月45時間、1年について360時間が限度時間とされています。そのため、上限時間を意識したうえでの、労働時間管理が必要となるでしょう。上限時間を超えて残業を行わせる必要がある場合には、後述する「特別条項」を36協定に設けなければなりません。

36協定の締結当事者

36協定は、会社と従業員の間で締結しますが、誰を相手に締結しても良いわけではありません。36協定は、従業員の過半数で組織する労働組合か、従業員の過半数代表者との間で書面により締結することが必要です。

過半数代表者は、会社に管理監督者しかいない場合を除き、管理監督者以外の者から選出されることが必要です。選出方法も投票や挙手、話し合いなどの民主的なものであることが必要とされます。また、過半数代表者へ立候補したことや、代表者としての行動に対して、降格や降給などの不利益取り扱いをすることは、労働基準法で禁じられています。

会社側が労働者代表を指名するような場合も見られますが、民主的な選出方法ではありません。このような選出手続きで締結された36協定は、無効となります。もし、無効な36協定に基づいて法定外残業を行わせた場合には、未締結と同様に違法残業となってしまうため、注意が必要です。

管理監督者とは

原則として管理監督者を過半数代表者として選出できないことは、既に述べました。では、管理監督者とはどのような存在でしょうか。

管理監督者とは、労働基準法第41条に列挙された労働時間、休憩及び休日の適用から除外される「法41条該当者」の1つです。管理監督者は、監督もしくは管理の地位にある者として、労働時間等の適用から除外されています。

管理監督者となるためには、部長や工場長等の肩書が付されているだけでは足りません。労働条件の決定や労務管理について、「経営者と一体的な立場」にあることが必要です。このような者は、労働時間等の規制の枠を超えた活動が要請される重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も規制に馴染みません。そのため、労働時間等の適用から特別に除外されているわけです。

36協定締結の際には、過半数代表者の選出方法だけでなく、選出された者にも注意が必要です。役職者ではないから、肩書がないからといって管理監督者に該当するような者と締結すれば、36協定は無効となってしまいます。

特別条項付き36協定

突発的なクレーム対応などが発生し、限度時間を超えた残業が必要となる場合も想定されます。そのような通常の限度時間内での業務処理が難しい場合には、「特別条項付き36協定」を締結することで、例外的に更なる労働時間の延長が認められています。しかし、この場合であっても、以下の範囲内でしか延長はできません。

  • 年間720時間以内(時間外労働のみの時間)
  • 単月100時間未満(時間外及び休日労働時間の合算)
  • 2か月~6か月の複数月平均80時間以内(時間外及び休日労働時間の合算)
  • 延長は年6回まで

特別条項を設ける場合には、以下の事項について定める必要があります。

  • 限度時間を超えて労働させることができる場合
  • 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置
  • 限度時間を超えた労働に対する割増賃金の率
  • 限度時間を超えて労働させる場合の手続き

限度時間を超えて労働させることができる場合は、臨時的で特別な事情に基づかなければなりません。単純な業務繁忙などの理由は許されず、以下のように具体的であることが求められます。

  • 突発的な仕様変更
  • 製品トラブルによる大規模なクレーム対応
  • 機材トラブルへの対応

36協定届と36協定書

誤解されている方も多いですが、「36協定書」と「36協定届」は別の書類となります。36協定書は、労使の合意を記した書類で、36協定届は労働基準監督署長へ届け出るための書類です。36協定を締結するために必要となる書類が36協定書、届出のために作成する書類が協定届であると理解してください。また、令和3年4月の改正により、36協定届への押印が不要となっています。しかし、36協定書には、変わらず押印が必要となっているため、注意が必要です。

36協定を締結したうえで、労働基準監督署長へ届け出ることで、有効な残業が可能となります。そのため、36協定締結おいて、36協定書と36協定届双方の作成が必須です。もっとも、36協定届には36協定書の合意内容を記載することになるため、兼用することも可能です。ただし、36協定書を兼ねる場合には、使用者と労働者代表の署名・押印を忘れないでください。

36協定における注意点

36協定を適切に締結するためには、管理監督者の選出や、36協定書と36協定届の違いなどの他にも注意点を守る必要があります。締結の際には、以下のような点に注意しましょう。

  • 事業場単位での締結
    36協定は、原則として事業場単位での締結が必要です。そのため、支店や工場などが存在する場合には、そちらでも36協定を締結し、届け出ることが必要です。本社で締結し、届け出たからといって、支店でも法定外残業が可能になるわけではありません。ただし、電子申請を行う場合などは、本社で一括して届け出ることも可能です。
  • 適切な割増賃金の設定
    法定外残業には25%以上、法定休日労働には35%以上の割増賃金の支払いが必要です。また、月に60時間超の残業については、50%以上の割増率で計算した賃金の支払いが必要となります。この50%以上の割増率は、令和5年4月から中小企業も対象となっております。
  • 周知が必要
    36協定は締結し届け出るだけではなく、従業員への周知も必要となります。周知の方法としては、会社内の見やすい場所への掲示や備付、書面交付などの方法が考えられます。36協定の周知は、義務となっており、違反した場合には効力は有効となりません。違法残業とならないためにも、適切な方法での周知を忘れないようにしましょう。
  • パート・アルバイト
    36協定は、正社員に対してのみ必要とされるわけではありません。36協定の締結は、雇用形態を問わず必要となります。そのため、パートやアルバイトなどの短時間労働者を雇用している場合であっても、36協定を締結しなければ、法定外残業や法定休日の労働を行わせることはできません。また、パートやアルバイトであっても、正社員と同様の割増率が適用されることにも注意してください。

届出までの流れ

36協定を締結し、届け出るまでの流れは以下の通りです。

  1. 協定案の作成
    まず、法定外残業がどの程度の時間必要になるのかといった内容を検討したうえで、協定案を作成します。この際には、従業員への負担や、人件費、ワークライフバランスも考慮して、最低限の延長時間とすることが必要です。
  2. 代表者選出方法の選択及び選出
    どのような方法で代表者を選出するのかを決定します。民主的な方法であれば、挙手でも投票でも問題ありませんが、会社が指名してはいけません。36協定の効力にも関わる重要なステップのため、間違いのないようにしましょう。
  3. 代表者と協定を締結
    協定案を作成し、代表者が決定したら36協定を締結します。協定案を押し付けたり、強制したりすることなく、労使双方でしっかり協議を行ったうえで、合意することが必要です。労使双方が合意したら、協定書と協定届を作成しましょう。
  4. 届出
    合意内容を記載した36協定届を管轄労働基準監督署長に届け出ます。提出方法は、窓口持参や郵送によるほか、電子申請も可能です。なお、36協定の届出に期限は設けられていませんが、届出前に法定外残業などを行わせることはできません。
  5. 周知
    届け出た36協定の内容を社内で周知します。このステップを欠くと効力が否定されてしまうため、忘れずに行いましょう。

罰則

36協定を届け出ることなく、法定外残業や法定休日に労働させた場合には、労働基準法32条、35条に違反することになります。この場合には、労働基準法119条の規定により、6か月以下の懲役又は、30万円以下の罰金が科される恐れがあるため、注意が必要です。また、周知義務を守らなかった場合には、労働基準法106条違反となり、労働基準法120条により、30万円以下の罰金が科される恐れがあります。

懲役や罰金を科されることは大きな問題ですが、法違反によるイメージ低下も深刻な影響を与えます。現代の日本は、少子高齢化の進展により、労働力の確保が困難さを増している状況です。そのような状況において、違法な残業を行う会社であると認知されれば、求職者からの敬遠につながります。そうなれば、労働力の確保は、より困難なものとならざるを得ないでしょう。

おわりに

所定労働時間内で業務が終わらないことは、決して珍しいことではありません。そのため、多くの会社では、36協定を締結し対応しています。しかし、適切な方法で締結されていない36協定は、その効力を否定され、違法残業へとつながってしまいます。そのような事態を避けるためにも、当記事を参考に適切な方法で36協定を締結してください。

「勤革時」関連機能情報

時間外労働の上限規制機能

「勤革時」は時間外労働の上限規制に関する設定が可能です。36協定の届け出に記載した上限時間(回数)や、上限に達する前に事前にアラートするための警告時間(回数)を設定できます。
「届け出の上限」には、実際に36協定の届け出に記載した上限時間を記載することを推奨します。

未申請残業通知機能

残業時間の申請を忘れてしまうと、残業代の未払いに繋がります。本機能は残業時間の申請漏れの防止に効果的です。従業員自身だけでなく、管理者にも通知ができるため、より残業時間の管理が厳格に行なえます。

アラート通知機能

「残業時間が月30時間を超過した場合通知する」などのように、勤務時間や出勤日数などを元に任意のアラート基準を設定し、その基準に合致した場合にメール通知できます。アラート基準同士を組み合わせることもできます。

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