当連結会計年度の日本経済について振り返ると、個人消費の伸びは低調であったものの、設備投資が増加し、輸出も堅調に推移したため、景気は緩やかに回復した。海外では、第1四半期においてイラク情勢の悪化や重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生などにより景気拡大のテンポが鈍化したが、その後は米国やアジアを中心に堅調な拡大を続けた。
国内のエレクトロニクス業界においては、企業向けのIT(情報技術)製品が伸び悩んだものの、カメラ付携帯電話機、薄型フラットテレビ、DVDレコーダなどのデジタルAV家電製品およびそれらに関連する電子デバイスが堅調に推移した。海外では、景気回復を背景に、デジタルAV家電製品、携帯電話機、パーソナルコンピュータなどを中心に需要が拡大した。
このような事業環境の中で、当社グループは、平成15年度を当社グループの中期的発展に向けた出発点と位置付け、事業を運営してきた。
まず、IT領域とネットワーク領域で技術および顧客ニーズの融合が進展していることを受けて、IT・ネットワーク統合ソリューションの強化をはかるため、平成15年4月1日付でそれまでの社内カンパニー制から、より階層の少ない9つの事業ラインを基本とした経営体制へ移行した。さらに、平成15年10月に、個人需要が先導役となってブロードバンド(高速・大容量ネットワークとそれに伴うサービスの拡大)&モバイル(携帯情報端末からのネットワーク利用)環境が進展し、世界に先行する先進IT・ネットワーク市場となりつつある日本市場を軸としたグローバルな事業展開を目指す中期成長戦略を策定した。その概要は以下のとおりである。
中期成長戦略の概要
@ 国内市場を中心とした確実な収益確保、安定成長
a. システム・インテグレーションをベースとした安定的な収益基盤の確保
b. ITとの融合によるネットワークソリューション事業の拡大
c. プロダクト事業の再強化
A 新たな成長機会の獲得
a. グローバルな事業拡大
b. 日本の本格的なユビキタス社会の到来に対応した取組強化
B 成長を支えるグループのコアコンピタンスの集結
この中期成長戦略の実現に向けた施策として、有利子負債のさらなる削減に加え、厚生年金基金の代行部分の国への返上や退職金・年金制度の改革、時価発行増資による株主資本の増強などを行い、成長戦略の実行を支える財務基盤の強化に努めた。さらに、資材費の削減、生産革新、SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)の強化、開発プロセス改革の推進などにより徹底的な原価低減をはかった。
当連結会計年度の業績は、売上高が4兆9,068億円と前連結会計年度に比べ2,118億円の増収(前連結会計年度比4.5%増)となった。これは主に、携帯電話機および光ディスクドライブの伸長に加えて携帯電話機向けやデジタルAV家電向け半導体の売上高が増加したことなどによるものである。
収益面については、売上高が増加したことに加え、原価低減の推進やNECエレクトロニクス鰍ネどの子会社株式発行関連利益および拠点再編に伴う事業場の売却益を計上したことなどにより、税引前利益は1,605億円(前連結会計年度比991億円増)となった。また、当期純損益は、411億円の利益(前連結会計年度比656億円増)となった。
一方、当連結会計年度のフリー・キャッシュ・フロー(営業活動により増加したキャッシュ(純額)と投資活動により減少したキャッシュ(純額)の合計額)は、2,594億円の収入超過となった。当連結会計年度末の有利子負債残高は、これまで積極的に削減施策に取り組んできた結果、1兆1,710億円(前連結会計年度末比3,161億円減)となり、デット・エクイティ・レシオ(D/Eレシオ、株主資本に対する有利子負債の割合)は、1.65倍(前連結会計年度末比2.5ポイント減)となった。
当社グループの事業は、ITソリューション事業、ネットワークソリューション事業およびエレクトロンデバイス事業からなるエレクトロニクス事業である。前連結会計年度においては、リース事業が報告対象セグメントに含まれていたが、平成15年3月、当社グループがNECリース滑博ョの一部を売却したことにより同社が持分法適用会社となったため、リース事業は、当連結会計年度の報告対象セグメントに含まれていない。
当連結会計年度のエレクトロニクス事業の業績は、売上高が4兆9,068億円と前連結会計年度に比べ2,293億円増加(前連結会計年度比4.9%増)し、セグメント利益の合計が前連結会計年度に比べ684億円増加の1,827億円となった。
エレクトロニクス事業の各セグメント別の業績は、以下のとおりである。なお、各セグメントの売上高およびセグメント損益にはセグメント間取引を含んでいる[連結財務諸表に対する注記24参照]。
a. ITソリューション事業
(売上高)
ITソリューション事業の売上高は、前連結会計年度に比べ0.8%増加し、2兆989億円となった。国内市場において厳しいIT投資環境が続いたが、システム・インテグレーション分野では底堅い官公需に加え、民需向けが堅調に推移し、増収となった。一方、ソフトウェア分野は、前連結会計年度に大型案件があった影響により減収となった。サーバなどのコンピュータ・プラットフォーム分野は、光ディスクドライブの伸長により増収となった。
(セグメント利益)
セグメント利益は、前連結会計年度に比べ140億円悪化の918億円となり、セグメント利益率も前連結会計年度の5.1%から4.4%に悪化した。これは、これまでに実施してきた構造改革の効果によりパーソナルコンピュータ分野の採算性が大幅に改善したものの、新技術への対応や新市場および新顧客開拓のための先行投資などにより、システム・インテグレーション分野などの収益性が低下したことによるものである。
b. ネットワークソリューション事業
(売上高)
ネットワークソリューション事業の売上高は、前連結会計年度に比べ12.6%増加し、1兆7,757億円となった。固定系通信システム分野は、国内市場においては企業のIP(インターネット・プロトコル)化投資により堅調に推移したものの、海外において採算性の低い事業を縮小しことにより、全体としては減収となった。モバイル分野は、携帯電話機の国内出荷の増加および海外向け出荷の本格的な開始により増収となった。
(セグメント利益)
セグメント利益は、前連結会計年度に比べ336億円改善の679億円となった。これは携帯電話機を中心とした出荷増に加え、構造改革の効果により固定系通信システム分野を中心に採算性が改善したことによるものである。
c. エレクトロンデバイス事業
(売上高)
エレクトロンデバイス事業の売上高は、ほぼ前連結会計年度並みの9,322億円となった。半導体分野は、DRAM生産をエルピーダメモリ鰍ノ移管したことによる売上減があったものの、携帯電話機向けやデジタルAV家電向け半導体を中心に好調に推移したことから増収となった。ディスプレイ分野は、カラー液晶ディスプレイにおいて採算性の低い製品の生産を絞り込んだものの、プラズマディスプレイの市場が急拡大したことにより増収となった。電子部品その他の分野については、電子部品事業が堅調に推移したものの、前連結会計年度中に回路基板事業やカーエレクトロニクス事業の再編を実施したことなどにより減収となった。
(セグメント損益)
セグメント損益は、前連結会計年度に比べ566億円改善し、543億円の利益となった。これは、半導体分野において高付加価値製品へのシフト、生産性の向上、資材費の削減などにより増益となったほか、ディスプレイ分野や電子部品その他の分野が構造改革の効果により採算性が向上したことによるものである。
d. その他
(売上高)
半導体製造装置、航空機用電子機器、液晶プロジェクタなどの製造および販売や電気通信工事サービスなどから構成される「その他」のセグメントの売上高は、前連結会計年度に比べ182億円増加し、6,799億円となった。
(セグメント利益)
セグメント利益は、前連結会計年度に比べ41億円減少し、107億円となった。
地域別セグメントの状況は以下のとおりである。
a. 国内
売上高は、前連結会計年度並みの3兆8,899億円となった。これは、事業再編などの影響による減少があったものの、携帯電話機ならびにデジタルAV家電向けおよび携帯電話機向け半導体などの売上が増加したことによるものである。
地域別損益は、携帯電話機の出荷増や構造改革により半導体分野およびパーソナルコンピュータ分野の採算性が改善したことなどにより、前連結会計年度に比べ515億円増加し、1,698億円となった。
b. 海外
売上高は、前連結会計年度に比べ24.7%増加し、1兆170億円となった。これは、固定系通信システム分野において採算の厳しい事業を絞込んだことによる減少があったものの、携帯電話機の本格的な出荷の開始、光ディスクドライブの伸長などによるものである。
地域別損益は、携帯電話機や光ディスクドライブを中心とした出荷増に加え、構造改革の効果により固定系通信システム分野の採算性が改善したことなどにより、前連結会計年度に比べ、103億円増加し129億円となった。
当連結会計年度末の現金および現金同等物は、前連結会計年度末に比べ1,524億円増加し、4,968億円となった。
営業活動により増加したキャッシュ(純額)は、3,285億円となり、前連結会計年度に比べ810億円増加した。これは、主に売上高の増加により当連結会計年度の入金額が増加したことなどによるものである。また減価償却費は、設備投資が前連結会計年度並みである一方で、拠点再編に伴い固定資産を売却したことなどにより、前連結会計年度に比べ169億円減少し、1,787億円となった。
投資活動により減少したキャッシュ(純額)は、691億円となり、前連結会計年度に比べ支出が575億円増加した。これは、固定資産および市場性ある有価証券の売却による入金額が減少したことなどによるものである。
財務活動により減少したキャッシュ(純額)は1,028億円となった。これは増資および子会社上場により資金調達を実施した一方で、効率的な手許金の運用の一環として一時的に短期借入金などの返済を行ったことによるものである。
(単位 億円)
|
|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
|
営業活動により増加したキャッシュ(純額) 投資活動により減少したキャッシュ(純額) 財務活動により減少したキャッシュ(純額) 為替相場変動の現金および現金同等物への影響額 |
2,475 △116 △2,627 △66 |
3,285 △691 △1,028 △42 |
|
現金および現金同等物純増加(△減少)額 |
△334 |
1,524 |
当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模、受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていない。
このため、生産、受注および販売の状況については、「1 業績等の概要」におけるセグメントの業績に関連づけて示している。
前連結会計年度および当連結会計年度において、それぞれ連結売上高の13.9%および16.3%を占める主要顧客があり、その売上は主にITソリューション事業およびネットワークソリューション事業の売上に含まれている。
当社グループは、「IT・ネットワーク統合ソリューション」および「半導体ソリューション」をコア事業領域と定め、これらの事業領域に経営資源を集中して事業運営を行っている。
半導体ソリューション領域においては、会社分割により当社の100%子会社として設立したNECエレクトロニクス鰍中心として事業を運営しているが、同社は、平成15年7月24日、東京証券取引所市場第一部に上場し、独自の資金調達手段を確保するとともに、顧客志向の徹底などにより、半導体ソリューション専業企業として一層の競争力の強化をはかっている。
一方、IT・ネットワーク統合ソリューション領域においては、当社は、平成15年10月に、世界に先行する先進IT・ネットワーク市場となりつつある日本市場を軸として、グローバルな事業展開を目指す中期成長戦略を策定し、実行しているが、今後当社グループの更なる企業価値向上に向けて、次の経営課題に取り組む予定である。
(1) 事業遂行力の一層の強化
ブロードバンド&モバイル環境の進展などにより、IT・ネットワーク統合ソリューション領域においては、市場が大きく変化している。当社グループは、顧客指向をより徹底して、市場の変化を迅速かつ的確に把握し、顧客ニーズを満足させる統合ソリューションの提供に努める。また、生産革新や資材費削減、開発プロセス改革により原価低減を一層推進するとともに、開発プロセスや事業遂行上のリスクに関するマネジメントの強化をはかる。
(2) 成長戦略の遂行の加速
国内においては、システム・インテグレーション事業を収益基盤としてその拡大、強化をはかるとともに、当社が誇るネットワーク領域の技術・ノウハウを活用したIT・ネットワーク統合ソリューション事業の拡大を目指す。また、海外においては、モバイル事業については中国、欧州を中心に、システム・インテグレーションなどのソリューション事業についても中国、東南アジアを中心に、日本市場の先進性を活かした海外展開を積極的に推進する。
(3) 成長戦略を支える当社グループの経営資源の結集
当社グループの研究開発力、知的資産、人材などの経営資源を結集し、そのシナジーを最大限に発揮することにより当社グループの企業価値の最大化をはかる。特に、半導体から携帯電話機、ネットワーク基盤に至るまでソフトウェアの重要性が高まりつつある状況を踏まえ、NECエレクトロニクス鰍はじめとする当社グループ内での開発リソースおよびノウハウの共有化を推進し、ソフトウェア開発における競争力の強化をはかる。
(4) 構造改革の推進
ブロードバンド事業などの環境変化が激しい事業領域については、これまでに実施した改革の成果も踏まえ、付加価値の高いソフトウェアおよびサービスの提供を中心とするソリューション事業への転換、開発効率の改善などの構造改革を引き続き推進する。
(5) 研究開発および知的資産戦略の強化
市場が大きく変化している中で、研究開発と事業とのシナジーの強化や、開発成果の早期事業化などを推進するとともに、IT・ネットワーク統合ソリューション領域および半導体ソリューション事業領域における積極的な知的資産の創造・保護、その他の領域における知的資産の第三者による活用の促進などにより競争力の強化をはかる。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理、財務の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがある。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものである。
(1) 当社グループの事業に関するリスクについて
@ 中期成長戦略について
当社グループは、平成15年10月に、国内市場を中心にした確実な収益確保と安定成長、グローバルな事業拡大と新たな成長機会の獲得ならびに当社グループが持つソフトウェア開発力などの強みを結集した企業価値の最大化を内容とする「中期成長戦略」を策定して事業を運営している。IT・ネットワーク事業領域は潜在的な高成長が見込まれているが、それが実現する保証はなく、また、新規参入企業を含め競合他社との競争激化により、予定している成果の全部または一部が得られない可能性がある。
A 製造工程について
当社グループが事業を展開するコンピュータ、通信機器、半導体その他の市場では、急速な技術変化と技術革新の下、顧客ニーズの変化に応じ頻繁な新製品・サービスの導入が必要とされている。これらの製品の製造工程は非常に複雑であるため、高性能かつ高額な製造設備が必要であり、その生産性および性能を改善するために、継続的な改良が必要である。製造設備の故障、異常等により生産が中断し、迅速に代替製造設備への移管ができない場合には、顧客が当社グループの競合会社の製品を購入することとなる可能性がある。さらに、生産能力不足により、当社グループの競争力が低下する可能性がある。その結果、大幅な減収をもたらすとともに、顧客との関係が大きく悪化する可能性がある。
また、需要の低迷期には、生産能力の上限で稼動しているときと比べ、一般的に顧客の発注時期と製品の予定出荷日の間が接近するため、生産量と売上高の予測が困難となる。
B 技術革新および顧客ニーズへの対応について
当社グループが事業を展開する市場は、急速な技術変化と技術革新、顧客ニーズの変化および新製品・新サービスの頻繁な導入を特徴としており、既存の製品・サービスは急速に陳腐化しまたは市場性を失う傾向がある。
当社グループが、常に技術および顧客ニーズの急速な変化を的確に把握し、それに対応した製品・サービス(新製品・新サービスを含む。)を提供することができない場合、事業、業績および財務状況は著しく損なわれる可能性がある。
新製品の開発過程が長期化した場合、予定よりも開発費用が高額になる可能性があり、また、製品の開発中に技術や規格が変化することにより、当社グループの製品が市場に投入される前から陳腐化し商品性を失う可能性がある。当社グループの製品には、ハードウェアおよびソフトウェアの双方が含まれているが、いずれも想定外の欠陥を含んでいる可能性があり、新製品の市場投入および出荷の後にこれらが発見される場合がある。その結果、顧客との関係が悪化し、当社グループの売上が大きく減少する可能性がある。
C 競合について
当社グループは、事業を展開する多くの市場において激しい競争にさらされているが、大規模な多国籍企業、比較的小規模で成長中の高度に専門化した企業等によるさらなる市場参入に伴い、当社グループの製品・サービスが厳しい価格競争にさらされるリスクが増大している。
D 取引先との関係等に関するリスク
イ NTTグループへの依存
当社グループの売上高のうち日本電信電話鰍ィよび潟Gヌ・ティ・ティ・ドコモその他の同社の関係会社(以下「NTTグループ」という。)に対する売上高の構成比は、当連結会計年度において16.3%を占めている。NTTグループが何らかの理由により設備投資額または当社グループとの取引額を削減した場合には、当社グループの事業、業績および財務状況は悪影響を受ける可能性がある。さらに、今後、NTTグループが当社グループと競合する製品の製造を開始し、または当社グループの競合会社を買収した場合は、当社グループの事業に支障をきたす可能性がある。
ロ 顧客に対する信用リスク
当社グループは、顧客に対してベンダー・ファイナンス(当社グループの製品・サービスの購入資金の供与)を提供することがあり、また、ベンダー・ファイナンスを提供した銀行または取引業者に対する保証の提供を実施することがある。さらに、当社グループの顧客の多くは、代金後払いで当社グループから製品・サービスを購入している。当社グループがベンダー・ファイナンスもしくは保証を提供した顧客または当社グループが多額の売掛金を有する顧客が財務上の問題に直面した場合は、当社グループの事業、業績および財務状況は悪影響を受ける可能性がある。
ハ 資材等の調達
当社グループの生産活動には、資材、部品、製造装置その他の調達物品がタイムリーに納入されることが必要であるが、これらの資材等には、その特殊性から仕入先が少数に限定されているものおよび仕入先または調達物品の切替えが困難なものがある。当社グループは、必要な資材、部品、製造装置その他の調達物品が現在十分確保されているものと認識しているが、供給の遅延・中断または業界内の需要が増加した場合、必要不可欠な資材の不足が生じる可能性がある。当社グループが必要な調達物品を機動的に調達できない場合、またはその調達のために極めて多額の資金の支払いが必要となる場合には、当社グループの業績が悪化する可能性がある。また、資材、部品、製造装置その他の調達物品に欠陥があった場合は、当社グループの製品の信頼性および評価に悪影響を及ぼす可能性がある。
ニ 戦略的パートナーとの提携関係
当社グループは、新技術および新製品の開発ならびに既存製品および新製品の製造に関して、業界の先進企業と多数の長期的な戦略的提携関係を構築しているが、これらの戦略的パートナーは、財務上その他の事業上の問題の発生、戦略上の目標変更などにより、当社グループとの提携関係を維持することができなくなる可能性がある。これらの提携関係を維持できなくなった場合には、当社グループの事業活動に支障が出る可能性がある。
E 半導体事業におけるリスクについて
IC(集積回路)およびLSI(大規模集積回路)などの半導体市場は、循環的な市況変動が非常に大きな市場であり、製品需要縮小、過剰在庫および販売価格の急速な下落をもたらす深刻な低迷期を繰り返してきた。半導体市場における製品の需要は、平成12年後半から平成14年に至るまで弱含みで続き、半導体製品の売上を急激に減少させる結果となっていた。平成15年に入り、半導体市場における製品需要は回復してきたが、この回復基調は継続しない可能性がある。また、半導体市場は、将来においても繰り返し低迷し、当社グループの将来の業績に悪影響を与える可能性がある。
さらに、周期的な過剰生産も半導体市場が循環的な市況変動の大きい市場である一因となっている。近年、ファウンダリ(半導体製造専門企業)をはじめとする多くの半導体製造企業が、アジアを中心に半導体製品の生産能力を大幅に拡大してきた。今後も半導体製品の生産能力が周期的に製品需要を超える場合、販売価格への低下圧力がかかり、当社グループの売上減少につながる可能性がある。
F 海外市場での事業拡大に伴うリスクについて
当社グループは、海外市場での事業拡大を中期成長戦略の一つとしているが、当社グループは、潜在的な顧客と現地供給業者との間の長期間の提携関係、海外の各市場固有の保護規制などの種々の障壁に直面している。また、当社グループは、海外市場での成長の機会に乗り遅れないために、収益の計上が見込まれる時期より相当前から多額の投資を行う必要が生じる可能性があるが、このような投資額の増大によって利益を上回る費用が必要となる可能性がある。さらに、当社グループの中国をはじめとする海外における事業および投資は、為替政策、外資規制、輸出入規制の変更または税制・税率の変更、経済的・社会的・政治的リスク等により悪影響を受ける可能性がある。
これらの要因により、当社グループは、海外市場における事業拡大に成功せず、その結果、当社グループの事業成長および業績が悪影響を受ける可能性がある。
G 企業買収等に伴うリスクについて
当社グループは、事業拡大のため企業買収、資本参加等を実施することがあるが、買収等の対象事業を当社グループの経営戦略と統合することができない可能性があり、また、買収等の対象事業における顧客や主要な従業員を維持することができない可能性がある。さらに、買収等によって当社グループが期待した利益を実現できる保証はなく、既存事業および買収等の対象事業について効率的でバランスの取れた経営資源の活用を行うことができなかった場合は、当社グループの業務、業績および財務状況は悪影響を受ける可能性がある。
H 人材の確保について
当社グループは、製品、サービスおよびソリューションを開発するため、優秀な従業員を獲得し維持する必要がある。当社グループの人事部門は、重要な技術部門に配属可能な人材を採用し、その雇用の継続に努めているが、優秀な従業員が当社グループから多数離職した場合または優秀な人材を新規に採用することができなかった場合は、当社グループの事業目的の達成が困難になる可能性がある。
I 為替および金利の変動リスクについて
当社グループは、為替リスクを軽減し、またこれを回避するために様々な手段を講じているが、為替相場の変動によって事業、業績および財務状況に悪影響が生じる可能性がある。為替変動は、当社グループの外貨建取引から発生する資産および負債の日本円換算額ならびに外貨建てで取引されている製品・サービスの価格および売上高に影響を与える可能性がある。
当社グループは、金利変動リスクにもさらされており、リスク回避のための様々な手段を講じているが、かかるリスクは、当社グループの事業経費の増加、資産価値の下落または負債に関連する金利負担の増大を招く可能性がある。
J 年金および退職金にかかる積立不足について
当社グループは、米国会計基準に従って、未認識の過去勤務費用および保険数理上の損失を、年金および退職金制度に基づき受給することが見込まれる従業員の平均残存勤務期間にわたって定額法により均等償却している。将来の保険数理上の損失は、割引率および年金資産の運用収益などいくつかの要因の変化によって変動する可能性がある。
K 自然災害等のリスクについて
地震等の自然災害によって、当社グループの製造拠点および設備等が壊滅的な損害を被った場合は、当社グループの操業が中断し、生産および出荷が遅延することにより売上高が低下し、さらに、製造拠点等の修復または代替のために巨額な費用を要することとなる可能性がある。
L 経済動向による影響について
当社グループの事業は、国内市場に大きく依存している。当社グループの売上高のうち国内顧客に対する売上高の構成比は、前連結会計年度において77.6%、当連結会計年度において76.0%を占めている。日本経済は緩やかな回復傾向にあるが、今後の見通しは、公的および民間部門の設備投資動向、個人消費動向および為替動向の点からみて不透明である。日本経済の回復が遅れ、再び景気が低迷することになれば、当社グループの業績に大きな打撃を与える可能性がある。当社グループの予算編成および業績予想は、当社グループが属する市場の成長予測に基づいているが、上記のような一般的な経済の不透明さによって、当社グループの将来の売上高および費用の予測が困難となっている。
当社グループは、海外市場にも依存しているが、その地域の景気動向が悪化することにより当社グループの業績が悪影響を受ける可能性がある。
(2) 法的事項について
@ 法的手続に関するリスク
当社グループは、その事業の特性上、特許権その他の知的財産権に関してしばしば訴訟を提起され、または権利侵害の主張を申し立てられることがある。当社グループの事業分野には多くの特許権その他の知的財産権が存在し、また新たな特許権その他の知的財産権が次々と生じているため、ある製品または部品について第三者の特許権その他の知的財産権を侵害する可能性の有無を事前に判断することは困難である。特許権その他の知的財産権侵害の主張が正当であるか否かにかかわらず、かかる主張に対して当社グループを防御するためには、莫大な費用および経営資源が必要となる可能性がある。特許権その他の知的財産権侵害の申立が認められ、当社グループが当該技術または代替技術についてライセンスを取得できなかった場合には、当社グループの事業は悪影響を受ける可能性がある。
当社グループは、知的財産権侵害以外にも様々な訴訟および法的手続に巻き込まれる可能性がある。例えば、当社の持分法適用関連会社であるエルピーダメモリ鰍フ米国現地法人であるエルピーダメモリ(USA)社および当社の連結子会社であるNECエレクトロニクス・アメリカ社は、現在、米国のDRAM業界における独占禁止法違反の可能性について米国司法省の調査を受けている。また、エルピーダメモリ梶Aエルピーダメモリ(USA)社およびNECエレクトロニクス・アメリカ社に対し、これらに関する集団訴訟が複数の連邦裁判所において提起されている。エルピーダメモリ鰍ノついては、欧州委員会からも同様の調査を受けている。また、GEワランティ・マネジメント社は、当社の子会社が製造・販売したパーソナルコンピュータおよびその関連機器に関して米国で行っていた有償保守サービスに関連して、当社およびPBエレクトロニクス社を含む当社の子会社に対して損害賠償を請求している。米国カリフォルニア州の第一審裁判所は請求を退けたが、同社は控訴した。なお、PBエレクトロニクス社が破産申請を行ったため、現在事件は停止している。
当社グループが当事者となっているかまたは今後当事者となる可能性のある訴訟および法的手続の結果を予測することは困難であるが、かかる手続において当社グループにとって不利な結果が生じた場合、当社グループの事業、業績または財務状況が重大な悪影響を受ける可能性がある。
さらに、当社グループが関係する法的手続に関して、経営陣が深く関わることが求められる可能性があり、その場合、経営陣の本来の業務である当社グループの事業運営に支障が出る可能性がある。
A 当社グループの知的財産権等の保護について
当社グループの事業は、当社グループが独自に開発した技術に依存しており、また当社グループの製品、サービス、事業モデルおよび設計・製造過程に必要な特許権その他の知的財産権を取得できるか否かにより大きな影響を受ける。
特許権の登録・維持には、多額の費用を要するが、当社グループが保有する特許が無効とされる可能性がある。さらに、第三者が当社グループの特許を侵害して対象となる技術を不当に使用する可能性もある。また、当社グループが所有する特許権その他の知的財産権は、技術の急速な変化によって、その価値を失う可能性があるため、これらの権利により当社グループの優位性が保証されているわけではない。当社グループが将来取得する特許権その他の知的財産権が当社グループの技術を保護するために十分であるという保証はない。さらに、一部の国では、特許権、著作権等の行使が制限される場合または企業秘密が十分保護されない場合がある。当社グループの企業秘密は、従業員、契約相手方その他の者によって不正に開示、または不正に流用される可能性がある。当社グループが特許権その他の知的財産権を主張するために訴訟提起を必要とする場合があり、かかる場合には、多額の費用その他の経営資源が費やされる可能性がある。
B 第三者の知的財産権の利用について
当社グループの製品の多くは、第三者のソフトウェアその他の知的財産を使用しているが、当社グループが第三者から必要なライセンスを受けることができない可能性および当社グループにとって不利益な条件でのライセンスしか認められない可能性がある。
C 製品およびサービスの欠陥について
当社グループが提供する製品およびサービスに欠陥が生じるリスクがある。当社グループの製品およびサービスには、顧客の基幹業務の遂行等、高い信頼性が求められる状況において使用されているものがあり、その故障が顧客に深刻な損失をもたらす危険性がある。当社グループは、製品またはサービスの欠陥が原因で生じた損失に対する責任を追及される可能性がある。さらに、製品またはサービスに欠陥が生じたことにより社会的評価が低下した場合は、当社グループの製品およびサービスに対する顧客の購買意欲が低減する可能性がある。これらの場合、当社グループの事業、業績および財務状況が悪影響を受ける可能性がある。
D 法的規制等について
当社グループは、事業を展開する多くの国および地域において、予想外の規制の変更、法令の適用および行政の運用の不透明性ならびに法的責任の不透明性に関連する多様なリスクにさらされている。当社グループが事業を展開する国および地域における規制または法令の重要な変更は、当社グループの事業、業績および財務状況に悪影響を与える可能性がある。
通信事業に関する国内または国際的規制および通信料金(インターネット関連事業および技術に関する規制および料金を含む。)の変更は、当社グループの製品またはサービスの売上に影響し、かつ当社グループの事業、業績および財務状況に悪影響を与える可能性がある。
平成16年3月31日現在における重要な技術導入、技術提供等の契約は、次のとおりである。
|
当事者 |
契約の内容 |
契約期間 |
|
当社と エイ・ティー・アンド・ティー社 (米国) |
情報取扱装置に関する特許の相互実施許諾 |
自:昭和63年1月1日 至:対象特許の終了日 |
|
当社と インターナショナル・ビジネス・ マシーンズ社(米国) |
情報取扱装置に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成13年1月1日 至:対象特許の終了日 |
|
当社とインテル社(米国) |
半導体装置等に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成4年7月29日 至:対象特許の終了日 |
|
情報取扱装置に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成13年11月16日 至:対象特許の終了日 |
|
|
当社とシーメンス社(ドイツ) |
デジタル移動通信機器に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成11年3月2日 至:対象特許の終了日 |
|
当社と テキサス・インスツルメンツ社 (米国) |
半導体装置に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成9年5月19日 至:平成17年12月31日 |
|
当社とハリス社(米国) |
半導体装置に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成9年5月22日 至:対象特許の終了日 |
当社および連結子会社の研究開発活動のうち、当社は、全社的な基盤技術の研究を担当する中央研究所ならびに主に事業化・製品化のための開発を担当するソリューション研究開発本部および各事業ラインにおいて、IT・ネットワーク統合領域およびシステムデバイス領域を中心に将来の事業創出のための基盤となる技術や現事業を大きく発展させる新技術などの研究開発に取り組んできた。当連結会計年度における当社の主要な研究開発成果は、次のとおりである。
(ITソリューション事業)
自律的なコンピュータシステムの運用・管理を実現するソフトウェアの開発
当社は、コンピュータシステムの稼動状況の分析・診断から検知した問題に対する適切な対処方法の決定・実行までの一連のシステムの運用・管理を自律的に実行できる自律コンピューティングソフトウェアを開発した。近年、システムの大規模化、複雑化が進展する中で、サーバの障害や負荷の増大などに自律的に対応できるシステムへの需要が高まっているが、今回開発したソフトウェアは、システムを構成するハードウェアやソフトウェアの稼動状況などから性能低下の兆候の検知や障害の原因の特定を行い、障害の回復、負荷の分散のためにサーバの置換、追加などの処理を自律的に行うもので、コンピュータシステムを常に一定の稼動状態に維持するとともに、システムの運用・管理のコストを低減することが可能となる。
(ネットワークソリューション事業)
超薄型実装技術を採用した世界最小・薄型のカード型カメラ付携帯電話機の開発
当社は、世界最小・薄型のカード型カメラ付携帯電話機を開発し、中国市場において販売を開始した。この製品は、携帯電話機の各機能モジュール(回路基板、ディスプレイ、電池、内蔵アンテナなど)の薄型化に加え、モジュールの薄型化に適した実装技術、強度向上のための筐体技術、回路基板の薄型化を実現するための薄型プリント基板などを採用しており、外形寸法がほぼ名刺大で厚さが8.6mmという超小型・薄型化と重量が70gという軽量化を実現している。当社は、情報端末機器の携帯性の向上を目指して今後一層の技術の高度化をはかり、小型電子機器への応用を進めていく。
(エレクトロンデバイス事業)
グラフィックエンジンを内蔵したTFT液晶ICの製品化
当社の連結子会社であるNECエレクトロニクス鰍ヘ、グラフィックエンジン(描画回路)を内蔵した携帯電話機用のTFT(薄膜トランジスタ)液晶ドライバICを開発し、平成15年10月に製品化した。近年、携帯電話機を通じて提供するサービスはより一層高度化しており、携帯電話機の液晶画面上で複雑な画像データを表示できる機能が求められている。今回開発したICは、携帯電話機上での画像処理に必要な機能をすべて内蔵したもので、グラフィック機能を備えた専用LSIを追加することなく高速で画像データの表示を行うことができる。また必要な機能を1チップ化したことにより従来に比べて携帯電話機の小型化が可能となるという利点がある。
(その他)
固体電解質中での金属原子移動を利用したスイッチによる半導体回路の組み替え動作の実現
当社は、独立行政法人物質・材料研究機構および科学技術振興機構と共同で、固体電解質中での金属原子移動を利用し、半導体チップ上の回路の切り替えを行うスイッチ「NanoBridge」を開発し、この素子を用いた回路の組み替え動作を行うことに成功した。この技術により、半導体チップの面積を従来の10分の1程度に小型化することが可能となり、製品の小型化・低価格化につながることから、携帯電話機やデジタルAV家電製品など多機能化が進む製品への応用が期待されている。
また、当社以外の研究開発活動については、国内においては、当社製品の生産を担当している会社の一部において新製品の開発を行っているほか、日本航空電子工業梶ANECインフロンティア梶Aアネルバ鰍ネど独立した事業基盤を有する会社において、基盤技術の研究開発および各社の事業運営に直結した新技術、新製品の研究開発を行っている。また、海外においては、NECアメリカ社、NECヨーロッパ社などにおいて新製品の開発を行っているほか、NECラボラトリーズ・アメリカ社において、デバイスやコンピュータに関連する技術の研究開発を行っている。なお、平成15年9月、日電(中国)有限公司において、中国市場向け新世代インターネット用モバイル情報システムに関する研究開発活動を開始した。
当連結会計年度における当社および当社連結子会社全体の研究開発費は、2,566億円であり、これを事業の種類別セグメント別に示すと以下のとおりとなる。
ITソリューション事業 449億円
ネットワークソリューション事業 770億円
エレクトロンデバイス事業 1,055億円
その他 291億円
(1) 主な施策と成果
当連結会計年度においては、損失を計上した過去2年から収益力を大幅に回復させ黒字に転換した。課題事業の構造改革にも目処をつけ、さらにバランスシートも大幅に改善した。これらにより成長戦略の実行へと軸足を移す基盤を固めた。配当については、1株当たり年6円に復配した。
a. 財務体質の改善
当社グループは、バランスシートの改善を経営の最重要課題の一つと認識し、これまで、株主資本の増強、有利子負債の削減、D/Eレシオの改善および資産圧縮をはかってきた。
(単位 億円)
|
|
前連結会計年度末 |
当連結会計年度末 |
|
@株主資本 |
3,584 |
7,115 |
|
A有利子負債 |
14,871 |
11,710 |
|
B手許金(現金および現金同等物) |
3,443 |
4,968 |
|
Cネット有利子負債(A−B) |
11,427 |
6,743 |
|
|
|
|
|
|
前連結会計年度末 |
当連結会計年度末 |
|
株主資本比率 * |
8.7% |
17.6% |
|
D/Eレシオ(A÷@) |
4.15倍 |
1.65倍 |
|
ネットD/Eレシオ(C÷@) |
3.19倍 |
0.95倍 |
* 株主資本比率は、株主資本を総資産で除して計算したものである。
株主資本の増強
株主資本については、当連結会計年度末の残高は7,115億円となり、前連結会計年度末の3,584億円から、大幅な資本増強を行うことができた。これは、当期純利益411億円を計上したことに加え、当連結会計年度に実施した1,854億円の増資と、厚生年金基金の代行部分返上などによるものである。厚生年金基金の代行部分返上により退職給付債務が大幅に減少したことなどから、当連結会計年度末のその他の包括損益累計額における最小年金負債調整額は、前連結会計年度末に比べ41.1%改善した。また、年金制度の変更により、年金資産運用利回りと給付利回りとのギャップから生じる未認識債務の増加リスクが軽減され、さらに年金資産のポートフォリオを見直し、よりリスクの低い資産での運用をはかることにより、年金が株主資本へ与える今後の影響も軽減されることとなった。
有利子負債の大幅削減
有利子負債から手許金を除いたネット有利子負債は、当連結会計年度末で6,743億円となり、過去最大の残高となった平成11年度末の2兆559億円に比べ1兆3,816億円(67.2%)減少した。これは、たな卸資産などの流動資産の効率化、設備投資の効率化およびコア事業への経営資源の集中による資産整理など資産圧縮を実施したことに加え、NECエレクトロニクス鰍ネどの子会社上場による資金調達を行ったことにより手許金が増加したことによるものである。
これらにより当連結会計年度末の株主資本比率は17.6%、株主資本に対するネット有利子負債の比率であるネットD/Eレシオは0.95倍となり、前連結会計年度末の8.7%および3.19倍からそれぞれ大幅に改善した。当社グループは、今後中期成長戦略を実行することで、利益増による更なる資本充実に努めていく。
b. 収益力の回復
コア事業への経営資源の集中と課題事業の業績改善
当社グループは、競争優位性を発揮できるコア事業に経営資源を集中し、収益性の強化をはかっている。また、採算性の低い事業については、課題事業と位置付け構造改革による収益性の改善に重点的に取り組んできた。このうちコア事業以外の事業については、収益性の改善のための諸施策を実行するとともに、第三者の資本導入や事業売却などの施策を実施してきた。その結果、当連結会計年度において、課題事業の収益性を利益貢献が期待できる水準に向上させるなど、課題事業の構造改革をはかることができた。
具体的には、固定系通信システム事業について人員削減ならびに開発領域の絞込みおよび海外拠点の再編などの効率改善策を実施した。また、パーソナルコンピュータ事業については、分散していた開発・製造拠点の統廃合、高付加価値製品の提供に加え、ソリューション事業の強化および市場の変化に迅速に対応するためのサプライ・チェーン・マネジメントの徹底をはかった。カラー液晶ディスプレイ事業では、不採算製品の生産縮小により収益性の改善をはかるとともに、上海広電(集団)との合弁会社を設立し、技術移転によるロイヤルティ収入を基本とした事業モデルを導入した。
一方、プラズマディスプレイ事業については、パイオニア鰍ノ事業売却することで基本合意に達した。また、DRAM事業については、鞄立製作所との合弁会社であるエルピーダメモリ鰍ヨの事業移管を完了し、エルピーダメモリ鰍ヘ、高付加価値製品への注力や、第三者からの出資による生産能力の拡大により、利益体質への転換をはかっている。
費用構造の改善
当社グループではこれまで、コア事業への経営資源の集中、課題事業の構造改革などによる収益性の改善を進めてきた。価格低下や製品構成の変動による収益力の低下に対応してコストの削減施策に積極的に取り組んだ。
サーバなどのハードウェアにおけるオープン化の進展と価格競争の激化、携帯電話機の高機能化、IT・ネットワーク融合技術を活用した最先端の情報システム出現など、当社グループをめぐる事業環境は大きく変化している。当社グループは、新しい競争環境にいち早く適合するため、トップマネジメントの積極的な関与により、バリューチェーン(価値連鎖)の総点検を開始し、開発・生産・販売の各分野でさらなるコスト削減活動に取り組んでいる。
当社グループは、総資材費低減活動および生産革新活動に取り組んできた。総資材費削減活動では、中国など海外からの調達拡大、安価な部材を前提とした開発・設計、購入先の絞込み、部品共通化の全社横断的展開などを行ってきた。また、生産革新活動では、かんばん方式の導入により中国の安価な労働力による生産を凌駕する生産効率を追求してきた。
さらに、開発段階におけるコスト削減活動としての開発プロセス改革にも積極的に取り組んできた。これは、ハードウェアにとどまらずソフトウェアやシステム・インテグレーションなどにおいて、開発スピードを向上させることで開発費の削減と先行者利益の追求を目指すものであり、トップマネジメントの関与によるプロジェクト全体の評価と対策の立案、開発プロセスの標準化などによる開発生産性の向上などを全社的に徹底し、プロセス改革を推進している。
c. 増資と成長戦略への転換
当社グループは、市場変化に耐えられる堅固な財務体質を基盤とし、IT・ネットワーク統合ソリューションを提供できる強みを活かした成長戦略を実行するために、当連結会計年度に1,854億円の増資を行った。
平成15年10月に策定した中期成長戦略においては、各セグメントの収益性を向上させ、当期純損益を株主資本で除した株主資本利益率は15%、株主資本に対する有利子負債の比率であるD/Eレシオは1倍を目標としており、その実現に向けて、国内市場を中心として確実な収益確保と成長をはかり、また、当社グループの先進優位性が日本において実証された事業領域での海外展開をはかり、さらなる成長機会の獲得に努力する。
経営陣による業績の評価および分析では、米国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従った当社の連結財務諸表について論じている。財務諸表の作成では、期末日における資産、負債、偶発資産および偶発債務ならびに会計期間における収益および費用に影響を与えるような見積りや仮定を必要とする。結果として、このような見積りと実績が異なる場合がある。
経営陣は、次の重要な会計方針の適用における見積りや仮定は連結財務諸表に重要な影響を与えると考えている。
a. 市場性ある有価証券
当社グループは、市場性ある持分証券と負債証券を売却可能有価証券に分類し、公正価値による評価を行い、税効果調整後の未実現損益をその他の包括損益累計額に含めて表示している。当社グループは、市場性ある有価証券に関わる価値の下落が一時的でないと判断した場合、下落した額を減損として認識している。価値の下落が一時的であるかどうかを決定する際に、市場動向、利益傾向、価値の下落の程度、下落の期間、当社グループがその証券を保有する意思と能力およびその他の重要な指標を評価しているが、前連結会計年度においては、主として株式市場の低迷により275億円の減損を認識した。当連結会計年度においては、株式市場が回復したため、減損による重要な影響はない。市場性ある有価証券の売却損益は、売却時に保有する当該銘柄の平均原価をもとに計算している。
前連結会計年度においては、市場性ある持分証券と負債証券において187億円の未実現損失があったが、当連結会計年度においては株式市場の回復により、重要な未実現損失はない。これらは上記評価の結果、価値の下落が一時的であると判断したため、減損を認識していない。
将来の市場動向が悪化した場合または投資先の業績が好ましくない場合、現在の帳簿価額には反映されていない損失または帳簿価額の回収不能が生じる可能性があり、減損を認識する可能性がある。
b. 年金および退職金
当社グループは年金数理計算に基づいた年金および退職金に関する費用および負債を計上している。年金および退職金に関する費用および負債の将来の変動の要因としては、関連する従業員数の変動によるものに加えて、年金数理計算における割引率、年金資産の長期期待収益率などの仮定の変動によるものがある。
年金資産の長期期待収益率は、資産配分の方針を考慮した上で、過去の収益率と、調査および産業予測に基づいた将来における収益率の予想をもとに決定される。年金資産の長期期待収益率が0.5ポイント低下した場合、当連結会計年度の年金費用はおよそ36億円増加する。当社グループは、前連結会計年度および当連結会計年度の年金資産の長期期待収益率を4.0%と仮定している。当社グループは、翌連結会計年度から長期期待収益率を2.5%とすることを決定している。
割引率の決定に当たって当社グループは、現在の市場状況を検討している。現在の市場利子率の低下を反映するために、当社グループは、割引率を平成16年3月31日において3.0%から2.5%へ引き下げた。この変更により、未認識の保険数理上の損失および最小年金負債調整額(税効果調整前)が、それぞれおよそ708億円および676億円増加した。この未認識の保険数理上の損失は、今後16年にわたって定額償却する。
c. 税金資産
当社グループが計上している繰延税金資産は、繰越欠損金および将来減算一時差異に関するもので、全て将来の課税所得を減額する効果を持つものである。
繰延税金資産の実現可能性に不確実性がある場合、将来実現する可能性が高いと考えられる金額まで評価引当金を計上して繰延税金資産を減額している。当社グループは、評価引当金の計上の必要性について、下記の点を検討している。
−内部予想に基づく将来利益
−特別な費用を除いた過去3年間の累積税引前利益
−有効なタックス・プランニング
−未払退職および年金費用ならびに子会社投資などから生じた一時差異の解消時期が長期にわたること
−過去における重要な繰越欠損金の期限切れの実績がないこと
当社グループは、繰延税金資産計上の対象となっている繰越欠損金について、追加的なタックス・プラニングによらず、将来利益のみで解消することができると考えている。これは、当社グループによる将来利益の見積りのみならず、過去に重要な繰越欠損金の期限切れの実績がないことおよび当連結会計年度において経営成績が改善していることから判断している。
主要な繰延税金資産は、未払退職および年金費用に関わるものならびに投資に関わるものである。このうち未払退職および年金費用に関わる一時差異は、解消期間が長期にわたるものの、積立てに伴って漸次実現していく。さらに、厚生年金基金の代行部分返上により、当社グループの未積立給付債務およびそれに関わる繰延税金資産が減少した。また、投資に関わる一時差異については、一般的には被投資会社の売却または清算等の事業再編により実現される。
市況の回復または経営成績の改善などにより、当社グループが現在計上している金額以上の繰延税金資産の実現が可能であると判断した場合、その年度において繰延税金資産の残高を修正し、利益が増加する。同様に、市況の後退または経営成績の悪化などにより、当社グループが現在計上している繰延税金資産の全額または一部の実現が不可能であると判断した場合、その年度において繰延税金資産を修正し、利益が減少する。
d. 長期性資産の減損
有効期間を有する無形固定資産を含む長期性資産については、その帳簿価額が回収不能となるおそれを示唆する事象や状況の変化がある場合に、見積割引前キャッシュ・フローを用いて減損の有無を検討している。見積割引前キャッシュ・フローがその資産の帳簿価額よりも低い場合は、その資産の公正価値に基づいて減損を認識する。
それぞれの資産の公正価値を決定する際には、見積将来キャッシュ・フローおよびその他の要素に関する見積りおよび仮定を必要とする。それらの見積りおよび仮定が将来変更された場合、当社グループは減損を認識する可能性がある。
e. 無形固定資産
当社グループは、米国財務会計基準審議会の基準書(以下「基準書」という。)第142号「のれんおよびその他の無形固定資産」を適用している。基準書第142号は、のれんおよび有効期間がない無形固定資産は償却を行わず、少なくとも毎年減損の有無を検討することを要求している。なお、有効期間を有する無形固定資産は、見積有効期間にわたって償却を行う。さらに、基準書第142号は持分法投資有価証券の帳簿価額に含まれるのれんについても償却しないことを要求している。
当社グループは、毎期第4四半期にのれんの減損テストを実施するが、特定の兆候があればその都度実施する。
当社グループは、平成15年12月31日を基準日としてのれんの減損テストを実施した。その結果当連結会計年度において、ITソリューション事業に関連したのれんについて、230億円の減損を認識した[連結財務諸表に対する注記7参照]。
当社グループが減損テストに用いた割引キャッシュ・フロー方式は、見積将来キャッシュ・フローおよびその他の要素に関する見積りおよび仮定を必要とする。それらは、不確実性を含んでいるが、当社グループの内部計画と一致している。これらの見積りまたは仮定が将来変更された場合、当社グループはそれぞれの資産について、減損を認識する可能性がある。
f. 新会計基準の適用による影響
平成16年3月31日に、当社グループは米国財務会計基準審議会の解釈指針(以下「解釈指針」という。)第46号「変動持分事業体の連結(改訂版)」を適用した。解釈指針第46号によると、事業体の持分保有、事業体の契約またはその他の財務的な関係により、当社グループが事業体の予想損失の過半を負担する場合、予想残存利益の過半を享受する場合、またはその双方の場合、変動持分事業体を連結する必要がある。解釈指針第46号を適用した結果、NECビジネストラストは変動持分事業体に該当し、当社グループは同社の変動持分を所有していないため、連結の範囲から除外した。これにより、NECトラスト優先証券は当社の連結貸借対照表には記載されず、当社の利付き2021年満期無担保劣後社債(以下「劣後債」という。)が連結貸借対照表に、一年以内に返済期限の到来する長期負債として記載されている。また、当該劣後債は平成16年6月に償還されている[連結財務諸表に対する注記3、12および25参照]。
a. 概要
当連結会計年度の売上高は、4兆9,068億円と前連結会計年度に比べ4.5%の増収となった。税引前利益は、売上高の増加や構造改革により収益力を回復したことに加え、事業構造改革費用が前連結会計年度に比べ減少したこと、NECエレクトロニクス鰍ネどの子会社株式発行関連利益、拠点再編に伴う事業場の売却益を計上したことなどにより、前連結会計年度に比べ991億円増加し、1,605億円となった。当期純損益は、前連結会計年度に比べ656億円増加し、411億円の利益と黒字転換した。
b. 売上高
売上高は、4兆9,068億円と前連結会計年度に比べ2,118億円(前連結会計年度比4.5%増)の増収となった。これは主に、携帯電話機および光ディスクドライブの伸長に加え、携帯電話機向けおよびデジタルAV家電向け半導体の売上高が増加したことなどによるものである。売上高を市場別に見ると、国内売上高は、前連結会計年度に比べ2.4%増収の3兆7,308億円となった。これは、事業再編などの影響による減少があったものの、携帯電話機ならびにデジタルAV家電向けおよび携帯電話機向け半導体の売上が増加したことなどによるものである。海外売上高は、前連結会計年度に比べ12.0%増収の1兆1,760億円となった。これは、海外向け携帯電話機の本格的な出荷開始、光ディスクドライブの伸長などによるものである。
外貨建売上(主に米ドルおよびユーロ)は、前連結会計年度に比べ10.2%増収の1兆922億円となった。この結果、売上高のうち外貨建の占める割合は22.3%となった。為替先物契約の利用、外貨建の売上および仕入の調整などのリスク軽減策を実行したため、為替相場変動が業績に与える影響は軽微である。
c. 受取利息、有価証券売却益、受取配当金およびその他(その他の収益)
その他の収益は、前連結会計年度の1,315億円から350億円減少し、965億円となった。当社グループは、財務体質改善のために資産整理によるバランスシートの改善に取り組んでおり、保有意義の薄れた有価証券などの売却、拠点再編などによる固定資産の売却などの資産効率化の施策を推進している。これらの施策の実施に伴い、当連結会計年度においては、有価証券売却益277億円、固定資産売却益259億円などを計上した。前連結会計年度に計上した有価証券売却益は686億円、固定資産売却益は93億円である。
d. 子会社株式発行関連利益
子会社株式発行関連利益は、前連結会計年度の221億円から317億円増加し、538億円となった。これは、前連結会計年度において、主に当社の連結子会社であるNECフィールディング鰍フ株式を上場したことに伴い、子会社株式発行関連利益208億円を計上したのに対し、当連結会計年度については、当社の連結子会社であるNECエレクトロニクス鰍ィよびNECシステムテクノロジー鰍フ株式を上場したことに伴い、子会社株式発行関連利益537億円を計上したことによるものである[連結財務諸表に対する注記20参照]。
e. 厚生年金基金の代行部分返上に関わる補整(清算による損失138,063百万円控除後)
当社と一部の国内の連結子会社は、平成14年9月、厚生年金基金の代行部分に関わる将来分支給の免除に関する認可を日本政府から受け、当該将来分支給義務は日本政府が負うこととなった。平成15年12月1日および平成16年1月1日、当社と一部の国内の連結子会社は、日本政府から最終認可を受け、平成16年2月16日および3月15日に年金資産を日本政府に移管することにより、代行部分に関わる全ての過去分の債務を免除された。当社グループは、将来分支給義務の免除および資産の移管による過去分の債務の免除を、清算取引に関連する一連の手続として会計処理し、これらの取引を通じ純額で82 億円の利益を計上した[連結財務諸表に対する注記10参照]。
f. 売上原価
売上原価は、前連結会計年度に比べ1,700億円増加し、3兆6,230億円となった。これは、コストダウン活動の推進を行ったものの、ITソリューション事業において新技術への対応ならびに新市場および新顧客開拓のための先行投資を行ったことなどによるもので、売上高に対する比率は、0.3ポイント増加し、73.8%となった。
g.販売費および一般管理費
販売費および一般管理費は、前連結会計年度に比べ118億円減少し、1兆1,093億円となった。これは、研究対象の重点的な絞込みなどによる研究開発費の効率化および経費削減に積極的に取り組んだことによるものであり、売上高に対する比率は、1.3ポイント改善し、22.6%となった。
研究開発費は、研究開発テーマの絞り込みなどの効率化により、前連結会計年度に比べ13.4%減少し、2,567億円となった。売上高に対する比率は、5.2%であった。
h. のれんの減損
当社グループは、当連結会計年度第4四半期に年次ののれんの減損テストを行った。欧州のパーソナルコンピュータ市場の競争が増したため、欧州におけるITソリューション事業の予測を見直した。その結果、ITソリューション事業において、230億円の減損を計上した。報告単位の公正価値は、将来の純キャッシュ・フローの見積割引現在価値により見積もっている。
i. その他の費用
その他の費用は、前連結会計年度に比べ608億円減少し、1,219億円となった。これは主に、子会社再編、資産処分などの事業構造改革費用が前連結会計年度に比べ382億円減少したことおよび有価証券の売却・評価損が前連結会計年度に比べ217億円減少したことによるものである[連結財務諸表に対する注記21参照]。
j. 税引前利益
税引前利益については、前連結会計年度に比べ991億円増加し、1,605億円となった。これは、携帯電話機を中心とした売上高の伸長、半導体分野における高付加価値製品へのシフトなどにより収益性が大幅に改善したこと、構造改革の効果によりコストダウンを実現したことなどによるものである。また、課題事業の構造改革に目処がついたことにより、事業構造改革費用の計上額が前連結会計年度より382億円減少した[連結財務諸表に対する注記21参照]。
k. 持分法による投資損益
持分法による投資損益は、前連結会計年度に比べ27億円改善し、178億円の損失となった。これは主に、情報通信機器および計測器関連会社の損益が改善したことなどによるものである。
l. 当期純損益
当期純損益は、前述の税引前利益が大幅に改善したことにより、前連結会計年度の246億円の損失から411億円の利益へと黒字に回復した。1株当たり当期純利益は、23.67円となった。
m. 包括損益
包括損益は、1,777億円の利益となった。これは、当期純損益が黒字に回復したことに加え、その他の包括損益で1,366億円の利益を計上したことによるものである。最小年金負債調整額は、年金数理計算における割引率の引き下げによる悪化があったものの、厚生年金基金の代行部分返上に伴う退職給付債務の減少などにより1,161億円の利益を計上した。有価証券未実現損益は、株式市況の回復により383億円の利益を計上した。
n. 配当
年間を通じて黒字化を達成し、株主資本も増加したことから、当連結会計年度の配当は、前連結会計年度の無配から1株当たり6円へと復配した。このうち、1株当たり中間配当は平成15年12月に支払われた3円である。
o. 設備投資
当連結会計年度については、前連結会計年度に引き続き、需要に対応した絞り込みによる設備投資の効率化をはかった。その結果、設備投資は、前連結会計年度に比べ3%減少し、1,740億円となった。
a. 流動性維持の基本方針
当社グループは、手許流動性、すなわち、現金および現金同等物ならびに複数の金融機関との間で締結したコミットメントライン契約との合計額を連結売上高の2カ月分相当前後に維持することを当面の基本方針としている。当連結会計年度末の現金および現金同等物、ならびにコミットメントラインによる手許流動性の合計は9,568億円となり、当連結会計年度中の平均売上高の約2.3カ月分に相当する。
これは主に、半導体事業における設備資金所要に迅速に対応できるよう、手許の現預金を厚めに保有していること、コミットメントラインを総額4,600億円維持していることなどによるものである。
b. 資金の源泉
当社グループは、短期・長期の資金所要を満たすために十分な調達枠を維持している。
まず短期資金調達では、その多くを国内コマーシャルペーパーの機動的な発行で賄っており、5,000億円の発行枠を維持している。
さらに、不測の短期資金需要やコマーシャルペーパーの調達が不安定になった場合に備えて、コミットメントラインを総額4,600億円維持し、常時金融機関からの借入れが可能な体制としている。このうち1,000億円については、長期にわたる安定的な流動性確保を目的として前連結会計年度に設定した3年間の長期ラインである。この長期ラインには、当社の格付(格付投資情報センター)が、現在のAより5段階下位に相当するBB+以下となった場合に停止される条項が付加されている。
一方、長期資金調達では、国内普通社債の発行枠を3,000億円維持している。また、グローバルな中長期資金所要に柔軟に対応する目的から、当社と英国の金融子会社で合わせて2,000百万米ドルのミディアム・ターム・ノート・プログラムを併せて維持している。
なお、当連結会計年度において、当社は1,854億円の時価発行増資を行った。今後の成長戦略に向けた投資および財務体質の強化を目的とした有利子負債削減のための原資とするものである。
負債構成の考え方に関しては、必要資金の安定的な確保の観点から、十分な長期資金の確保、およびバランスのとれた直接・間接調達比率の維持を当面の基本方針としており、その状況を示すと下表のとおりである。
|
|
前連結会計年度末 |
当連結会計年度末 |
|
長期資金調達比率 *1 |
67.5% |
68.9% |
|
直接調達比率 *2 |
59.6% |
69.5% |
*1 長期資金調達比率は、社債および長期借入金を有利子負債で除して計算したものである。
*2 直接調達比率は、社債を有利子負債で除して計算したものである。
当連結会計年度の長期資金調達比率は、前連結会計年度と比べほぼ横ばいの68.9%となった。一方、直接調達比率は前連結会計年度に比較して約10ポイント増加し69.5%となった。これは、間接調達資金の減少幅が大きかったことによるものである。具体的には、当社グループの間接調達資金などを約2,400億円返済した。直接調達資金では、転換社債を含む1,716億円の社債償還があったものの、当社がNECビジネストラスト社に対して発行する劣後債1,000億円が新たに負債計上された。これは、従来は連結対象であったNECビジネストラスト社が連結対象外となったことによるものである。なお、この劣後債1,000億円は、平成16年6月に償還したため、直接調達比率におよぼす影響は一時的なものに止まった[連結財務諸表に対する注記12参照]。
c. 格付け
当連結会計年度末の当社の格付については、短期格付がa-1(格付投資情報センター)、P-2(ムーディーズ・インベスターズ・サービス)、A-2(スタンダード&プアーズ)、また長期格付がA(格付投資情報センター)、Baa2(ムーディーズ・インベスターズ・サービス)およびBBB(スタンダード&プアーズ)となっている。スタンダード&プアーズの短期格付は、平成16年2月に従前のA-3からA-2に、また長期格付けがBBB-からBBBに、それぞれ格上げされている。
d. キャッシュ・マネジメント
当社グループは、国内および海外のキャッシュ・マネジメント・システム(CMS)を通じて、全世界規模で資金の集中化を行い、資金の効率的利用および有利子負債の削減をはかっている。
日本国内においては、当社が運営するCMSにより、主要な国内連結子会社に発生する資金過不足を当社に集中させ、当社が一括して運用・調達を行っている。また海外においても、複数の海外金融子会社が個々の担当地域においてCMSを運営し、海外の連結子会社との間で同様のオペレーションを行っている。海外の各金融子会社において資金余剰が生じる場合は、それを当社に集中することで全世界規模での調整をはかっている。
なお、NECエレクトロニクス鰍ィよびその連結子会社は、上記とは別に独自のCMSを運営しており、国内および海外においてグループ内の資金効率化をはかっている。
e. オフバランス取引
当社グループは、貸借対照表に反映されないものの、現在および将来の財政状態、収益および費用、経営成績、流動性、設備投資、資本の源泉に影響するであろうと考えられるさまざまな取引を行っている。これらには債務保証や債権の証券化、変動持分事業体が含まれる。
債務保証
当社グループの保証は、通常の事業過程の中で行っているものであり、相手先の経済的、流動性および信用リスクを考慮してこれらの保証を行っている。
当社グループは、従業員および関係会社の借入金ならびに顧客のファイナンス契約に関して債務保証を行っている。一部の保証に関しては、他者の当社グループ向け保証により担保されている。また、複数のオペレーティング・リースに関連し、当社グループは残価保証を行っている。平成16年3月31日現在において、保証契約に関わる最大潜在的将来支払額および担保の残高は、それぞれ979億円および65億円である。当社グループは、これらの保証については、当社グループの財政状態または経営成績について重要な不利な影響を及ぼすものではないと考えている[連結財務諸表に対する注記23参照]。
債権の証券化
当社グループは、遡及義務なしに特定の売上債権を特別目的会社に売却する複数の証券化取引を行っている。
特別目的会社は、売上債権の譲受けと同時に、売上債権に対する権益を大手金融機関に売却する。証券化取引において当社グループは売却した売上債権に対し劣後する権利を留保する場合がある。日本国内における特定の証券化プログラムでは、当社グループは継続して全ての適格債権を売却し、当社グループの資金需要を超える全ての金額を留保している。その結果、留保部分の残高は売上債権の貸倒損失リスクとは関係なく変動する[連結財務諸表に対する注記17参照]。
変動持分事業体
当社グループは、いくつかの特別目的事業体を通じて海外の顧客に設備のリースを行っている。これらの事業体は解釈指針第46号における変動持分事業体である。当社グループは、これらの事業体に保証を含めた財務支援を行っており、重要な変動持分を保有しているが、主たる受益者ではない。当該事業体の平成16年3月31日現在の総資産は491億円であり、当社グループの損失のエクスポージャーは、最大で59億円である[連結財務諸表に対する注記3参照]。
f. 約定債務
当連結会計年度末における当社グループの約定債務の状況は、以下のとおりである。
(単位 億円)
|
|
|
支払期限 |
|
|
||
|
|
合計 |
1年未満 |
1−3年 |
3−5年 |
5年以上 |
|
|
社債および長期借入金 (除くキャピタル・リース) |
10,275 |
2,525 |
3,298 |
2,056 |
2,396 |
|
|
キャピタル・リース |
455 |
140 |
209 |
85 |
21 |
|
|
オペレーティング・リース |
1,335 |
333 |
382 |
173 |
447 |
|
|
合計 |
12,065 |
2,998 |
3,889 |
2,314 |
2,864 |
|
なお有形固定資産の購入にかかる契約債務は557億円であり、おおむね1年以内に決済される。
また従業員向け債務保証(保証期間最長20年)を除いた債務保証の残高は720億円であり保証期間1年未満の金額は459億円、1年以上3年未満の金額は140億円、3年以上5年未満の金額は69億円、5年以上の金額は52億円である。
当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べ590億円減少し、4兆443億円となった。これは主に、営業キャッシュ・フローの改善、増資、子会社の上場などにより現金および現金同等物が増加した一方、厚生年金基金の代行部分返上に伴いその他の資産に含まれる長期繰延税金資産が減少したことによるものである。
当連結会計年度末の流動資産は、2兆1,298億円で、前連結会計年度末に比べ2,097億円の増加となった。現金および現金同等物は、営業キャッシュ・フローの改善、増資、子会社の上場などにより前連結会計年度末に比べ1,524億円増加し、4,968億円となった。受取手形および売掛金(貸倒引当金控除後)は、第4四半期の売上が前連結会計年度に比べ微増であったことなどから、ほぼ前連結会計年度並みの8,407億円となった。たな卸資産は、翌連結会計年度の出荷対応による増加があったものの、生産革新活動による効率化を推進した結果、ほぼ前連結会計年度並みの5,700億円となった。
有形固定資産は、前連結会計年度末に比べ681億円減少し、7,702億円となった。これは、技術開発体制の強化に伴い事業場の一部を売却したこと、日本航空電子工業鰍ィよびその子会社が連結子会社から持分法適用会社となったことなどによるものである。
その他の資産は6,930億円で、前連結会計年度末に比べ1,858億円減少した。主な要因は、厚生年金基金の代行部分返上に伴い長期繰延税金資産が減少したことによるものである。
当連結会計年度末の流動負債および固定負債の合計は、前連結会計年度末に比べ3,999億円減少し、3兆1,115億円となった。このうち、短期借入金、一年以内に返済期限の到来する長期負債、社債および長期借入金の合計である有利子負債は、1兆1,710億円となり、前連結会計年度末に比べ、3,161億円の減少となった。これは、財務体質改善の観点から積極的に有利子負債の削減に取り組んできた成果である。
未払退職および年金費用は、前連結会計年度末に比べ1,807億円減少し、5,249億円となった。これは、厚生年金基金の代行部分返上に伴う退職給付債務の減少などによるものである。
当連結会計年度末の株主資本は、前連結会計年度末に比べ3,530億円増加し、7,115億円となった。これは主に、当連結会計年度に実施した増資により1,854億円増加したことに加え、その他の包括損益累計額が前連結会計年度に比べ1,366億円改善したことによるものである。その他の包括損益累計額は、外貨換算調整額、最小年金負債調整額、有価証券未実現損益およびデリバティブ未実現損益からなるが、このうち当連結会計年度の主な増加要因は、厚生年金基金の代行部分返上による退職給付債務の減少などにより、最小年金負債調整額が前連結会計年度末に比べて1,161億円改善したことによるものである。この結果、株主資本比率は前連結会計年度末の8.7%から17.6%に改善した。