当連結会計年度の日本経済について振り返ると、上半期は主として米国およびアジアへの輸出が拡大し、個人消費も比較的堅調に推移したことから、景気は回復に向かった。しかし、下半期には、好調であった輸出が鈍化するとともに、イラク情勢の悪化に伴う世界経済の先行き不安により株価が下落し、また個人消費の伸びが鈍化するなど、景気の後退懸念が強まった。海外においても、上半期において米国やアジアを中心に緩やかな回復を示したものの、下半期に入ると、イラク情勢の悪化などにより景気の先行きに不透明感が強まった。
国内のエレクトロニクス業界においては、SI(システム・インテグレーション)サービスやデジタル民生機器の需要は堅調に推移したものの、パーソナルコンピュータや通信機器が伸び悩み、全体的に厳しい状況が続いた。
このような厳しい事業環境に加え、IT(情報技術)事業領域とネットワーク領域の技術融合の進展、半導体事業の競争構造の変化、中国企業の台頭による価格競争の激化やEMS(電子機器製造受託サービス)企業による国際水平分業体制の進展など、当社を取り巻く経営環境は、大きく変化した。こうした変化に対応するために、当社は以下の施策を実施した。
a.経営改革第2フェーズ
当社は、平成14年5月より経営改革第2フェーズとして、当社の遂行する事業における顧客の違いや、競争に勝ち抜くためのルールの違いを認識し、事業ドメインを大きくIT・ネットワーク統合ソリューションと、半導体ソリューションの2つに分けることにした。この目的は、それぞれに経営資源を集中することでグループの企業価値の増大をはかることである。
この方針に基づき、汎用DRAMを除く半導体事業を分社することにより、NECエレクトロニクス鰍平成14年11月1日に設立した。同社はシステムLSIを中心として、高度な技術力により競合他社との差別化をはかり顧客のニーズを実現する「半導体ソリューション・プロバイダ」を目指している。分社の目的は、半導体ソリューションの専業企業としての企業価値の顕在化と投資集約型の半導体事業特性に適した資金調達の実施によりグローバルな競合他社に対抗できる財務基盤を構築することである。
また、IT・ネットワーク統合ソリューションについては、事業ドメインを「オープン環境におけるミッションクリティカルなシステムを実現するソリューションの提供」と定め、今後拡大が見込まれるITソリューション事業およびネットワークソリューション事業の融合領域に向けて両者のシナジーを発揮させ、統合ソリューションの強化をはかった。加えて、製造拠点であったNEC群馬のサービスサポート会社への転換、中南米およびアジアの拠点のIPネットワーク需要への対応などの事業構造改革を推進した。
b.費用構造改革
平成14年度は固定費の大幅な削減を達成した。これは、特別転進支援施策の実施や事業売却などによる人員削減、賞与および給与水準の引き下げによる人件費の低減をはかったこと、またエレクトロンデバイス事業の生産能力適正化などの施策によるものである。
また、IT分野全般にわたる技術革新に伴う価格下落や製品ライフサイクルの短期化の影響を最小化し、さらなるコスト構造改善をはかるため2年間にわたり全社的な総資材費コストダウン活動を進めてきた。具体的には購入先の絞り込み、これまで類似の製品系列にとどまっていた部品共通化の全社横断的な展開、安価な部材を前提とした開発、部材のワンチップ化、インターネットを利用した逆オークションの積極活用、中国を始めとする海外からの調達拡大などの施策を実施した。特に中国については、パーソナルコンピュータの完成品の調達や海外向け携帯電話機の調達だけでなく、ソフトウェアの開発の委託を拡大するなどの施策を講じた。これにより売価ダウンを上回る資材調達価格の低減を実現した。
さらに、有利子負債削減および自己資本増強のための施策として、たな卸資産効率化による資産回転率の向上、売上債権証券化、保有する意義の薄れた有価証券や不動産の売却、事業売却などを実施した。特にたな卸資産については、資材費投入の抑制や全社的な生産革新運動の展開の効果により残高の削減および効率化をはかった。有利子負債についても、営業キャッシュ・フローやこれら財務施策によるキャッシュ・フローを原資としてこれを返済し残高を削減した。
当連結会計年度の業績は、売上高が4兆6,950億円と前連結会計年度に比べ4,060億円の減収(前連結会計年度比8.0%減)となった。これは、SIサービスを中心とした各種サービスおよび民生用電子機器、携帯電話機および自動車向けの半導体が堅調に推移したものの、サーバおよびパーソナルコンピュータなどのハードウェアが減収となったことに加え、通信事業者向けシステムの需要低迷および携帯電話機の出荷減少などによるものである。
収益面については、売上高が減少したものの、エレクトロンデバイス事業のセグメント損益が大幅に改善し、また事業構造改革およびその他の特殊費用の計上額が減少したことなどから、税引前損益は615億円の利益(前連結会計年度比5,227億円改善)となった。しかしながら、持分法による投資損益が半導体関連会社を中心とした業績悪化により204億円の損失(前連結会計年度比34億円改善)となったことに加え、日本における外形標準課税の導入決定に伴う繰延税金資産の見直しなどによる法人税等の増加により、246億円の当期純損失(前連結会計年度比2,875億円改善)を計上した。
一方、当連結会計年度のフリー・キャッシュ・フロー(営業活動により増加したキャッシュ(純額)と投資活動により減少したキャッシュ(純額)の合計額)は、税引前損益が利益に転じたことなどにより2,359億円の収入超過となった。当連結会計年度末の有利子負債残高は、リース事業が持分法適用対象となったことおよびフリー・キャッシュ・フローの改善などにより、1兆4,871億円(前連結会計年度末比7,726億円減)となり、デット・エクイティ・レシオ(株主資本に対する有利子負債の割合)は4.15倍(前連結会計年度末比0.15ポイント増)となった。
なお、平成15年3月、当社はNECリース滑博ョの一部を売却し、持分比率が39.5%まで減少した。この結果、売却日までの同社の経営成績を連結し、それ以後は持分法を適用している。
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要約連結貸借対照表 |
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リース事業に 持分法を適用した 要約連結貸借対照表 |
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平成13年度 |
平成14年度 |
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平成13年度 |
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連結会計年度末 |
連結会計年度末 |
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連結会計年度末 |
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平成14年3月31日現在 |
平成15年3月31日現在 |
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平成14年3月31日現在 |
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資産 |
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現金および現金同等物 |
377,772 |
344,345 |
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348,021 |
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受取手形および売掛金 |
905,069 |
821,985 |
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938,179 |
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たな卸資産 |
650,043 |
553,820 |
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650,043 |
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リース債権 |
506,761 |
- |
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- |
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投資および長期債権 (除くリース債権) |
621,078 |
466,100 |
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640,957 |
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有形固定資産 |
959,577 |
838,341 |
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939,470 |
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その他 |
990,583 |
1,078,709 |
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947,201 |
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資産合計 |
5,010,883 |
4,103,300 |
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4,463,871 |
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負債および資本 |
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有利子負債 |
2,259,705 |
1,487,093 |
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1,696,739 |
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その他負債 |
1,956,246 |
2,024,350 |
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1,987,805 |
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少数株主持分 |
132,817 |
135,613 |
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117,212 |
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子会社発行優先証券 |
97,200 |
97,800 |
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97,200 |
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資本 |
564,915 |
358,444 |
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564,915 |
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負債および資本合計 |
5,010,883 |
4,103,300 |
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4,463,871 |
当連結会計年度においてはITソリューション事業、ネットワークソリューション事業およびエレクトロンデバイス事業からなるエレクトロニクス事業の売上高は4兆6,775億円と前連結会計年度に比べ3,773億円減少(前連結会計年度比7.5%減)した。また、エレクトロニクス事業のセグメント損益は前連結会計年度比1,738億円改善の1,143億円の利益となった。リース事業の売上高は382億円と前連結会計年度に比べ335億円減少(前年度比46.7%減)し、同事業のセグメント利益は前連結会計年度比18億円改善の82億円となった。
エレクトロニクス事業における各セグメント別の業績は以下のとおりである。なお、各セグメントの売上高およびセグメント損益はセグメント間取引を含んでいる。
a. ITソリューション事業
(売上高)
ITソリューション事業の売上高は、前連結会計年度に比べ5.7%減少し、2兆826億円となった。官公庁、製造業、通信業向けなどのSIサービスが堅調に推移したことに加え、BIGLOBEの付加価値サービスの売上が増加したことなどにより、ソフトウェアや各種サービスの売上が増加した。ハードウェアについてはサーバなどのコンピュータが、前連結会計年度に大型案件があった影響などにより減収となり、パーソナルプロダクト関連事業も国内の個人向けパーソナルコンピュータ市場の低迷の長期化や企業向けパーソナルコンピュータの価格競争の影響を受け減収となった。
(セグメント利益)
セグメント利益は、前連結会計年度に比べ304億円改善の1,058億円となり、セグメント利益率も前連結会計年度の3.4%から5.1%に改善した。これは、ソフトウェア・サービス分野で、SIサービスにおける生産性の向上やソフトウェア開発の重点投資などにより利益率が向上したことに加え、ハードウェアについても、パーソナルプロダクト関連事業の構造改革により採算性が改善したことによるものである。
b.ネットワークソリューション事業
(売上高)
ネットワークソリューション事業の売上高は、前連結会計年度に比べ19.5%減少し、1兆5,763億円となった。ネットワークインフラが世界的な通信市場低迷の継続により減収となった。また、モバイルターミナルも前連結会計年度における上半期の国内出荷が好調であったことから、当連結会計年度は減収となった。一方、国内地上波デジタル放送設備は堅調に推移した。
(セグメント利益)
セグメント利益は、前連結会計年度に比べ192億円悪化の343億円となったが、前連結会計年度から継続して実施してきた構造改革による固定費削減や原価低減等の施策により、売上高が前連結会計年度に比べ19.5%減少するという厳しい環境ながら利益を確保した。
c.エレクトロンデバイス事業
(売上高)
エレクトロンデバイス事業の売上高は、前連結会計年度比11.1%増加の9,367億円となった。半導体は、DVDやデジタルカメラなどの民生用電子機器、携帯電話機および自動車向けを中心に堅調に推移した。ディスプレイは、プラズマディスプレイが出荷増となったものの、カラー液晶では付加価値の高い産業用にシフトを進めた結果、産業用は伸張したものの、採算の厳しくなったパーソナルコンピュータ向け汎用品の縮小の影響が大きかったことなどにより減収となった。電子部品その他については、グループ再編で電子部品事業の統合を行い、新規に子会社を連結したことなどにより増収となった。
(セグメント損益)
セグメント損益は、23億円の損失となったものの、前連結会計年度に比べ1,459億円と大幅に改善した。これは、前連結会計年度に実施した事業構造改革による固定費削減、不採算製品の縮小や撤退および高付加価値製品へのシフトによる収益基盤の強化に加えて、半導体やプラズマディスプレイの売上伸長によるものである。
d.その他
(売上高)
半導体製造装置、航空機用電子機器、液晶プロジェクタなどの製造および販売や電気通信工事サービスなどから構成される「その他」のセグメントの売上高は、ほぼ前連結会計年度並みの6,617億円となった。
(セグメント利益)
セグメント利益は、航空機用電子機器などの売上増加および電気通信工事サービスなどの採算性改善により、前連結会計年度に比べ119億円増加し148億円となった。
地域別セグメントの状況は以下の通りである。
a.国内
売上高は、前連結会計年度に比べ8.3%減少の3兆8,795億円となった。これは、SIサービスを中心とした各種サービスおよび民生用電子機器、携帯電話機および自動車向けの半導体が堅調に推移したものの、サーバおよびパーソナルコンピュータなどのハードウェアが減収となったことに加え、通信事業者向けシステムの需要低迷および携帯電話機の出荷減少などによるものである。
地域別損益は、前期に実施した構造改革による固定費削減および原価低減による改善などにより、前連結会計年度に比べ、1,351億円改善して1,183億円の利益となった。
b.海外
世界的な通信市場低迷の継続にともなうネットワークインフラ機器の需要低迷などにより、売上高は前連結会計年度に比べ6.3%減少の8,156億円となった。地域別損益は、前期に実施した構造改革による固定費削減および原価低減による改善などにより、前連結会計年度に比べ、413億円改善して26億円の利益となった。
当連結会計年度末の現金および現金同等物は、前連結会計年度末に比べ334億円減少し、3,443億円となった。
営業活動により増加したキャッシュ(純額)は、2,475億円となり、前連結会計年度に比べ1,109億円の増加となった。これは当期純損失が大幅に縮小したことなどによるものである。また、減価償却費は、設備投資を削減したことなどにより、前連結会計年度に比べ391億円減少し、1,956億円となった。
投資活動により減少したキャッシュ(純額)は、116億円となり、前連結会計年度に比べ1,920億円の支出減となった。これは、設備投資の重点化により固定資産の購入による支出が減少しているのに加え、保有意義の薄れた有価証券の売却を推進したことに伴い、有価証券の売却による収入が増加したことなどによるものである。
財務活動により減少したキャッシュ(純額)は2,627億円となった。これは、社債の償還およびコマーシャル・ペーパーの返済などによるものである。
当社および連結子会社の生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模、受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていない。
このため、生産、受注および販売の状況については、「1 業績等の概要」におけるセグメントの業績に関連づけて示している。
平成13年度および平成14年度において、それぞれ連結売上高の16.0%および13.9%を占める主要顧客があり、その売上は主にITソリューション事業およびネットワークソリューション事業の売上に含まれている。
当社企業グループでは、顧客ニーズに一層適応した事業体制を構築するため、「IT・ネットワーク統合ソリューション」と「半導体ソリューション」の2つの事業領域に経営資源を集中し、事業特性に合わせた資金の最適な調達・配分と財務体質の強化をはかることを内容とする新たな経営方針を策定した。この方針に基づき、当社企業グループは、半導体ソリューション専門企業としてNECエレクトロニクス鰍設立するなどエレクトロンデバイス事業の再編を実施し、また、事業体質の強化を目的として、生産革新の推進やサプライ・チェーン・マネジメントの強化に努めるとともに、購買先を絞り込んだ集中購買の推進、部品の共通化の促進などによる資材費の削減をはかってきた。
しかし、IT領域とネットワーク領域の技術融合の進展、それに伴う通信事業者のビジネスモデルの変化、価格競争の激化や国際水平分業体制の進展などの市場環境の急速な変化に対応するため、当社企業グループは、以下のとおり、さらなる事業体質の改善と新たな成長戦略の推進およびこれを実現するマネジメント革新に取り組んで行く予定である。
(1)事業体質の改善
引き続き生産革新およびサプライ・チェーン・マネジメントの強化に取り組むとともに、さらなる資材費の削減や資産の圧縮を通じ、収益力の強化と財務体質の改善に努める。
(2)新たな成長戦略の推進
a これまで培ってきたITソリューション事業とネットワークソリューション事業の強みを活かし、新たな需要の創造に努めるとともに、ハードウェアやソフトウェアの提供からネットワーク構築、業務アプリケーション・ソフトウェアの開発・運用サービスまでを含めたトータル・ソリューションの提供を目指す。
b 欧州、中国・台湾、アジア・太平洋および北米地域におけるITソリューション事業を強化し、世界四極体制の地域横断的な事業運営を推進する。ネットワークソリューション事業における携帯端末事業においては、国内における強固な事業基盤をもとに、中国、欧州を中心とした海外市場に積極的な製品投入を行っていく。
(3)新たな成長戦略を実現するためのマネジメント革新
IT領域とネットワーク領域との技術融合の進展に伴い、その融合分野における市場ニーズが高まる中、事業ラインをベースとした新たな経営体制により市場と現場を中心とした「オープンでフラットな経営」を推進する。また、企業風土として、現場主義および顧客志向を徹底させ、CS(カスタマー・サティスファクション)文化の浸透に努める。
平成15年3月31日現在における重要な技術導入、技術提供等の契約は、次のとおりである。
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当事者 |
契約の内容 |
契約期間 |
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当社と エイ・ティー・アンド・ティー社 (米国) |
情報取扱装置に関する特許の相互実施許諾 |
自:昭和63年1月1日 至:対象特許の終了日 |
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当社と インターナショナル・ビジネス・ マシーンズ社(米国) |
情報取扱装置に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成8年1月1日 至:対象特許の終了日 |
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当社とインテル社(米国) |
半導体装置等に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成4年7月29日 至:対象特許の終了日 |
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情報取扱装置に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成13年11月16日 至:対象特許の終了日 |
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当社とシーメンス社(ドイツ) |
デジタル移動通信機器に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成11年3月2日 至:対象特許の終了日 |
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当社と テキサス・インスツルメンツ社 (米国) |
半導体装置に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成9年5月19日 至:平成17年12月31日 |
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当社とハリス社(米国) |
半導体装置に関する特許の相互実施許諾 |
自:平成9年5月22日 至:対象特許の終了日 |
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当社とラムバス社(米国) |
半導体メモリおよび半導体コントローラに関する特許の実施許諾(導入) |
自:平成12年4月1日 至:平成17年3月31日 |
当社は、平成14年8月30日開催の臨時株主総会において、当社の半導体事業(株式会社日立製作所との合弁事業として行っている汎用DRAM事業を除く。以下、本項において同じ。)を新たに設立するNECエレクトロニクス鰍ノ会社分割により承継させる決議を行い、平成14年11月1日付で同社を設立するとともに、同事業を承継させた。
会社分割の概要は次のとおりである。
半導体事業について会社分割による分社化を行い、付加価値の高い半導体ソリューション事業の強化をはかる。
当社を分割会社とし、新たに設立する(平成14年11月1日設立)NECエレクトロニクス鰍承継会社とする分社型新設分割である。
平成14年11月1日
発行する株式の種類および数 普通株式 1億株
割当の対象者および割当てた株式数 当 社 1億株
平成14年3月期 売上高 468,367百万円
資産 582,505百万円
負債 247,970百万円
代 表 者 代表取締役社長 戸坂 馨
住 所 神奈川県川崎市中原区下沼部1753番地
資 本 金 500億円
事業内容 半導体の研究、開発、製造、販売およびサービス
当社および連結子会社における研究開発活動のうち、当社は、全社的な基盤技術の研究を担当するNECラボラトリーズおよび各社内カンパニーの開発部門において、ブロードバンド&モバイル領域を中心に将来の事業創出のための基盤となる技術や事業運営に直結した新技術の研究開発に取り組んできた。当連結会計年度における当社の主要な研究開発成果は次のとおりである。
なお、当社は、平成15年4月1日に社内カンパニー制を廃止した。これに伴いNECラボラトリーズは、研究所と改称され、各社内カンパニーの開発部門は、新たに設置された開発研究本部に統合された。
(ITソリューション事業)
携帯電話機向け電子チケット・会員証サービス基盤技術の開発
当社は、赤外線通信技術やセキュリティ技術を活用して、携帯電話機と店舗に設置された端末との連携をはかることで、携帯電話機による電子チケットの予約や購入、会場での入場管理などのサービスを実現する基盤技術「モバイル電子チケット・会員証サービス基盤」を開発した。この基盤技術により、インターネットを通じて予約されたコンサートや映画のチケット情報を携帯電話機に送信し、コンサート会場や映画館では、サービス対応端末で認証を行うことにより、発券・入場などのデータ管理を行うことが可能となる。また、携帯電話機を各種会員証の代わりとして利用する会員証サービスやショッピングセンターなどにおける複数店舗の連携による共通クーポンサービスの提供も可能となる。
(ネットワークソリューション事業)
第四世代移動通信システムの実用化に向けた無線アクセス実験装置の完成
当社は、第四世代移動通信システムの無線アクセス実験装置を劾TTドコモに納入した。第四世代移動通信システムは、通信のさらなる高速化・大容量化や通信のシームレス化(複数の事業者が提供する放送・通信サービスを容易に切り替えて利用できること)などを実現する次世代の移動通信システムとして、平成22年頃の実用化に向けて、現在検討が進められているシステムである。今回当社が納入した装置は、その実証実験用に開発されたもので、新しい無線アクセス技術や通信制御技術などを採用することにより、基地局から移動通信端末への通信速度(下り通信速度)が最大100メガbps、移動通信端末から基地局への通信速度(上り通信速度)が最大20メガbpsという、有線通信並みの通信速度による高速データ通信を実現している。
(注)メガbpsとは、コンピュータの処理速度を表す単位で、1秒間に命令を実行できる回数を100万回単位で表したものである。
(エレクトロンデバイス事業)
64ビットRISC型マイクロプロセッサ「第二世代VR5500」の試作
当社は、マルチメディア機器やネットワーク機器向けの高性能・低消費電力マイクロプロセッサとして好評を博した64ビットRISC(縮小命令セット・コンピュータ)型マイクロプロセッサ「VR5500」の第二世代製品の試作を完了した。今回の試作品は、0.13マイクロメートル・プロセス技術の採用や回路設計の最適化などを通じて、組み込み用マイクロプロセッサとしては、世界最小クラスの1,600MIPSという従来品に比べて約2倍の処理性能を達成するとともに、2ワットという低消費電力で1,200MIPSという従来品に比べて約1.5倍の高性能処理を実現した。これにより、マルチメディア機器やネットワーク機器の高機能化に対する高性能、低消費電力のシステムLSIの開発が可能となる。
(注)MIPSとは、コンピュータの処理速度を表す単位で、1秒間に命令を実効できる回数を100万回単位で示したものである。
(その他)
量子コンピュータの論理演算素子の基本動作に世界で初めて成功
当社は、理化学研究所との共同研究により、固体素子を用いた量子コンピュータの基本素子2個を結合させ、論理演算に必要な「基本素子間の絡み合い状態」を実現することに世界で初めて成功した。今回、「絡み合い状態」の生成と制御に成功したことは、量子コンピュータにおいて論理演算を行う基本素子の集積化への道を拓くもので、これにより固体素子を用いた量子コンピュータの実現に向けて大きく前進した。今後、基本素子を集積した論理演算回路の開発に取り組み、量子コンピュータの実現を目指していく。
また、当社以外の研究活動については、国内においては、当社製品の生産を担当している会社の一部において新製品の開発を行っているほか、日本航空電子工業梶ANECインフロンティア梶Aアネルバ鰍ネど独立した事業基盤を有する会社において、基盤技術の研究開発および各社の事業運営に直結した新技術、新製品の研究開発を行っている。また、海外においては、NECアメリカ社、NEC USA社、NECヨーロッパ社などにおいて新製品の開発を行っているほか、NECラボラトリーズ・アメリカ社において新しい材料科学、デバイス物理、コンピュータ科学などに関する基礎研究を行っている。当連結会計年度における当社および連結子会社全体の研究開発費は、2,962億円であり、これを事業の種類別セグメントごとに示すと次のとおりである。
ITソリューション事業 421億円
ネットワークソリューション事業 1,176億円
エレクトロンデバイス事業 1,057億円
その他 308億円