第2 【事業の状況】

1. 【業績等の概要】

(1) 業績

当連結会計年度の日本経済について振り返ると、上半期においては、輸出拡大に伴う企業収益の回復と設備投資の拡大により景気回復が続いたが、個人消費は依然として低迷が続き、下半期には輸出の減少などにより、景気の先行きに対する不透明感が強まった。海外では、好調であった米国経済が下半期に入り減速に転じ、欧州経済も景気拡大に陰りが出てきた。また、アジア経済については内需は比較的好調であったものの、下半期からは米国経済減速の影響により景気拡大テンポが鈍化した。

エレクトロニクス業界においては、IT(情報技術)革命により通信関連機器および情報関連機器の需要が拡大したが、下半期からは米国を中心としたパーソナルコンピュータ市場の減速によりDRAMや液晶ディスプレイなどの電子デバイスの価格が大幅に下落し、エレクトロニクス業界の収益を悪化させた。

 

このような環境にあって、当社および連結子会社は、グループとしての企業価値の最大化を目的として、以下の施策を実施した。

. コーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化

当社は、コーポレート・ガバナンスの強化のため、平成12年4月に社内カンパニー制および執行役員制を導入し、経営と執行の分離をはかった。また株主価値を意識した経営の一層の推進および徹底をはかることを目的としてストックオプション制度を導入した。下半期には社外取締役の増員や役員報酬体系見直しの方針を打ち出すとともに、経営の透明性や客観性を確保するため、外部の視点によるアドバイスを得て経営課題を幅広く審議する経営諮問委員会ならびに取締役および執行役員の報酬に関する事項を審議する報酬委員会を設置するなどの施策を実施した。

b. 事業構造改革

まずコア(核)となる製品開発のスピード・アップや世界市場での競争力強化を目的とし、他社との提携などの事業再編を進めた。サーバ分野では米国インテル社やヒューレット・パッカード社との提携、また今後需要拡大が見込まれる光通信分野では、米国の光通信システム用デバイス開発会社との共同開発を開始した。また携帯電話の普及により伸長が期待される小型ディスプレイ表示装置分野では、カシオ計算機(株)やサムスン・エスディーアイ社との提携に合意した。また宇宙事業については、(株)東芝との事業統合をはかり、本年4月に合弁会社を設立した。

c. グループ会社の再編

グループ会社についても、事業価値の最大化を目的として、当社のコア事業とのシナジーと収益性・成長性との観点から関係会社の位置づけを見直した。電子計測器事業を行う安藤電気(株)について、当社が保有する同社株式を横河電機(株)へ売却した。また、日通工(株)と当社との間で重複していたPOS(販売時点情報管理)端末事業などについて日通工(株)への統合を決定したほか、子会社価値の顕在化や活性化をめざし、ソフトウェア開発子会社であるNECソフト(株)の株式上場を行った。


当連結会計年度の業績については、売上高は5兆4,097億円と前期に比べ4,183億円(前連結会計年度比8%)増加した。これは、汎用コンピュータやカラー液晶ディスプレイは低迷したものの、当連結会計年度を通じて国内向けの携帯電話機が大変好調だったことと、上半期において半導体メモリや国内向けのパーソナルコンピュータなどが堅調に推移したことによるものである。

収益面については、売上の増加およびコストダウンの推進により、営業利益は1,851億円と前連結会計年度に比べ748億円(前連結会計年度比68%)の大幅な増加となった。また、日本電気ホームエレクトロニクス(株)などの子会社再編および資産処分などの事業構造改革費用や有価証券の減損処理をする一方、NECソフト(株)の株式上場等に伴う株式売却益や海外生産拠点の製造受託専門会社への売却益などを計上した結果、税引前利益は923億円(前連結会計年度比621億円増)、当期純利益は566億円(前連結会計年度比462億円増)となった。

 

また、フリー・キャッシュ・フローは、財務構造改革の促進により2,490億円の収支超過となり、有利子負債は1兆6,843億円(前連結会計年度比2,729億円減)、デッド・エクイティ・レシオ(株主資本に対する有利子負債の割合)は、1.84倍(前連結会計年度比0.16倍減)に改善した。

 

セグメント別の業績は以下のとおりである。各セグメントの売上高およびセグメント利益にはセグメント間取引を含んでいる。

 

. NECソリューションズ

 

 (売上高)

NECソリューションズの売上高は、前連結会計年度に比べ422億円(2%)減少し、2兆2,285億円となった。電子商取引などのe-ビジネス関連プロジェクトの増加やインターネットの普及によるインターネット・サービス事業「BIGLOBE(ビッグローブ)」の拡大により、ソフトウェア・サービスの売上は増加した。ハードウェアについては、企業や自治体による情報化投資の遅れによりメインフレームやオープン系のサーバ、ワークステーションの売上が減少した。また、海外では、世界的なパーソナルコンピュータ市場の減速および北米市場における個人向けパーソナルコンピュータ事業の収束により前連結会計年度比減収となった。

 

 (セグメント利益)

セグメント利益は、ほぼ前連結会計年度並みの841億円(前連結会計年度比4億円減)となった。ハードウェアは売上減少により前連結会計年度比減益となったが、ソフトウェア・サービスの収益性改善をはかり、セグメント利益率は前連結会計年度並みの3.8%となった。ハードウェア分野では、サプライ・チェーン・マネジメントの推進やコストダウン施策を実施したものの、下半期のパーソナルコンピュータの急速な価格下落やメインフレームの売上減少により前連結会計年度比悪化した。ソフトウェア・サービス分野では、システム・インテグレーション・サービスにおける生産性の向上やソフトウェア開発の重点化などにより利益率が向上した。


. NECネットワークス

 

 (売上高)

NECネットワークスの売上高は、前連結会計年度に比べ3,066億円(20%)増加し、1兆8,344億円となった。国内市場は、従来の固定系インフラ機器の売上が減少したが、iモード対応携帯電話機や通信事業者によるIPネットワーク構築投資により売上が増加した。海外については、北米市場では通信事業者によるインフラ投資抑制により大容量の光ファイバー伝送システムが減収となったが、アジア市場では海底ケーブルシステムを中心に好調に推移し、中南米市場においても交換機や無線アクセス回線などのインフラ投資により、売上が増加した。一方、欧州市場では携帯電話機ビジネスの再編を実施した影響により、売上が減少した。

 

 (セグメント利益)

セグメント利益は、前連結会計年度に比べ260億円(46%)増加の831億円となり、セグメント利益率も前連結会計年度の3.7%から4.5%に改善した。これは、次世代通信インフラ機器の戦略的な開発投資はあるものの、国内市場におけるiモード対応携帯電話機や通信インフラ機器の売上が大幅に増加したことによる。

 

. NECエレクトロンデバイス

 

 (売上高)

NECエレクトロンデバイスの売上高は、前連結会計年度から引き続いたパーソナルコンピュータ、携帯電話機、デジタル家電機器などに対する需要を背景に、前連結会計年度比1,061億円(9%)増加の1兆2,289億円となった。これは、カラー液晶ディスプレイが市況軟化により減収となったものの、上半期において液晶ディスプレイ駆動用IC、光半導体などの個別半導体やシステムLSIが増加するとともに、半導体メモリが好調であったことによる。

 

 (セグメント利益)

セグメント利益は、前連結会計年度に比べ188億円(38%)増加の683億円で、セグメント利益率も前連結会計年度の4.4%から5.6%に改善した。この改善は、個別半導体やシステムLSIの売上が好調であったことに加えて、特に上半期においてメモリの価格が上昇したことによる。

 

. その他

 

 (売上高)

液晶プロジェクタ、航空機用電子機器、半導体製造装置、公害防止機器、家庭電気製品などの製造および販売や電気通信工事、物品運輸・保管、福利厚生サービスなどから構成される「その他」のセグメントの売上高は、前連結会計年度に比べ185億円(3%)増加し、7,424億円となった。


 (セグメント利益)

セグメント利益は202億円で、前連結会計年度の27億円の損失から230億円の改善となり、セグメント利益率は2.7%となった。これは、半導体製造装置、航空機用電子機器、電気通信工事などの採算性が改善したことによるものである。

 

地域別セグメントの状況は以下のとおりである。

 

. 日本

メインフレーム系の情報関連機器やカラー液晶ディスプレイは低迷したもののiモード対応携帯電話機やe-ビジネス関連のシステム・インテグレーション・サービス、インターネット・サービス事業「BIGLOBE」などが伸長したことに加え、携帯電話機向けデバイスやパーソナルコンピュータが堅調に推移したことにより、売上高は4兆3,082億円と前連結会計年度比5,622億円の増加(前連結会計年度比15%増)となった。地域別利益は売上の増加等により、1,701億円と前連結会計年度比500億円の増加(前連結会計年度比42%増)となった。

 

. 北米

北米市場における個人向けパーソナルコンピュータ事業の収束および通信事業者によるインフラ投資抑制などにより、売上高は3,796億円と前連結会計年度比1,421億円の減少(前連結会計年度比27%減)となった。地域別損失は個人向けパーソナルコンピュータ事業収束により、29億円と前連結会計年度比108億円減少した。

 

. その他

売上高は7,220億円とほぼ前連結会計年度並みとなったが、アジア地域における携帯電話機向け電子部品やハードディスク事業の収益性改善等により、地域別利益は180億円と前連結会計年度比132億円の増加となった。

 

(2) キャッシュ・フロー

当連結会計年度末の現金および現金同等物は、前連結会計年度に比べ129億円増加し、3,868億円となった。

 

営業活動により増加したキャッシュ(純額)は3,605億円となり、増加額は前連結会計年度に比べ980億円の減少となった。この減少は、売上伸長による売上債権の増加や平成13年度出荷対応のたな卸資産の増加によるものである。また、減価償却費は設備投資の重点化や設備のリース化を実施したことに加えて、海外生産拠点の売却などにより、前連結会計年度に比べ108億円減少し、2,501億円となった。

 

投資活動により減少したキャッシュ(純額)は1,115億円となり、減少額は前連結会計年度に比べ2,019億円の増加となった。これは、不動産や市場性ある有価証券の売却が前連結会計年度に比べ大幅に減少したことに加えて、半導体を中心とした戦略的な設備投資が増加したことによるものである。

 

財務活動により減少したキャッシュ(純額)は2,400億円となった。これは、ゼロクーポン無担保第11回転換社債の新規発行を実施する一方、借入金の返済や社債の買入消却などを実施したことによるものである。


2. 【生産、受注及び販売の状況】

当社および連結子会社の生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多く、セグメントごとに生産規模、受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていない。

このため、生産、受注および販売の状況については、「1.業績等の概要」におけるセグメントの業績に関連づけて示している。

平成11年度および平成12年度において、それぞれ連結売上高の11.6%および13.2%を占める主要顧客があり、その売上は主にNECソリューションズおよびNECネットワークスの売上に含まれている。

 

 

3. 【対処すべき課題】

当社が平成12年4月に社内カンパニー制を軸とした新経営体制へ移行してから1年が経過した。この間、事業の種類別セグメントごとに、ターゲット顧客・市場を設定し、世界市場における競合企業を見据え、市場変化に即応した事業運営を推進する経営体制の構築を進めた。

当社企業グループのさらなる成長・発展に関しては、今後到来する次世代インターネット社会「iSociety(アイソサエティ)」に向けて事業展開をはかることとし、二大潮流であるブロードバンド化(通信ネットワークの高速・大容量化)とモバイル化(移動通信の普及・発展)に焦点を合わせ、グローバル・リーダーを目指して強化すべき中核事業領域に経営資源を集中してきた。

また、当連結会計年度においては、事業の選択と集中を進める中で、当社企業グループ全体を視野に入れた事業の統合、再編を行った。1つの事業部門だけでは競争力を維持できない事業については他部門との統合をはかり、また単独では十分な経営資源を投入できない事業や他社の技術、ノウハウを活用することにより一層の成長が期待できる事業については積極的に他社との提携を進めるなど、ダイナミックな事業強化を実行してきた。

今後さらに、世界市場における競合企業とのベンチマークを徹底的に行い、事業の選択と集中を一層推進することにより、グローバルな競争に勝てる事業の育成・強化、景気変動の影響を受けにくい強固な事業体質の構築に努めることが重要であると考えている。そこで、当社企業グループとしては、そのような観点から次の課題に取り組んでいくこととしている。

(1) 一層の事業の選択と集中による事業競争力の強化

    ・ グローバル・リーダーを目指す事業への集中

    ・ 中核事業領域以外での事業の統合および再編

(2) 事業構造の転換を促進するための経営施策の実行

    ・ 資材費を中心とした変動費削減策の実行

    ・ 先進IT(情報技術)の活用による経営管理システムおよび業務プロセスの改革

    ・ 事業競争力強化に向けた新人事制度の推進

    ・ 生産機能の見直しおよび生産体制の再編


4. 【経営上の重要な契約等】

(1) 重要な技術導入、提供契約

平成13年3月31日現在における重要な技術導入、技術提供等の契約は、次のとおりである。

 

項目

当事者

契約の内容

契約期間

当社とエイ・ティー・アンド・

ティー社(米国)

情報取扱装置に関する特許の相互実施許諾

自:昭和63年1月1日

至:対象特許の終了日

当社と

インターナショナル・ビジネス・

マシーンズ社(米国)

情報取扱装置に関する特許の相互実施許諾

自:平成8年1月1日

至:対象特許の終了日

当社とインテル社(米国)

半導体装置等に関する特許の相互実施許諾

自:平成4年1月29日

至:対象特許の終了日

当社とシーメンス社(ドイツ)

デジタル移動通信機器に関する特許の相互実施許諾

自:平成11年3月2日

至:対象特許の終了日

当社と

テキサス・インスツルメンツ社

(米国)

半導体装置に関する特許の相互実施許諾

自:平成9年5月19日

至:平成17年12月31日

当社とハリス社(米国)

半導体装置に関する特許の相互実施許諾

自:平成9年5月22日

至:対象特許の終了日

当社とマイクロソフト・

ライセンシング社(米国)

パーソナルコンピュータ用基本ソフトウェアの利用許諾(導入)

自:平成13年1月1日

至:平成14年1月31日

当社とラムバス社(米国)

半導体メモリおよび半導体コントローラに関する特許の実施許諾(導入)

自:平成12年4月1日

至:平成17年3月31日

 

(2) その他の重要な契約(合弁契約)

 

項目

当事者

契約の内容

当社とサムスン・エスディーアイ社(韓国)

有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)ディスプレイの開発、製造および販売を目的とする合弁会社サムスンNECモバイル・ディスプレイ社(韓国法人)の設立


5. 【研究開発活動】

当社および連結子会社における研究開発活動のうち、当社は、今後の成長領域であるインターネット分野における事業推進の基盤となる新技術の研究開発などに取り組んできた。当連結会計年度における当社の主要な研究開発成果は次のとおりである。

 

(NECソリューションズ)

大型高性能ディスクアレイ装置の開発

インターネット・サービス提供事業者などの大規模データセンターや高信頼性が要求される大規模基幹システムなどの構築に最適な大型高性能記憶装置として、業界最大となる最大31テラバイトの記憶容量を有するディスクアレイ装置「iStorage(アイストレージ) 4100」を開発・製品化した。「iStorage 4100」では、新世代アーキテクチャであるクロスバースイッチ技術の採用により毎秒12ギガバイトの高速データ伝送を実現するとともに、キャッシュメモリを二重化することなどにより高信頼性を実現した。

 

(NECネットワークス)

W-CDMA方式による第三世代移動通信システムのネットワークインフラ装置および端末の開発

W-CDMAは、音声だけでなく、静止画像や動画像のリアルタイム通信など、現行の携帯電話に比べ高速・大容量の通信を実現する第三世代の移動通信技術である。当社は、W-CDMAシステムを構成する主要なネットワークインフラ装置のすべて(移動通信交換機、マルチメディア信号処理装置、無線ネットワーク制御装置および無線基地局装置)を開発・製品化した。また、様々なマルチメディア・サービスに対応できるW-CDMA携帯端末の開発にも成功した。

 

(NECエレクトロンデバイス)

最先端プロセスを採用したシステムLSI設計基盤「CB-130」の開発

世界最小のゲート長0.095マイクロメートルのトランジスタを用いたCMOSプロセス「UX5」を採用し、システムLSI設計基盤「CB-130」セルベースファミリを開発した。このシステムLSI設計基盤の特長は、高性能配線技術の採用により1ギガヘルツを超える超高速動作を実現したことや、当社従来品比で約30%減の低消費電力および約1.9倍(最大6,200万ゲート)の高集積化を実現したことである。

 

(その他)

上記の社内カンパニーのほか、全社的な基盤技術の研究を担当する部門(NECラボラトリーズ)において、世界最大容量のWDM光伝送に成功した。

波長の異なる複数の光信号を多重化するWDM(波長分割多重)伝送において、世界最大の伝送容量である毎秒10.9テラビットの信号を、一本の光ファイバで117Kmにわたり中継伝送することに成功した。これにより、100万を超える家庭で同時にビデオ画像を送受信することが可能になる。この世界最大容量のWDM光伝送は、(i)ツリウム元素を用いた1.49マイクロメートル帯光増幅器、(ii)実用化済みの1.55マイクロメートル帯および1.58マイクロメートル帯の光増幅器と新開発の1.49マイクロメートル帯光増幅器とを合わせた3波長帯のWDM伝送技術、ならびに(iii)光信号の多重度を従来の2倍に高めることのできる偏光多重・分離技術の開発によって実現した。

 

(注)1テラは1兆、1ギガは10億の単位


また、当社以外の研究開発活動においては、国内においては、当社製品の生産を担当している会社の一部において新製品の開発を行っているほか、日本航空電子工業(株)、アネルバ(株)など独立した事業基盤を有する会社において、基盤技術の研究開発および各社の事業運営に直結した新技術、新製品の研究開発を行っている。また、海外においては、NECアメリカ社、NEC USA社、NECヨーロッパ社、NECリサーチ・インスティチュート社などにおいて、インターネット分野における事業推進の基盤となる新技術の研究や、新しい材料科学、デバイス物理、コンピュータ科学などに関する基礎研究を行っている。当連結会計年度における当社および連結子会社全体の研究開発費は、344,957百万円であり、これを事業の種類別セグメントごとに示すと次のとおりである。

 

NECソリューションズ

58,430百万円

NECネットワークス

131,416百万円

NECエレクトロンデバイス

105,202百万円

その他

49,909百万円