デジタル金融の潮流が本格化しつつある。
こうした中で、昨年NECはスイスの大手金融ソフトウエア企業
Avaloq Group AG(以下「Avaloq」)を買収。
金融資産管理ソフトウエア分野で世界シェア
トップクラスのAvaloqがグループ入りしたことで、
NECはデジタル金融における強みをさらに高めた。
「NEC×Avaloq」のポテンシャルと新たな価値創造について、両社のキーパーソンが語り合った。
先行する欧州市場から学ぶ
―まずAvaloqの事業概要、並びにNECによる買収についてうかがいます。
グレヴェルディンガー 創業約35年のAvaloqはスイスに本拠を置いています。金融分野のイノベーションとデジタルソリューションに注力しており、特に金融資産管理のバリューチェーン全体をサポートしています。そこにはエンドユーザー向けのソフトウエアから、ミドル・後方事務向けの基幹系ソフトウエア、そして人工知能(AI)を活用したサービスなどのソリューションも含まれます。中でも、ウェルスマネジメント分野では、世界トップクラスのシェアを獲得しています。世界的に有名な金融機関の多くがAvaloqのお客様であり、Avaloqのプラットフォーム上では総計5兆ドルの資産が運用されています。
岩田 NECは2020年、Avaloqを買収し子会社化しました。背景にあるのが、金融ビジネスにおける変革の動きです。預金や融資といったビジネスを取り巻く環境は厳しさを増しており、金融機関には新しいビジネスモデルが求められています。そこで、大きなポテンシャルが期待されている領域の一つがアドバイス業務です。Avaloqは資産運用アドバイス向けソフトウエアの分野で多くの実績があります。一方、NECには通信、AIセキュリティー、ブロックチェーンなど先端技術の厚みがあります。デジタル時代が本格化する中で、アドバイスのパーソナライズをはじめ、両社の協力による価値向上の機会は多いと考えています。
キーワードは「富の民主化」
―デジタル金融におけるNECの戦略とその社会的な意義、その中でのAvaloqの位置づけについてお聞かせください。
岩田 大きく3つの方向性があると考えています。第一に、金融サービス業のお客様に対して、デジタル技術を活用したビジネスプロセス変革をサポートすること。第二に、日本におけるデジタル金融のインフラづくりを支援したい。第三に、グローバル市場に対して金融のクラウドサービス(SaaS)を提供する。これらを実行する上で、技術的な視点だけでなく、いかに社会実装するかという視点が不可欠です。日本の文化を踏まえ、多くの人々に受け入れてもらえるようなビジネス習慣の変化も進めなければなりません。デジタル金融と気候変動対策のためのサステナブルファイナンスなどで先行する欧州での実践経験から学ぶべきものは多いです。そうした知見についても、Avaloqには期待しています。
グレヴェルディンガー 欧州では最近、ESG(環境・社会・企業統治)投資やサステナブルファイナンスへの動きが目立ちます。お金や投資に関する人々の考え方、意識も変わりつつあります。
岩田 日本において現預金中心の状況は課題とされていますが、見方を変えれば機会でもあります。また、グリーンはコロナ後の日本や世界が繁栄していく上で取り組むべきテーマであり、グリーン社会実現のためには個人資産の最適な動員がとても重要です。欧州の知見から学び、グリーン関連のイノベーション領域に投資動員を可能としていくデータとデジタルツール整備は日本にとって必須だと思います。
グレヴェルディンガー 日本の巨大な個人金融資産が、ギャンブル的な投資ではなく、良識な判断のもと、サステナブルな投資に向かうことの意味、インパクトは世界にとっても非常に大きい。私たちは「富の民主化」というキーワードを掲げています。ウェルスマネジメントは従来、富裕層へのアドバイス提供を主眼に置いてきました。デジタル技術により、同じようなサービスをもっと幅広い層に届けることが可能になります。欧州では以前、投資を社会的な活動と捉える考え方は希薄でしたが、いまでは盛んに語られるようになりました。人々の社会参加活動としての投資、私たちは富の民主化を通じて、こうした議論の深化にも寄与したいと考えています。
2021年3月12日付 日本経済新聞朝刊広告企画より転載