日本企業はSDGsにどう取り組むべきか: Digital Finance Inspiration | NEC

サイト内の現在位置

Digital Finance Inspiration

デジタルファイナンスに新しい視点を提起するコンテンツサイト

日本企業はSDGsにどう取り組むべきか

日本企業はSDGsにどう取り組むべきか

SDGsを社会に対する義務と捉えて「対策」するのか。あるいはビジネスを抜本的にサステナブルなものに変革する機会と捉えて「対応」していくのか。 企業経営者は今、決断を迫られている。グローバル企業の取り組みを熟知し、戦略コンサルティングの最前線に立つモニターデロイトの藤井剛ジャパンリーダーに、世界の潮流を踏まえた日本企業の取り組み方について、寄稿いただいた。

2015年に国連で採択されたSDGsは、国内経済界には2018年後半頃から急速に浸透した。本稿を執筆している2020年11月時点で、もはやSDGsとは何かの基本的な説明をする必要はないだろう。 一方で、色とりどりのアイコンを貼り付けた中期経営計画を発表する日本企業や、SDGsの丸バッジを付けて会見に臨む経営者の中で、いかほどが「『企業がSDGsにコミットすること』が持つ意味はどのようなことか」という問いに本質的に答えられるだろうか。

企業にとってSDGsとは何か

一般的に企業にとってSDGsの捉え方は、まず「守り」と「攻め」の2つに大別できる。「守り」の視点から見えるSDGsは、今後強化が予想される法令・規制や、ESG(環境・社会・ガバナンス)対応で チェックすべき社会課題領域リストである。ここでのSDGsは「外部規範」としての顔を持つ。一方「攻め」の視点に映るSDGsは、自社の持つ技術や資産を活用し得る社会課題を考案する際の、 発想のヒントが埋め込まれた「宝の山」である。この文脈でよく引き合いに出されるのが、世界経済フォーラム「ビジネスと持続可能な開発委員会」が打ち出した「SDGs達成で年間12兆ドルの 事業機会開拓が可能」という試算である。ここでのSDGsは「外部機会」として認識されている。

見落としてはならないのは3つ目の捉え方である。それはSDGsを長期経営の「土台」に位置づける視点である(図1)。

前述の「ビジネスと持続可能な開発委員会」は、12兆ドルの試算の前提として、次のような警告を発している。

「この(12兆ドルの事業機会の)ために企業は、市場シェアや株価の追求に投じているのと同等のエネルギーを社会と環境のサステナビリティ実現に投入する必要がある」
「多くの企業がビジネスモデルの変革に踏み出さなければ、不確実性と持続可能な開発によるコストが増大し、いずれビジネスが不可能な世界が訪れる」

この警告は、グローバル資本主義経済の拡大と企業の短期利益至上主義が、さまざまな社会課題を深刻化させ、その結果ブーメランのように、自然災害の増加や社会からの批判 ・炎上を招き、企業経営の持続可能性を阻害していることに気づくべきだと訴えている。すなわちSDGsを「外部規範」や「外部機会」など「外」のものとする見方そのものを戒め、 企業が長期的に生存するという「内」なる動機と捉えなければならないことを示しているのだ。

さらに言えばSDGsは、これを企業経営の「土台」として、事業ポートフォリオやビジネスモデル、サプライチェーンを、抜本的にサステナブル(持続可能)なものに変革することで、 自社利益の成長と社会価値創造をトレード“オン”の関係にするべきだと、経営者に問いかけているのだ。「SDGsへのコミット」は、換言すれば、「自社の事業が成長すればするほど、 世界が良くなる(地球や社会から課題が減っていく)」ような事業構造に、抜本的に転換することへの誓いを意味すると言える。

ユニリーバやデュポンなどのグローバル先進企業は、このようなサステナビリティの底流を流れる「問い」にいち早く気づき、過去15年ほどかけて「土台」の変革にすでに取り組んできている。 彼らは、自社の経営改革を進めるだけでなく、社会価値創出が自社の競争優位や企業価値増大につながるための世論・ルール作りも積極的に進めてきた。実はその一環として、 国連のSDGs策定プロセスにも積極的に関与していたのだ。これら先進企業にとってSDGsとは、「外から降って湧いた新しいアジェンダ」ではない。自社が戦略的に推し進める 経営変革に対する社会的な後押しを得んがための、関連ステークホルダーとの共有ビジョンだ。

日本企業もこのサステナビリティ底流を理解した上で、SDGsを「土台」と位置づけ、経営改革を急ぐ必要がある。

COVID-19がSDGsへの取り組みを加速

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大への各国政府の対応による生産活動への著しい制約を前に、多くの企業が足元の感染予防やリモートワークの導入などの対応に追われたことから、 SDGsへの取り組みは岐路に立つ(優先順位が下がる)と見る向きもあった。しかしながら実態は、多くの企業で、気候変動をはじめとするSDGsやサステナビリティへの取り組みが逆に加速したようだ。

その要因は第一に、コロナ禍が「SDGsが達成されない2030年の世界」を世界中の人々に垣間見せたからにほかならない。SDGsより以前に、世界はHIV / AIDSを始めとした深刻なパンデミックに直面した経験を持つことから、SDGsはパンデミックの予防をもともと掲げていた。それにもかかわらず、パンデミック対策に向けた予算削減を続けてきた国ほど、医療崩壊など甚大な影響が出たことで、SDGsの重要性が再確認される引き金となった。

第二に、近年新たに発生した感染症の多くが「人獣共通感染症(zoonosis、ズーノーシス)」であり、ズーノーシス頻発の背景にあるとされるのが、森林伐採、資源採掘、農地開墾、沿岸開発などの 過度な経済活動に伴う野生動物の生息域の移動と人獣接触機会の増加である、という考え方が広く知られるようになったことも挙げられる。これはPlanetary Health(地球の健康)という新たな学際研究の成果である。地球資源利用のあり方がパンデミックを引き起こすドライバーであるという意味においては、地球環境問題対策はコロナ禍を経て、 さらに加速していくことが必定だ。

第三に、国際社会や資本市場が“Build B ackBetter”での経済復興と、サステナビリティを中心に据えた経済システムへの転換を強く求めたことが挙げられる。欧州では、180名の政治指導者、 大手企業経営者、労働組合やNGOらが賛同する形で、コロナ後の経済復興の軸に、EUの経済戦略「グリーンディール」を据え、カーボンニュートラルな経済への移行を加速すべきと訴えた (「グリーン・リカバリー・アライアンス」)。結果として、たとえば、COVID-19で経営危機に陥った航空会社の救済条件として、大幅な環境負荷削減を課す政策が現実に採られたことは印象深い。 いまだ日本政府は、大きな痛手を受けた産業を中心とした緊急経済対策を採るに留まっているが、政府が今後、菅義偉首相の『2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロ』の誓約にコロナ 復興支援を連関させるような動きを見せれば、SDGsに向けた取り組みはさらに加速していくだろう。

COVID-19が及ぼす社会への影響は、SDGsの17ゴールに照らして分析することで俯瞰的に把握しやすい(図2)。全体を俯瞰して気づくのは、特にESGでいうS(Social:社会)領域にあたる 、所得、ジェンダー、障害、人種、雇用形態といった、危機前にも存在していた格差の断層が、より深刻な結果を伴う形で顕在化していることだ。これまでESG投資においては、E(Environment:環境)重視の 傾向がみられたが、今後はSの比重も高まることが予想される。

これらは、今後企業が社会課題を個別サイロ的に捉えるのではなく、課題間の相互リンケージに対する深い洞察をもって、複数の社会課題を同時に解決し得るビジネスモデルの 確立を目指すべきであることを示唆している。例えば、脱炭素に向けた産業のシフトに際して、「既存の化石燃料産業から多くの離職者を出してしまうのではS領域の課題が深刻化してしまいかねない。 そうではなく、多くの新規雇用を伴うインクルーシブな移行にすべき」との要求が、労働組合やNGOから上がっている。「Just Transition(公正な移行)」と呼ばれるこの考え方は、パリ協定やEUの「グリーンディール」にも盛り込まれ 、国連責任投資原則(PRI)の投資家向けガイダンスも発行されるようになっている。このJust TransitionをはじめとするEとSの統合的アプローチが、サステナビリティ経営において今後さらに求められることになるだろう。

では、どのようにSDGsに向き合い、経営改革を進めるか

筆者がさまざまな業界の企業経営者と対話をする中で、昨今「SDGs /サステナビリティ経営に本腰を入れたい」という非常に喜ばしいご意志をうかがう機会が増えてきた。 しかしながら、よくよく話に耳を傾けてみると「本腰を入れる」という言葉の意味合いには、企業によって幅があることに気づく。 日本企業が現在取り組んでいるサステナビリティ経営への「本腰の入れ具合」は、筆者の実体験から類型化すると、大きく3つの段階に区分できる。

第1段階は、あくまでモチベーションの源泉が「外部」にある。有り体に言えば、世の中一般と比較して遜色ない水準までSDGsに取り組んでいることを外部のステークホルダー (特にESGという観点で資本市場)に示すために、経営者およびコーポレート部門中心に社内の一部で活性化し対応を進めている段階だ。サステナビリティを重要な経営アジェンダとして 外部にも積極的に発信しているが、実態は、企業全体のリソースを巻き込むような取り組みにまでは至っていない。 いまだ大半の日本企業はこの段階に留まっているようだ。

第2段階は、サステナビリティが全社的に重要なアジェンダとして合意され、事業部門側のリソースも活動に組み込まれ、企業全体の経営管理プロセスに社会的価値に関する非財務指標の 管理が埋め込まれた段階だ。 企業によっては非財務指標の達成度を人事評価にまで直結させている例もある。事業部門側においても、既存のビジネスモデルやサプライチェーンに関連のある社会課題/非財務指標が認識され、 既存の事業戦略の方向性を“大きく変更しない範囲で”、最大限サステナビリティへの取り組みが行われる。この段階に取り組む日本企業が顕著に増えてきたことが直近1〜2年の大きな変化だろう。

第3段階と第2段階の大きな差異は、戦略自体に表れる。第3段階を目指す企業は、事業部門側が、社会価値創造を競争戦略のコアに据え、自社の差別化のために積極的な投資をする。 前述のユニリーバやデュポンといったグローバル先進企業のように、自社が取り組む社会価値創出活動が自社の競争優位や企業価値増大につながる(すなわち社会価値創出活動がカネになる) ための世論・ルール作りも企業として積極的に進める。 これにより本質的に「事業が成長すればするほど、世界が良くなる(地球や社会から課題が減る)」ような事業構造への転換を進めるのだ。 筆者がコンサルティングをしている企業には、この第3段階に向けて変革を進めている企業も多い。

特にこの第3段階に向けた変革は、小手先では不可能だ。経営者から従業員まで、社会課題の解決あるいは社会価値の創出が、「義務」ではなく「戦略」であり、自社の競争優位の強化や 事業成長にとって必須であることに腹落ちしていなければならない。このために必要な変革の第一歩は、経営者から従業員までが共有・共感できる「戦略ストーリー」の構築である。 戦略ストーリーは、①自社の経営目標、②事業領域、③各領域での戦い方、④組織能力、⑤マネジメントシステムの5つの一連の“問い”に対する選択肢(戦略カスケード、図3)を、 1つのストーリーに紡ぎあげることで定義できる。この5つのすべてにSDGsを埋め込むことで、「土台」からのサステナビリティ経営への変革の道筋を示すことができるのだ。

なお、第2段階で示した取り組みは、この戦略カスケードの中では⑤に比重を置いたものと言える。対して第3段階では、②や③に代表される事業戦略の根幹にSDGsが埋め込まれる点で、両者の差異は明らかになるだろう。

SDGsを起点にポートフォリオ変革(PX)を進める

以下では、前述の第3段階を目指す日本企業が、実際に進めている経営変革現場での筆者の経験を基に、もう一段具体的なSDGsへの取り組み方についてご紹介したい。 1つ目は、内発的にSDGsを基軸として、PX(Portfolio Transformation:事業ポートフォリオ変革)を進めるアプローチだ。

2030年に向けて、デジタルとサステナビリティがドライブする不確実な環境が続いていく。旧来の産業の枠を超えた新たなエコシステムが、社会課題解決という大義の下で、 デジタルとリアルが融合したプラットフォームを創出・拡大することで新産業として成長し、既存産業を圧迫・破壊していく可能性がある。たとえば、気候変動に続く巨大な アジェンダであるサーキュラーエコノミー(循環型経済)は、モノを製造し消費する「動脈産業」に代わり、モノを循環させ再利用する「静脈産業」が成長産業になる可能性を 示唆している。加えて、シェアリングの普及と相まって、消費者側にもモノを購入せずに利用する傾向がさらに高まり、従来型製造業のビジネスモデルの抜本的転換が促されるだろう。

このような視座で自社の中長期的な事業ポートフォリオ戦略を考えようとすると、旧来型の、事業ドメイン/事業領域ごとの市場成長率/市場シェアや財務的な収益性を基に した事業ポートフォリオ評価手法のみでは見誤る。自社が中長期的に「どこで戦うか」を、改めて社会的価値と経済的価値の両面から評価・検討する上では、世界の重要な社会課題を 網羅したSDGsを事業機会に読み替えた上で、自社にとって有効な事業機会を特定し、事業領域としてくくり直すアプローチが有効だ。縦軸に社会課題がもたらしている経済損失額を、 横軸に社会課題解決に向けて活用し得る広い意味での自社のケイパビリティ(能力)との相性をとるオポチュニティ・センシング・マトリックス(図4)が、事業ポートフォリオの再構築に向けたヒントをもたらす。

ここで縦軸の社会課題による経済損失額は、まだ市場として顕在化していないブルーオーシャンを含む潜在市場規模と読み替えることができる。本来は政府が取り組むべき分野であっても、自らルール形成を仕掛けていくことで市場化し 得るかもしれない。実務的には、分析対象とする地域・国や、プロットすべき各事業機会の粒度に留意する必要がある。また横軸においては、社会課題解決に向けて活用可能な「広い意味での」自社が有する資産やケイパビリティをスコアリングすることで 、自社の勝ち目の多寡や、なぜ自社が「事業機会A」に取り組むかのストーリーを見い出すのがポイントだ。

このマトリックスで右上に位置づけられる事業機会が、将来の事業領域を再定義するための優先分野となる。一部の事業機会は、相通ずる社会課題で掛け算し、くくり直すことにより、事業領域として再定義できる。 また、旧来の手法では成長余地が見えづらかった既存事業についても、優先事業機会との掛け算で事業領域を再定義することで、新たな成長機会を見い出すことにもつながる可能性がある。

例えば、あるエネルギー系企業は、事業ポートフォリオの大部分を占める化石燃料系事業からの脱却を目指し、再生可能エネルギー領域などの割合を大幅に増やすことに加え、中長期的にシュリンクしていく化石燃料系事業の提供価値を、 世界最高水準の低炭素化と再生可能エネルギーへのシフトの実現と変更し、デジタル技術を活用したサービス事業も組み込み、新たな成長事業として再定義した。また、あるIT関連企業は、産業別に区切られていた事業領域を、 いくつかの重要な社会課題軸に区切り直すことで、各産業に属する顧客が現在あるいは今後直面する社会課題解決を協働するパートナー、という新たな提供価値を定義し、競合との差別化を図ることを目指した。

事業領域ごとに、社会課題に通ずる「大義」が定義され、その大義の下に、「どこで戦うか」(事業領域を構成する個別事業)、「どう勝ち抜くか」(事業領域としての勝ち筋)の順に戦略カスケードに落とし込んでいくことで、 SDGs起点の新たな事業ポートフォリオと事業領域ごとの戦略ストーリーが定義・共有されることになるのだ。

SDGsを起点にイノベーション/新規事業を創出する

SDGsは、新規事業の種たる、世界の骨太な社会課題が網羅された枠組みである点で、新規事業を検討するための「的」として有効だ。

前述のオポチュニティ・センシング・マトリックスが、新規事業開発や技術研究開発のターゲット領域の評価においても、そのまま活用可能である。国内だけでも1兆円をゆうに超えるような経済損失=潜在市場規模がある 社会課題/事業機会は、大企業で、次世代の事業の柱になり得る一定規模の新規事業を探索する場合にも有効だ。また、各社会課題領域において、DeepTechとも呼ばれるスタートアップが世界的に増加しており、 ユニコーン企業も生まれている。自社が優先事業機会と定めた領域において活躍するスタートアップの企業価値を積み上げることで、事業機会の大小を評価することも有効だ。なお、モニター デロイトの最新の調査によれば、COVID-19前後でサステナビリティに関連するスタートアップへの投資額は大きく増加している。これもCOVID-19がSDGsやサステナビリティを加速している証左とも言える。

ターゲットとする事業機会がフォーカスされた後は、事業コンセプト策定とビジネスモデルデザインに入る。モニター デロイトは、世界的に有名な“Ten Types of Innovation”というビジネスモデルデザイン手法など、 確立されたアプローチを有しているが、そちらは参考図書に譲る。以下では特に、社会課題を起点に骨太な新規事業を産み出していく上で、特有のポイントをいくつか紹介する。

ターゲットとする顧客の課題を特定し、その課題を解決する提供価値を実現するビジネスモデルをデザインすることが基本であることは言うまでもない。ただし、今後サステナビリティが世界的に重要になっていく中では、 そのような特定顧客への課題解決を自社周辺に閉じて進める(Ego-System)のではなく、場合によりセクター間を跨ってパブリックセクターやソーシャルセクターとも 協働するところまで広げたアプローチをデザインする(Eco-System)ことが有効だ(図5)。ソーシャルセクターとは社会価値創出という大義の下に世論形成(アドボカシー)を、パブリックセクターとは公益に寄与するルール整備を、 それぞれ連携しながら、新たな市場の創造・拡大を並行して進めるのだ。このように世論や市場のルールをパブリックセクターやソーシャルセクターも巻き込んで作っていくアプローチが、日本企業は圧倒的に不得手であり、克服すべきポイントの1つだ。

SDGsで特定されている世界共通の社会課題は、これまでもさまざまな打ち手が試されてきたものの、その打ち手に限界があったからこそ、社会課題として依然存在している。 この「既存の打ち手の限界」がどのようなものかを把握することに加え、「新しい打ち手」について、自社内のアイデアや技術を過信せず、限界を打破し得る最先端のアイデアを、 世界中のスタートアップやNGOなどの取り組みも広く探索し、参考にすることが有効だ。場合によっては、参考になるスタートアップやNGOなどと実際にパートナシップを結ぶことも 選択肢の1つとなるだろう。特に、NGOとの協働によるオープンイノベーション力の向上は、今後の日本企業にとっての喫緊の課題だ。 NGOは社会課題の最先端の現場で社会課題動向や解決ニーズに触れている、言わば“社会課題エキスパート”だ。企業は、NGOとの連携が、新しい大規模市場の発掘から、事業モデル構想に関する “スパーリング”、世論喚起とルール形成、新事業立上げまで、事業創造プロセスに一貫してメリットをもたらすことを認識しておくと良い。

最も変えなければならないのは「経営の時間軸」

SDGsに向き合い、本質的な経営改革を進めようとする日本企業の多くがぶつかる壁がある。「中期経営計画」に象徴される3~5年単位をサイクルとする経営の時間軸だ。

3~5年という時間軸は、従来の直線的な変化を前提とした時代にはそれなりに有効だっただろう。しかし、不確実性が増すこれからの時代においては、逆に経営の足枷となりかねない。 本質的な経営変革を進めたり、骨太な新規事業を創造するには、3~5年という時間軸では短すぎるのだ。

米国デロイトのシンクタンクであるセンター・フォー・ザ・エッジでは、「超長期」と「超短期」という2つの時間軸を用いて経営の舵取りを行う経営モデルを「ズームアウト(Zoom-out:超長期)・ズームイン(Zoom-in:超短期)」と名づけ 、増大する不確実性に対応した新たな時間軸の考え方に基づく経営モデルとして広く提唱している(図6)。このモデルは、シリコンバレーに本拠を置くGAFAに代表される先進テクノロジー企業の経営実態に関する研究を通じて導出されたものだ。 先進テクノロジー企業は、世界を一変させるようなアイデアを具現化するために、10年単位の長期の研究開発や事業開発に経営としてコミットしつつ、足元では、日進月歩で変わる技術トレンドや 市場環境に短サイクルで柔軟に対応しながら経営の舵取りをしているのだ。

この経営モデルにおいては、まずズームアウト(超長期)の視点に立って、自社を含む業界や社会全体の10~20年後の長期ビジョンを定める。 そして、そのビジョン達成のために自社として取り組むべき最も有望な事業領域や競争戦略を特定し、長期視点での研究開発や事業開発を明確にプライオリティづけされた形で計画・展開する。 一方、ズームイン(超短期)の視点では、長期ビジョンや戦略の実現に対して最もインパクトを与え得る取り組みを厳選し、それらに関する向こう6カ月~1年の実行計画を精緻化すると共に、 その実行に必要とされる最小限のリソースを確保し、明確なKPI(業績評価指標)の下で計画を実行に移す。

ここで重要なのは、この超長期と超短期という2つの異なる時間軸に基づく経営サイクルをつなぎ合わせ、相互に反復させることだ。 超短期の取り組みを通じて得られた成果やインサイトを基にして、超長期で掲げるビジョンや戦略とそれらに基づく行動計画に随時軌道修正を重ね、 その結果を超短期で焦点を当てる取り組みの計画・実行にもリアルタイムで反映させていく、という具合である。こうした相互反復のプロセスを埋め込むことで、 不確実な環境下で大義ある長期ビジョンを実現する経営サイクルを機能させることが可能となるのである。

筆者は必ず、SDGsに向けた経営改革を進めようとする企業には、このズームアウト・ズームインでの経営モデルと従来型の中期経営計画の位置づけの見直しを合わせて推奨している。 これまで3〜5年の中期経営計画を軸に経営サイクルを回すことに慣れてきた日本企業にとって、超長期と超短期という2つの時間軸をつなぎ合わせて、柔軟かつ高スピードで経営サイクルを回すモデルに転換することは容易ではないだろう。 時間軸の切り替えは、投資や経営計画だけでなく、人事制度や組織カルチャーなどを含め、企業のあらゆる面に影響を及ぼすものでもある以上、経営トップが覚悟をもって取り組む必要がある。

参考文献
1『SDGsが問いかける経営の未来』(モニターデロイト、2018年、日本経済新聞出版)
2『COVID-19は「SDGsが問いかける経営の未来」へのWake-Up Call』( モニターデロイト、2020年)
3『非接触経済の台頭』(モニターデロイト、2020年)
4『ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10』(ラリー・キーリーほか、2014年、朝日新聞出版)
5『Better Business, Better World』(World Economic Forum Business and Sustainable Development Commission、2017年)
6『Zoom out/zoom in: An alternative approach to strategy in a world that defies prediction』(Deloitte Center for the Edge、2018年)

藤井 剛 [Takeshi Fujii]
日本版 寄稿者
モニターデロイトジャパンリーダー、デロイトトーマツコンサルティング合同会社執行役員パートナー。 経営/事業戦略、イノベーション戦略、デジタル戦略、組織改革などの戦略コンサルティングに20年以上従事。社会課題解決と競争戦略を融合した経営モデル(CSV)への企業変革に長年取り組み、モニターデロイトグローバルでのThought Leadershipを担う。主著は『SDGsが問いかける経営の未来』(2018年、日本経済新聞出版)など。

この記事は、角川アスキー総合研究所『MIT Technology Review/執筆:藤井 剛』(初出日:2020年12月23日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、 licensed_content@amana.jpにお願いいたします。

シェアする