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既存システム、組織づくり、データ活用
変革リーダーが語るDXの3つの要諦

多くの企業がDXの実現に向けた取り組みを進めています。その取り組みの中で、さまざまな課題も見えてきています。では、先行してDXに取り組んでいる企業は、その課題をどのように解決しようとしているのでしょうか。NEC Visionary Week では、ITモダナイゼーション、イノベーション創出、データ活用という3つのテーマを掲げて、NECが各社の変革リーダーとディスカッションを行いました。さらに、視聴者からの関心が高かったKPI設定の考え方についても各社の考えを聞きました。

モデレーター
NEC
執行役員
吉崎 敏文

株式会社日本総合研究所
代表取締役 副社長
執行役員
井上 宗武氏

株式会社デンソー
モビリティエレクトロニクス事業グループ
DX推進ディレクター
成迫 剛志氏

楽天株式会社
常務執行役員 CDO(チーフデータオフィサー)
グローバルデータ統括部 ディレクター
北川 拓也氏

テーマ1:ITモダナイゼーション
DXのためのデジタルプラットフォームに勘定系を融合

吉崎:
DXを進めて行くためにはレガシーシステムのモダナイゼーションが必要です。DXでの活用を見据えて進化させるということです。早くから取り組んでおられるSMBCグループのITモダナイゼーションに向けた取り組みをお聞かせください。


井上氏:
日本総合研究所は、三井住友銀行を中心とするSMBCグループのIT企業です。現在、私はSMBCグループのDXとITモダナイゼーションを進めています。
コロナ禍によって、日本社会のデジタル化の遅れが改めて浮き彫りになりました。私たちの金融業界も、まだデジタル化できていない手続きがかなり残っています。
50歳代以上を中心に対面チャネルを好むお客様がまだ多い、押印をはじめデジタルに向かない日本独自の慣行があるといった問題に加えて、既存システムの維持、運用がIT投資の約70%を占めてしまっているということがデジタル化を阻害しています。ですから、ITモダナイゼーションなくしてDXは進みません。

吉崎:
具体的にどのような取り組みを進めていますか。


井上氏:
SMBCグループでは、金融を事業領域としながらも、「テクノロジー企業と同等のプラットフォームを持つことがDX領域における優位性につながる」と考え、デジタルプラットフォームの整備を進めています。デジタルプラットフォームを利活用した取り組みには、アジャイルによる新商品の開発、API基盤を活用した異業種企業との共創などがあります。
さらに、勘定系システムもデジタル時代に向けて、アーキテクチャから強化を図っています。従来の勘定系システムは、メインフレームで勘定元帳を更新する伝統的な処理を行ってきましたが、オープン環境である新しいデジタルプラットフォーム上に、勘定元帳のミラーをリアルタイムに作成して顧客管理やデータ活用を加速させたり、API基盤を通じてさまざまな企業やシステムとつながって共創を行っていきたいと考えています。

図1 SMBCグループの新しい勘定系システム

成迫氏:
モダナイゼーションがあって初めてDXに取り組める。非常に納得感があります。とはいえ、全体の意識を同じ方向に向けるのは簡単ではないと思います。どのように工夫しましたか。

井上氏:
モダナイゼーションの重要性を伝えるだけでは、なかなか既存システムを持つビジネス部門の機運も高まりません。理由は、成功体験が少ないことだと思います。そこで、新たに組織したデジタル専門部隊で新しいアプリケーションをどんどん試作してみることにより、デジタルの力の有効性を実例で示すようにしています。

北川氏:
勘定系レベルでモダナイゼーションを進めてDXを加速させる。特に、API連携などによってパートナーとの共創を意識していることに感銘を受けました。パートナーとの共創においては、どのような点を重視していますか。

井上氏:
その共創がどんな価値につながるのかも大事ですが、やはり信頼関係は欠かせません。共創を開始して、すぐに基幹システムの連携、重要データの共有などが前提となるようなプロジェクトに取り組むのは難しい。小さなプロジェクトから取り組み、着実に成果を挙げ、双方の信頼関係を築いていくことが重要です。

吉崎:
レガシーシステムをどう活かし、どうやって新しいプロセスに組み込むか。これまでITを駆使して成果を上げてきた日本企業がDXを目指す上で、モダナイゼーションは、まず取り組むべき課題ですね。

テーマ2:イノベーション創出
スタートアップのやり方でプロジェクトチームを組織

吉崎:
2つ目はDXの本丸ともいえるイノベーションの創出について聞きます。デンソーは、世に先駆けてデジタル専門組織を立ち上げたことでも知られますね。

成迫氏:
DXを進めるには破壊的イノベーションを起こす必要があるだろうと考え、いわゆるデジタルネイティブ企業と同じような組織をつくろうというかけ声のもと、デジタルイノベーション室という部隊を立ち上げました。2017年の4月に2人から開始して、今は約100人体制になっています。
よく、アジャイル開発に注目が集まりますが、もちろんアジャイルという開発手法に取り組んでいるだけでなく、クラウドをはじめとする、DXのための環境整備、そして、お客様の潜在的なニーズを発掘して、それを基にビジネスモデルをデザインする取り組み、つまりイノベーションにチャレンジしています。
デジタルイノベーション室の成果の1つに「yuriCargo(ゆりかご)」というアプリがあります。これは、一言でいえば安全運転を啓蒙するためのアプリ。デンソーが持つクルマや運転者の挙動データなどを部品開発に活かすのではなく、アプリに応用し、部品メーカーなのにハードは一切提供せず、ソフトを通じてより良い社会の実現に貢献するためのサービスです。

図2 デンソーがリリースした「yuriCargo」

井上氏:
日本総研も昨年7月にDX推進支援チームを立ち上げました。今、最も悩んでいるのが新しいサービスやビジネスを考えるサービスデザイナーのような人材をいかに育成するかです。デンソーは、どのように育成しているのでしょうか。

成迫氏:
もともと自動車部品メーカーですから、ソフトウェア技術に精通した人材がたくさんいる環境ではありません。ですから、まずはキャリア採用で外部から招き入れました。取り組みが、ある程度の形になってからは、それを示しながら社内にも公募をかけて、共感やヤル気のある人材を集めています。そうして「どうしてもやりたい」「崖っぷちに立ってもやりたい」という集団にしています(笑)。

井上氏:
プロジェクトは、どのような体制で進むのでしょうか。

成迫氏:
イノベーションは、あくまでもお客様が起点になると考えています。デジタルイノベーション室には、そもそもお客様との接点がありませんから、お客様と接点を持つ各事業部と一緒に取り組みます。事業部の企画者がスタートアップのファウンダーCEOのような役割を果たし、プロジェクトごとにチームを組織するのです。やってみてダメだったら早めに撤退する、そのような身軽さを考えても、このスタートアップのような方法が最適だと考えています。
このような体制でプロジェクトをいくつも手掛けてきた結果、会社全体がソフトウェアファーストを意識するようになりました。デジタル社会では、売上重視から利益重視に変わる。経営陣を含めて、それに向けた意識変革が始まっています。

北川氏:
経営陣までソフトウェアファーストといえるとは、すごいですね。

吉崎:
デンソーは、スクラムなど、アジャイル開発実践のための方法論も大きく注目されていますが、アジャイルはあくまでも手法であって、目的はイノベーション。それを実現するための体制を作り、推進されていると改めて認識しました。

テーマ3:データ活用
多様な顧客接点のデータを統合し付加価値の高い提案を行う

吉崎:
最後のテーマはデータ活用です。楽天は、もはやeコマースの会社ではなく、データの会社という印象すらあります。データ活用をどのように捉えていますか。

北川氏:
私は、楽天でチーフデータオフィサーとしてAIとデータの責任者をしています。
データの前に、楽天のビジョンをお話します。楽天市場、楽天トラベルといったサービスをはじめ、楽天カードを中心とするFinTechサービス、そして楽天モバイルなど、現在、楽天の提供するサービスは多岐にわたります。それらのサービスの大半が楽天IDに統合されている。お客様を中心に据えて、サービスを統合したエコシステムを構築し、生活のあらゆる場面で楽天ブランドのサービスを提供する「メンバーシップカンパニー」になりたいと考えています。
サービスによるエコシステムの好例が買い物と楽天カードです。楽天市場での買い物と同時に提案することで、楽天カードの会員数は爆発的に拡大しました。しかも、一人ひとりのお客様に声をかけるより、はるかに効率的に多くのお客様に提案できるため集積性も高い。ですから、その利益の一部を楽天スーパーポイントとしてお客様にも還元。そうするとお客様は再び楽天カードを使って買い物をしてくださる。
この理想的なエコシステムをほかのサービス間でも実現する。これが楽天の戦略であり、データ活用の目的です。

図3 楽天が提供する豊富なサービス

吉崎:
どんなデータを重視していますか。

北川氏:
まず力を入れているのがカタログデータの作成です。お客様の買い物履歴などを整理して、お客様のプロフィールや生活スタイルを把握、そして、顕在化していないニーズや価値を予測するのです。例えば、お客様が飼っている犬の犬種がわかれば、その犬種がかかりやすい病気までを把握した提案を行うのです。
ただ、ニッチなニーズに対応する商品は、そのために投資されているブランディングコストもまだまだでマーケットが形成されていない。結果、ニーズとのマッチングが難しいという現実があります。その点、複数のサービスのデータを統合することで、楽天はブランディングコストを低減し、ニッチなニーズとプロダクトのマッチングを実現することが可能です。

井上氏:
平たくいえば、楽天市場を通じて商品を売ると、潜在顧客のターゲティングリストを持ってサポートしてくれる。そんな可能性があるわけですね。

吉崎:
買い物とカード、そのデータを中心に据えたエコシステムのようなアイデアは、どのように生まれたのでしょうか。

北川氏:
楽天スーパーポイントのイノベーションは三木谷の肝いりともいえるアイデアです。70あるサービスは買収したモノも多く、その大半がID統合されている。この状況をつくり出すには、やはりトップのビジョンが不可欠だと思います。

吉崎:
例えば、商品を持っているメーカーとはどんな連携ができるのでしょうか。

北川氏:
可能性の1つが検索ワードです。そもそも検索ワードを持っている企業は楽天を含めて数社。少ないこともあり、活用があまり進んでいませんでしたが、自然言語処理技術の発展があり、今後、極めて価値を高められると見ています。
例えば、靴にまつわる発見の話があります。スニーカージャンルの検索上位ワードは、おおよそメーカー名や商品名が占めているのです。しかし、パンプスジャンルになると「痛くないパンプス」が1番上にくるのです。女性のニーズを顕著に表していますよね。

井上氏:
検索ワードには潜在力を感じますね。非常に興味深いです。

成迫氏:
顧客の様々な側面のデータを持っている。それは楽天の大きな強みですね。

吉崎:
SMBCグループのような金融機関の持つデータ、デンソーのような自動車部品が持つデータと楽天のデータを連係させることで、例えば自動車保険など、生まれる新しいビジネスもありそうです。DXを進めることで大きな成長が期待できることを改めて実感できました。

DXのKPI設定

吉崎:
視聴者から質問をいただいています。成果、進捗が見えづらい中で、DXプロジェクトのKPIの設定や管理はどうすればよいでしょうか?


成迫氏:
デンソーのケースをお話します。事業部門は利益のような一般的なKPIを持っていますが、私達のチームは1年後の未来がわからないので、小さい目標を立てて短期間で達成度を確認するということを繰り返しています。よく最近OKR(Objectives and Key Result)と呼ばれているものです。プロジェクトやチームの構成によって、設定の仕方は異なりますが、確認の頻度は早くて1カ月、通常は3カ月ぐらいに設定しています。

吉崎:
まるでアジャイル開発のスプリットみたいですね。北川さん、いかがですか?


北川氏:
KPI設定ってアートですよね。KPIを設定する目的は2つ。「管理」と「目線合わせ」だと思います。一緒に仕事をする人数が100人を超えてくるとコミュニケーションコストがすごくかかるし、目線が合ってない事で生産性も大きく低下するからです。
例えば、私は今年の初めに約50のプロジェクトについて、それぞれの目標を書き出して各チームに伝え、もし間違っていたら直して欲しいとお願いし、現場との目線合わせを行いました。
管理については、その中から特に重要と考えられる20個をピックアップ。ちょうど先週ぐらいに達成度をレビューしました。

吉崎:
結果を評価するためだけではなく、コミュニケーションチャネルとして使っているということですね。井上さんは、どのようにお考えですか。


井上氏:
デジタル案件支援チームで扱うケースは、案件の立ち上げに難しさが伴うため、PoC実施までの支援は基本的にチャージしない方針でやっています。ただ、PoCの結果、実際にビジネスになるときにはKPIを定め、投資対効果が出るかをきちんと確認します。つまり、最初はKPIの設定は行わず、ビジネスが立ち上がったところでKPIを設定するというのが私たちの方針です。これなら、小さく始めてダメならすぐやめるという形で少しずつ投資していけるからです。

吉崎:
なるほど。みなさんの話を聞くと、共通項は「アジャスト力」にありそうですね。 本日は長い時間、貴重なディスカッションをいただき、ありがとうございました。

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