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一滴の血液で自分らしく生きられる未来へ タイの医療ツーリズムで始まる挑戦

医療ツーリズムで世界的な注目を集めるタイ。首都バンコクにある先進的な病院に、NECグループが手掛ける、少量の血液で将来の病気を予測できる検査サービスが採用され、7月から利用できるようになりました。「誰もが自分らしく生きられる社会を実現したい」──。プロジェクトの裏には、こうした夢に向けて進む担当者たちの情熱がありました。

将来の疾病リスクを予測

医療ツーリズムとは、自国より優れた医療水準の国を訪れ、治療や検診などの医療サービスを受けること。タイは国をあげて振興に力を入れており、今や毎年200万人以上もの外国人が治療や検査で訪れる、医療ツーリズムにおける先進国となっています。

バンコク中心部にそびえたつバムルンラード病院。ここは最先端の医療を提供する、ヨーロッパや中東からの医療ツーリズムで有名な医療機関です。特徴の1つが個人の健康状態や生活習慣に合わせた「個別化医療」に力を入れていること。そこでNECグループの疾病予測検査サービス「フォーネスビジュアス」が採用されることになりました。

検査サービスを提供するバムルンラード病院の施設

フォーネスビジュアスとはどんなサービスなのでしょうか。
将来の病気にかかるリスクを知るための手段としては遺伝子検査が主流でした。遺伝子を調べることで、生まれ持った疾病罹患リスクを知ることができます。一方で食生活など日々の生活習慣は健康を大きく左右するもの。生活習慣に起因するリスクや、いつ病気にかかる可能性があるかまでは遺伝子検査では分かりません。
これを解決するのがフォーネスビジュアスです。血液に含まれる7,000種類のたんぱく質を調べることで、現在の体の状態だけでなく、認知症、心筋梗塞・脳卒中、肺がん、慢性腎不全について、数年以内に発症する可能性を予測できます。この世界唯一の検査サービスは2020年に日本国内で提供を始め、80以上の医療機関で4,000人以上に対して疾病罹患リスクを提供してきました。

「将来の疾病罹患リスクを高い精度で予測することで、病気でも健康でもない『未病』の段階で先手を打つことができます」。プロジェクトを指揮したNECライフスタイルサポート統括部の大倉和馬はこう自信を見せます。「長いあいだ病気にかかることなく元気に過ごせる、人々のQOL(Quality of Life: 生活の質)を上げる可能性を秘めたサービスです」。

タイに通い詰めて得た信頼

海外での本格展開は2023年から。そのきっかけとなったのが、2022年のバムルンラード病院の医師からの問い合わせでした。「フォーネスビジュアスに関する論文を読んだ。話を聞きたい」。タイでも先進的な医療機関と知られている先からの一報。当時の担当者はすぐさまアポをとって面会し、議論を重ねました。しかしながら突然にその担当医師が退職し、検討はゼロから再スタートすることとなります。

新たにプロジェクトの担当となったPolakit Teekakirikul(ポラキット・テッカキリクール)医師は、サービスの説明をすると「すぐにでも採用したい」と前向きでした。彼を中心にラボメンバーへの説明も完了し、提供体制は整ったかに見えました。しかし「ここからが大変でした」と、病院の営業部門との窓口を担ったNECライフスタイルサポート統括部の佐藤英美は振り返ります。「他の医師や、病院の検査サービスの販売担当者に話を向けると『何それ?』という反応でした」。

関係者にメリットをしっかり理解してもらうこと、そしてワンチームになれることがプロジェクト成功の絶対条件です。日本からバンコクまで片道7時間のフライトと車で1時間。佐藤は病院へ足を運び、なるべく多くの関係者を会議室に集めて説明、レポートの読み方などを粘り強くレクチャ-し続けました。

プロジェクトチームはグローバルにニーズがあると確信した

佐藤たちが価値を訴え続け、コミュニケーションを重ねた結果、院内関係者のあいだに「画期的なサービスだ」との評価がじわりと広がっていきます。そうして契約に至り、晴れて海外の病院で初めてフォーネスビジュアスが提供されることになりました。

プロジェクトを指揮したテッカキリクール医師は「遺伝子検査サービスだけでは、きめ細やかな個別化医療には不十分だと感じていました」と問題意識を話してくれました。そのうえで「フォーネスビジュアスと組み合わせることで、個々人の体の状態をより詳しく把握できるようになります」と期待します。

世界展開の足掛かりに

今夏からバムルンラード病院でのサービス提供が始まりました。受診者数はまだ30名ほどですが、検査者からは検査の綿密さに満足しているとの声が寄せられ、病院の信頼獲得につながっているといいます。テッカキリクール医師は「提供できる情報の深さを医療チームも高く評価しており、自信を持って治療計画を提示できます。『個別化医療の強化』という当院方針に合致する理想的なツールでした」と目を細めます。今後は病院のSNSによるプロモーションや医療ツーリストへの紹介などを通じてその数を拡大していく方針です。

バムルンラード病院のテッカキリクール医師(左)とNECの大倉(右)

大倉はタイでの一歩を「フォーネスビジュアスのニーズが海外にあると証明できたことに大きな意味がある」と話します。そして今後について「医療ツーリズム先進国のタイでトップクラスの病院に採用されたことは、波及効果をもたらします。今後は東南アジアや中東への進出を伺っています」と力を込めます。テッカキリクール医師も「私たち医療従事者にとってかけがえのないツールになるでしょう。NECにはこれからも革新的なサービスとサポートを期待しています」と後押しします。

「国内外の多くの医療機関に提供し、人々がずっと健康でいられる社会を届けたい」。これが大倉や佐藤たち、フォーネスビジュアスに関わるチームの想いです。NECグループのPurpose(存在意義)である「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指す」。彼らの次の挑戦もまた、このPurposeに繋がっています。夢の実現に向けて大きな一歩を踏み出しました。

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