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守るのは社会の安全?プライバシー? AIや生体認証のカギは“信頼”、デジトラチームの静かな奮闘

AIや生体認証の活用はメリットだけでなく人権侵害やプライバシーなどのリスクも伴うため、世界中で法や倫理の議論が行われています。これは、「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現」をPurpose(存在意義)に掲げるNECにとっても重要なテーマ。技術を「信頼」の面から支えるNECのデジタルトラスト推進統括部の取り組みを、戦略をリードする徳島大介、法務部門出身の鮫島滋、SE出身の石井里奈のインタビューから紹介します。

世界トップレベルの顔認証技術を持つNECだからこそ

──「デジタルトラスト」のミッションは重みを増しています。2019年には「NECグループ AIと人権に関するポリシー」を策定し、注目を浴びました。

鮫島 NECの顔認証技術は、世界トップレベル(※)の精度を誇っています。しかしながら、賞賛の声ばかりではなく、「プライバシーは守られるのか」「監視国家になるのでは?」といった懸念があるのも事実です。技術は素晴らしくても、社会実装するまでにはいくつかの課題がある。その課題に率先して取り組むためにも、社内に専門の組織やポリシーをつくる必要があったのです。

2018年のデジタルトラスト推進本部発足後、最初に取り組んだのが、「NECグループ AIと人権に関するポリシー」の策定です。これは、プライバシーへの配慮や人権の尊重を最優先して事業活動を推進するための指針となるものです。「公平性」「プライバシー」「透明性」「説明する責任」「適正利用」「AIの発展と人材育成」「マルチステークホルダーとの対話」の7項目で構成されています。

  • (※)
    米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証ベンチマークテストでNo.1を複数回獲得
鮫島 滋

徳島 近年、日本では、経済産業省の「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」(現在は「AI事業者ガイドライン」に統合)をはじめ、AIガバナンスに関するさまざまな発表や動きがありました。コーポレートガバナンス体制とAIガバナンスに関する全社規程を新たに整備したのも、同じ時期です。2023年からはポリシーをコーポレートガバナンスとして運用することで、社外へのメッセージ発信にもつながったのではないでしょうか。

相談は年間数百件 お客様にも意識づけを促す

──ポリシーを浸透させるために、社内ではどんな働きかけをしていますか。

石井  NECでは、プロジェクトの企画段階から設計、開発、運用、保守の各フェーズでガイドラインやチェックシートを用いた「リスク軽減プロセス」を設けています。製品やサービスを設計する際には、人権リスクがないかどうかを事前にチェックするのがNECのルールです。少しでも懸念がある場合はトラストチームに相談してもらいます。相談件数は年間で数百件。チームにノウハウが蓄積されています。

石井里奈

──学術機関や政府機関との取り組みは。

鮫島 AIと人権に関する産学連携の研究活動の一つとしては、2018年から慶應義塾大学の研究機関である慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)と調査研究を進めています。AIと人権の研究は、日々進化する新たな技術への対応が求められる正解のない領域なので、多くのステークホルダーを巻き込んで議論していく必要があると考えています。NECでは、法律家、法学者、サステナビリティや人権などの分野のNPO関係者、消費者団体代表などの外部有識者で構成される「デジタルトラスト諮問会議」を定期的に開催しています。

徳島 政府機関との連携では、AI原則に関するさまざまな会議や検討会に参加しているほか、NECとしても積極的に提言しています。例えば、AIやカメラを活用した地域の治安確保とプライバシー保護のバランスのあり方もその1つです。どちらかを重視すれば、もう片方のリスクが高まるのは必然です。このようなどちらの価値を優先するのか一企業では決められない問題、正解のない問いについては、国の考え方やルールをしっかり示してもらわなければいけません。そのために、繰り返し働きかけています。

徳島大介

私たちが創る社会価値 人権や倫理の面から支える

──この仕事の価値をどう考えていますか。

石井 自分自身も技術者として案件に携わってきた経験があるので「あれもダメ」「これもダメ」ではなく、どうすればプロジェクトを円滑に推進できるかという観点でアドバイスをするように心がけています。ある事業部の方からは、「アラ探しではなく、プロジェクトを正しく遂行するために親身に動いてくれた」との感謝の言葉があり、とてもうれしく、やりがいを感じた瞬間でした。
 
鮫島 お客さまにリスクの説明をしたり、勉強会を開催したりする機会も多いのですが、そこでの反応はやりがいの1つになっています。お客さまが人権リスクを真剣に考え、NECのポリシーに賛同してくださっていることが直に伝わってくるからです。人権やプライバシー、AI倫理に関する世の中の意識が年々高まっているのを感じますね。

徳島 「安全・安心・公平・効率」という社会価値においても、「公平」を確保することで「効率」が損なわれ、逆に「効率」を追い求めることで「公平」が失われる場合があります。解決を探る道のりは険しいものの、そこにアプローチできること自体が楽しく、やりがいにもつながっています。

リスクに対する事前のケアは、お客さまの事業成長や持続可能性への貢献につながります。NECは現在、DX事業の新しい価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」において、SIerから“Value Driver”への進化を宣言しています。Valueのなかには当然、人権などの倫理テーマも含まれています。私たちはそれを支えるDriverとして、これからも社会に価値を提供していきます。