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激変する社会に適応するための処方箋を示唆
物事の「なぜ」を解き明かす最新AIと可能性とは

ますます厳しくなる企業を取り巻く環境

環境の変化への対応は、いつの時代も変わらないビジネスの重要なテーマである。だが、現在ほど対応が難しいことはなかったかもしれない。理由は、あまりにも急激すぎる変化だ。「これまでの常識が通用しない変化が起きている」「もっと緩やかに起こるはずだった変化がコロナ禍によって一気に起こった」──。多くの経営者がこのような発言をしている。

一方、企業には、これまで以上の変革が求められている。世界経済フォーラム(WEF)、通称ダボス会議の会長を務めるクラウス・シュワブ教授は「グレート・リセット」という考え方を提唱し、企業に変革の重要性を訴えている。「利潤を追求する、株主のための資本主義に基づいた現状を見直し、政府や企業、国際社会が手を取り合わなければ、世界が直面する多くの難題を解決することはできない」と同氏は述べている。

つまり、変わらなければ生き残れない。だが、環境変化が急激すぎて、そのビジョンを描くことすら難しい。これが現在の企業が直面している状況だ。

こうした中、注目されている新しいAIがある。データに潜む因果構造を探索し、推論するAIだ。このAIは、起こっている現象について、「なぜ」起こっているのか、「理由」を提示してくれる。物事のロジック、文脈構造の理解を支援することで、的確な次の一手の選択、ひいては企業の変革を支えるのである。

次ページでは、NECでこの因果分析ソリューションの開発を行っているリーダー、そして、そのソリューションをサービスに積極的に取り入れているマーケティングリサーチ企業のマクロミルのキーパーソン、さらには、因果分析研究の第一人者である滋賀大学 清水昌平教授に話を聞き、因果分析技術の可能性と、今、ビジネスにもたらす価値を検証していく。

現在の企業を取り巻く複雑な環境とは

日本電気株式会社
コーポレート事業開発本部
シニアエキスパート
小泉 昌紀 氏
ERPパッケージの開発リーダー、シリコンバレーと連携した事業開発リーダーなどを歴任。現在、AIを主軸においた新規事業開発チームを率いる

――多くの企業、および経営者が難しいかじ取りを強いられています。企業の意思決定の難しさをどのようにとらえていますか。

小泉:企業を取り巻く環境は、単にどうすればもうかるかを考えればよい状況ではなくなっています。地球環境への配慮、社会的な責任、様々な規制を通じて求められるガバナンスやセキュリティなどを常に念頭に置いて意思決定を行う必要があります。その上、今回のコロナ禍のように、経済危機や自然災害といったリスクの高まりにより社会全体が劇的に変化し、複雑な状況はさらに複雑になる。もはや過去に起こったことを基に未来を予測し、意思決定していくことすら難しくなっています。

横幕:マクロミルはマーケティングリサーチの企業です。お客様の意思決定をご支援する立場にあるわけですが、多くのお客様が意思決定の難しさを感じています。理由はカバーしなくてはならない情報の多様さ。消費者の声を例に取っても、定量データ(アンケート結果、購買データなど)や、定性データ(インタビュー、SNS情報など)、ログデータ(Webアクセスログ、位置情報など)といった複数のソースに分散しており、課題がより複雑になっています。

株式会社マクロミル
統合データ事業本部
ソリューションユニット
横幕 健 氏
マーケティングリサーチの企画提案、設計・分析などを担当。現在はデジタルソリューションの開発やプロジェクトマネジメントの中心を担っている

――多くの企業が期待しているデータやAIは意思決定の力にならないのでしょうか。

横幕:「次の施策につながる示唆を得たい」。多くのお客様が、私たちのマーケティングリサーチにそう期待します。もちろん、私たちは期待にお応えするためのサービスを提供しているのですが、技術的な課題もありました。

大量のデータを機械学習で解析する。その結果、例えば、店頭のディスプレイや商品のパッケージ、消費者のライフスタイルが購買に影響していることが分かる。ここでの分析時の課題は、データの解釈には「分析者の経験や解析視点、取り扱うデータソースの幅」に依存する点です。人が分析データの対象範囲を決め、その結果を読み解いていく部分から、分析者によって解釈内容にばらつきが生まれる点が否めません。

人の解釈が介在するということは、その分だけ時間がかかり、誤解の可能性もある。最も効果的な施策をスピーディーに実施していく上で、これは不利に働きます。

滋賀大学
データサイエンス学系 教授
清水 昌平 氏
理化学研究所 革新知能統合研究センター 因果推論チーム チームリーダー。2016年に日本行動計量学会 林知己夫賞(優秀賞)を受賞

清水:機械学習のような技術が様々な場面で使われるようになり、技術に何ができて、何ができないのか、どんな課題があるのかがはっきりしてきました。機械学習では、理由までは分からないというのは、その代表例でしょう。結果に影響している要因のうち、人が気付いていない隠れた要因を探すという点では機械学習は大いに役立ちます。「この商品は、実はこんな属性の人が買っていた」というような発見です。もちろん、それは素晴らしいことなのですが、ビジネスに利用する多くの人が、その先を求めるようになっています。

小泉:理由が重要なエピソードの1つにチョコレートとノーベル賞の話がありますね。数年前に、世界で最も権威ある医学雑誌の1つに、「国民のチョコレートの消費量が多くなるほどノーベル賞受賞者が増える可能性がある」という研究が発表されています。数字を見ると確かに両者には相関があるように見えます。しかし、この現象は、背後にある「1人あたりのGDP」という要因が、チョコレートの消費量とノーベル賞の受賞者の両方の要因に影響を与えているために生じたもので、相関はあっても因果はない。平たく言えば、たまたま起こった疑似的な相関で、因果関係はないのです。

統計だけを見て、このような相関を鵜呑みにしてしまうと、ノーベル賞を目指すためにチョコレートを食べるというムダなキャンペーンを企画するリスクがあることになります。

商品が売れるロジックが一目で分かる

──NECが開発した「causal analysis」が、その課題を解決するのですね。

小泉:causal analysisは、相関関係だけでは分からないデータに潜む因果関係、つまり物事のロジック、文脈構造を分析した上で、因果構造を自動生成し、分かりやすいグラフ構造として提示してくれるソリューションです(図)。

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因果分析ソリューションができること
相関関係だけでは分からないデータに潜む因果関係、起こっている現象のロジック、文脈構造を分析した上で、因果構造を自動的に生成する

例えば、洗剤が売れる理由を例に説明すると図のようになります。洗剤の購買を左右する要因には、価格、パッケージ、プロモーション、ブランドなど、様々なものがあります。それらは互いに影響しあいながら、商品購入に貢献しているわけですが、先ほど横幕さんにご指摘いただいた通り、要因同士のつながりは人が考えるしかありませんでした。

causal analysisは、この因果関係、文脈構造を自動生成するソリューションです。このソリューションを利用することで、今、社会で起こっていることを、より早く、かつ人の主観によらずに正確に理解でき、意思決定の質を高めることができます。先の洗剤の例なら「シミが取れたという体験がきっかけとなり、プロモーションやパッケージの認知度が上がり、商品購入につながっている」といった因果関係が分かるのです。企業は、そのロジックを踏まえて、まずは「シミが取れる体験」を提供しようと、キャンペーンを企画したりコンテンツを制作したり、次の施策を検討していくことができます。私は、機械学習は「過去」のデータに基づく予測を行うのに役立つ技術、この因果分析は、現在進行形で変化する事象の「なぜ」という根本原因を学ぶことで、「未来」への施策の示唆を得る技術だと考えています。

例えばNECでは、従業員のエンゲージメントを向上するための分析に活用。組織や業務の在り方について重要な示唆を得ることができました。その試みは、高く評価され日本の人事部から「HR アワード2020」の優秀賞をいただきました。

――マクロミルはNECと協業して、既にcausal analysisをマーケティングリサーチサービスに取り込んでいるそうですね。

横幕:かつて、お客様が当社に求めるのは、市場を俯瞰して全体像を正しく把握したいということでした。しかし、現在は消費者一人ひとりを把握して、個別の提案に役立てたいと考えておられることが多くなっています。商品の特徴から消費者の嗜好まで、購買行動の中で複雑に関係し合っている条件の因果関係を分析して整理することは、個人を理解し、次の施策を検討する重要なデータとなります。causal analysisを用いてシミュレーションを行えば、未来に向けた施策を得ることが可能。既に因果探索を活用したデータ分析サービスに着目いただき、トライアルなどを進めているお客様もいらっしゃいます。

清水:マーケティングリサーチは、因果分析に対する期待が高まっている分野の1つですね。ロジックの中で、最も影響の大きな要因を見つけるという使い方以外にも、影響の小さな要因を取り除いていくことで、より効果の高い施策の検討に役立てるという使い方も有効になるのでは、と考えています。

──今後の展望をお聞かせください。

小泉:因果分析ソリューションは、シリコンバレーで新事業創出を推進するNEC X社で開発し、北米市場で高い評価を得ています。昨年、無事に日本でローンチすることができ、既に多くのお客様から問い合わせをいただいています。

様々な業界の幅広い用途に適用していき、多くのお客様に変化に適応するための力を提供していきたい。NECは因果分析の社会実装に努めていきます。

本記事は、日経ビジネス電子版スペシャル(2021年3月12日)として掲載されたものです。


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