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アジャイルにビジネスを成功させる!共創パートナーを獲得した事例をご紹介!!
アジャイルにビジネスを成功させるためには!
NECが目指す未来は、「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会」です。
本稿では、その実現のため、社会課題起点でビジネスを創出し、グローバル市場においてアジャイルな価値提供に挑んだ事例を紹介します。
アジャイルにビジネスを成功させるにあたり、プロダクトオーナー*1が留意すべき必要な事項を実際の活動とともに見ていきましょう。
- *1プロダクトの責任者。ROI(費用対効果)に責任を持ち、要件の内容と優先順位を決定する責務を負います。
はじめに ~アジャイルで価値を提供するには?
プロダクトオーナーを担われているみなさまは、どのようにプロダクトバックログ*2を作成していますか。とかく陥りがちな形は、顧客、マーケットのニーズを取り入れ、初めからなるべく多くのことを実現しようとする姿勢です。
こうした姿勢は、いきなり100点を目指そうとするあまり、結果として顧客に受け入れてもらえない、価値の低いものを創り出すという事態を招いてしまうことがよくあります。プロダクトオーナーは単にマーケットニーズだけでなく、顧客の事業戦略も理解することを心がけましょう。仮説検証で顧客のフィードバックを得ながら、プロダクトバックログを精査し、本来の価値を実現、提供していくことが重要です。
- *2プロダクトを開発するにあたり、重要な作業項目順に要求事項を設定したリストです。
共創パートナー獲得事例(タイ)
本稿で紹介する対象プロジェクトの概要は下記になります。
新規事業開発初期段階の顧客へのアプローチ、社内の調整、プロトタイプの開発を中心に説明します。
対象プロジェクト名:『3世代旅行支援サービス』
タイをエントリー市場として定めたグローバル社会価値創造プロジェクトです。
AI技術を用いて3世代旅行を支援する仕組みを既設旅行サイトへ搭載することを目指します。
<主な機能>
- 渋滞や悪天候によるスケジュールの遅れを予測
- 家族のスケジュールと予算に基づいて時間とコストをスマートに最適化
- 間際での旅行やアクティビティの変更に対応
NECはこれまで旅行事業に携わっていなかったため、既設の旅行アプリケーションなどは存在せず、旅行事業のビジネスパートナーの獲得が必須条件となりました。
アジャイルにビジネスを成功させる「3つの共感」
本プロジェクトでは、遂行にあたり社会価値実現のためにプロダクトオーナーが以下に紹介する3つの共感を周囲と形成することが、成功のために必要でした。
- ①社会課題を自分事としてとらえ顧客と共感
- ②事業戦略を描き自組織と共感
- ③ビジネスの成功を共に夢見てチームと共感
また、3つの共感の形成を進めるなかで、
- リモート環境において、どのようにグローバル市場のニーズをつかんだのか
- ニーズをどのようにバックログにフィードバックしたのか
- インクリメントの価値をどのように測定したのか
- 複数の国のメンバーで構成されたチームでいかにコラボレーションしたのか
といった点につき実際の事例を参考にご紹介します。
それでは、3つの共感について1つずつご説明します。
①社会課題を自分ゴトとしてとらえ顧客と共感
新規事業となる本プロジェクトにおいて、なにより重要なポイントは顧客との共感です。通常の商談でよく求められるような販売実績がないため、事業コンセプトに共感してもらいながらともに事業を創りあげていく必要があります。そのためには顧客との共感は欠くことのできない大切なものなのです。
顧客の共感を得るためには、プロダクトオーナーの強い気持ちが非常に大切です。打合せなどを通じてプロダクトオーナーの思いが顧客に伝わるからです。顧客との初回の打合せでは、この『3世代旅行』は自身の親のことを考えて辿り着いたサービスであることを伝えています。孫の顔を見せて会話するような家族間の時間共有は、高齢者にとって最も喜ばしいことだと説明しました。
顧客に意見を聞きながら開発を進めるだけでは、表面上の同意は得られても『ビジネスパートナー』としての協同出資までには至らないことが少なくありません。プロダクトオーナーの熱意に共感いただいたことで、『ビジネスパートナー』として真剣に向き合いプロジェクトの達成に向け、ともに取り組んでいただけたと考えています。
- 従来の向き合い方では困難であった顧客との共感
NECはこれまでユーザー企業とは『顧客とベンダー』という関係性でのお付き合いに終始していたため、『対等なビジネスパートナー』となって事業を創り出すというプロセス形成には慣れていませんでした。
共感を得るために一番必要なものはプロダクトオーナーの熱意です。と同時にプロダクトオーナーとしてさまざまな工夫も本プロジェクトでは試みました。代表的なものを5つご紹介します。
- a.プライベートな関係づくり
会議の出席相手について、その会社情報を誰もが事前に収集しますが、その方ご自身についても事前に情報収集しておくことはとても大事な活動です。会社と会社の話し合いではありますが、個人と個人の間で信頼関係が築けるか否かは重要です。
- b.同じビジネス視点で話す
自分が思い描いている夢、その事業に託した思いに共感してもらえるか否かで顧客の立ち振る舞いは大きく変わります。ビジョンに共感することなく、技術や機能の議論だけに終始すると、こちらの立場は従来のベンダー同様とみなされてしまいます。顧客と同じビジネス視点で話すことができれば、共通の世界観で話ができ、対等に一緒に悩み、一緒にビジネスを考えることができるのです。
- c.ファクトの提示
夢や熱意を伝えることは大切ですが、それだけではともにビジネスを遂行していくことは困難です。現実に推定される問題が存在するのかファクト(事実)を示す必要があり、客観的なデータが求められます。本プロジェクトでは、そのために早い段階から、NECタイのローカル社員200名弱にアンケートへ協力いただき、ファクトを提示しました。
- d.魅力的な見せ方を準備
簡易な資料だけでは、思いつきで話をされていると思われてしまうことが懸念されます。本プロジェクトでは、本気で取り組んでいることを相手に理解してもらうため、魅力的なプロモーション動画を用意しご覧いただく準備を整えました。4か国の拠点からリモートで作業をしており、リアルタイムでのデモンストレーションは通信環境などにより円滑にいかないことも推測されます。顧客CXOとの貴重な議論の場を有効なものにするためにも事前の動画準備は必要なことでした。与えられた機会を万全な準備で滞りなく有効に使うことが重要です。
- e.戦略的なデモンストレーションの実施
デモンストレーションで、自分たちが良いと思う機能を一方的に見せるだけでは顧客から真の評価を得ることは困難です。定期的に開催するデモにおいて、どの回で誰に何を確認していただきビジネス上の次のステージに進むのか、戦略的に考えて顧客と調整しながらビジネスが進行するようにプロダクトバックログの優先順位を設定し、デモンストレーションの計画を立案しました。
- a.
②事業戦略を描き自組織と共感
一過性のビジネスアイデアの場合、社内で投資予算を得ることは難しく、プロジェクトの推進許可を得ることは困難です。本プロジェクトでは、今後5年、10年で目指す到達点を描いたビジネスロードマップを策定し自組織に提示を行っています。当該ビジネスロードマップでは地域、顧客、業界という3つの軸での事業展開が展望されています。
地域軸として、タイをエントリー市場としていますが、タイの次に、マレーシア、インドネシアなど文化、慣習の近い東南アジア諸国へも展開することを示しました。顧客軸としては、3世代だけでなく、友人同士という展開を想定しました。サービス軸では、3世代の行動パターンをAIで蓄積させ学習することで、旅行のみならず他の業界にも展開できることを示しました。以上の事業戦略を提示することにより、自組織との共感の醸成を促しました。
③ビジネスの成功をともに夢見てチームと共感
プロダクトオーナーからプロダクトバックログを単純にチームに示すだけでは、チームからビジネスやユーザーの価値につながりづらい実装や提供がされてしまいます。本プロジェクトでは、そうした状況を作り出さぬように、まずビジネス戦略をチームと共有、後にカスタマージャーニーマップを使用し、ユーザー視点で目指すべき新しい世界を創造しました。顧客との調整状況や顧客の反応を逐次共有することにより、ともに一喜一憂することで、チームがプロダクトオーナーと同じ視点に立つことができました。その結果、顧客との打ち合わせに有効なアイデアがチームから提案されるようになり、一丸となって同じ夢を追いかけるという環境を生み出すことに成功しています。
チームと共感を得るために行った工夫は他にもあり、その代表的なものを2つご紹介します。
- a.イメージでわかりやすく共有
プロダクトオーナーがチームにユーザーストーリーを伝える際、文字の記述だけでは正確に伝わらない場合がありチームに負担をかけてしまいます。英語が母国語でない国同士のやり取りではその傾向が強く出てしまうことが懸念されました。そのため、ユーザーストーリーごとに画面遷移イメージを描いて説明する手法を採用しました。
ユーザーストーリーの理解漏れがなくなり、ベロシティ*3は1.5倍に上昇、その後「Slack」でタイムリーな確認ができるようになりベロシティはさらに2倍になりました。
- *3定められた期間(スプリント)内で、チームが完了できる平均作業量を指します。
- b.互いを理解する
プロダクトオーナーが熱意を一方的にチームに伝えるだけでは十分に伝わらないことがあります。そこで、スタート時にチームビルディングのワークショップを行い、価値観の違いの共有、チームやアジャイルに対する目的意識を共有しました。各メンバーの個性や考え、国の文化を互いに理解し接することで信頼関係を築くことができ協力して活動を進めることができるようになりました。
以上、プロダクトオーナーがアジャイルでビジネスを進めるために大切にした3つの共感をご紹介しました。
3つの共感を実践することにより、事例として紹介した本プロジェクトでは、顧客からビジネスパートナーとして認識していただき、既存の旅行サイトを利用したPoC*4を実施する旨約束を取りつけることができました。社内では追加投資予算の確保が叶い、チームはさらに一丸となってプロジェクトの成就に向け邁進しています。
組織でアジャイルを実践していくためには、アジャイルでビジネスを成功させることがなにより重要です。
本事例で紹介したプロダクトオーナーの工夫を実践することで、みなさまのビジネスが滞りなく成就することお祈りしています。
- *4Proof of Conceptの略で概念実証を意味します。開発段階において実現の可能性や得られる価値・効果について検証することを指します
本事例は、Agile Japan 2021(11/16・17)にて『営業出身プロダクトオーナーが挑むグローバル社会価値創造型ビジネスへのアジャイル適用』として発表されました。以下サイトも合わせてご参照ください。
AgileJapan2021のサイト:https://2021.agilejapan.jp/
講演資料:https://2021.agilejapan.jp/sites/wp-content/uploads/2021/11/11_00_NEC.pdf