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宇宙から地球全域の温室効果ガスを観測

地球の呼吸をみつめる目 宇宙から地球全域の温室効果ガスを観測

宇宙から、地球全体の息づかいを知る観測技術衛星「いぶき」プロジェクト

温室効果ガス削減の数値目標という、世界的基準を定めた京都議定書の採択から12年。日本からの情報発信によって、世界の環境活動に対する新たな貢献が2009年から始まろうとしています。それが観測技術衛星「いぶき」の打ち上げです。

二酸化炭素やメタンガスなど、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの観測は、これまで地上の観測ポイントのほか航空機、船舶などによって世界の限られた地域のみで行われていました。

2004年にスタートしたJAXA、国立環境研究所、環境省の合同による「いぶき」プロジェクトでは、人工衛星に搭載した高精度な観測センサによって、宇宙から地球の温室効果ガスの全容をすみずみまで明らかにするのが目的です。

NECは、人と社会と地球の未来に貢献するこの重要なプロジェクトにおいて、その中核となる温室効果ガスの観測センサの開発を担当しました。「いぶき」プロジェクトのパートナーとしてNECが選ばれた背景には、日本初の人工衛星「おおすみ」をはじめとして、気象観測衛星「ひまわり」、地球の地表を観測する「だいち」、さらに月の探査衛星「かぐや」など、さまざまな衛星の開発や打ち上げにおいて、日本の宇宙事業の歴史とともに歩んできた50年以上にもおよぶ実績があります。

さらにNECには人工衛星のみならず、衛星搭載機器や国際宇宙ステーション、ロケット搭載機器、地上システムなど、宇宙事業においてさまざまな領域にわたる、総合的な技術力もあります。こうした日本屈指の実績と幅広い技術をベースに最先端のITを融合して、NECではすでに30年以上も前から観測センサの研究開発に取り組んでいました。

温室効果ガスを正確に把握するために、2つの観測センサを開発

「いぶき」に搭載する観測センサの役割は、太陽光の地表や雲などの反射(可視近赤外線)や地球が放つ光(熱赤外線)の観測です。上空にある温室効果ガスが、地球から反射および放出される光を吸収するというポイントに着目。

温室効果ガスの種類やガス濃度によって光の吸収が異なる様子を宇宙から光学センサによって感知し、詳しく分析することにより大気中の温室効果ガス濃度を正確に算定します。

NECが開発を担当した観測センサ『TANSO』は、2つの光学センサによって構成されています。ひとつは、二酸化炭素やメタンガスなど複数種類の温室効果ガスの濃度分布を感知する主要センサです。そしてもうひとつは、温室効果ガスの正確な観測に影響を及ぼす雲やエアロゾルなどを測定するセンサ。より精度の高い温室効果ガス濃度を把握するためのデータ補正用として活躍します。

写真:NEC東芝スペースシステム エグゼクティブエキスパート 勝山 良彦
NEC東芝スペースシステム
エグゼクティブエキスパート
勝山 良彦
図版:観測技術衛星「いぶき」と温室効果ガス観測センサ「TANSO」
観測技術衛星「いぶき」と温室効果ガス観測センサ「TANSO」

上空約666km。メンテナンスも行えない宇宙空間で、長期にわたり正確な観測を続ける安定性や信頼性を発揮する『TANSO』の開発においては、地上では問題にならないことが大きな課題となって技術者たちを悩ませました。

「ぜったいにあきらめず、期限までに完成する。そんな思いを支えたのは、メーカとして原点であるモノづくりへのこだわり。そしてもうひとつは、自分たちの技術によって、人や地球に貢献するという誇りでした」と『TANSO』開発のプロジェクトリーダーの勝山氏は語ります。

耐久性、信頼性、安定性。あらゆる角度から観測センサ性能を徹底追求

写真:NEC東芝スペースシステム 技術本部 光学センサグループ エキスパートエンジニア 谷井 純 氏
NEC東芝スペースシステム
技術本部
光学センサグループ
エキスパートエンジニア
谷井 純

まずひとつめの課題は、強度と軽量化という相反する条件のクリアです。宇宙空間で安定した稼働を実現するための堅牢な構造や強度を維持しながら、ロケットに積んで運ぶための軽量化を徹底追求しました。

また、宇宙に向かうロケットの振動や轟音など過酷な環境に負けない耐久性能を検証するために、200kgにおよぶプロトタイプのモデルを実際に大きな加振台の上に取り付けて縦横の振動テストを行い、取得した加速度データからさらなる信頼性向上を図りました。

宇宙についた後、軌道上における安定稼働に対しても細心の注意と努力を重ねました。一日の温度差が-100~+200℃にもなる環境の中で、つねに稼働温度23±3℃という条件を満たすためにヒーターや排熱など、独立熱制御装置にも細かな工夫を施しました。

さらに「いぶき」自身の稼働によって時に生じる微少なゆらぎや微かな振動音が、観測センサにどんな影響を及ぼすかを正確に知るために、微少振動を起こす装置を自ら制作。得られたデータを参考にしながら、振動のノイズを電気信号に変換してカットすることで観測精度を向上させています。

「観測センサのコアとして極めて精密な動きが要求されるフーリエ変換分光器の制作では、カナダにいる世界的エキスパートにサポートを依頼したほか、光信号を取り出す光学部品の製造については光透過率が重要な鍵を握るため、世界最高水準のコーティング技術を求めてアメリカ、ロシア、カナダなどさまざまな光学部品メーカを訪れてその精度を実際に自らの目で確認しました」と谷井氏は語ります。

「いぶき」によって、グローバルに役立つCO2の世界地図が完成

「いぶき」の打ち上げ予定は、2009年1月。二酸化炭素やメタンガスの吸収や排出など、地球全体の息づかいを宇宙から見つめる「いぶき」は、世界約56,000の観測ポイントで、10×10kmという緻密な単位で世界全体の温室効果ガスの濃度を観測。

「いぶき」から日本に送られてきた観測データは、地上システムによってデータ処理され、世界中の温室効果ガス濃度分布がひと目でわかる世界地図として視覚化されます。また、この観測データは、日本から世界の国々へと無償で提供。世界共通の指標として、さまざまな国の環境活動に活かされることが期待されています。

 地上観測ポイント
(WMO-WDCGGによる)

©JAXA

「いぶき」の観測ポイント
(標準モード5万6千点)

©JAXA

「ほとんどの部品が手づくりで苦労もありましたが、開発現場に自ら足を運んだ社長からかけられた社会貢献に対する言葉によって、技術者ひとりひとりのモチベーションががぜん高まりました。

『いぶき』から届く温室効果ガスの環境データが、世界の国々の環境活動のさらなる推進に役立つこと。それが技術者みんなの願いです」と勝山氏はその期待を語ります。

衛星(ほし)に、エコへの願いを込めて。地球の未来に向けた「いぶき」とNECの社会貢献に、ぜひご期待ください。

写真:NEC東芝スペースシステム 京浜事業所
NEC東芝スペースシステム 京浜事業所

公開日:2008年12月25日

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