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地球を見つめる星を造って 第2回 積み上げられた自信、「おれに任せろ」

衛星の揺れを止めろ

  • 小笠原:話を技術的なチャレンジに移しましょう、重さ約250kgもある、AMSR2の回転部が1.5秒で回転する、それなのに衛星がびくとも揺れない、それって大変なことだと思いますが。
  • 星野:回転するものが持っている大きな角運動量を打ち消すために、逆に回転するモーメンタムホイールという機器が、高速で回って、回転部の角運動量をキャンセルしています。(この機器はAMSR2制御ユニットの中にあります)

    でも、これだけだとまだ微妙に残った角運動量や重心のずれで衛星の姿勢が少し揺れます。そこで登場するのがOBM(質量中心調整機構)と呼ばれる4個のおもりを精密に動かせる機構です。
    これがなかなか優れもので、mm単位でおもりの位置を微調整することでバランスをとってその揺れを押さえてくれるのです。この作業を私たちがやりました。

    バランスがちゃんととれたところにおもりがくると、今までがたついていた姿勢センサの値がぴたっと止まります。こうやって、抑え込んだのです。近くこの成果は学会でも発表しようと用意をしています。

図版:AMSR2角運動量キャンセル図(模式図)AMSR2角運動量キャンセル図(模式図)

  • 星野:でも、万が一、このホイールが止まったりしたらどうなるか、そこからがFDIRの出番です。FDIRは(Failure Detection Isolation and Recovery )の略で、日本語では「故障検知、分離、及び再構成機能」という長い言葉で表される機能です。

    この機能は「しずく」が初めてではありません。「だいち」に実際に搭載されたものの応用、というか基本はそのままです。万が一、角運動量をキャンセルしているホイールが止まったとしましょう。そうすると衛星自体が回転を始めてしまいます。
    その直後はどうすることもできませんが、回転部は摩擦によって回転が落ちてくると、衛星自体の回転も次第に収まってきます。そのころあいを地球センサやジャイロセンサが見ていて、再び地球を捉える姿勢への復帰を行います。これがFDIRの一つの機能です。

    この機能は、15年ほど前の「みどり」から「だいち」に至る何機もの衛星で使われ、実績のある、しかもどんな場合でも働く頑強な機能なのです。

図版:姿勢系構成図姿勢系構成図

  • 小笠原:「しずく」が機能を受け継いだのは「だいち」からだけなのですか?
  • 星野:いえいえ、恒星センサを使って姿勢を決めていく機能は、月周回観測衛星「かぐや」から引き継いだものです。一方、カーナビなどにも使われるGPSレシーバ(衛星搭載型)を用いた軌道上位置決定と、姿勢決定への積極的利用は、NECとしては今回初めて搭載した機能です。
  • 小笠原:要求では位置の決定精度が300m以内とありましたが?
  • 星野:実際にはもっとずっと良く、軌道上位置を決めています。衛星が自分の軌道上の位置を精度良く決めて、それを使って先までの軌道位置を内部で予測して、この値を積極的に使うことが出来るということは、衛星の自律化/自動化にとって大きな前進といえるものです。
  • 小笠原:「しずく」はA-Trainという軌道に投入されることに特徴がありますが、軌道投入の制御はどうでしたか?
  • 星野:ここも、軌道上で実績のあるロジックを使った制御なので、全く心配はしていなかった。もう何機もの衛星で使っていましたから。
  • 小笠原:軌道投入が予定より早くできたことで、データの公開も予定より早くできましたが、初画像取得のときの感想はいかがでしたか?
  • 星野:初画像の時は、その場にいなかったこともあり、たんたんと過ぎた感じです。こうやって絵(画像)を出すことが、広く国民の役に立つ、「しずく」のこと知らない人にも画像ならちゃんと説明できる、国民の税金を使ってやっているわけですからこの視点は忘れちゃならない、そう思うんです。
    これが「しずく」でちゃんと実現できて嬉しかった、というより正直ほっとした。そんな気持ちでしたね。
  • 小笠原:今後の GCOM-C1(気候変動観測衛星) に向けての期待や、思いについて最後に伺います。
  • 星野:

    写真:今後の抱負を語る星野今後の抱負を語る星野

    C1もやる予定です。私はまずは「段取り屋」として・・・実は、メンバーからは「AOCS隊長!」(AOCSは姿勢軌道制御系の頭文字)と呼ばれてるんです。ですからこれからも隊長でやってきたいと思っています。

    「しずく」は本当にいい子で、軌道上で現在まで何の問題も起こしていない。この流れを是非次へ続けたい、メーカですから。それが私の思いです。
  • 小笠原:「しずく」これから5年の運用は大丈夫ですね、星野さん。
  • 星野:大丈夫です。

1.5秒で回る回転部の作り出す大きな角運動量、それをキャンセルし続けるモーメンタムホイール、万が一に備えたFDIR、シミュレータでいつも見慣れた情景。それが高度700kmの上空で今も進行中だ。

星野は思う、その姿をいつも浮かべるのが“姿勢屋”である自分の仕事だと。

万が一、衛星のどこかに何か異常が発生しても、その知らせを聞いた時の星野の自信にあふれた返事が聞こえるようだ。
「安心してください、この場合はFDIR機能が完全に働いて、数時間後には衛星は安全なモードに入っていますから・・・・」

取材・執筆 小笠原雅弘 2012年8月1日

星野 裕毅(ほしの ひろき)

写真:星野 裕毅

NEC東芝スペースシステム 主任
1997年東芝入社、2007年NECへ転籍、同年NEC東芝スペースシステムへ出向。2009年よりGCOM-W1姿勢軌道制御系担当

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