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JAXA GCOMプロジェクトマネージャ 中川敬三 氏 インタビュー 宙から視る水の行方

時代にマッチする衛星を提供する使命

  • 小笠原:ではこれからのことを伺います。これから「しずく」は5年に渡ってA-Trainの一角を占めて、地球を観測し続けるわけですが、その意義などをお聞かせ下さい。
  • 中川:

    写真:JAXA GCOMプロジェクトマネージャ 中川 敬三 氏JAXA GCOMプロジェクトマネージャ
    中川 敬三 氏

    実は「しずく」のAMSR2だけで新たな知見がもたらされる訳ではありません。AMSR2は基礎的なデータを提供するセンサなのです。A-Ttrain軌道にある他の衛星がこのデータをベースとして使っているのです。
    ですから「しずく」のA-Train軌道投入は、NASA側から強い「Invite(ご招待)」があったのです。このようにして「しずく」データが、他の衛星を通じての広いサイエンスへ貢献することが期待されます。

    AMSR2からは100分毎にデータが降りてきて、すぐ処理をして気象庁などに配布しています。もう現業的なルーチンワークに近い形になっていますので、衛星との回線や、処理計算機を含めて止めるわけには行きません。例えれば、みなさんが毎日テレビの天気予報で見ている「ひまわり」からの雲画像と同じようなものとなっていきます。
    今後、「しずく」データは一般の人も含む幅広い研究者たちにも利用してもらえるような体制をとっていきます。是非多くの方に利用してもらいたいですね。

  • 小笠原:今後打ち上げが予定されているGCOM-C1(気候変動観測衛星)との関係はどのようなものですか?GCOM-C1もA-Trainに投入されるのですか?
  • 中川:GCOM-C1はミッション要求から、高度が800kmと高いのでA-Trainには投入されません。こちらは多波長光学放射計SGLI(Second generation Global Imager)が搭載され、分解能250mで多波長観測することの出来るものです。ただSGLIは光学センサで、可視光/赤外光で地球を観測するため、雲があった場合はその上部のみが観測できるだけで、その下の海面や陸地を見通すことはできません。
    一方AMSR2は分解能はSGLIより劣るが、マイクロ波を使うために雲を通すことが出来て、雲があっても海面の温度等を測ることが出来ます。ですからこの二つは相補的に働き、この組み合わせが総合的な気象の理解につながるものと考えています。
  • 小笠原:水が地球の気候をドライブする主要な要素となっている、この水の循環を「しずく」やその後継機が観測し続ける意義は。
  • 中川:GCOM-C1とともに、「しずく」の後継機となるGCOM-W2の開発にも早期に着手したいところですが、現在国の予算も大変に厳しい状態にあり、本来1年の引き継ぎの期間をもって4年後には打ち上げたいのですがなかなか厳しいところです。
    思い返してみると「しずく」プロジェクトが立ち上がった6年前頃は、地球観測サミットが開催されたりして、地球の気候変動に対する関心が高まった時期にもあたり、そういった分野の観測気運が大いに高まった時期でした。今は気候変動が生活に及ぼす影響が非常に大きくなって、「水」が関与する災害への関心が高まっています。
    こういった時代にマッチする衛星やデータを提供することが我々には要求されています。干ばつ、大雨/洪水、エルニーニョ、北極海航路・・・災害だけでなく、農業生産や、物資輸送といった広範な経済活動に対する気候の影響と、その解明が期待されています。

    「しずく」から地球観測衛星は“利用実証”段階に入るといえます。インフラとして衛星のデータが生活に密着して使われる時代、それを実現するプラットホームを国産で提供する力が絶対に必要なのです。しかも決められた製作期間/価格で、衛星や、それがもたらすデータをタイムリーに提供することがJAXA(各メーカも含めて)には強く要求されています。

    私がJAXA(前身のNASDA)に入社して30年になります。最初の頃の技術導入から、今や自主的な開発で世界一級の衛星やセンサを造れるまでになりました。
    動くことが目的だった時代は終わって、宇宙も、動いて当たり前で、その上で何ができるかが問われる時代となりました。
  • 小笠原:大きなテーマについて最後に語っていただいてありがとうございました。今後の「しずく」の活躍大いに期待しています。

中川さんの目には、5年をかけて造り上げた「しずく」が、大きなアンテナを煌かせながら、地球をスキャンしてデータを撮り続けている姿がいつも見えているように思えた。
「しずく」はA-Trainのトップランナーの位置から、この瞬間も、この地球(ほし)の今を見続けている、地球にとって気候を動かす主要な要素としての水の行方を追いながら。

7月中旬、「しずく」は、グリーンランド南部の大陸氷床が大規模に溶けている様子を捉えた。その画像は、この地球(ほし)の行く末に大きな啓示を与えているように思えた。

取材・執筆 小笠原雅弘 2012年7月24日

中川 敬三(なかがわ けいぞう)

写真:中川 敬三

1956年大阪府生まれ。GCOMプロジェクトマネージャ。1982年、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。放送衛星3号「ゆり」(BS-3)、光衛星間通信実験衛星「きらり」(OICETS)の開発などを経て、2006年現職。

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