地球の異変をいち早くキャッチする宇宙からの視点
──これまでも、衛星技術は地球の環境変化の把握に役立ってきたのですか。
- 沖:カザフスタンとウズベキスタンにまたがるアラル海という塩湖があります。この湖の水が減り始めていることが衛星から初めて観測されたのは、1973年のことでした。それから36年が経った2009年には、ほとんど湖の形を成さないまでに水が減ってしましました。その変化を把握できたのは、衛星が継続的に活動してきたからです。
アラル海の水が減った理由ははっきりしています。湖に流入する川の上流に大規模な綿農場が開発され、そこで大量の水を灌漑に使ったことが原因です。人間には、巨大な湖をほとんど干上がらせるようなことができてしまうということを、衛星からの画像が私たちにはっきり教えてくれたのです。
アラル海縮小の様子
- 沖:また、1979年頃に始まった衛星観測によって北極海の氷が2012年9月に最も少なくなったことが「しずく」からのデータによって明らかになっています。これもまた、継続的な衛星の観測がなければわからなかったことです。
北極海の海氷分布変化の様子
- 沖:私たちが地上で把握できる情報は、本当にわずかです。地球上には、人の目が行き届かないところがたくさんあります。しかし、宇宙からの視点が常にあれば、地球の異変をいち早くキャッチすることができるし、対策の行動を起こすことができます。それを可能にするのは、地球観測衛星をおいてほかにありません。
──わが国が衛星開発に積極的に取り組むことの意義について、どうお考えですか。
- 沖:衛星で継続的な観測を続けるには、技術力、資金力、人的資源が必要になります。しかし、それらを十分に備えている国は、そう多くはありません。日本は、そういった力を備えた国の一つです。
力を持っている国がそれぞれの衛星によってデータを収集し、その情報を互いにシェアしあうだけでなく、世界中の国々に情報を提供していく。そして、地球全体の環境、気象、食料、災害といった分野の問題解決に寄与していく。そのような国際協調の枠組みが、これからの時代にはいよいよ重要になります。日本は誇りを持ってその枠組みへの関与を続けるべきであり、そこに日本が衛星開発に取り組む最大の意義がある。そう私は考えています。
──今後の研究活動の方向性をお聞かせください。
- 沖:現在、地球は様々なリスクに晒されています。そのリスクを一つ一つ明らかにし、人類が持続的に安定して暮らしていける環境を作る。そういったいわば「地球リスク管理学」のような分野を確立できないかと考えています。そのような取り組みは、衛星からの情報がなければ成立しません。「しずく」をはじめとする衛星の継続的な活動に期待しています。
取材・執筆 二階堂 尚 2013年4月9日
沖 大幹(おき たいかん)
東京大学 生産技術研究所 教授
1964年東京生まれ、兵庫県西宮育ち。2006年より東京大学生産技術研究所教授。水文学、特に気候変動とグローバルな水循環、バーチャルウォーター貿易を考慮した世界の水資源評価などが専門。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書統括執筆責任者、国土審議会委員ほかを務める。