「面」の情報と「点」の情報を組み合わせる
──「しずく」から地球の水の状況を観測することの意義についてお聞かせください。
- 沖:これまで、地上でも様々な地域に観測ポイントが設けられてきました。しかし、観測機器を設置するには、電源や通信インフラを同時に整備しなければなりません。人の生活のないところでは、設備が盗難被害にあうリスクや、動物が機械を破損してしまう心配もあります。また当然、地球の水の現状を知るには海上でのデータ取得も必要ですが、海上に観測機器を設置することは簡単ではありません。さらに、地上、海上を含め、地球上での観測はあくまで「点」での情報把握にとどまります。
それに対し、「しずく」は、2日間で地球表面の99パーセントを観測することが可能です。つまり、「面」でのデータ収集ができるわけです。地上での「点」での微細な観測と、「しずく」による「面」での広範な観測。その二つのデータを組み合わせることで、水や気象に関するより正確な情報を得ることが可能になります。その正確なデータが、気象予報の精度向上や、地球環境の現状把握に大きく貢献するのです。
──現在、「しずく」からのデータは、水文学の研究にどのように活用されているのでしょうか。
- 沖:ご存知のように、気象予報や漁業といった実用分野への情報提供は始まっています。一方、研究の分野では、「しずく」が取得したデータの活用法について確立を目指している段階にあります。
「しずく」に搭載されているマイクロ波センサー「AMSR2」は汎用的な機能を持っていて、活用の仕方によっていろいろなデータを収集することが可能です。現在収集しているのは、降水量、水蒸気量、海洋上の風速や水温、土壌の水分量、積雪の深さなどのデータですが、マイクロ波の周波数帯の組み合わせによって、さらにいろいろなことがわかります。地球の水の現状を把握するためにどのようなデータが必要で、そこからどういう知見を導き出すことができるか。その検討を現在進めているところです。
──「しずく」からのデータは、地球の水問題の改善にどのように役立つとお考えですか。
- 沖:
まずは、洪水など、水の被害を防ぐための情報基盤の整備に役立つと考えています。来年、降雨量と降雪量を把握する衛星「GPM/DPR」をアメリカが打ち上げる予定になっています。
「しずく」とその衛星がコラボレーションをすることによって、地球全体の雨と雪の状況をほぼリアルタイムに把握できるようになります。その情報をもとに、雨や雪に関する警報を早い段階で発することができるようになれば、被害の軽減に役立つはずです。
また、長期的に観測を続けることで、気候変動が生態系に与える影響の把握などに役立つことが期待されます。そのためには、「しずく」の活動が継続的に行われ、気候の変化を動態として把握していくことが必要です。現在の「しずく」は、地球環境変動観測ミッション(GCOM)の1号機ですが、2号機、3号機と活動が継承され、この先何十年にもわたって、水に関する情報を私たちに届けてほしい。そう願っています。