「衛星に最後にさわったのは、彼」
──NECだけでも最大時100人規模のチームで関わった衛星ですが、最終的に組み立てるのは意外に少ない人数なんですね。もっとたくさんの人が関わっているのだという先入観を持っていました。
- 西根:クレーン作業などが入るときはもう1人応援を呼びますが、組立に直接携わるのは、主に2人ですね。
- 浦添:西根さんは普段は物静かなのですが、クレーン作業で声を張るときには、びっくりするぐらい大きな声を出します。射場作業など現場経験の賜物ですよね。見習わなきゃいけないなと思いました。
──衛星のフライト品をロケットに搭載した状態で、最終的な試験を行ったそうですが。
- 西根:M-Vロケットの頃は、ダミーの衛星(同寸の模型)をロケットメーカーの工場に持ち込み、実際に組み立てて確認をしていました。
──現場で慌てないため、事前に十分なリハーサルをやっていた。
- 西根:でも今回のイプシロンではそれを射場でおこないました。PAF(パフ、衛星とロケットを結合する部品)だけは事前に借りてきて、宇宙科学研究所で噛み合わせのテストをやっていますが、射場でも一発でうまく行きましたね。
──イプシロンロケットでは打上げ直前まで衛星にアクセスすることができるという点がアピールポイントのひとつで、「レイトアクセス3時間」というのは世界的にも最高水準です。「ひさき」では打上げ直前の作業はどのようなものでしたか?
- 西根:衛星は外部と電力を送ったり通信をしたりするアンビリカルケーブルという線で最後まで結ばれています。また、「ひさき」では内部の一部機器を真空に維持するために配管をつなげていました。その配管を外し、外した部分を多層断熱材で覆うという作業が最後に残っていました。
──NECのプロジェクトマネージャーの鳥海さんは、イプシロン管制センターからその作業をモニターカメラで見守りながら「忘れ物するな、ぶつけるな」と心の中で祈っていたそうですが。
- 西根:レンチなどの工具類は紐で手首と結び使用しています。落としたり忘れることはないが、落とした勢いであちこちぶつかっても困るので細心の注意をはらいます。板の上で腹ばいになり、ほぼ全身をフェアリング(ロケット先端部の衛星を覆うカバー)の中に入れて行う、最後のヤマ場の作業です。
──何度もそれを乗り越えてきたわけですね。
- 西根:ええ、でも今回、最後に衛星に触ったのは浦添なんです。
──ご自身ではなく?
- 西根:体勢もきついし、もう年ですし(笑)。彼の仕事ぶりを見ていて、ある時期から「最後は浦添に」と思っていました。
──信頼の証ですね。浦添さんは嬉しかったでしょう?
- 浦添:ええ、でも実際に最後の作業をしていた時は、長く関わってきた衛星なので、ちょっと寂しくもありました。
──打上げを見届け、どの段階でみなさんホッとするのですか?
- 西根:機械系の担当としてはアンテナやカメラなど展開部は気になります。今回も太陽電池パドルが無事展開してホッとしました。「はやぶさ」のように、7年も経ってから最後にカプセル分離機構が仕事しなければならないということは稀です。
- 藤田:私は、衛星が地球を一周してきて、テレメトリで衛星の健康状態が見えて初めてホッとできました。打上げを見守っているみなさんは、担当部分によってホッとするタイミングが違うので、あまり派手に喜ぶわけにはいかないのですが。
──西根さんと浦添さんは、仕事のパートナーとしては一区切り。またそれぞれ違う衛星を担当することになるわけですか?
- 西根:そうです。でも今回、自分のやり方を伝えたい、受けついでもらいたいという気持ちで一緒にやってきました。どれだけそれができたか、彼が関わっていく仕事を今後も見守っていきたいと思います。
- 浦添:たくさんのことを学びましたが、全部をまねるのではなく「いいとこどり」をして、自分のスタイルをつくっていきたいと思います。
2014年3月7日
西根 成悦(にしね せいえつ)
NEC東芝スペースシステム・「ひさき」組立担当
1973年入社。「さきがけ」「すいせい」以来、宇宙科学研究所のほぼすべての衛星の組み立て作業に関わる。平成23年厚生労働省選定の「卓越した技能者の表彰制度(現代の名工)」に選ばれる。
浦添 秀市(うらぞえ しゅういち)
NEC東芝スペースシステム・「ひさき」組立担当
2008年入社。鹿児島県西之表市出身。小学校では授業の合間に屋上からロケットの打上げを見て育つ。
藤田 真司(ふじた しんじ)
NEC東芝スペースシステム・「ひさき」検査担当
1999年入社。神奈川県相模原市出身。小学生の頃、町内会のツアーで宇宙科学研究所に見学に行き、宇宙に興味を持ち始める。