ページの先頭です。
サイト内の現在位置を表示しています。
  1. ホーム
  2. 宙への挑戦
  3. 惑星分光観測衛星「ひさき」(SPRINT-A)
  4. 宇宙科学を支える小さな衛星(ほし)
  5. 第1回 小さな衛星(ほし)の2つの願い
  6. 巧妙な方式で難題を克服
ここから本文です。

宇宙科学を支える小さな衛星(ほし)第1回 小さな衛星(ほし)の2つの願い

巧妙な方式で難題を克服

  • 鳥海:宇宙空間で衛星の擾乱(じょうらん)を緩和しポインティング精度を上げるには、衛星本体を大きく重くして、パネル振動の影響を相対的に小さくするというアプローチがあります。

──船でいうと、大型船は揺れにくいのと同じですね。

  • 鳥海:あるいは動かない恒星を見るカメラを複数台搭載し、その位置を目印に自分の姿勢をより精度よく知るというアプローチもある。

──見張りを増やし、より多くの目印や灯台を見ることで、正確に現在地を知る……。ただ小型衛星と呼ばれるだけあって、質量約350kgというのは観測衛星や通信衛星(~4トン前後)に比べるとかなり軽いです。

  • 鳥海:擾乱に負けぬよう大きく重くすることも、姿勢を測るために新たに道具を増やすこともできなかったということです。

──つまり、あるもので工夫して克服しなければならない?

  • 鳥海:鍵は「望遠鏡」そのものでした。観測に使う高性能の望遠鏡で取得した画像を、姿勢制御にも使おうというアイデアです。でもそんな方法、私も初めてだし、他所でもあまり聞いたことがなかった。しかも、観測に使う中心部の画像ではなく、中心からズレた周辺視野の情報から目標を推定するという、かなり巧妙な方法でした。

写真:「ひさき」の光学系の概要「ひさき」の光学系の概要
主鏡で反射された天体からの光は、
スリットの裏面で反射されて視野ガイドカメラ(FOV)にも導かれ、
その観測対象天体周辺の視野情報を基に姿勢制御を行う。


──観測のための仕組みを、別の目的にも使用する。
最初に聞いて、どう感じました?

  • 鳥海:そもそも人工衛星は打ち上げたら修理ができない、壊れてはいけない機械です。検討に検討を重ね、徹底的に試験を繰り返し、信頼性を高めて行く。私がこれまで関わってきた大きな人工衛星で、確実に物を作るための手法は「各チームの担当部分をきっちり区分けし、皆がその枠内をしっかり仕上げる。それを組み合わせて信頼性の高い完成品を作る」という、いわば保守的な作り方で、蓄積と実績がモノを言う世界です。

    でも「ひさき」はそれとは違いました。それぞれが、自分の担当部分の壁を超えて情報を共有し、コラボレーションしながら進めていかないと、成立しないアイデアです。

──観測用の望遠鏡を姿勢制御に使うには、事前の検査や試験がとても重要になりますね。

  • 鳥海:

    写真:NEC 宇宙システム事業部 シニアチーフエンジニア 鳥海 強

    そうなんです。宇宙環境をすべて模擬して試験することはできませんから、部分部分を検査し確認することを積み上げて行って、最終的に全体がうまく機能するであろう、ということにするわけです。ほんとうの宇宙のことは、宇宙に行かないと分からない。ただ我々には、これまでの技術開発で実証してきた「こうやればうまくいく」「これをやらないとまずいことになる」という技術とノウハウの蓄積があります。ある技術を宇宙で実証したということは、その技術を宇宙で使うために必要な検査手法やチェック体制まで含めた技術の総体を実証したということだからです。

──なるほど、だから部分部分でしか試験ができなくとも、組み合わせて宇宙へ上げれば「うまくいく」と自信を持って言えるわけですね。


  • 鳥海:もちろんドキドキはしますけれどもね(笑)。「ひさき」は、他の3軸制御の衛星と同様、内部にリアクションホイール(はずみ車)を複数搭載し、姿勢の安定を保ちます。ちょうどコマの姿勢が回転によって安定するのと同じ原理です。そして、そのコマの回転数を変えることで姿勢を積極的に変えることもできる。地上試験で望遠鏡にダミーの星を見せると、リアクションホイールの回転を示すグラフが想定通りの変化をなぞってくれた。つまりその情報をもとにリアクションホイールが正しく回転してくれたんです。そのときに、「ああ、これでポインティングの機構がうまく行く」と、少し安心しました。衛星開発のヤマ場の一つだったと思いますね。
ページ共通メニューここまで。

ページの先頭へ戻る