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  5. 第2回 組織を超えたチームワークで二兎を仕留める
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スペシャルインタビュー JAXA イプシロンロケットプロジェクトマネージャ 森田 泰弘 氏  組織を超えたチームワークで二兎を仕留める

ハッブルも注目、ユニークな観測ミッション

──「ひさき」の観測運用は順調ですか?

  • 澤井:トラブルや不具合があると私も忙しくなるはずなのですが、観測担当の理学チームからはお呼びがかかりませんね。所内で会う彼らはニコニコしていますので、とても順調のようです。

──2014年の年明けからは、アメリカNASAのハッブル宇宙望遠鏡※とともに木星を狙う、協調観測が行われていましたね。


  • 澤井:

    写真:ひさきイメージひさきイメージ

    地上の天文台などと同様、ハッブル宇宙望遠鏡でも、観測時間を得るのは並大抵のことではありません。

    世界中の天文学者が知恵を絞って観測プランを提案し、オリンピックなみの競争と審査を経て、観測時間が割り当てられます。倍率もひじょうに高く、いかに魅力的な観測を提案できるかが勝負なのですが、今回は14日間にわたり合計14時間もの協調観測が実現しました。単一テーマでの観測としては過去最長クラスだそうです。


──ハッブルにとって、「ひさき」の何がそんなに魅力的なのでしょうか。

  • 澤井:極端紫外線に感度を持っているということ自体がまずユニークです。その「ひさき」と、可視・赤外領域で高分解能の観測ができるハッブル宇宙望遠鏡の両方が同時に木星を観測することで、これまで見ることができなかった太陽風と木星大気のダイナミックな相互作用に迫れるはずです。

写真:「ひさき」のファーストライト(初画像)として公表された分光観測(スペクトル)画像(上:木星/下:金星)「ひさき」のファーストライト(初画像)として公表された
分光観測(スペクトル)画像(上:木星/下:金星)
ヨコ軸は観測波長。左端から右端にかけ波長150~50nmの極端紫外線の強度を示している。虹(可視光)の紫色(400nm前後)の半分以下となるこの波長領域にはH(波長121nm)、O(130nm)、O+(83nm)などの輝線が存在する。タテ軸はスリットの長手(図の上下)方向の空間分布を示す。この画像を解析することで、視野の中にどんな原子やイオンがどの程度存在するかが分かる。


──とがった能力が評価されたんですね。いっぽうで、小型科学衛星に使う標準的な「衛星バス」のチャレンジも同時に進めていました。電力や推進力や姿勢制御など、どんな衛星にも必要な機能を提供する「衛星バス」と、望遠鏡や観測用のセンサなどの「ミッション部」を組み合わせることで、高性能な科学衛星を低コスト・短期間で作るという考え方。いわば「新しい衛星の作り方」を提案していたわけで、いわば2羽目のウサギですね。

  • 澤井:セミ・オーダーメードで科学衛星を作れる仕組みを開発し、今回宇宙実証することができました。プロジェクトの立ち上げ時に、宇宙科学のミッションを提案をしている25ほどのチームに、どんな軌道でどんな観測をしたいかをアンケートしました。どんな軌道を通るかで衛星に加わる熱の条件が違ってきますし、太陽の当たり方が違うので電力の需給サイクルも変わります。姿勢制御の方法や、地上との通信などの条件も勘案し、そのうち15~16チームの要求を満たすような小型科学衛星の標準バスとして、SPRINTバスを完成させました。標準化をガチガチに硬くしてしまうと、非常に使いにくくなってしまうが、逆に何にでも対応できるよう柔らかくしすぎると、標準を決めた意味がなくなってしまう。科学衛星は常にその分野での一番を狙うわけですから、標準化のさじ加減にも難しさが伴います。

──そのさじ加減、「ひさき」でうまくいった部分は?

  • 澤井:小型のバスを使いながら、5秒角の指向精度を実現させた点は、誇っていい部分だと思っています。

──指向精度というのは、狙った向きに望遠鏡をあわせる能力ですね。1秒角が1度の3600分の1ですから、5秒角というのはとても小さい角度です。時間も角度も、ともに秒や分を使うのですごく紛らわしいのですが、計算してみたら、時計の秒針が0.23ミリ秒間に動く角度が5秒角でした。


  • 澤井:

    写真ひさき模型と澤井氏

    普通の通信衛星を1~2桁上回る精度だと思って下さい。それを小さな標準バスを使い、少ないリソースで実現しました。
    望遠鏡部分のCFRPという材料と、衛星のアルミ材では、熱での伸び縮みが違います。 この二つの結合部分の微調整も大変でしたね。なにしろ打上げの振動を経てもわずかな変化も出ないようにする必要がありましたから。精度を向上するために観測に用いる画像の一部をカメラに導いて画像処理し、姿勢制御を行なうという方法をとりました。画像の中央部分は観測のための光学系に送られますので、真ん中が欠けた画像を処理して、見えない真ん中に惑星をとらえるという難題を解かなければならない、それにはかなり複雑な計算が必要でした。


──大きなチャレンジだったんですね。

  • 澤井:5秒角という精度要求は、実はある程度設計が進んでから出てきたものなんです。そのために機器や材料を増やすわけにはいかない。手持ちのリソースでやるしかないので「観測画像の一部を使って姿勢制御」というアイデアも一緒に出てきたわけです。そのアイデアをプログラムに落としこみ、どんな試験が必要かを検討し、実現にこぎつけられたのは、ひとえにチームみなの経験と知見を結集できたから。やると決まったときの最初のダッシュはすごいものがありました。実際の軌道上での運用では、目標の5秒角を大きく上回り、2秒角の精度で運用できています。

──まさに二兎を追い、二兎とも仕留めたということになりますね。

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