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スペシャルインタビュー JAXA イプシロンロケットプロジェクトマネージャ 森田 泰弘 氏  組織を超えたチームワークで二兎を仕留める

組織のカベを超えた強力なチームワーク

──衛星そのものの作り方について伺います。宇宙科学研究所のプロジェクトは、モノづくりと研究開発に関わる工学畑の先生方と、観測や理論などサイエンスに関わる理学畑の方々が協力して進めていますよね。澤井先生は工学畑の出身で、「はやぶさ」ミッションではターゲットマーカーの開発にも関わって来られましたが。

  • 澤井:はい。もともとはロケットの制御理論が専門の工学出身です。

──この衛星ではじめてプロジェクトマネージャーを担当され、無事務めを果たされた。振り返ってみていかがですか?

  • 澤井:師と仰ぐ松尾弘毅先生(元宇宙研所長)から昔、聞かされたことがあります。「澤井君、プロマネの仕事は中毒性があるよ」と。当時は何のことか分からなかったのですが、今は少し意味が分かります。普通に暮らしていてはとても味わうことのないような緊張感にさらされ、待ったなしの決断を迫られる、シビれるような日々でした。

──それほど開発は波乱に満ちていた?


  • 澤井:

    写真

    傍からはスムーズに進んでいるように見えたかもしれません。スケジュールを前倒しするぐらいの勢いでしたので。しかし、世界トップクラスの性能にチャレンジしていましたし、衛星そのものも充分に複雑なシステムです。やるか、やらないか。やるならどこまでやるのか。すべての情報が集まるまで待つと手遅れになる。不完全な情報しかないなかで判断を下し、先に進まないといけない。そんな状況が毎日のようにやってきます。判断を誤れば、その瞬間に予算やスケジュールを踏み抜いてしまう……。


──伺っているとドキドキしてきます。

  • 澤井:神ならぬ身の我々は、地上に這いつくばりながら、はるか彼方の見えない正解を探し求めなきゃいけないわけです。YESかNOか。ときにはYESでもNOでもない道を、自分たちで作らなければならない。次から次とそういう局面がやってきました。でも不思議と判断は当たりました。それは私の能力でも何でもなく、経験と熱意のプロフェッショナルが集まり、組織のカベを超えた強力なチームワークを発揮できたからだと思っています。

──具体的にはどういうことなんでしょう。

  • 澤井:何か問題が起きて、話し合いを始めると、だいたいみんなの意見が分かれるんです。Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、みな違うことを言う。しかもそれぞれが正しい。そこで議論になるわけですが、それはそれは激しい議論になります。

──ロケット制御が専門のプロマネでも制御不能なほどの激しさ?

  • 澤井:

    写真:JAXA 「ひさき」プロジェクトマネージャ 澤井 秀次郎 氏

    そのときはプロマネであることを私は忘れていますし、みなさんもたぶんそう(笑)。「澤井さん、あなたの言うことは間違っている!」と真っ向勝負です。

    「そんなんじゃダメだ!」「身を挺してでも止める!」と、JAXAもNECも背負う組織は関係なく、それぞれがプロとして重ねてきた経験や知見を、議論の形で吐き出すんです。
    でもいつまでも議論しているわけにはいきません。出尽くしたところでプロマネとしての職責を思い出し、「AもあるしBもある。でもここはCで行かせてもらいましょう」などと方針を決めます。

──文字通り「忌憚ない意見」を出しあった末の結論ですね。

  • 澤井:そういうふうに議論を挑むのは、私が思う以上に勇気がいることなのかもしれません。ただ、すごいのはそこからです。いったん方針が決まれば、1秒前まで大反対していた人も「ならばここはこうしたほうが」「こういう手を打っておけばもっとよくなる」と実施上のアイデアを次々と出してくる。議論は激烈ですが、いったん決まれば一丸となって全速力で同じ方向に走り出せる。そんなチームだったんです。

──何がそのチームワークをもたらしていたのでしょうか?


  • 澤井:プロとしての責任感だったり、一流の技術者としての矜持(きょうじ)だったり……。それぞれの経験だけでなく、性格や相性のような個人の属性も作用しているのかもしれません。でもやはり一番大きいのは、「何としてもこのミッションを成功させたい」という思いを、みんなが強く持っていたということでしょう。立場や役割を踏み超えてでも、ミッションの成功のために何ができるかを考え抜いた。だから議論も白熱し、いったん決まれば全速力。ほんとうにいいチームでした。
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