機器が良くなるほど、宇宙は近くなる
──最後に小型衛星への期待をお聞かせください。
- 森田:小型衛星が拓く世界はこれからの宇宙開発にとても大事な役割を果たします。大型衛星の需要がなくなるわけではありませんが、数百億円の衛星を誰もが使えるわけではありません。しかし、一桁も二桁も値段が下がれば、いろんな人が挑戦でき、いろんなアイデアが宇宙の分野に流れ込んできます。それが宇宙の敷居を下げるということの真意です。
──「ひさき」は年明け早々から、ハッブル宇宙望遠鏡との協調観測を行っています。人類の宇宙観を変えたとまで言われる、あのハッブル宇宙望遠鏡とのタッグとは、ひじょうに魅力的ですね。
- 森田:「ひさき」がすごいのは、小型だからといって性能が劣っているわけでは全然ないことです。しっかりした目標を定め、とがった性能を実現し、素晴らしいスタートを切りました。大きく高性能で、なんでもできる望遠鏡だったハッブルですが、「ひさき」のような極端紫外線による惑星専用の観測はできなかった。だからこそ協調観測が実現したわけです。「ひさき」はサッカーのワールドカップでやがて優勝を狙う日本代表みたいなものかもしれません。世界を狙う志も、それだけのポテンシャルもある。ハッブルも十分それを意識したから、協調観測が実現したのでしょうね。
──NECグループへの期待は?
- 森田:ロケットの姿勢を知るためのリングレーザージャイロは日本航空電子の製品ですし、その情報を編集加工し送信するシステムや、レーダートランスポンダ、そしてロケットにとって最も大事な誘導計算機もNECの製品ですね。2010年ごろ、イプシロンの開発スタート時に、技術者のみなさんと、将来のロケットのアビオニクス(航法誘導機器)はどうあるべきか、かなり深いところまでディスカッションを重ねました。その中から「機種依存しないハードウェア」「分散型のネットワーク」など、新たな開発テーマがリストアップできました。ただ残念ながら、今回の打ち上げには新規開発の予算がつかず、アビオニクスに関してはH-IIAロケット用を転用する形となりました。
しかし、未来への種はちゃんとまいてくれました。ロケットの機種に依存する部分をボード化して差し替え可能にしてくれたのです。機種の違いをボードの差し替えで吸収する形です。未来を見据えた開発に協力してもらっています。NECに限らず日本のメーカーさんが持つものづくりの力は、アイデアを形にしていくうえで、ものすごくありがたいし、力をいただいています。できればパソコンやケータイのように「世界最薄」とか「世界最軽量」のデバイスを、宇宙でも使ってみたいですね(笑)。機器が小さく、軽く、高性能になり、そして安くなればなるほど、宇宙は近くなるわけですから。
手にしているのは実際の開発に使うため、細部まで精密に再現されたスケールモデル。
「風洞試験で超音速の風を当てました。ずしりと思いのは、チームメンバーの情熱の重さですよ(笑)」。
2014年3月14日
森田 泰弘(もりた やすひろ)
JAXA宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授。工学博士。
東京都港区出身。1990年、旧文部省宇宙科学研究所(現JAXA)助手となり、2003年、M–Vロケットのプロジェクトマネージャを経て、2010年にイプシロンロケットのプロジェクトマネージャとして開発を指揮。東京生まれ東京育ちの阪神タイガースファン。