衛星とロケットの深い信頼関係
──「ひさき」では、衛星をロケットと結合した後で、ロケット機体の試験を行ったそうですね。ロケットを揺さぶって振動の具合を確かめたのだとか。これは非常に異例のことと聞きましたが。
- 森田:
実衛星を乗っけてロケットの試験をするなんて、よほどの信頼関係がないとできないことで、ロケットと衛星の信頼関係の深さを象徴していると思います。JAXA内部はもちろん、それぞれに関わるメーカー間の信頼関係をも象徴する出来事です。こうした信頼関係は今後、小型衛星と小型ロケットがコンビを組んで発展していこうというときに、大きな力になりますね。
──「小型」であることを強みにしたいということですか?
- 森田:サイズが小さいということは、注がれるリソースも少ないわけですから、単純にモジュールの性能を足し算しただけでは答えが出せません。みんながポテンシャルをフルに発揮し、その掛け算で結果を出していかなければならない。「ひさき」もそうやって成果を出した衛星だと思います。
メンバー相互の有機的なつながりを生かす手法は我々の伝統だと思います。教わって身につけたものではないので、伝えるのに苦労していますが。
──イプシロンの打ち上げ時の振動はかつてないほど低いレベルで、衛星からするととても乗り心地の良いロケットなのだそうですね?
- 森田:発生した振動は規定値の10分の1でした。衛星の担当者に「ずいぶん違いますね、言ってた数値と」と言われました。
──それは感謝の言葉ですか? それとも「先に言っててくれれば、振動試験や音響試験であんなに苦労しなくてもよかった」という皮肉というか恨み節?
- 森田:たぶん後者でしょう(苦笑)。でも難しいのはイプシロンがまだ1機目で、サンプル数が1つしかないということです。次もこの数値を出せると保証できるわけではありません。ただ確実に、ロケットの側からの最大値を下げることはできます。
──それを可能にしたのは、何ですか?
- 森田:数学モデルを構築し、精密な計算をするツールを得たことで、スケールモデルによる実験と数値解析がうまく橋渡しされるようになりました。コンピュータとソフトウェアの進歩によって、シミュレーションの確度が格段に上がったわけです。
──シミュレーションの成果で試験機からうまく行ったというのは、ふたたび野球に例えるならば、素振りの練習しかしていなかったバッターが、いきなりヒットを打ったようなものでしょうか?
- 森田:それも初球先頭打者ホームラン。イメージトレーニングがしっかりできていたんですね(笑)。