バーチャル「はやぶさ2」が、コンピュータの中を飛んでいる
Q:後継機として作られた「はやぶさ2」は、その点では練られたものだと考えていいですか?
初号機は手探りの部分も多かったと思います。予期しない事柄に対して、非常に苦労しながら手順を確立し、その都度必要なツールを作って対処してきました。「はやぶさ2」ではそういった知見や経験がすでにあるので、定型的に計画を作成し、手順書とコマンドに落とし込むシステムを用意し、それが機能しています。その点では「はやぶさ2」は進歩・成長していると感じます。
Q:なるほど。
運用計画を担うシステムの中では、ある程度いくつかの想定されるシーケンス(まとまった命令の列)のデータベースを用意しています。そこから適切なシーケンスを選んで、定型的な計画を組み上げていく……、というようなことができていますから。
Q:そのデータベースというのは、たとえば文章をつくるときのフレーズ集みたいなもので、それを選んでいくと、センテンスやパラグラフが作れるようなものでしょうか。
そうですね、似ていると思います。
Q:NGワードが入っていたり、組み合わせで変な意味にとられたりしないことが確認済みのフレーズ集。そういったものを組み合わせたり編集したりしながら並べていくと、探査機は望んだ通りの動きをしてくれる……。
もちろん探査機に送る前に、コンピュータ上のシミュレーションで検証もしています。
Q:コンピュータの中で、バーチャルな「はやぶさ2」が飛んでいるわけですか?
簡易的なものから精密なものまで、サブシステム単位だったりシステム全体だったり、いろんなスケールのバーチャル「はやぶさ2」を用意しています。
Q:1/24サイズもあれば、実物大もある?
あります。いちばんわかりやすいのはAOCS(姿勢系)のシミュレータですね。このコマンドを入れたら、探査機がどう姿勢を変えていくのか。あるいはDHU(データ処理系)にコマンド列を入力し、そこから想定する応答が返ってくるかどうか。そういったシミュレータを使って挙動を確認するんです。
Q:シングルイベント(宇宙放射線の影響でメモリのビットが反転するエラー)みたいなことも試せるわけですか。
可能ですし、必要ならばやります。いずれにしても通常の場合は、そういった確認をしてオーケーが出たコマンドを、探査機に送っています。初号機に比べシステムもこなれてきていますので、運用もより定型化した形でこなせています。この先もし運用要求が変わってきても対応できるよう、拡張性のあるシステムとして作ってきました。