プロマネの極意
Q:プロマネとして、体制や進行についてどのような対応を?
システム部門は「はやぶさ」より多くの人手をかけ、また開発プロセスもかなり見直しました。これで、より確実で高い信頼性を担保できる仕組みや体制ができたと思っています。
他のプロジェクトとの間での製造や検査などにおける人や設備の調整では “ある時は押したり、ある時は引いたり”しながら、最終的にはNECグループが一丸となって取り組んだという印象です。
Q:このあたりの駆け引きは、プロマネ業務の極意なのかもしれませんね。
そうかもしれません。なかなかこういったやり取りは、シスマネだった「はやぶさ」の時には見えていなかったところです。
Q:「はやぶさ」の時からプロジェクトメンバーは変わりましたか?
若手も増えましたし、メンバーはずいぶん変わっています。それでも、「はやぶさ2」のシスマネの榎原匡俊とは「あかつき」と2つの探査機をともにしていますから、ツーカーの仲です。彼は「はやぶさ2」を通じて更に成長してくれたと感じています。
Q:若手のメンバーに対して、口酸っぱく言ったことはありますか?
私はあまり口うるさいほうじゃないけれど・・・・各機器の仕様の書き方には相当なこだわりがあります。あいまいさの排除、ダブらず、もれなく、検証可能な形できっちり書き下す、というところを徹底しました。当たり前のようで結構難しい。これで若手がずいぶん成長した、一人前になったかなと思っています。
初テレメトリは感無量
Q:打ち上げが2回延期になった時の気持ちは・・・
打ち上げまでのスケジュールは完全にこなしていたので、あとは本番を残すのみという心境でした。打ち上げのウインドウ制約(打ち上げ可能な期限)まではまだ日程に余裕があったので、淡々と備えていました。
Q:打ち上げ時は?
無事に打ち上がったように見えても、やはり探査機のテレメトリ(衛星搭載機器の温度、電流、電圧などの状態を示す信号)を見るまではドキドキで・・・最初のテレメトリ受信ができたときは、うれしかったですね。「はやぶさ」の時よりは冷静でしたが、やはり、最初のテレメトリは感無量です。どの衛星や探査機でも、一度しかない誕生の瞬間ですから。
Q:現在の状況について教えてください。
「はやぶさ2」はまだ初期運用段階(2015年2月現在)です。現在、JAXAにてイオンエンジンや姿勢系、通信系等のチェックを行っており、当社も支援しています。一つ一つ機能を確認し、動作を始めていくのを見るのは、自分の子供が歩き始めた時の様子を見ているような感があります。
今後も2020年の地球帰還まで、力をつけたメンバーとともに尽力していきます。
エピローグ
大島は「はやぶさ」を「はやぶさ初号機」と呼ぶ。「はやぶさ2」から入ったメンバーは時に「はやぶさ」と呼んでしまうので、あえてこんな呼び方をして区別していると言う。こんなところにも新たに加わった人たちと、「はやぶさ」からのプロジェクトメンバーの違いが見て取れる。呼び名ひとつでも、人とプロジェクトのかかわり、その長い年月を垣間見る思いがする。「あかつき」と「はやぶさ2」、2つの探査機を見守り続ける大島の日々が続く。
2015年1月19日 取材
(取材・執筆 小笠原 雅弘)
大島 武(おおしま たけし)
NEC 宇宙システム事業部 エキスパートエンジニア
1990年入社。衛星搭載機器の開発担当を経た後、
「はやぶさ」のシステムマネージャー、金星探査機「あかつき」
および「はやぶさ2」のNECプロジェクトマネージャーを務める。