経験が大きなアドバンテージ
Q:プロマネとしての開発期間はどのようなものでしたか。
開発期間が短かったので、全体をまとめる立場としては一言でいえば“身も凍るような数年間”でした。本当に。
それでもやり遂げられたのは、プロジェクトメンバーの、どんな問題があってもひるまない、真っ向から問題に立ち向かう姿勢があったからだと感じています。「何が何でも2014年末には打ち上げるんだ」という強い気持ちです。また、「はやぶさ」の時の経験がJAXA、メーカーともにあり、衛星の造り方にしても、試験の仕方についても、「はやぶさ」の時に何に困ってどんなことが起きたかを私たちは学んでいた。これはすごく大きかったと思います。
Q:他にも何かポイントがあればお聞かせください。
「はやぶさ2」は、あれだけ小さな機体にも関わらず、搭載するもの、特に分離するものが多かったのです。その調整などで、2013年末あたりが本当に開発の山場でした。メーカーも交えてテレビ会議などを連日、連夜やっていました。とにかくどんどん決断しないと前に進まないので、プロマネの私は「決める」というのが毎日の仕事でしたね。現場や、各分野のエキスパートの意見を大事にしながら、プロジェクトとしての決断をしていきました。
Q:「はやぶさ2」のこれからについてお聞かせください。
初期運用を終了すると、軌道制御のためにイオンエンジンを噴く巡航フェーズに入れます。次の大きなイベントは2015年末の地球スイングバイです。その後は日本から見えない時期が数か月も続きます。軌道がぐーんと南側に行ってしまうからです。この間はNASAの地上局の支援を得ることになります。海外の地上局も使いながら「はやぶさ2」を自在に運用していくスキルをこの間に貯めていくとともに、エンジンの癖をつかむ習熟期間でもあります。
地球スイングバイイメージ
合わせて2018年の小惑星到着以降の詳細運用を検討しなくてはなりません。小惑星での1年半は、長いようで実は短い期間です。さまざまな観測や、分離機器の運用、サンプル採取とやることが目白押しですから。この期間の運用スケジュールを早い段階で作りこんで、計画的にやらないといけない。必要なツール準備や人の育成も今から準備が必要です。
小惑星に着いてからの実際の運用も大変です。科学研究用の観測機器をどう使いこなして、取得したデータをどう地上に送るか。いつまでにその結果を分析して、サンプル採取の場所を決めて、そのオペレーションを実施するか。次のシーケンス(手順)ではどこへ降りるか、どこでローバー(探査車)を分離するか、どこに衝突装置(インパクター)で穴をあけるかを順次決めていかなければなりません。かつ安全性を加味した判断が求められています。それは非常に難しい連立方程式を解くようなものです。小惑星到着までの3年半がその準備期間です。
とはいえ、私たちには大きなアドバンテージがあると思っています。それは皆が「はやぶさ」の経験を共有していることです、具体的なイメージを持って運用に臨むことができるのは、大きな強みです。